ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
―――それは、暗雲に覆われた悪天の中で一際昏い影を落とす、漆黒の流星のようでした。
欧州最大、423mもの落差を誇るガヴァルニーの滝もかくやという大雨の中、気付けば誰もが顔を打たれるのも憚らずに、南東の空を見上げていました。
セーヌ川の氾濫の始まりは、ニュースやラジオでなくても簡単に察せました。地鳴りが始まったんです。それはそれは激しいもので、地震のように足元が揺れているのが解るくらいで、堪らなく怖かった。今でも思い出すと、ホラ、鳥肌が。暫くは水に近寄るのもダメで、お風呂すら苦手になってたくらいで。あぁ、今はもう全然大丈夫ですよ。御心配なく。
あぁ、これで死んじゃうんだな、って本能みたいなもので理解しちゃって。それでも母さんを死なせたくない一心で、止まりそうになる脚に必死に鞭打って、少しでも遠くにって。そんな時だったんです。
西の空から、黄赤色の尾を引いて、真っ黒な影が水源の方へと向かって行くのが見えました。目を疑いましたよ。救助隊の到着は到底間に合わないとラジオで繰り返されていたし、たった1機来たところで何が出来るんだって。
もう、誰が来たか解ったでしょう? そして、そこで何が起きたのかも。有名ですからね、このエピソードは。
えぇ。あの頃は知らなかっただけで、僕はとっくの昔に、"あの2人"に救われてた、ってことなんです――――
《篠ノ之箒&ラウラ・ボーデヴィッヒ》
聞けば有力な候補生たちは既にそれぞれパートナーを見つけており、
《セシリア・オルコット&凰鈴音》
今回の優勝候補の一角。連携訓練の成果は目に見えて現れており、特に後衛に専念した"
《織斑一夏&シャルル・デュノア》
全校の注目の的であろう男子チーム。メキメキと腕前を上げている織斑一夏少年に仏国の誇る“空飛ぶ武器庫”の援護射撃が加わったその実力は完全なる未知数。気合十分。意気軒高。ダークホース枠として大会を賑わせてくれるか、期待がかかる。
「今年の1年生については、こんなところかしらね」
「へぇ、なかなか面白いことになりそうじゃない。取材のしがいがあるってもんよ」
IS学園生徒会室。まるで“悪代官と越後屋”のような嫌らしい笑みを浮かべて話しているのは、本学園生徒会長である更識楯無と、新聞部部長の黛薫子である。会話内容から察するに、いよいよ来週に差し迫った学年別タッグマッチトーナメントの取材のようだった。
「妹ちゃんは? 参加しないの?」
「今回もスルーだって。まだまだ"弐式"の出来に納得がいかないみたい」
「ふぅん。でも、前よりずっといい顔するようになったわよね」
「……まーね。その点、先生には感謝してるわよ」
それがカデンソンの賜物であると知る彼女は面白くなさそうな顔をし、視線を窓の外へやりながら口元を“心境複雑”と書かれた扇で隠す。
「そもそもどうして知り合ったの? 入学する前からカデンソン先生とは知り合いだったみたいだけど」
「ん~、話そのものは単純でね」
切っ掛けは簪の候補生就任の際。訪れた倉持技研の第2研究室で、その名前を聞いた。在野登用でありながら『Spyro』の開発者にして当時の開発局長にまで上り詰めた男性技術者。整備畑の人間でなくとも、単純に興味が湧いた。で、調べてみれば、間もなくその地位を放り出して学園に赴任する準備中だという。普通であればそれほどの人材を手放すなど有り得ないだろうに、不思議なことに開発局の誰もが『局長だしなぁ』『止めて止まる人じゃありませんから』と不機嫌な表情1つなく受け入れられていたのだから、余程の人柄の持ち主なのだろうなぁ、と俄然興味は増した。
そして、いざ学園来訪当日。織斑先生含む学園の主要人物が勢揃い、という、ともすれば過度の緊張でまともな受け答えも出来ないのでは、というような学内見学を終えた後で、彼は飄々と、しかし堂々と、こう宣ったのだという。
「『この程度で“学園”名乗ってるんですか?』だって」
「うわぁ……」
そりゃあもう、阿鼻叫喚だったそうな。お偉いさん方は顔色を信号機のように赤らめたり青ざめたりしながら、言語中枢がオーバーヒートしたのかってくらい意味不明な罵詈雑言の垂れ流し。中には余りの怒りに泡吹いて卒倒した者もいたそうな。なんで知ってるかって?
