ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
UA1200突破、有難う御座います。
1日だけですが、ルーキーランキング20位にもランクインしました。
嬉しい限りです。
こんな調子ですが、今後ともお付き合い下さいませ。
※納得いかない部分が出てきてしまって、少しだけ加筆修正しました。誤字含め、今後も投降後にちまちま修正するかもしれません。ご了承ください。
望まれてはいたが、望んだ結婚ではなかった。
解っていた。貴族の家に生まれたと自覚した時点で、自分の望む相手との婚約は叶わないと。家に利益を齎すための婚約。そこに個人の意志は必要ない。優れた跡継ぎを残し、家の存続を保証させること。それだけが、母から自分に課された唯一の義務だった。
それでも、自分はまだマシな方だと思っていた。婚約相手として家が選んだのは、父親のような年上の中年という訳でもなく、かといって息子のような年下の少年という訳もなく、同世代の、少し冴えないかな、と思う程度の青年だった。
歳は2つ上。家格は下だったため、我が家に婿養子という形で迎え入れられた。家を通じて出会ってからも、婚約が取り決められても、閨を共にしても、彼はずっと私の機嫌を伺うように黙ったままで、情けなさそうに微笑み、私の言葉には即座に頷き、決して断るということをしなかった。
物は試しに、と中々の無理難題を突き付けたことがあった。後から”余りに大人げがなかったかな”と思い直して、発言を取り消すのを伝えようとした時には。
『これでいいかな、ディアナ』
そう言いながら、いつものように情けない微笑みで、しかししれっと終えてしまっていたのだ。そんなことを幾度か繰り返している内に解った。あぁ、”こういうところ”を見込まれて私の結婚相手に選ばれたのだ、と。
そうと解った途端に、彼への興味は俄然増した。これは解らない。とてもじゃあないが、解りづらい。長い付き合いを経て、見定める為の知識と経験を重ねて初めて、その片鱗を見つけられるような、そんな程度だ。端から見ただけでは、ただただ私の言葉に頷くだけの
話を戻そう。そんな彼の凄さに気づいてからは、退屈に思えてならなかった結婚生活が、ほんの少しだけ彩られるようになった。家に帰るのが億劫でなくなった。家業について助言を求めてみれば、しどろもどろになりながらもしっかりと、的確な意見を言ってくれた。事務作業を任せてみれば、寸分の狂いもない正確なデータが返ってきた。
夫婦となってから相手に興味が湧くという、なんともおかしな順番でこそあったが、今では彼が夫であることを悪くないと、むしろ好ましいとさえ思っている。10を迎えて間もない娘はそんな彼の姿を未だに”女性に媚び諂う情けない男”だと思っているようだが、こればかりは自分で気づいてもらう他にない。
だって、そうでしょう?
「――訊ねてもいいかな、そこの黒い鎧の君」
私を背中に庇い、普段からは想像もつかないほど底冷えした声色で睨みを利かせながら、拳銃を構えて微動だにしない彼の後姿を見て、まだ”情けない”などという形容詞が思い浮かぶような人がいるならば、今すぐここに連れてきなさい。その役立たずな目玉を抉り抜いてあげるから。
あぁ、これだ。普段はまるで冴えない顔をしているくせに、何かに集中した時、懸命に取り組んでいる時だけ見せる、この真剣な表情に、いつしか私は
「君はここに、何しに来たんだ? 目的は?」
静まり返った客室車両内。目の前にいるのは、真っ黒な装甲をしたIS、だろうか。それにしては随分と小型な気もするが。アーマーの随所に明滅を繰り返す水晶体のようなものが埋め込まれており、頭部はどこかネコ科の耳を思わせるような逆三角形をしている。
黒猫は古来より不吉の象徴だが、それと同時に幸運の運び手という説もある。目の前の”コレ”は、果たして私たちにとってどちらなのか。
順を追って、事の発端を説明しよう。数時間前、私たちは次の仕事現場へ向かうため、この列車に乗り込んだ。上役と懇意にしているこの鉄道会社はよく利用しており、長時間の移動でもゆっくりと寛げる上級客室車両を特に気に入っていて、その一部を半ば専用車両と言っても過言ではない程度には利用させてもらっているほどだ。
