ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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ここ1週間ほど、ダンガンロンパ(1~2)に没頭しておりました。なまら面白かった。特に『2』は初見だったので、スタッフの掌でパーリィナイトでした。
『絶対絶望少女』と『3』のどちらから始めるかを検討中。アニメも『1』『2』関連の内容だとか。小説もあるって言うし、いやぁ、どうしたもんですかねぇ……(恍惚)


Feeling Lucky Ⅲ

Dunois Compagnie(デュノア社)』。

 今年で創業48年目を迎える“老舗”一歩手前のフランス企業。元は小さな町工場から始まった同社は5代目社長、Albert Dunois(アルベール・デュノア)がISの開発に着手することで大きな転機を迎え、今では世界でもトップクラスのシェア率を誇る量産型機“Rafale Revive(ラファール・リヴァイブ)”の開発企業として名を馳せており、そして────

 

「────僕の父の会社、でもあるんだ」

「名前からなんとなく予想はしてたけど、やっぱりそうだったのか……じゃあ『王子様』ってのもあながち間違いじゃないんだな。御曹司ってことだもんな」

「歴史ある名門って訳じゃあないけどね。ISに関わるようになるまでは、田舎で母と暮らしてたし。知ってる? ブルゴーニュってところなんだけど」

「聞いたことくらいは。ワインの名産地、じゃなかったっけ?」

 

 シャルルたちが転入してきてから最初の土曜日。午前中の理論学習を終えた俺たちは、男同士の友好を深めるのも兼ねて、午後の自由時間を一緒に過ごしていた。

 

「“Rafale Revive”は別名『飛翔する武器庫』なんて風にも呼ばれてる。僕の“Custom Ⅱ”は基本装備(Preset)を外した分、そこに拡張コネクタとマルチウイングスラスター、小型推進機を追加することで、より沢山の武器を搭載しながら、それでいて細やかな制動が出来るようになってるんだ」

 

 そう言って自身の機体に視線を巡らせながら説明するシャルル。“Rafale Revive Custom Ⅱ”はオレンジとホワイトの配色をした元来の“Rafale Revive”に肩部に4つのコンテナが、腕部に大きな物理シールドがそれぞれ追加されている。それでいて先程見せてくれた軽やかなフットワークの理由は、成程、そういうギミックだった訳だ。

 

「ってことは、速度よりも敏捷性、って感じなのか」

「そうだね。相手の攻撃を躱したり、間合いの外から少しずつ確実に削るタイプの戦術がメイン。勿論、接近戦も出来ない訳じゃあないけどね?」

「器用だな。俺なんて未だに“吹雪(これ)”もまともに当てらんないのに」

「僕も最初はまともに当てられなかったよ。そりゃあ弾道計算とか、風向きとか、温度湿度に左右されるものではあるけれど、結局ものを言うのは“経験”さ。コツさえ掴めれば、一挺だけでも充分な『牙』になるよ」

 

 第1アリーナ、その一角。互いの専用機を身にまとった状態で向かい合う。今はシャルルがメイン武器にしているという近~中距離の射撃武器に関するレクチャーを受けているところだった。

 

「近接攻撃しかないと思ってたら、いきなり間合いの外からズドンッ!! って、やられる側からすると単純に怖いよ? 例え威力がなくても、それまでのリズムやペースに少なからず影響が出る。そこからズルズル調子を落としていくことだって、実際の試合じゃ珍しくないよ」

「となると、俺が磨かなきゃいけないのはそもそもの『命中率』と、コイツを使うタイミングを捉える『嗅覚』、かな」

「だね。そればかりは練習と実践経験あるのみ。でも、始めたばかりにしては結構いい線いってると思うよ? 少なくとも的にはちゃんと当てられてるもの」

「その辺は、セシリアのお陰だな。銃身を安定させる姿勢とか、狙いの付け方とか、色々教わったからさ」

 

 なんとも贅沢な講師陣である。セシリアたちは()()()()()()()()()()をするけれど、な。

 

「あれ? 彼女の専用機のメイン武器は、ライフルじゃなかったっけ? ハンドガンもいけるの?」

「セシリアの師匠が親父さんらしいんだけど、いちばん得意にしているのがピストルなんだとさ。なんでも、射撃の五輪代表? まで行ったことあるらしいぜ」

「それは、凄いね」

「だよなぁ。で、セシリアも親父さんほどじゃないけど、よく一緒にやってたからそれなりに分かるんだってさ」

 

 射撃競技の科目は猟銃、ピストル、そしてライフルの3つ。冬季五輪じゃクロスカントリースキーを絡めたバイアスロン、なんてのもあったっけ。何にせよ、彼女のお陰で目も当てられなかった射撃の腕前はかなり改善された。

 並べてもらったターゲットを、端から順番に狙いを定めて撃っていく。流石にド真ん中を正確には撃ち抜けないものの、狙った的に当てられる程度にはなれた。

 

