ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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なして心が死んでる時の方が早く更新できるの。


To Be or Not To Be Ⅳ

――――そりゃあもう、世界中の皆が注目していましたよ。

 

 たった2人の男性操縦者コンビに、ドイツで名を馳せる"黒兎隊"隊長と、"篠ノ之博士の妹"。本人たちにその気がなくたって、ISに関わっている人間なら何が何でも見届けたい、そんな絶好の対戦カード。各国からもお偉方が揃って来賓席に参列してました。ちょっとしたサミットくらい開けたんじゃないかな。えぇ。当然、僕の()()()()()もいましたよ。

 

 観客のボルテージも、凄まじいものでした。声でビリビリ空気が震えてるんです。肌がソーダ水のように泡立ってるみたいで、内心申し訳なく感じつつも、すっかり圧倒されてました。それまでずっと、言わば()()()でしたから。あんなに歓迎されたのって、あれが初めてで。

 

 ピットから躍り出た時にはもう、相手の2人はアリーナの真ん中で待ち構えていました。ラウラは両腕を組んでの仁王立ちで。箒はキリッと表情を引き締めて。そして僕らが彼女たちの正面に降り立った途端、歓声が殊更に増した。最近の五輪やモンド・グロッソでも、あんなレベルのは中々ないんじゃあないかな。正に『熱狂』と言うに相応しかった。

 

「こんなにも早くお前と戦えるとはな」

「悔いの残らないよう、思い切りやろう」

 

 一夏とラウラがそんなやりとりだけをして、僕らは自然と互いに距離を取った。すると自然と、水を打ったかのように会場がしぃんと静まり返りました。台風の目、嵐の前の静けさってヤツですね。互いにそれぞれの得物を展開して、号砲が鳴るのを今か今かと待ち構えていた。誰もが固唾を飲んで見守る中、いつもよりほんの少しだけ逸っている自分の心臓の音だけが、いやにくっきりと聞こえて……あれが高揚感によるものなのか、あるいは緊張感によるものなのか、今でも正直判りません。多分、両方、だったんじゃあないかな。あの頃の僕の内面は、とても自己分析なんてできそうにないくらい、ごちゃ混ぜだったから。

 

 一夏は"雪片弐型"を……えぇと、なんだっけ。確か、居合って言うんでしたっけ? そのように腰に構えて、徐に前後に大きく両足を広げたと思うと、頭を低く前のめりに姿勢を落としました。あれは、そう、獲物を定めて、今にも飛びかかろうとする鷹、みたいな。

 

 対して一夏の正面には、箒が陣取っていました。正眼に"近接ブレード()"を構えた彼女の立ち姿は、その、不思議とやけに大きく見えて、がっちりと根を張った大木のような、そんな強靭さを感じさせられました。「これが東洋の神秘ってヤツなのかな」なんて間の抜けたことを考えていたっけ。

 

 ラウラはその後ろで泰然と、淡々と、右肩のレールカノンの砲口をこちらへ向けていました。ついさっきまでの年相応な少女の笑顔は完全になりを潜め、スゥッと表情から"熱"が消えて、すっかり軍人の顔つきになっていたんです。『冷水』の二つ名の理由が、よく解った。思わず、軽く鳥肌が立ったのを、今でも覚えてます。

 

 軽く手のひらを開いたり閉じたり、ゆっくりと呼吸を繰り返したりして、少しずつ、少しずつ、身体から余計な強張りを抜いていくよう()()()()()()。『自分を騙す』のは、昔から得意でした。嫌な特技ですけどね、でもこれに助けられたことも何度もあった。そうして、ただただハイパーセンサー越しの情報に没入していって、頭の中をごちゃごちゃにかき回す()()()()なんかを忘れ、風の音や匂いなんかまでも感じなくなった、その瞬間。

 

『――――第1試合、始めッ!!』

 

 カチリと、()()が噛み合ったんです。

 

 

 

 

『刃物を持っているだけの素人は、恐れるに足りません。刃物しか使いませんから』

 

