ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
出来れば平成が終わる前にもう一回更新したい。令和もどうぞよろしくお願いします。
───私たち姉弟がラウラ・ボーデヴィッヒという少女の存在を知ったのは、ドイツ軍特殊部隊“黒兎隊”の教官として赴任してから2週間ほどが経過した頃だった。
「千冬姉」
「ん? どうした一夏」
「あの、出席表? みたいなのでいっつも『
一夏の『俺も強くなりたい』発言から早10日程が経ち、直ぐにでも挫けるだろうと思っていた隊員たちの評価が徐々に覆り始めてきた頃。夕食後の一時に、寮の共用玄関にかけられていた隊員たちのネームプレート(寮にいる時は表・外出中は裏にする)を指差しての一夏の言葉に、脳内で隊員たちの名前と顔を符号させて行く。
「……いや。私もまだないな」
「だよな。ごはんの時もいないみたいだし、大丈夫なのかな」
それはごくごく普通の心配から出た一言だったのだろう。私も何気なしに些細な疑問として軽く首を傾げただけだった。なのに。
「「「「「──────」」」」」
「……え? え?」
つい先程まで各々思うままに談笑していて賑やかだった食堂内が、突然水を打ったように静まり返ったのだ。中には気まずそうに顔を背けたり、『あちゃあ』なんて具合に額に手を当てて上を仰いでいる者もいる。これだけあからさまな反応があれば、まだ幼い一夏でも『何かまずいことを言ったのだ』と察するには十分だった。
「いずれ気づくものとは、思っていましたが」
「お姉様、ですが」
「いつまでも隠しきれることではない。何より、いい機会かもしれない。私たちにできなかったことでも、教官や一夏くんならあるいは、とは思わないか?」
「…………」
「ハルフォーフ、
と、不意に立ち上がって周囲の隊員たちを宥めている、肩口で切り揃えられたショートヘアが特徴的な彼女、クラリッサ・ハルフォーフ中尉へと
「えぇ。どうぞ、こちらへ。一夏くんも、来てくれますか?」
こくり、と頷いた一夏と私を、ハルフォーフは寮の最奥の部屋へと案内した。部屋のドアの前には、全く手付かずの食事が載せられており「今日も、か」と彼女が小さく呟いたのが聞こえた。
「この部屋に、あの娘がいます。私たち“黒兎隊”の隊長が」
「隊長? 指揮を執っているのはお前ではなかったか?」
「私はあくまで代理なのです。今の彼女は、上層部からは『使い物にならない』と見なされてしまっているので」
「なん、だよそれ」
余りに酷い物言いだと思ったのだろう、一夏が絶句してハルフォーフを見上げている。彼女は屈みこんで一夏に目線の高さを合わせると、悲しそうな笑顔でこう続けた。
「凄く、辛いことがあったんだ。あの娘にも、私たちにも。それで今、あの娘はとても塞ぎ込んでしまっている」
「辛い、こと?」
「あぁ。私たちも頑張ってはみたが、あの娘の傷を癒してやることはできなかった。……でも、ひょっとしたら、教官や君にならできるかもしれないと、私は思うんだ」
そう言って、彼女はジャラジャラと金属音を鳴らしながら取り出したマスターキーで、部屋のドアを開ける。中は全く電灯が点いておらず、カーテンも閉め切っていて真っ暗だった。
「隊長、失礼します」
返事を待つことなく、ハルフォーフは電灯を点けて部屋の中へと入っていく。その後を一夏が恐る恐るといった足取りで着いていき、私もその後に続いた。
「あっ」
「…………ッ」
そして、
「………………………………………………」
「……彼女が、ラウラ・ボーデヴィッヒ大尉。“黒兎隊”の、我々の、本当の隊長です」
その、左右でそれぞれ真紅と黄金という異なった色彩をした瞳は、まるで死んだ魚の方がマシなのではないかと思えるほど、酷く濁り切っていた。
“
────唯一、ラウラ・ボーデヴィッヒだけを除いて。
「隊長は最年少ながら、誰よりも身体能力や頭の回転に優れ、我々の中でもいち早く台頭していたのです。その沈着冷静振りから、周囲からは『冷血』と揶揄されるほどでした」
