ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
――――そりゃあもう、世界中の皆が注目していましたよ。
たった2人の男性操縦者コンビに、ドイツで名を馳せる"黒兎隊"隊長と、"篠ノ之博士の妹"。本人たちにその気がなくたって、ISに関わっている人間なら何が何でも見届けたい、そんな絶好の対戦カード。各国からもお偉方が揃って来賓席に参列してました。ちょっとしたサミットくらい開けたんじゃないかな。えぇ。当然、僕の
観客のボルテージも、凄まじいものでした。声でビリビリ空気が震えてるんです。肌がソーダ水のように泡立ってるみたいで、内心申し訳なく感じつつも、すっかり圧倒されてました。それまでずっと、言わば
ピットから躍り出た時にはもう、相手の2人はアリーナの真ん中で待ち構えていました。ラウラは両腕を組んでの仁王立ちで。箒はキリッと表情を引き締めて。そして僕らが彼女たちの正面に降り立った途端、歓声が殊更に増した。最近の五輪やモンド・グロッソでも、あんなレベルのは中々ないんじゃあないかな。正に『熱狂』と言うに相応しかった。
「こんなにも早くお前と戦えるとはな」
「悔いの残らないよう、思い切りやろう」
一夏とラウラがそんなやりとりだけをして、僕らは自然と互いに距離を取った。すると自然と、水を打ったかのように会場がしぃんと静まり返りました。台風の目、嵐の前の静けさってヤツですね。互いにそれぞれの得物を展開して、号砲が鳴るのを今か今かと待ち構えていた。誰もが固唾を飲んで見守る中、いつもよりほんの少しだけ逸っている自分の心臓の音だけが、いやにくっきりと聞こえて……あれが高揚感によるものなのか、あるいは緊張感によるものなのか、今でも正直判りません。多分、両方、だったんじゃあないかな。あの頃の僕の内面は、とても自己分析なんてできそうにないくらい、ごちゃ混ぜだったから。
一夏は"雪片弐型"を……えぇと、なんだっけ。確か、居合って言うんでしたっけ? そのように腰に構えて、徐に前後に大きく両足を広げたと思うと、頭を低く前のめりに姿勢を落としました。あれは、そう、獲物を定めて、今にも飛びかかろうとする鷹、みたいな。
対して一夏の正面には、箒が陣取っていました。正眼に"
ラウラはその後ろで泰然と、淡々と、右肩のレールカノンの砲口をこちらへ向けていました。ついさっきまでの年相応な少女の笑顔は完全になりを潜め、スゥッと表情から"熱"が消えて、すっかり軍人の顔つきになっていたんです。『冷水』の二つ名の理由が、よく解った。思わず、軽く鳥肌が立ったのを、今でも覚えてます。
軽く手のひらを開いたり閉じたり、ゆっくりと呼吸を繰り返したりして、少しずつ、少しずつ、身体から余計な強張りを抜いていくよう
『――――第1試合、始めッ!!』
カチリと、
『刃物を持っているだけの素人は、恐れるに足りません。刃物しか使いませんから』
そう言っていたのは、どこの誰だったか。習熟していない得物を持っているだけであるならば、それを振り回すことしか、そいつは知らない。精々が示威行為。それも、
『――――第1試合、始めッ!!』
ヒュオッ!!
それが"白式"の風切り音なのだと
「――――疾ィッ!!」
(速いッ!!)