 そう言っていたのは、どこの誰だったか。習熟していない得物を持っているだけであるならば、それを振り回すことしか、そいつは知らない。精々が示威行為。それも、()()()()には通じもしない『張り子の虎』。学園に来たばかりの一夏も、まぁその程度の実力だった。ズブの素人より多少は精通しているし、奇手奇策を織り交ぜる柔軟さもあれど、"剣"という一点においては、一日の長は自分にあった。増してや今回、目の前の一夏は居合という()()()()()()()()()()()()()()を取っているし、"瞬時加速(Ignition Boost)"からの一文字斬りは、()()()()()()。そう、()()()()()

 

『――――第1試合、始めッ!!』

 

ヒュオッ!!

 

 それが"白式"の風切り音なのだと()()()()()遅れて気づいた時には、もう手遅れだった。

 

「――――疾ィッ!!」

(速いッ!!)

 

 知識は経験を以て初めて知恵となる。『識る』だけでは、その『恵み』は得られない。既に眼前1mもないのでは、というほどまでに接近、振り抜かれた"雪片弐型"の()()()()()が鎌鼬の如く音すら立てずに私の右脇腹へ吸い込まれようとしている。ここで即座に侮りを捨て、対処に移れたのは奇跡に近いと自分でも思った。

 

 蹴り足である左足に7割程度としていた力の籠め具合を、突き出していた右足に10割変換。体幹を崩さぬまま高さだけを落とし、右肩の物理シールドを“零落白夜”の下へ滑り込ませるように僅か、身体を左へ傾けながら目一杯に首を逸らす。ギャリィンと甲高い音を立てながら頭上を刀身が通り過ぎていくのを確認して、『"打鉄"の物理防御力は第2世代でも随一』という、いつだかの授業内容が真実であったのだと、身をもって実感した。

 

『いいか、篠ノ之新兵。"零落白夜"は決してまともに受けるな。受けたら文字通りに()()()。受け流すか刀身の根元を狙って鍔迫り合いに持ち込め』

 

 ボーデヴィッヒからの申し出を受け、タッグの申請をした当日の放課後。アリーナで真っ先に彼女は、真剣な面持ちでそう言った。

 

『今より私がこの4本のワイヤーブレードを使い、お前に攻撃を仕掛ける。命令(Anweisung)は1つだ。()()。いいな?』

 

 現役の軍人だけあって、その腕前は伊達ではなかった。不規則に、そして縦横無尽に、致命的とまではいかずとも、強烈な威力を纏った刃が襲い来る。『専用機』という知識が知恵に変わった瞬間であり、改めて()()()()()()を認識した瞬間でもあった。

 

『恐らくにして、一夏(アイン)の一撃は私のものよりも遥かに速い。"白式(アレ)"は()()()()()()だ。あれを極めた先がどこに行きつくかは、言うまでもないな?』

 

 そう、千冬さんは『神速の一撃必殺(それ)』で天下を獲った。この星の頂点に立った。

 

一夏(アイン)は必ず狙ってくる。それも、高確率で初手に、だ。如何に戦略を組み立てようが、出鼻を挫かれれば全て()()()だからな』

『何故解る?』

『何故? 決まっているだろう?』

 

 そこで彼女はニヤリと笑って。

 

『同じ機体であったなら、私だってそうするからだ』

 

 気持ちはよく解るからな、と続ける表情に内心で嫉妬しつつ、『如何に有利対面に持ち込むか』が問われる多人数戦において『さっさと相手の数を減らす』のは当然であり、『その為の手段』として()()()()()()()()()()()()が彼にはあるのだ。狙わない筈もない。

 

 故に、覚悟していた。その為の練習も重ねた。それでも、尚。

 

(こんなにも速いのかッ!?)

