ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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というわけで、平成最後の更新です。
実家にいるので誘惑少なくて(やることがないともいう)割と直ぐにイメージがまとまりました。
思いついたので急きょ変更してラウラの過去に関しては次回から再開。
まずは皆さん気になってるっぽいこちらをどーぞ。


Storm The Front Ⅶ

「おぉッ、美味いよコレ。随分腕を上げたなぁクロエ」

「ありがとうございます。お父様に喜んで頂くために、頑張りました」

(……ナニコレ)

 

 目の前に広げられているのは、ピクニックや運動会でもないとなかなかお目にかかれないような立派な重箱と、そこにキレイに敷き詰められた美味しそうな料理の数々。1段目の『お弁当の定番』唐揚げや卵焼きに始まり、2段目はアスパラのベーコン巻きやカボチャと里芋の煮っころがし、ゴロゴロ野菜の入ったポテトサラダと、素朴ながら確実に胃袋に訴えかけてくるラインナップ。そして3段目には俵型に海苔の巻かれたおにぎりがぎっしり。中味は梅干しと昆布らしい。お昼は軽く済ませてきているのに、見ているだけで()()()()()。隅の方にきんぴらごぼうやひじきと大豆の煮物が添えられているのも更識的に高得点である。

 

「ん? どうしたんだい楯無。食べないのかい?」

「何か、お口に合いませんでしたか?」

「えッ!? ううんッ!? 美味しいよッ!? すっごく美味しいッ!!」

 

 クロエさんの心配そうな視線に、目の前の里芋を口に放り込みながら答える。嘘ではなく、本当に美味しい。()()()()()些細だが気にかかる。ここまで料理上手な娘が、本当にずっと入院生活なんてしてたんだろうか、と。

 

(先生の好物だから? 確かに先生は日本食大好きだけど……)

 

『お父様とご一緒したくてお昼を作ってきたんです。生徒会長もどうですか? 沢山ありますし』

 そんな彼女の一言で飛び入り参加することになった、このランチタイム。書類なんかを適当に避けて空いた作業机を挟むようにして対面から、甲斐甲斐しく先生におかずを取り分けてたりしては嬉しそうに食べているのを眺めている彼女を見て、思う。

 

(う~ん……そういう気になるところも多いけど、基本的に礼儀正しくて物凄くいい娘なのよねぇ、クロエちゃん)

 

 専用機の仕様から特別に実技試験はパスされたが適正値は文句無しのA判定。転入試験の成績も余裕の合格点。こうして実際に話してみても『よくできた子だ』という印象を覚える。その分、こうして先生といるのを見ていると、どことなくはしゃいでいるというか、浮き足立っているようにも見えるが、それも長い間ずっと病院生活を強いられ続け、ようやく普通の生活を許された上に、離れ離れだった父親とも一緒の場所で暮らせるようになって舞い上がってるのだと考えれば、むしろ微笑ましさすら覚えなくもない。

 

(お父さんのために頑張って覚えた、とかむしろ普通にありえそう……というか、私、物凄く居た堪れないんですけど)

 

 先生に色々と問い詰めるつもりで勇んで来たはいいものの、何だろうか。いざ目の前でここまで仲睦まじくされると、こう、()()()が凄い。

 

(そりゃまぁ、私が先生を訝しんでるのはほとんど“勘”が理由ですし? 未だに根拠の1つも見つかってないですけど?)

 

 調べても調べても怪しいところが出て来ない。()()()()()()。そんな理由で未だにこの人に拘ってるのは、今や私くらいのものだ。薫子は最近じゃ兎に角織斑くんの取材に奔走しているし、虚ちゃんも手伝ってはくれるものの『気にし過ぎです』と基本的には“先生側”である。忘れられがちだけどあの娘、整備課の首席なのだ。だから新しい知識を次々に教えてくれる先生には物凄く懐いてるのである……軽く嫉妬しちゃうくらいに。

 

(それにしても、本当に美味しい)

 

 なんて疑いの目を向けているにも関わらず、身体の方は欲望に素直で、ちょいちょい摘むために箸が伸びてしまう。唐揚げは冷めても食感が殆ど損なわれていないし、卵焼きは程よい塩加減。煮っころがしはしっかり芯まで味が染み込んでいるし、ポテトサラダなんてどうやったのかと聞きたくなるほど滑らかな舌触りで、盛り込まれた野菜の食感が面白い。アスパラでさえもベーコンの脂を吸って美味しいのなんの。

 でも、しかし、である。

 

「……先生?」

「だから、先生じゃないってば」

「その、()()()()食べれるんですか?」

 