「『そこまで言うなら貴様は結果を出せるんだろうなぁッ!?』なんて言い出したのに『当然でしょう?』て不敵に笑ってみせたんだって。で、学園に来てからは私たちも知っての通り」
「カリキュラムの大幅な見直し。メンテナンスマニュアルの充実化。訓練機の台数も随分増えたものね。お陰で前よりずっと乗れる機会が増えたし、それが無理でもVRルームで擬似的な訓練はいつでも出来るようになったし」
「一般科目以外の先生方は面目丸潰れよね~。そこで素直に受け入れたり教えを乞えた人は、今でも続いてるらしいんだけど」
「確かに辞めてった人も多かったらしいわね。まぁ、前々から評判の良くない人たちばっかりだったから、先輩方はむしろ喜んでたそうだけど」
ISなんて“よくわかっていないもの”を教える為の学園でありながら、実のところ、嘗ての教員の大半を、経歴だけを笠に着た“天下り”連中が占めていたのだ。必然、授業内容は教科書をなぞるだけのような当たり障りのないものばかり(それでも相当に高度な内容ではあるのだが)になりがちだった。まぁ、そこまではいい。仕方の無い部分もある。問題は、学内での日常的な言動の方にあったのだ。
「全員とは言わないけれど、嫌な先生、少なくなかったそうよ。教員としての立場や成績を振りかざしてのパワハラはどこにだって起こりうることだけど、同性間でだってセクハラは立派に成立するし、研究内容の横流しなんて私も何度押し留めたことか……」
「授業が解らなくて聞きに行ったら溜め息吐かれた、って話も聞いた事あったわね。それも“ちゃんと教科書を読んで授業を聞いていれば~”とか在り来りな文句まで、態と周りに聞こえるような声量で言われた、とか」
「……まぁ、ISに関しては、余りにも登場が早すぎたのよね。ちゃんと三輪車から始めて、補助輪つけて、後ろから支えてやって、手を離すタイミングを見極めなきゃいけないのよ。それをインスタントで済ませて結果ばかりを求めすぎてる。まるで何かに“急かされてる”みたい」
「ほほぅ、何やらジャーナリスト魂をくすぐられる陰謀めいたスメルを感じますな」
「フフッ。で、どう? これで面白い記事は書けそう?」
「バッチリッ!! いつもありがとね、たっちゃん」
「こっちこそ。また何か掴んだら、教えてちょうだい」
部屋を出ていく薫子の背中を見送った後で、楯無は彼女から受け取った手元の資料に目を通し始めた。クロエ・カデンソン、並びに彼女の専用機の開発を手掛けた“Great Clock Company”に関する資料である。近年ISに手を出した新進の医療系企業、ということで“
(そう。あなたには感謝してるんです、先生)
あなたがいたからこそ、“あの時”の“あの一件”があったからこそ、私たち姉妹は長年の虚しいすれ違いを解消し、ぎこちないながらも少しずつ歩み寄れるようになれた。感謝こそすれ、決して疑いたくはないのだ。あの微笑ましいお昼の一幕を見た後だと、尚更に。
これが自分の性分によるものなのは解っている。時折、こんな自分がほとほと嫌になる時もある。けれども、真水に魚は住めないように、純粋な酸素が猛毒であるように、手放しに信じるには、あなたの過去は余りにも
普通なら、彼を信じるのだろう。社会に大きく貢献し、学園に来てからも様々な改善を成し遂げ、今も心から信じられる味方の少ない一夏くんの為に心を砕き力を尽くしている。
でも、私は“普通じゃない”から。だから。
「信じさせてください。先生」
誰も問わないなら、私が問います。あなたは一体、何者なんですか? そして。
「そんな2人に近づくあなたの目的は、一体何なのかしら?」
傍らのパソコンの画面に呼び出した“シャルル・デュノア”の資料に、私はスッと目を細めた。
フムフム、成程。
―――――……なんというか、器用ですねぇ。クモ型ドローンなのに、なんとも上手にページを捲って。
しめて34名。いやはや、モテモテッスね。
―――――一応、僕の見立てでは、明らかに“臭う”ような人はいなかったと思いますけど。
の、ようッスね。こちらでもプロフィールを把握できている生徒ばかりッス。この様子なら、現時点における1年生への嫌疑は取り下げても構わなさそうッスね。
―――――で、そろそろ教えてもらってもいいですか? なんで僕にこんなリストを作らせたんです?
ン~……そうッスね。そろそろ教えておいてもいいかもッス。今度の学年別トーナメント、
どうも、作者のGeorge Gregoryです。
先日、飲み友に久しぶりに会ったら『顔はやつれたけど腹は出たなぁ』とかなりショッキングなことを言われました。自分で思っている以上に精神的に参っているようで……心療内科で貰う薬は減ってきたんだけどなぁ。最近は導入剤なくても眠れるようになってきたし。
『ゴッドイーター3』や『アイスボーン』も始めたいんですけど、まだまだ金も時間も確保できず。奨学金の返済がもうすぐ終わるんで、それさえなくなれば少しは余裕も出来るかな、と淡い希望を抱きつつ、先日ようやく見た『SHERLOCK』のシーズン4の結末が素晴らしすぎて(まだまだ続きが見たい)と(いやこのまま綺麗に終わって欲しい)という2人の自分が頭の中で大戦争中。……給料増えねぇかなぁ。
さて、今回で“Feeling Lucky”は終了です。さっさとトーナメント本戦へ話を進めます。本話をもう少し書こうか迷ったところですが、なんか今のメンタルで書くと蛇足になってしまいそうだったので。なんか変なとこあったらまたご指摘ください。メンタル持ち直した頃に書き直すかもです。
では、また近い内にお会い出来ることを願って。
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