 

『躱せた』と認識した瞬間に、背筋が芯まで凍るように冷え切った。想定を上回ってくることは想定内だったが、想定をここまで上回ってくるのは想定外だった。最早自分でも言語中枢がおかしくなったのではなかろうか、と混乱する。

 

 ISの安全性は、この学園ではそれこそ口酸っぱく教えられる。搭乗者の身を守るシールドエネルギー、そして絶対防御。故にこそ、世には『IS=最強』なんて子どもじみた、しかし完全に間違っているとも言えない、如何ともしがたい風潮が広まっている訳だが。

 

 だが、一夏の"白式”は違う。"零落白夜"の白刃は、そんな盾もろとも()()()()()()叩き切る。それも、私は()()()()()()()()()()

 

 試合用のスペックに調整されているのだから、()()()()()は起こり得ないのは解っている。解っているのだ。けれど。

 

「ッ、キァアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

『あの日』以来、脳裏に焼き付いて離れない『炎』の煩わしさに、私は一際大きな雄叫びを上げ突撃しようとして。

 

「――――ヒィッ!?」

 

 タァンッ!!

 

 しかし至近距離に突き付けられた銃口によっていとも簡単に気勢を削がれ、響いた銃声によって頭の中を真っ白にされてしまうのだった。

 

 

 

 

――――出自からか、元々そうだったのかは解らないが、私は他人(ひと)よりも感情に乏しく、それ故に()()を理解してやれなかったのを、今でも時折悔やんでしまうことがある。

 

 彼女は新兵だった。ISの適性を持ち、軍人としての適性を持ち、"黒兎隊"としての適性を持つと判断され、私の元へ配属された新兵の中の1人だった。

 

 優秀な娘だった。銃器の扱いに長け、射撃訓練の成績は抜群で、特に分解整備の速さは同期ばかりか全隊員の中でも指折りと言って差し支えなかった。多少のやっかみこそあったが、誰もが期待し、私も重用した。元より新進の部隊である。『Need makes the old wife trot.(立っているものは親でも使え)』というやつだ。

 

 そんな折のことだった。

 

 なんということもない、楽な任務のハズだった。商社の人間と共に物資を送り届けた後は()()()()()()()()()()()()だけの、ちょっとした”おつかい”のような。だが、『帰るまでが~』とでも言わんばかりに、縦列陣形で私たちの前を走っていた車両が、いきなり爆発した。後の調査によれば、原因は『怨恨』という、我々の業界には()()()()()()()だった。商社の人間は無事、五体満足に帰すことができ、隊としては最後まで任務を完遂することができた。そう、()()()()()

 

「隊、長……申し訳、ありま、せん」

 

 彼女の被害は、一際甚大だった。至近距離で爆撃を受けたのだろう、火傷・裂傷・擦過傷・骨折、怪我のない個所から数えた方が早いくらいだった。だが、これはまだいい。目に見える傷はいずれ癒える。問題は、()()()()()()()だった。

 

「寝ても、覚めても、ずっと、()()が、()()()が、()()()()が、鳴り止まないんです」

 

 病院のベッドの上、呼吸器越しに、辛うじて絞り出したような掠れた声で、彼女は涙混じりに言った。「考えるだけで息苦しい」「心臓を握られているようだ」「怖くて怖くて仕方がない」と。

 

 軍人にPTSD(心的外傷後ストレス障害)患者は別段珍しくもない。中には抱えながらも最前線を駆ける(つわもの)もいる。ただ、彼女がそうではなかったというだけ、それだけのお話だ。

 

 退院後、彼女は惜しまれながらも退役した。私の部下であった時間は決して長くはない。なのに、初めて隊舎を訪れた時の凛とした立ち姿と、幽鬼のように力なく項垂れて歩いていく後ろ姿はあまりに違っていて、それを『あの程度で情けない』としか思わなかった当時の私の頬を思い切り引っ叩きたくなる。

 

 

 

――――そして、()()()()()()を篠ノ之箒に見た瞬間に、私は一も二もなく、声をかけた。

 

 

 