 前々から普通より食べる人なのは知っていたし、何なら何度か食事を一緒にしたこともある。けれど、それでも、目の前に並ぶこの料理の山は、優に5人分以上はあると思うのだけれど。

 

「お父様はいつも、これくらい召し上がってましたけど」

「マジで?」

 

 きょとん、と首を傾げるクロエちゃんの不思議そうな表情と、リスみたいに口一杯に頬張っている先生を見て、ポカンと口を空けてしまう。そんな口元を隠すように開いた扇子には『驚き桃の木』の文字。

 

「お父様、多かったですか? 無理をしているなら、残して頂いても私は別に……」

「んにゃ、食べれるよ。これくらい余裕余裕」

 

 そう言いながら、先生は右手の箸を忙しなく動かしながら、左手のおにぎりにもかぶりつく。余りの食べっぷりの良さに思わず『はぁ~……』なんて呆れのため息が漏れた。こりゃ見てると『つられて自分も食べたくなる』か『むしろ食欲が失せる』のどちらかだ。ちなみに私は後者である。美味しいのでちまちま貰いはしたけど、見てるだけですっかりお腹いっぱいなのだ。

 

「よくそんなに入りますね。どこに蓄えてるんですか?」

「さぁねぇ。こればっかりは体質としか。ところで、クロエ?」

「何でしょう、お父様」

「友だちはできそうかい?」

「はい。皆さん、とても良くして下さってます」

「そっか。……というか、今更だけど、お昼、こっちに来てよかったのかな」

「織斑さんからお誘いを受けましたけれど、今日はどうしても、お父様と一緒に過ごしたかったので……あの、良ければ今日のご夕飯も、私に作らせていただけませんか?」

「そりゃオイラは嬉しいけれど、良いのかい?」

「はい。私が、そうしたいんです」

「……そっか。なら、任せちゃおうかな」

「はいッ」

 

 へぇ。男親って娘となかなか良好な関係を築けない人が多いものだと思っていたけれど、カデンソン家はその限りではなさそうだ。ここ数年の付き合いで初めて見る先生の父性を感じさせる慈愛の微笑みと、クロエさんのパッと弾けた満開の笑顔を見れば、それは明らかである。というか、思ってたより甘え上手ねこの娘。なんか意外。

 

(ちょくちょくどこかにエアメールを出してるのは知ってたけど、クロエちゃん宛だったのね)

 

 流石に何の根拠もなく個人的な郵便物まで検めるのは気が引けて(というか虚ちゃんに咎められて)、送り先と頻度だけは控えさせてもらっていた。決まってカリフォルニアのバーバンク、つまり先生の地元宛だったので、仕送りか何かだと思っていたのだけれど、どんぴしゃだった訳だ。

 なんかもう、疑ってる私自身さえ「何をバカバカしいことしてんだろ」なんて半分くらい思い始めてもいる。クロエちゃんのことはそれくらいのインパクトがあったのだ。だからこそ、尚更というか、余計にというか。

 

「……あの~、先生? 私、そろそろ生徒会室に戻りますね?」

「ん? 急にまたどうして?」

「いや、流石にこれ以上、親子の団欒にお邪魔虫してられるほど私も図太くないというか、ね?」

「普段あれだけしょっちゅうサボりに来て、オヤツまで勝手に食べてくのに?」

「サボり?」

「ちょッ!? しーッ、しーッ!!」

(そりゃ確かに多い時は週3くらいでお邪魔させて貰ってますけどッ!! お陰ですっかり虚ちゃんの巡回経路に含まれちゃってますけどッ!!)

 

 何故か、こう、真っ直ぐなクロエちゃんの瞳の前に晒されると、自分の腹黒さが途端に後ろめたくなるというか、こっちにもそんな純真さを求められるような気がしてつい畏まっちゃうというか。

 

「と、兎に角、お話はまたの機会ってことでッ!! それじゃ失礼しますねッ!! クロエちゃん、お昼ご馳走様ッ!!」

「はい、お粗末さまでした」

(あぁもう最後まで丁寧にお返事してくれちゃってッ!! どうやってこんないい娘に育てたのよ先生ッ!!)