最初は、景色の流れる速度に違和感を覚えた。些細な違和感だったが、気にするほどでもないと思っていたものの、頭の片隅で妙に気になっていた。思い返せば、この時から既に夫は微かに何かを嗅ぎ取っていたようで、普段以上にそわそわとしながら「なんか落ち着かないなぁ」などと繰り返していた。
そして、それが確信に変わったのは数十分後、普段なら停車する筈の駅を通過した瞬間だった。
『お客様に申し上げます。車両の制御システムに異常が発生したと鉄道警察より伝達が入った為、車内調査を――』
直ぐに席を立ち、車掌室に向かった。まさか、と思った。酷く嫌な予感がした。
仕事柄、“狙われる”機会は多い。貴族ならば尚の事、与り知らぬところで誰から恨み妬みを買っているか、などと考えていればキリがないし、そもそも“身代金”という最も高い可能性がある。
鉄道警察には顔の利く知人も多い。車掌に説明し事情を問えば、やはりと言うべきか。
車体は徐々に加速し、それに気づいた車掌が減速を試みるも、ブレーキが全く作動しない。ならば乗客を後方の車両に集め切り離そうという意見も出たが、ご丁寧に連結部がこちらの指示を受け付けない。そこまで確認した時点で早急にIS部隊の派遣を申請したそうだが。
「その、彼女らが到着する頃には恐らく、我々は谷底で瓦礫の下敷き、かと……」
この路線は山間や広い河川を越える際、その急激な高低差を埋める為に建造された陸橋を通過する区間がある。ただの陸橋ならば良い。問題は、それが緩やかに湾曲している点である。
鉄道の線路は緻密な計算によって設置されている。必然、自動車でもそうであるように、カーブを曲がる際の上限速度というものがある。それを越えた状態でカーブに突入すればどうなるか、結果は火を見るより明らかだろう。
それでも、陸橋が丈夫なコンクリート製であったならば、脱線したとして落下は免れられた可能性もあっただろう。あろうことか、その区間の陸橋は年代物の石橋が大半なのだ。最悪の場合、陸橋もろとも崩れ落ちて丸ごと真っ逆さま、まであり得るだろう。
それ以前に、考えたくはないが、もしこの事態が人為的に引き起こされているとしたなら、この車両そのものにも“仕掛けがある”に決まっている。
「やってくれるじゃない」
臍を噛む思いに、壁を殴る。これが策だとしたなら実に狡猾で、しかし同時に自分たちには憎らしいほどに有効だ。何せ“貴族にとって最も有効な人質”の命を、しかも大勢、握られてしまっている。自分たち以外の乗客たち。要するに、“一般市民”である。
一部の上層貴族はどうにも勘違いしているようだが、自分たちは断じて違う。民あっての国なのだ。彼らよりも己を優先するなど、貴族として有り得てはならない。少なくともこの国は、“英国”の歴史は、常に彼らが紡いできたのだから。
「ウィル」
「あぁ、わかっているよディアナ。乗客を後方へ避難させよう」
「えぇ。直ぐにでも切り離してもらえるように」
一度スイッチが入ってしまえば、彼ほど頼りになる人物はそうはいない。
既に窓の外を流れる景色は新幹線のそれを遥かに上回っていた。幾らISが地上最大の兵器とはいえ、これだけの速度で走行している鋼鉄の塊を牽引して止められる馬力があるかどうか、例え束になったとしてもその保証はない。転倒・脱線を逃れられないのならば、IS部隊が間に合った場合に備えて少しでも助かる確率の高い場所にいてもらうに越したことはない。
対応は迅速だった。車内放送で乗客たちに状況を伝え、パニック寸前の彼らとひと悶着こそあったが、どうにか最後方の車両へ移動してもらうことができた。
そして、万が一、残っている乗客がいないか片っ端から確認しなければ、と乗務員たちと共に最後方から車両内を捜索していた、その時だった。
ガツンッ、と鈍重な何かが車両の天井に貼り付いたような音がして。続けてその音はガツンガツンと断続的に響いた。
(……走っている? この、既に風圧だけで仰け反るどころではないだろう速度の列車の天井を?)