 教官や一夏(アイン)と同じ流派の出身である彼女ならば、さぞ()()()()もあることだろう、というのもあった。事実、近接戦闘に関して篠ノ之箒は()()()()()()。やや直情径行なきらいこそあるものの、磨けば光るのは間違いないと、そう確信している。

 

 そして、無人機襲撃事件に関しては資料に目を通したのみだが、今の私ならば「無理もない」と、そう思う。そう思えることが、今は喜ばしい。

 

 彼女の症状は、思っていた以上に悪くはなかった。無人機が使用していた火器が熱線を放つものであった為、()()()()()()()()()()()()()()()()のも大きかったのだろう。"銃"という武器が持つ最大の特徴は、その射程でも、扱いやすさでもない。その『音』にある。あの音は、誰かの命を奪う音なのだと、そう知ってしまったが最後。銃声は人を委縮させ、いとも簡単に心を折る。勘違いしてはならないのは、それに恐怖しない者が強いのではない。それに恐怖して尚、立ち向かえる者こそが強いのだと、私は周囲より大分遅れて学んだ。

 

 話を戻そう。篠ノ之箒の"恐怖"は、言ってしまえはこの世の誰もが当たり前に抱いているものと相違なかった。ISから遠いようで近いような()()()()()()()()()()()が、今までの彼女の認識を麻痺させていたのだろう。それが、"無人機の一件"で否が応にでも()()()()()のだ。『自分はいとも簡単に死んでしまう存在』であり『武器を向けられる』という()()()()()()()()()()()を知ったのだ。

 

 この国はいい。『死』が遠い。『殴る』が。『斬る』が。『刺す』が。『撃つ』が。『狙う』が。『射る』が。『奪う』が。誰より、何より近くにあるはずのそれらが、遠い存在になっている。それは幸福であり、そして同時に不幸でもあると思ってしまうのは、職業柄だろうか。

 

 閑話休題(それはともかくとして)

 

 タァンッ!!

 

 寸でのところで"零落白夜"を躱した篠ノ之新兵が裂帛の気合を込めて一夏(アイン)へと突撃しようとし、しかしそれを"吹雪"による銃撃で阻まれる。怯んだ篠ノ之新兵に向かって大上段から再度振り下ろされた"雪片弐型"は咄嗟に水平に引き戻した"葵"で受け止め、そのまま2人は鍔迫り合いへともつれ込んだ。そこに追い打ちをかけようとデュノアが"Galm(アサルトカノン)"を構え接近を試みるが。

 

「させんよ?」

「うわッ!?」

 

右肩のレールカノンを、彼女と一夏(アイン)の間を狙って一発。そのまま緩やかに、もつれ合っている2人から距離をとる。

 

「……一夏と戦いたかったんじゃないのかい?」

「何を言っている? ()()()()()()()()()()?」

「────最初からその積りだったんだなッ!?」

「これは()()()()()()だからなッ!! 適材適所というヤツだッ!! さぁ、精々楽しませろ、2人目ッ!!」

「あぁもうッ!! 面倒臭いこと引き受けちゃったなぁッ!!」

 

 さて、これで暫くは“一対一と一対一”に出来るだろう。

 

「さぁ。どうするんだ、篠ノ之新兵」

 

お前は()()()()でいいのか? よくないのか?




どうも、作者のGeorge Gregoryです。

Q:どうして心が死んでる時の方が筆が進むんですか?
A:現実逃避

あっはっはっは。笑えよ。


……ホント、なんなんでしょうか、この感情の波は。
いつも安定して書けないんだよなぁ。1日の文字数ノルマを課した時期もあったけど、全然達成できなくて『俺はまかり間違ってもこれを商売にはできそうにない』と作家の道は諦めた若かりし記憶。

相変わらず情緒不安定な文章かつ不定期な更新ですが、お付き合いいただけたらと思います。
……ラチェクラ本編の軽~いノリはどこへ行ったんだろう。休暇取って惑星マクタールでカジノってんのかな?

では、また近い内にお会いできることを願って。

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