「────確かに、始めて間もないにしてはいい命中精度だ。やるではないか、アイン」

「さっき、動いてるシャルル相手には全然当てられなかったけどな……」

「素人が不規則に動く相手にちゃんと偏差射撃までできる方がおかしいぞ。ただでさえデュノアは射撃に特化した機体の乗り手だ。フェイントや緩急の使い分けなんて、お前以上に心得ていて当然だろうに」

 

 そんな俺たち、というか俺にベッタリとついてきたラウラがフムフムなんて首肯しながら俺の射撃練習を評価してくる。彼女が身にまとっているのは“黒い雨(Schwarzer Regen)”という機体。名前の通り全身漆黒の無骨なボディに、これまた無骨な大口径のレールカノン砲が右肩に搭載されていた。

 

「まずは狙った場所を正確に打ち抜ける様になってからだ。いくら相手の動きやタイミングを読めても、当てられなければ意味は無い」

 

 そのレールカノン砲が火を噴き、ターゲットが綺麗に粉砕されていく。弾のサイズの違いを考えても、あれだけ綺麗に吹き飛んでいればクリーンヒットだったのは間違いないだろう。

 

「こんな風にな。さぁ、もう一度やってみろ」

「と言ってもなぁ。どうやって当ててるんだ?」

「私が狙う時のコツだが、()()()()()()()()()()ことだ」

「……どういう意味だ?」

「そうだな、例えば」

 

 そう言って、ラウラはプラズマ手刀を展開。アリーナの地面にガリガリと1本の線を引いた。

 

「アイン、お前を“点A”とする。ターゲットを“点B”。この2つを直線で結び、その延長線上に適当な“点C”を作る。狙うのは、この点Cだ」

 

 そして、新たに出現させたターゲットを指差した。

 

「ターゲットじゃなく、その少し先を狙うんだ。ターゲットはあくまで通過点。目印はなんでもいい。今なら、そうだな。アリーナの座席を適当に選んで目標にしてみろ」

「座席……」

 

 言われて、視線をターゲットの向こう、規則正しく並んでいるアリーナの座席の1つを選ぶ。“吹雪”とハイパーセンサーをリンクさせ、脇を締めて伸ばした右腕に左腕を添えて支える。銃身上部の凹凸(トゥレットというらしい)を並行になるようにし、現れる漢字の「山」の真ん中の線の先にその座席がくるように微調整を行う。セシリアに叩き込まれた基本姿勢だ。そして。

 

 タァンッ!!

 

 引金を引いて、銃声の後にサイトを拡大。ターゲットの様子を見ると。

 

「……当たってる」

 

 惜しくも真ん中ではなかったものの、中心の円を掠るような位置に、風穴が開いていた。言うまでもなく、今まででいちばん上手く当てられた。

 

「うむ。後はひたすら反復練習あるのみだ。やはりアインは飲み込みが早いな」

 

 思わずポカンと口を開けて惚けている俺を見て、ラウラは満足げに何度も首肯していた。

 

「ちなみに、昔一緒に見た映画で、銃身を横にして撃っているヤツがいたのを覚えているか?」

「あ、あぁ」

「あれは銃身の側面で大体の照準を合わせて撃っているんだ。今のお前のようにじっくり狙う時間が許されていない時に使う手法だ」

「あれ、カッコつけてるだけじゃないのか」

「うむ。横撃ちには移動や回避の際に素早く狙いを定めたり、遮蔽物や防弾盾越しに撃てるという利点もある。と言っても、やはり精度の高い撃ち方ではない。まだまだ初心者のお前は、しっかり縦に構えるべきだ。ヘンな癖が染み付いてしまっては、後から矯正するのが大変になるぞ」

「あぁ、それは僕も同感。やっぱり基礎は大事だよ。むしろ自分の銃の性能をしっかり把握してから、自分の当てやすい撃ち方を模索した方がいいね」

 

 ラウラに続いて、シャルルがこちらに歩み寄りながらアサルトカノンを展開した。普通なら武器の展開に1~2秒はかかるはずだが、今のシャルルはしれっと1秒未満でやってみせた。成程、これがさっき言ってた拡張と高速化処理の恩恵か。

 

「ボーデヴィッヒさんのとはちょっと違うけれど、『線のイメージ』は僕もよくやってるよ。例えば、あそこに並んでる3つのターゲット。あれらを直線で結ぶようにして、その線をなぞるように銃口を動かす。後は、それがターゲットと『重なった瞬間』に引金を引くんだ。こういう風に────」

 

 そして、一見無造作であるかのようにその銃身を並行に振ったかと思うと、タタタァンッ!!と小気味よく3つの銃声が続けざまに鳴り。

 

「────ね。慣れてくればこういう事もできるって訳」

「すっげ」

 

 ど真ん中とはいかずとも、3つの標的全てに銃口が開いていた。思わずの拍手に、シャルルはどこか照れ臭そうにしている。

 

