ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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 前回の後書きでも言ってますが、最近特に思うがままに書き綴ってるので、いつかちゃんとこの辺のシナリオをまとめ直したいですね……完結させたら改めて改訂版とか作りそう(まず終わらせろ)

 ……本当なら1日中に投稿したかったなぁ(‘ᾥ’)


Storm The Front Ⅷ

────最近、部屋が妙にうるさくなった。

 

 ひたすらに、国のために生きてきた。我が身はただそのためだけにあらんと全てを捧げた祖国に『落ちこぼれ』の烙印を押され、この部屋に閉じこもり始めてから、もう何ヶ月が経っただろうか。空腹も、排泄も、呼吸でさえも煩わしく、どうかこのまま緩やかに心臓が止まってくれはしないだろうか、などと自暴自棄な考えが脳内を巡る。しかし『死を許されていない』ので最低限の生命活動は維持しなければならないという義務感だけが、私というからくりのゼンマイをキリキリと巻いていた。

 

 1分が、1秒が、これほど長いものだとは思わなかった。命じられるままに引金を引いていたあの頃にはなかった感覚だ。キレイに噛み合い寸分の狂いもなく回っていた歯車が、今は錆び付いたような軋音を上げている。秒針の音さえ耳障りに聞こえて、時計も壊してしまった。この何もかもがひっくり返ってしまった世界を、これ以上感じ取りたくなかった。

 

 距離感を誤って手足をぶつけるのはしょっちゅうで、近接格闘なんて以ての外。狙いすまして撃った弾丸は標的に掠りもせず明後日の方向へ飛んで行き、時折、見下ろした自分の掌でさえもぼやけたり二重にブレて見えることまである。軍人としてどころじゃない。突然、普通の生活すらままならなくなった。誰にこの苛立ちをぶつけることも出来ず、仲間たちの後塵を拝するばかりか、新兵にまで遅れをとる始末。やがて私へ向けられる視線の全てが『侮蔑』や『憐憫』を帯びているように見えて、誰も居ないはずのこの部屋にいて尚、幻視や幻聴に苛まれた。

 

「必ず回復の手立てはあります。だから諦めないで下さい」

「隊長、帰ってきて下さい。待っています。信じています」

 

 そんな部下たちの励ましの言葉さえも上滑りしているように聞こえてならない。『期待』はいつしか『重圧』に変わり、私の背に重く重くのしかかった。応えられない、報いることのできない自分が堪らなく惨めに思えて、私の殻を更に分厚くした。いっそこのまま、貝にでもなって海の底深くに沈んでしまえたら、なんて思ってしまうほどに。

 

 そんな、息苦しさだけの日々に。

 

「やぁ、ラウラさん」

 

 コイツが、現れた。日本人(Japaner)の少年。多分、私と同年代。中尉が“黒兎隊”の教官として初代『戦乙女(ブリュンヒルデ)』織斑千冬氏を招致したと言っていたのは朧気ながら覚えていたし、コイツにその面影があることから、親族なのだろうことは簡単に察せた。

 

「今日は、えっと、シュニッツェル? っていうのだって。トンカツみたいなのだって千冬姉が言ってた」

 

 日本語はISが世に出回り始めた時点で習得していたので、言っていることは理解出来たし、コイツが使う呼称から織斑千冬の弟なのだということも直ぐに判った。

 

「ん、美味しいねこれ。俺、ドイツの料理ってお芋とソーセージくらいのイメージしかなかったから、毎日面白いよ。たまにお米が食べたくなるんだけど」

 

 今までも何人もの部下たちが、同じようにこの部屋にやって来ては『待ってます』だの『信じてます』だのと必死に持て囃してくれた。尤も、それもどうにも私には響かず、数週間もすれば向こうが諦めて、徐々に足を遠のかせていったが。

 

 だから、コイツもきっと同じなのだろうと、最初はそう思っていたのだけれど。

 

「やっぱりお米が食べたくなるんだよね。あと、お醤油とお味噌。ホームシックって言うんだってさ」

 

 コイツは何故か、頑なに『頑張れ』みたいな期待や励ましの言葉を口にしない。ただただ、今日あったことだとか、明日は何をしたいだとか、何気ない内容ばかりを垂れ流し、この部屋で食事をする。全く意味がわからなかった。