 

 そそくさと身支度をして、管理人室を後にする。扉を閉めてそこにもたれ掛かり、ふぅ、とひと息。

 

「はぁ~……結局()()()()()()かぁ」

 

 またも絶妙なタイミングで邪魔が入ってしまった。というか、今後は先生だけじゃなくてクロエちゃんも管理人室(ここ)にいるかもしれないってことか。うわぁ……私の貴重かつ素敵なサボタージュスポットが1つなくなったかも。

 

「せめて、あの代表戦の時の話だけでも聞きたかったんだけどなぁ……」

 

 私がずっと気がかりだったのは()()だ。資料によれば“黒猫”が学園に現れたあの時間、先生は教員部隊のISの調整を終えた後、学園のサーバールームでアリーナを封鎖していたセキュリティ誤作動に対するクラッキングの指示を、整備課の生徒たちを率いて行っていたと聞いている。だが、ふと気になってあのサーバールーム内を映していた警備カメラの当時の映像を見返してみると、先生の姿そのものはカメラに全く映っていないのだ。

 

「声は聞こえていたし、声紋鑑定でも本人のものと完全一致。指示も迅速かつ正確だったし、編集の痕跡もなし。そりゃ虚ちゃんに『考えすぎだ』って言われても仕方が無いんだけど……」

 

 当時、サーバールームにいた生徒たちにも『カデンソン先生に指示を受けていた』と確認は取れている。加えて、彼自身は生徒たちの指示に回っていたので、一切コンソールに触れていないし、立ち位置からしてもカメラに映っていなくたって、別におかしな話じゃあない。

 それでも、何故か。

 

「私の勘が、先生と“黒猫”には何か繋がりがあるって言ってるのよねぇ……」

 

 整備課主任である先生は、学園の警備カメラの位置も当然知っているし、セキュリティに関してだってそれは同様である。何より、先生は以前から『私用だ』と言ってちょくちょく学園を空けることがあるのだが、その時期に決まって“黒猫”の目撃情報が出るのだ。毎回ではない。それでも、『偶然』も3回繰り返せば『必然』である。そして今回、我が学園のアリーナに“黒猫”が現れ、その時間の先生のアリバイを完全に立証できるものがない。別に悪事を働いているという訳ではないけれど。

 

「ふぅ。銭形警部って、こんな気分なのかしらね……」

 

 『学園への不法侵入者』を野放しにしておく訳にもいかない、という立場的な大義名分を掲げつつ、やはり()()()()()()は今後も続けることにしようと改めて思いながら、私は整備管理棟を後にするのだった。

 

 

 

 

「……ふぅ、やれやれ。なかなかどうして、しつこいねぇ」

「大丈夫なのですか、お父様。いざという時は、私の“黒鍵”の単一仕様能力(One-off Ability)を使うことも辞しませんが」

「いやいや、その必要は無いよ。というか、下手に()()と却って気づくタイプだね、あの娘は」

「なるほど。彼女が、お父様の言っていた(SHINOBI)なのですね?」

「本人はバレてないと思ってるみたいだけどね。それとも、そういう演技なのかな。まぁ、どっちでもいいんだけど」

「泳がせておいて宜しいのですか?」

「痛くない腹を探られたってねぇ。それに、バレたらバレたで別に困らないし」

「では、私は引き続き?」

「あぁ。今は学生生活を楽しんでおいで。放っておいてもその内、()()()()()んだからさ」

「解りました。……それにしても、ふふっ」

「ん? どうしたんだい?」

「いえ、その、悪巧みをする時の顔が、お父様たちはそっくりだなぁって」

「あ~……まぁ、ね。うん。そうかも」

「照れてるお父様、可愛らしいです」

「あぁ、もう、照れてないってばッ。ほら、そろそろ教室に戻る支度をした方が良いんじゃない? ここからじゃ、1年生の教室はそれなりに遠いだろう?」

「そういうことにしておいてあげます。それじゃあ、また放課後に。空いた容器は、お水に浸けておいて下さいね?」

「はいはい。まったく、

これじゃどっちが親だか分かったもんじゃあないな.......」

 

 

 

 なぁ、相棒?

 

────ホント、いい子に育ってくれたッスよ。

 

 獲物は? 食いついたか?

 

────エェ。後はタイミング次第、ッス。

 

 よし、派手に一本釣りとしゃれこむか。

 

────ウヒャヒャッ、腕が鳴るッスねぇ。

 

 




 どうも、作者のGeorge Gregoryです。

 なんかラウラの過去編が予想以上に長くなりそうだったので先にこっち放り込みました。こりゃこのシーン、ラウラの過去編終わったあとでも良かったなぁ、と前々回の更新後に思った次第。いくら大まかなプロット決めてるとはいえ、ノリでやると後始末と修正作業に苦労しますね……正直書き直したいけど、それやり出すと1話から全部になるので、まずは完結させることを目指してどんどん書き進めます。広げた風呂敷だけはしっかり畳むのがいちばんの目標ッ!!

 では、また近い内にお逢い出来ることを願って。

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