「成程ね。線のイメージ、か」

「あくまで僕たちのやりやすい方法、だからね。とっかかりくらいに思ってた方がいいよ」

「了解、もう少し続けてみるよ。ラウラ、次のターゲットを出してみてくれ」

「うむ、わかった」

 

 そうして、改めて射撃姿勢をとり、次々とポップアップするターゲットを狙っていく。正確な姿勢と線のイメージを頭の中に描きつつ、なるだけ間隔を空けないことを意識して。創作物の中じゃあ皆何気なしにやっているし、撃つだけならなんということもないのに、いざ当てようとするとこんなに難しいものとは思わなかった。

 けれど、ちょっぴりだけ。

 

(楽しくなってきたぞ)

 

 ようやく今までの練習が実を結んできたかと思うと心は弾んでしまって、ついアリーナの閉まる午後4時まで延々と射撃訓練にあててしまった。文句の1つもなく付き合ってくれた2人には、今度食堂で甘いものでも奢ってやることにしようと決めた。

 

 

 

「……予想外だったな。まさかボーデヴィッヒさんがこんなに彼に懐いてるなんて」

 

 アリーナでの練習を終え、自室に戻ってきた僕は独り言ちた。

 一夏はロッカールームで着替えた後、山田先生から『“白式”の登録に関する書類を書いて欲しい』との連絡を貰って職員室に寄っていくと言っていた。

 

「ホントにネコみたいだよ、彼女。ピッタリひっついてて、まるで近寄る隙がない」

 

 それも、あんな過去話を聞かされた後では無理もないと思ってしまう。最初は恋愛関係を疑ったが、そんな生半なものじゃあない。あれじゃあまるで『童話』だ。()()()()()()()。まったく、僕なんかよりずっと『王子様』じゃないか。

 

「やっぱり、狙うなら他に邪魔の入らない自室(ここ)しかない、けど……」

 

 ここ数日で彼がシャワーを浴びる際に“白式”の待機形態である篭手を外すことは確認している。それに要する時間の平均も算出している。けれど、とてもじゃないが()()()()。流石男の子というべきか、入浴時間が短いのだ。

 どうしたものかと考えながら浴室で服を脱ぐ。キツく巻いたサラシを外し、我慢し続けていた胸元の息苦しさからようやく解放され、ふるんと『2つの山』が重力に従って揺れる。姿勢を矯正していたギプスを外して、ようやく脱力を許される。

 

「解っていたけど、やっぱり『男のフリ』は辛いな……」

 

 浴室の鏡に映るのは、丸みを帯びたなだらかな輪郭と、母譲りの金髪碧眼をした1人の『女の子』の姿。今や鍵をかけたこの狭い空間だけが、僕が安心して『本当の自分』でいられる唯一の場所だ。身体中の緊張を解いた途端に一気に倦怠感に苛まれ、今にも腰を下ろしたくなるけれど、いつ彼が部屋に戻ってくるかも分からない。汗を流しながらの、束の間の休息。いくら『長い方だ』と言ったとはいえ、いつまでも浴室から出てこないと、彼のような好青年は心配して鍵を開けようとしかねない。

 

「聞いてた通りの人のよさ、だな」

 

 彼は欠片も考えていないだろう。『シャルル・デュノア(ぼく)が“白式”のデータを体良く盗み出すために“2人目の男性操縦者”を偽っている』などと。そんな器用な真似ができる人間じゃないことは、この数日間で嫌という程判った。

 正直に吐露するならば、彼のような『真っ直ぐな人間』を騙すような真似は、勿論気が進まない。けれど、僕には『そうしなきゃならない理由』がある。

 

「どうにか、チャンスを見つけないと」

 

 そう呟いて束ねていた髪を解き、頭からシャワーを浴び始めた、その時だった。

 

『シャルル~? シャワーか~?』

「ッ、一夏? 戻ったの?」

 

 必死に平静を装いつつ返答する。ドアの音が聞き取れなかった。それほど迂闊になっていたのかと猛省する。

 

『そのままでいいから聞いてくれ。いいニュースだぞ』

「何があったの?」

 

 勿体つけるような彼の言葉は、ドア越しでくぐもっているにも関わらず弾んでいるのが容易に聞き取れた。余程の上機嫌らしい。尋ね返すと、彼は間を置かずに答えてくれて。

 

『山田先生が、俺たち男子にも風呂場を開放してくれるように取り計らってくれたのがな、許可されたんだってよッ!!』

 

『これだ』と、そう思った。




 どうも、作者のGeorge Gregoryです。

 ネットのルーターがぶっ壊れて、小説を投稿するのも一苦労です。携帯の通信量がとんでもないことになって、WiFiの恩恵は凄まじかったのだなと噛み締めております。今週末の復旧までがもどかしい……

 では、また近い内にお会い出来ることを願って。

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