 

「スーパーにお醤油もお味噌も売ってるんだけど、なんか味が違うんだよね。なんでかな」

 

 けれど、不思議なことが1つだけあった。この部屋でコイツが喋っているのを聞いている間だけは、()()()()()()し、()()()()()()()()のだ。

 

「ん、この赤いソース、辛いのかと思ったら結構甘いんだね。でもトマトじゃないし、なんだろ、コレ」

 

 うーん、なんて間抜けに首を傾げているのを、被った毛布の隙間からこっそり覗く。喜怒哀楽の表情がコロコロ変わる様は、見ていても何故か苛立たなかったし、飽きなかった。

 

 だから、だろうか。

 

「…………プリカ、だ」

「え?」

「…………赤パプリカ、だ」

 

 つい、下らないと思いつつも、知っていることならこうして答えてしまう。殆ど使わなくなった喉は随分と衰えて、上手く声を出すことさえもままならず、そんなところにまでももどかしさを覚える。けれど。

 

「そうなんだッ!! パプリカ、あのピーマンの色違いみたいなヤツ、こんな甘味も出るんだ、へぇ~……物知りだね、ラウラさん」

「…………」

 

 これだ。パッと花が咲いたような、無邪気な笑顔。こんなごく当たり前の知識でコイツが笑う度に、冷え切った身体の芯が微かに疼くような、けれど決して不快ではないむず痒さが生まれる。

 

「どうやってるんだろ。バジルとニンニクはなんとなく分かるけど……ん~、生クリーム? 後、玉ねぎかな」

「…………知らん。コックに、聞け」

「そうだね、後でそうするよ」

 

 その歯を見せて笑う顔が妙に眩しくて、再び毛布の中に深く潜り込もうとする。コイツ、どうやら料理が趣味らしく、知らないものを食べると今みたいにいちいち食材の名前を口に出して推理し始めるのだ。おかげで脳内にその味が如実にイメージできてしまって。

 

 ───グゥ。

「……………………」

「……お腹、空いた?」

「…………要らん」

「無理しなくても。いつまでもゼリーとかサプリじゃ身体に良くないよ?」

「…………必要な栄養価は、問題なく、摂取できている」

「そーじゃなくてさー……」

 

 うーん、なんて言えばいいのかなー、なんて眉間を顰めて真剣に考え始める。そのまま唸ること数分後、何かを思いついたようにピッと人差し指を立てて。

 

「“病は飯から”ッ!!“食べるという字は人が良くなると書く”ッ!!」

「……………………」

 

 何を言っているんだコイツは。『病は気から(Lachen ist die beste Medizin)』ならば聞き覚えはあるが。『食べる(Essen)』がどうしたというのか。

 

「……あ、そっか。漢字は解んないんだ」

 

 んーと、えーと、なんて言いながら辺りを見回し始めた。何かを探しているらしい。そしてメモ帳とペンを見つけると、表情を輝かせて取りに行き、何やら文字を書くと私に見せてきた。

 

「これ、『食べる』って漢字。漢字って知ってる?」

 

 中国古代の黄河文明より発祥し、日本を含む一部のアジア圏で使われている表語文字なのは知っている。

 

「ここ、上の部分、これで『人』って意味で、下の部分、これで『良い』って意味になるの。だから、『(たべる)』という字は『人』が『(よくなる)』と書くッ!!」

 

 書いた字を上下に二分してそれぞれ意味を説明してみせた。ほぅ、と素直に感心する。象形文字のように、表す対象の外観を簡略化したものが始まり、と知ってはいたが。

 

「ちなみに、これ、俺の名前ね。『一夏』。いー、ちー、かー」

 

 頼んでもいないのに、自分の名前の説明まで始めた。なんだ、私に発音しろとでもいうのだろうか。

 

「数字の『一』と、季節の『夏』って意味なんだ。千冬姉はこう書いて、数字の『千』と、季節の『冬』って意味ッ!!」

 

 そうか。初めて知った。私がお前の名前を呼ぶことは無いだろうけど、記憶の片隅には留めておこう。

 

