ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
────あの頃は毎日、そんなだったよ。
朝起きて、メシ食って、身体動かして、勉強して、たまに隊員の皆と遊んだり、からかわれたりして。で、夕食の時間になると、2人分の食事を持ってく。たまに自分で作ったりもしてさ。その時は決まっていつもつまみ食いされるんだ。天ぷらの時なんて酷かったっけな。揚げた傍からなくなってくんだもの。
料理は残さない主義だし、作った料理の皿が空っぽになってるのが、堪らなく好きでさ。 だから、作り始めた頃、手付かずのまんまで残されてるのが悔しくて、残すの勿体ないから自分で食べながら「次は絶対食べさせてやる」って意気込んでた。隊員の皆にラウラの好き嫌いとか、ドイツ人好みの味付けとか聞いて回った。つってもコイツ、軍の粗食に慣れ切ってて、好き嫌いどうこうとか特になかったんだけど。
で、初めて完食してる皿を見た時、こう、ガッツポーズまでしちゃった。思わずニヤニヤしながら食堂まで持ってって、皆に見せびらかしたよ。1人残らず驚いてた。俺の方が先に折れるのに賭けてた人は、変な声上げて呻いてたっけな。クラリッサさんは一瞬目を見開いた後「間違いはなかった」って嬉しそうに笑ってた。
スープとか、お粥とか、簡単に食べられて消化の早いものには、特に食い付きがよかったな。あと、おにぎりとかサンドイッチみたいな、手づかみで食べれるヤツ。ほら。今コイツが食べてるのも
毎日話題を考えるのも、結構大変だった。基地の周り走りながら見たことないもの探したり、テレビとか雑誌から日本とドイツの違う部分とか調べたり。知ってるか? ドイツじゃ鼻を啜ったり、くしゃみの時に口に手を当てたりすると、周りの人に嫌な顔されるんだ。耳障りだったり、不衛生だってされてる。手を挙げる時も、普通にこう、掌を見せるのはダメだって言われてる。ドイツじゃ挙手は人差し指を立てた状態で挙げるのが正解。
そんな調子で、1ヶ月くらいかな。それくらい経った頃にはラウラも自分から話題振ってきてくれるようになってさ。簡単なドイツ語とか英語を教えてもらったり、俺のトレーニング内容について相談したり。最初は入院患者が着てるような
自分からメシも食うようになったし、なんならリクエストしてくる日もあった。全部応えたよ、勿論。コック長には沢山お世話になった。余所者だった俺に、気前よくキッチンの一角貸してくれてさ。玉ねぎのみじん切りのコツとか、片手での卵の割り方とか。オムレツを綺麗に巻けるようになったのも、間違いなくコック長のお陰だよ。
部屋のキッチンで一緒にメシ作って食べたりもした。ナイフの扱いに慣れてるだけあって、包丁捌きはラウラの方が断然上手かったな。サバイバルメシみたいなのも結構知ってるし、食えるキノコの見分け方とか、そこら辺のもので飲める水を確保する方法とか、聞いててワクワクしたよ。で、暗くなったらそのまま、備品のシュラフ借りて、夜遅くまでずっと2人で喋ったりしてた。見える星も全然違うんだ。結構寒い地域だから、厚着して、星座早見表片手に見比べたり、教科書に書いてあった北極星の見つけ方を確かめたりもした。
で、確か『その時』だっけか。ラウラがな、聞いてきたんだよ────
「────なぁ、アイン」
「ん?」
「どうしてお前は、私にここまでするんだ?」
こうして話すようになって早3ヶ月くらいが過ぎただろうか。晩秋から初冬にかけて肌寒くなり始めた夜半の冷たい空気が、自分たちの吐息を白く染め上げている。
『アイン』は彼のあだ名だ。『ICHIKA』をどうにも上手く発音出来なかった私が、『日本語にすると数字の“一”の季節の“夏”』だというのを思い出して、勝手にそう呼び始めたのを受け入れてくれたのだ。
「どうして、かぁ。どうしてかなぁ」
ぼやけた返答に、どこからか借りてきた天体望遠鏡を覗き込んでいる彼の方を見やる。傍らで、カセットボンベで使えるミニバーナーの上、ミルクパンの中で膜ができるまで熱された牛乳がコポコポと泡立っていた。