「一夏と同い年で、か……普通の生まれではないな?」
「仰る通りです。教官は、“
「……おい、まさか」
「ご存知でしたか。はい、
「チッ……試験管ベイビーか」
胸くそ悪い話に盛大に舌打ちをして、髪を掻き上げながら嘆息する。“
「隊長は小柄ながら、一対一で勝てる者は軍の中でも数える程度しかいないほどの実力者でした。誰もこんなこと、予想だにしていなかった。隊長が“
施術後、“
「必然、軍務などこなせるはずもなく、現在は予備役扱いとして自室待機、という訳です」
「予備役、待機、ね」
物は言いようだ。軍としては今まで金も時間もかけた分、『貴重な戦力』を手放したくないのだろう。それが何よりも彼女を強く
「既に1年ほどになりましょうか。施術後間もない頃は隊長も必死に足掻いていたのですが、目に見えて他の隊員との差がつき始めてしまい……」
「折れてしまった、か」
火種の欠片も見当たらない、酷く冥い瞳だった。ただ心臓が動いているだけの、人のかたちをした肉の塊。繰り糸を切られた人形は、真っ逆さまに床へと落ちるだけ。
「教官。時折で構いません。あの娘を、気にかけてやってくれませんでしょうか」
「……気にかける程度でいいなら、な」
正直な話、私には『その程度で』と叱咤する以外の選択肢が思いつかない。だが、そんなではあの娘を余計に傷つけるだけなのは明白だ。せめて挫ける前だったなら、まだ私が鞭を打っても間に合ったかもしれないが。
と、そんな風に思っていた時だった。
「はじめまして。ラウラ、さん?」
「……一夏?」
弟が、徐に彼女の真正面にしゃがみこんで、話しかけていた。
「お腹、空いてないのか? 全然食べてないみたいだけど」
目の前には、いつの間にやら部屋の前に置かれていた食事のトレイがある。いつから放置されていたのだろう、シチューはとうに冷めて湯気も上っていないし、サラダの瑞々しさも見受けられない。パンも乾き始めていて、少しパサついているようだ。
「美味しかったぞ、シチュー。俺は、お芋はトロットロになるまでやわっこくなってる方が好きだけどな」
「それとも、嫌いな野菜が入ってるとか? 玉ねぎ、にんじん、かぼちゃ、きのこ……あれ、あと何が入ってたっけ」
「シチューにパンつけて食べるの、美味いよな。でもな、白いごはんに乗っけても結構いけるんだぜ?」
何をするでもなく、座り込んだまま彼女を見つめて、そんな風に喋り続けている一夏。彼女は縮こまったまま、全く返事など返してこないのに、お構い無し。
「……ハルフォーフ、行こう」
「え、宜しいのですか?」
「
何せ、出先で見知らぬ子どもとも数分後には一緒になってはしゃいでいるようなヤツだ。下手に私たちが交じるよりも、同年代の方が通じるものもあるだろう。
「一夏。消灯時間までには部屋に戻ってくるように」
「わかったよ千冬姉。でさ、お餅って知ってるか? お米をこう、木のハンマーで叩いてさ───」
そっと部屋の戸を閉じた私を、どことなく不安そうな面持ちで見ているハルフォーフ。だが、子どもの嗅覚を舐めてはいけない。今のあの娘に必要なのは『応援』や『激励』じゃない。ましてや『同情』や『憐憫』などでもない。
「
尤も、時間はかかるだろう。あの娘を覆う壁の分厚さは、並大抵のものじゃあない。下手に
「頼んだぞ。そこから自力で出て来られたなら、そこからは
願わくは、その日が1日でも早く迎えられるよう。そう思いながら、私たちは連れ立ってあの娘の部屋を後にした。
どうも、作者のGeorge Gregoryです。
10連休? ナニソレオイシイノ?(。∀°)
今回から数回に渡り、基本的に本作のラウラにスポットが当たります。原作と違う理由に、ちょっぴりお付き合い下さい。といってもそんな長くする気はないんですけどね。所詮、基本の時間軸ではお昼休みですしね(笑)
では、また近い内にお逢い出来ることを願って。
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