 説明できて満足したのか、傍らにそのメモを置いて、各部屋に申し訳程度に備え付けてあるミニキッチンへと歩いていく。やがて、いつものように持ってきたトレイには、私の分のシュニッツェルをより食べやすくコイツが料理し直したものが乗せられていた。

 

「お肉は細かく切って一緒に煮込んで、やわっこくリゾットみたいにしてみたんだ。大分食べやすくなってる、はず。うん」

 

 いつだったか、勝手に部屋の冷蔵庫を覗かれて、私が普段、本当なら非常時の食糧として配給されているエネルギーゼリーとサプリメント、ミネラルウォーターしか摂取していない(体内のナノマシンにより最低限の水分と栄養さえ摂取していれば生命活動は維持される)のを知ったコイツが「いつも食事を残してるのは胃腸が弱っていて食べられなかったから」と勘違いし、それならばと私の分をわざわざ作ったり、その日のメニューをこうしてアレンジしたりするようになったのだ。

 

「ちゃんと味見もしたよ。結構、自信作」

 

 コトリ、と目の前に置かれたトレイの上で、本日の夕食だったシュニッツェルとミッシュブロート(小麦とライ麦の配合パン)が、パプリカソースのパン粥(Brotschale)に様変わりしていた。溶けたシュニッツェルの衣がパプリカソースと合わさり、オレンジとブラウンの中間のような色合いになって仄かに湯気を立てている。わざわざある程度冷まして持ってきたらしい。

 

「後で食器片付けに来るから、それまでに食べちゃってね」

 

 そう言って、食べ終わった自分の食器をトレイに乗せ、部屋を出て行った。言った通り、また1時間後くらいにひょっこり後片付けをしに来るんだろう。『私が食べていない』なんて一切考えていない間抜けな顔で。

 

「……………………」

 

 アイツが去って、部屋に静寂が戻ってくる。室温が2度ほど下がったような錯覚が、アイツがどれだけうるさかったかを物語っている。

 

 視線を落とす。そこには、ゆらゆらと湯気の立ちのぼるパン粥が、暖かい食事がある。

 

 食事は即ち補給でしかなく、粗食だろうと何だろうと、栄養素を摂取できればなんでも良い。そして、退役も自死も許されていない『期待外れの役立たず』である私は、せめて糧食の摂取は最低限に留め、少しでも経費削減に務めるのが当然の義務である。

 

 しかし。けれど。

 

 …………ズッ

 

 震える手でスプーンを掴み、一口含んで咀嚼する。本来ならニンニクやバジルがガツンと聞いているはずのソースはスープを加えて煮込まれることで程よく薄まっており、小麦とライ麦の風味も相まった香りが鼻腔をくすぐる。噛まなくとも飲み込めるほどトロトロに煮込まれているので、ほぼ流動食と言って差し支えがない。

 

 …………ズッ

 

 “(階級)持ち”として公の場で食事をとる際のマナーは、一通り仕込まれている。スープや粥を食べる際に啜るような音を立てるのは、それに反することも知っている。

 

 …………ズッ

 

 何を食べたって、特に思うこともなかったのに。隊員たちが不味いと言って憚らなかったパサパサのパンや筋張った肉も、上官に連れて行かれたレストランの瑞々しい果物や分厚く切られたベーコンステーキも、食べやすいか食べづらいか程度の違いしかなかったのに。

 

 …………ズズッ

 

 どうして、アイツの作る食事を食べた時だけは。

 

「…………美味、しい」

 

 とっくに枯れ果てたハズの、この忌々しくて仕方がない目の奥が、ツンと潤んでくるのだろうか。




 どうも、作者のGeorge Gregoryです。

 令和元年になりました。平成元年生まれの俺としては色々と思うところもありますが、一先ずは精神面の復帰と(このSSの執筆や頂いた感想のおかけで最近とても調子がいいです。いつもありがとうございます)、転職のための準備を頑張りたいと思います。今後ともよろしくお願い致します。

 ちなみに、作中に出てきた『病は飯から』は、わかる人にはわかりますよね? 割と有名だし( •̀∀•́ )✧

 それでは、また近い内にお逢い出来ることを願って。

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