「お前は未だに1度とて、私に『頑張れ』とも『皆が待っている』とも言わない。そうしてくれと、言われているだろうに」
「……まぁ、ね。頼まれてるよ、皆に」
望遠鏡から目を離したアインは、ミルクパンから金属製のマグカップに注いでいく。心地好いカカオの香りがふわりと立ち昇り、プラスチック製の使い捨てマドラーで中のココアパウダーを練りながら、2杯ある内の1杯をこちらに差し出してきた。
「私は、弱くて、脆くて、情けないヤツだ。ドミノ倒しのように『最初の1枚』からあっという間に簡単に、全部めちゃくちゃになってしまった。そしてそれを、未だに1枚も、起こせずにいる」
熱ッ、と啜ったマグカップから口を離し、ヒリヒリする舌を出す。ほんのり赤くなっている気がする。火傷したかもしれない。
「私が自分で起こさなきゃならない。だから皆『頑張れ』と、『待っている』と言う。なのに、お前は、何故だ?」
両手でマグカップを抱え、ふぅふぅと息を吹きかけて冷まそうとしながら、それでも目は、アインから離さないままで。
「ん~……なんて言ったらいいかわかんないんだけど」
隣に腰を落としたアインは、千万の星が瞬く夜空を見上げながら続けた。
「俺さ、自分がされて嫌なことは、人にもしたくないんだ」
「あぁ」
「で、さ。誰にも見られたくないし、聞かれたくない、そんな辛い気持ちになることって、どんな人にだってあると思うんだ」
「……あぁ」
何を思い浮かべているのだろうか。その目は、天上の星々よりも遥か彼方、もう届かないような『どこか』だとか『いつか』に向けられているように見えた。
「そういう時にさ、頑張りたくても、どうしても頑張れないことも、あると思うんだよ」
わかるかな、とこっちへ向けられた視線は、日頃底抜けに明るいアインらしからぬ寂しさだとか物悲しさを帯びていて、思わず息を呑んだ。
「頑張れない時の『頑張れ』ほど、嫌なものもないだろ? 向こうが正しいのも、言ってる本人にそんな積もりがないのも解るから、余計に、さ。わかんなくなる」
「……あぁ」
痛いほど解った。こう言いたくはないが、悪意がない分、タチが悪いのだ。何かを言いたくても、何も言えなくなってしまう。
「だから、俺は言わない。ラウラは今、休憩中なんだよ」
「……休憩中?」
「そ。ちょっと時間をかけてのメンテナンス中? クールダウン、みたいな?」
ゴソゴソと持ってきたナップザックから何かを取り出した。マシュマロの袋だった。
「休みたい時は、休んでいいんだよ。千冬姉だって、家じゃビール飲みながらぐぅたらしてるんだから」
「……あの、
「そ。信じらんない?」
これ内緒ね? と人差し指を立ててしぃ、と小さくウインク。なんとまぁ、あの凛とした佇まいからは全く想像がつかないのだが。
「そういうとこも知ってるからさ、皆は世界チャンピオンだなんだって色々騒いでるけど、俺にとっては千冬姉は千冬姉なんだ。家じゃちょっぴりだらしないところ見せたりもするけど、たった1人で俺を育ててくれてる、強くて優しい俺の姉さんだってことは、変わんないから。……だからさ」
ポチャッ、と自分のココアにマシュマロを1つ、放り込まれる。カカオとはまた違った甘い香りが鼻の奥をくすぐった。
「ラウラも、ラウラでいいんだよ。休みたい時は、休めばいい。美味しいもの食べて、好きなことして、『頑張れない』って気持ちに勝てるようになったら、また頑張ればいい。俺は、そう思うな」
緩やかに溶け出していく白。啜ると、明らかに過多な糖分が口内を一瞬にして蹂躙した。飲み込んでも食道のどの辺にいるかが解るし、胃のあたりに来た途端にじんわりと全身へ淡い熱が広がっていく。
「……なら、手伝ってくれないか?」
「何を?」
「私には、その『好きなこと』がない。食事だって、腹が膨れればそれでいいと思っていたくらいだ」
コトリ、とマグカップを置いて、正面から向き合う。そして。
「私が、その、『頑張れる時』まで、それを探すのを手伝って、くれないか?」
お前が、食事が『暖かいもの』だと教えてくれた。お前が、星空が『綺麗なもの』だと教えてくれた。だから、これからも、一緒に。