自分で想像して、それは流石に有り得ない筈だ、とかぶりを振る。しかし、そんな自分の常識的思考を裏切るように、その“足音”は途切れることなく、規則的に移動していく。明らかに、ISのそれではない。
誰もが固唾を飲んで天井、その向こうを注視していた。一体誰が、いや、何がやってきたのか、と。そして、呆然と佇む自分たちを他所に。
「ッ、ウィルッ!?」
夫は何の躊躇もなく、その足音の主を追いかけ始めた。向かう先は前方。その先にあるのは必然、車掌室。
(――まさか)
脳裏をよぎる、最悪の可能性。やはりこのトラブルが人為的なものであり、突然の来訪者は事態をより悪化させるためにやってきたのではないか。
あまりにタイミングが良すぎるのだ。狙いすましたかのような、もう間もなく件の陸橋が見えるかもしれないというこの頃合いに、謎の来訪者。疑うな、という方が難しい。
どうしても慣性と振動で明後日の方向に持っていかれそうなバランスを必死に保ちつつ進む私たちに対して、彼はまるで放たれた弓矢のように軽やかに車内を駆け抜けていく。こういう一面を見る度に”どこで覚えたのか”だとかを問い詰めたくなるが、それは後回しだ。
やがて行き着く先頭1号車のドアを開けた先で、夫がどこからともなく取り出していた銃口を突き付けていたのは、見覚えのない黒いパワードスーツで。
「ッ!?」
ドッと、冷や汗が流れた。ずっとだんまりを決め込んでいた黒いISが、とうとう動きを見せたのだ。それも、よりにもよって最悪の動きを。
無骨な右手が仄かに青い光を纏い、何かを象ったと視認した次の瞬間。そこには、黄金色をした拳銃が、確かに存在していた。
あぁ、やはりコイツは”敵”だったのだ。今回の件は自分たちの身柄が目的の犯罪であり、コイツはその一味なのだ。
腹立たしく、口惜しく、そして同時に、酷く悲しかった。あぁ、あの娘の下へ帰ってやることは出来なくなってしまった、と。
そしてその右腕を、黒いISはおもむろに夫の方へと持ち上げて――
ほんの少しだけ、時間は戻って。
(え~っと、なんで銃口を向けられてんだろう?)
アフィリオンの映像に移っていた暴走列車を解析してみると、明らかに人為的な痕跡を確認した。ブレーキ機能の停止、位置情報の常時転送、速度を上げるバグに加え外周部、特に車体の下に位置する機関部に干渉し続けている“いかにも”なプログラムへの痕跡。自分たちからすれば随分と“杜撰な”仕事だが、下手に外部から弄って不慮の事態が起こる可能性も捨て切れない。
ならば、自分が直接診断して、切除やら修理やらしてしまおうと判断した。アフィリオンをステルスモードで接近させ、クランクにはそのまま外周部の“異物”の位置の特定を続行してもらいつつ、自分は脚部を“グラビティブーツ”に切り替え、列車の天井へと着地して移動。そのままコントロールルームへと調査に入ろうとした、のだが。
(――いや、よく考えなくても当たり前の反応か。ついつい、今までのノリで来ちゃったけど、これじゃあまるで不審者だよな)
背後からの声に振り向き、さてどうしたものかと黙考する。同じ制服で後方にずらっと並んでいる複数人、恐らくこの列車の乗務員は疑心よりも戸惑いの方が強いらしく、しきりに視線を彷徨わせている。その中心にいる気の強そうな女性は、あからさまに眉を顰め、こちらを観察していた。
そして、最前列。
(ワオ、凄い目力。どことなく“ジャック”を思い出すね)
壮年の男性は鋭利な刃物のように瞼を細め、こちらの一挙手一投足すら見逃すまいと睨みを利かせている。その姿に、嘗て肩を並べて戦ったことのある異世界の友人が、どこか重なって見えた。まずは敵対の意志がない、と伝えたいところだが。
(スーツを解除しちゃうと、余計面倒なことになりそうだし)
自分は恐らく“所属不明のIS”だと思われていることだろう。現在の自分は万が一に備え、常時展開しているホログラマーの変装の上からオートフィット機能を使ってバトルスーツを纏っている。解除しても