声も手も、震えていたと思う。決して寒さじゃない。今までどんな戦場に放り込まれたって、これほどの不安に駆られたことはなかった。
そして。
「当たり前じゃん」
間髪開けずにニッコリと笑ってくれたお前のお陰で、『人は笑いながらでも泣けるんだ』と、知った。
「────とまぁ、大体こんなところかな。
それまでも、それからも、特別な何かがあった訳じゃない。俺にできることで、力になった。
「あれは凄く居た堪れなかったぞ……試着室を3時間も占拠していたのに、店員にまで微笑ましいという目で見られていたのは未だに覚えている」
滔々と垂れ流した思い出話に、昼休みの屋上はシンと静まり返っていた。膝の上にいるラウラの頭をポンポンと叩くと、ぷぅと頬を膨らませて唇を尖らせた。
「で、この眼帯で目の症状を抑えられるようになってからは、軍の訓練の方にも少しずつ復帰し始めて、それからは千冬姉にもとことん鍛えられてた。な?」
「うむ。片目だけで軍務をこなせるまで回復できたのも、教官の厳しくも的確なご指導の賜物だ」
ラウラの“
「で、俺が日本に帰ってからも、文通でやりとりだけは続けてたんだ。メールのが早いし便利なのに、俺の字で読みたいんだって言って聞かなくてさ」
「手書きの文字が『暖かいもの』だと教えてくれたのもお前だぞ? くれた手紙は全部、クッキーの空箱に保管してあるんだ。私の大切な宝物だ」
ツナサンドの最後の一口を頬張りながら、にっこりと微笑むラウラの頭をまた撫でる。嬉しそうに目を細める顔には、子猫みたいなあどけなさがある。毛布にくるまってたあの頃を思うと、とても感慨深い。
と。
「グスッ」
「ん?」
鼻を啜るような音。聞こえた方へ顔を向けると。
「良がっだ、ですわねぇッ」
「……セシリア?」
いつの間にやら、セシリアがハンカチ片手に顔をクシャクシャにして号泣している。釣られて周囲を見てみると、集まっていた全員が程度の差こそあれど、1人残らず目を潤ませていた。
「えっと、泣けるようなとこなんか、あったか?」
「アンタねぇ~……成程、そりゃこんなに懐くわけだわ」
目元を覆いながらため息混じりにそう言う鈴。箒はすっかり目を真っ赤にしていて何も言えなくなっているし、デュノアさんでさえも、もう何枚もティッシュを消費しているようだ。
「ん。取り敢えずこの娘がアンタとどういう関係なのかは、よ~く解った」
「そか。なら良かった」
「だからって、
「うっ」
ニヤリ、と肉食獣のような獰猛な笑顔に、背筋がピリッと緊張する。あぁ、こりゃ相当怒ってるなぁ。
「ま、今はいいわ。空いた酢豚の容器返しなさい。そろそろ昼休みも終わるわよ。ほら、皆も」
「おぅ、そうだな。箒、ごちそうさま。美味かったよ」
「ん、そうか」
言ってぐるりと見回すと、皆はいそいそと昼食の後を片付け始める。
「ボーデヴィッヒさんッ!!
「いやいや、アンタ話聞いてた? 今はもうこの娘、大丈夫なんだって」
「
「あ~……ダメだこりゃ。聞いてないわ」
「…………」
「……あれ? 篠ノ之さん、どうしたの? 具合悪い?」
「……いや。大丈夫だ、デュノア」
「そう? 何か、思い詰めたような顔してるけど」
「なんでもない。なんでもないんだ」
「……そう? なら、いいけど」
そこまで言ったところで予鈴が鳴り出して、俺たちは急いで後片付けを終えて、本当は禁止されているけれど、廊下を全速力で走った。
「アイン、遅いぞッ!! 教官に怒られてしまうッ!!」
ダントツで先頭を走るラウラの顔はあふれんばかりの笑顔で、息が乱れて苦しいのに、つられて俺も思い切り笑った。
どうも、作者のGeorge Gregoryです。
ネットのルーターがイカれたらしく、パソコンもSwitchもPS4もオンラインに繋がりません。大ピンチ。いい機会だから携帯と同じ会社に切り替えようかしら。
ここ数日、レンタルビデオ屋の常連と化してました。洋画ばっかり見てたから、出てくるフレーズもそんなのばっかで、今誰かと飲んだりしたらさぞウザイだろうなぁと(笑)
では、また近い内にお会い出来ることを願って。
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