前回の少年のように、相手が子どもなら発言力もそこまでではないので、口約束だけでもまぁ良いだろうと思える。だが、今回は明らかに成人、しかも身なりからしてかなりの上流階級っぽい雰囲気。影響力は桁違いなのは、想像に難くない。
しかし、彼がジャックと、あの義侠心溢れる勇敢な熱血漢と重なって見えたということは。
(フム、試す価値は、あるかな)
クランクがいつものように背中にいたなら、困惑した上で止めにかかるだろうけど。そう、苦笑しながら思いつつ、それを実行に移すことにする。
「――どういう、積りかな?」
予想外の行動だったのだろう、思わず訊き返される。仮にこのバトルスーツが本当にISだったとして、こんな拳銃などさしたる脅威にもなりえないことは解っていたはず。装甲にすら届くことなく、SEに遮られて終わるだろう、と。
それでも、ここで退くわけにはいかない事情があるのだろう。彼の真剣な表情を見れば、その程度は簡単に推し量れる。だからこそ、彼ならばこちらの意図を読み取ってくれるはずだと、信じてみたくなって。
右腕に拳銃型ガラメカ“
補足説明
・グラビティブーツ(初出『R&C1』)
コレを履くことにより、壁や天井にくっついて自在に歩き回れるようになる、というガラメカ。作品によっては『マグネブーツ』と名前を変えて登場する。
・ジャック
Naughty Dog社の名作アクション『ジャック×ダクスター』の主人公。とても長い耳を持ち、常時ゴーグルを着用しているのエルフの青年。海外ROMでは2作目以降、立派なあごひげをたくわえている。
ラチェットたちとの共演経験もあり、『R&C2』では彼らの自室のテレビに大きくジャックと相棒のイタチ“ダクスター”が表示されていたり、キーアイテムの入手の際にクランクがダクスターと同じダンスを踊るシーンがあったりする。
・クォークの女装
想像してみて欲しい。逆三角形のゴリマッチョなケツアゴのオッサンがピンクのチュチュ姿やメイド服(『R&C3』)や白衣のナース姿(『FUTURE』)で現れるのを。そりゃあげんなりもする。
彼曰く「8年間の高校生活の際、所属していた演劇部での活動で培った」そうだが、ぶっちゃけ出オチ……誰得だっつんだよ(白目)
・“Combuster(コンバスター)”(初出:『FUTURE』)
初期装備としてラチェットが持っているピストル型ガラメカ。見た目もシンプルなイエローのビームガンであり、強化形態が作品によって異なっている点から汎用性の高さも伺える。
最新作『THE GAME』ではガラクチック・レンジャーの最も基礎的な装備として支給されており、上位互換となるガラメカも多いので、初期段階でしっかり強化しておかないと、つい存在を忘れがちな“こん棒”的ポジションの武器。
もうお解りかと思いますが、“彼女”の両親です。オリキャラ節全開となっております。親父の方の心中は、次回に。いい意味で、皆さんの期待に応えるなり、あるいは裏切るなり、したいところです。
見た目のイメージは、そうですね。母親の方は”彼女”がそのまま”デキる女”として成長した感じで、父親の方は映画“MASK”のJim Carrey氏なんかを思い浮かべて下さると、私の脳内イメージに近いかと思われます。
ご覧の通り、私はついつい情景や心情描写に力を注ぎがちです。過去には気が付けば数万文字を費やしておきながらセリフがたったの4つだった、という事態もありました。読みづらい、と思うような点がございましたら、気兼ねなくお教えくださいませ。勿論、意見・感想・評価・その他諸々、お待ちしております。
では、近い内にまたお会いできることを願って。
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