知識は経験を以て初めて知恵となる。『識る』だけでは、その『恵み』は得られない。既に眼前1mもないのでは、というほどまでに接近、振り抜かれた"雪片弐型"の
蹴り足である左足に7割程度としていた力の籠め具合を、突き出していた右足に10割変換。体幹を崩さぬまま高さだけを落とし、右肩の物理シールドを“零落白夜”の下へ滑り込ませるように僅か、身体を左へ傾けながら目一杯に首を逸らす。ギャリィンと甲高い音を立てながら頭上を刀身が通り過ぎていくのを確認して、『"打鉄"の物理防御力は第2世代でも随一』という、いつだかの授業内容が真実であったのだと、身をもって実感した。
『いいか、篠ノ之新兵。"零落白夜"は決してまともに受けるな。受けたら文字通りに
ボーデヴィッヒからの申し出を受け、タッグの申請をした当日の放課後。アリーナで真っ先に彼女は、真剣な面持ちでそう言った。
『今より私がこの4本のワイヤーブレードを使い、お前に攻撃を仕掛ける。
現役の軍人だけあって、その腕前は伊達ではなかった。不規則に、そして縦横無尽に、致命的とまではいかずとも、強烈な威力を纏った刃が襲い来る。『専用機』という知識が知恵に変わった瞬間であり、改めて
『恐らくにして、
そう、千冬さんは『
『
『何故解る?』
『何故? 決まっているだろう?』
そこで彼女はニヤリと笑って。
『同じ機体であったなら、私だってそうするからだ』
気持ちはよく解るからな、と続ける表情に内心で嫉妬しつつ、『如何に有利対面に持ち込むか』が問われる多人数戦において『さっさと相手の数を減らす』のは当然であり、『その為の手段』として
故に、覚悟していた。その為の練習も重ねた。それでも、尚。
(こんなにも速いのかッ!?)
『躱せた』と認識した瞬間に、背筋が芯まで凍るように冷え切った。想定を上回ってくることは想定内だったが、想定をここまで上回ってくるのは想定外だった。最早自分でも言語中枢がおかしくなったのではなかろうか、と混乱する。
ISの安全性は、この学園ではそれこそ口酸っぱく教えられる。搭乗者の身を守るシールドエネルギー、そして絶対防御。故にこそ、世には『IS=最強』なんて子どもじみた、しかし完全に間違っているとも言えない、如何ともしがたい風潮が広まっている訳だが。
だが、一夏の"白式”は違う。"零落白夜"の白刃は、そんな盾もろとも
試合用のスペックに調整されているのだから、
「ッ、キァアアアアアアアアアアッ!!!!」
『あの日』以来、脳裏に焼き付いて離れない『炎』の煩わしさに、私は一際大きな雄叫びを上げ突撃しようとして。
「――――ヒィッ!?」
タァンッ!!
しかし至近距離に突き付けられた銃口によっていとも簡単に気勢を削がれ、響いた銃声によって頭の中を真っ白にされてしまうのだった。
――――出自からか、元々そうだったのかは解らないが、私は
彼女は新兵だった。ISの適性を持ち、軍人としての適性を持ち、"黒兎隊"としての適性を持つと判断され、私の元へ配属された新兵の中の1人だった。
優秀な娘だった。銃器の扱いに長け、射撃訓練の成績は抜群で、特に分解整備の速さは同期ばかりか全隊員の中でも指折りと言って差し支えなかった。多少のやっかみこそあったが、誰もが期待し、私も重用した。元より新進の部隊である。『
そんな折のことだった。
なんということもない、楽な任務のハズだった。商社の人間と共に物資を送り届けた後は
「隊、長……申し訳、ありま、せん」
彼女の被害は、一際甚大だった。至近距離で爆撃を受けたのだろう、火傷・裂傷・擦過傷・骨折、怪我のない個所から数えた方が早いくらいだった。だが、これはまだいい。目に見える傷はいずれ癒える。問題は、
「寝ても、覚めても、ずっと、
病院のベッドの上、呼吸器越しに、辛うじて絞り出したような掠れた声で、彼女は涙混じりに言った。「考えるだけで息苦しい」「心臓を握られているようだ」「怖くて怖くて仕方がない」と。
軍人にPTSD(心的外傷後ストレス障害)患者は別段珍しくもない。中には抱えながらも最前線を駆ける
退院後、彼女は惜しまれながらも退役した。私の部下であった時間は決して長くはない。なのに、初めて隊舎を訪れた時の凛とした立ち姿と、幽鬼のように力なく項垂れて歩いていく後ろ姿はあまりに違っていて、それを『あの程度で情けない』としか思わなかった当時の私の頬を思い切り引っ叩きたくなる。
――――そして、
教官や
そして、無人機襲撃事件に関しては資料に目を通したのみだが、今の私ならば「無理もない」と、そう思う。そう思えることが、今は喜ばしい。
彼女の症状は、思っていた以上に悪くはなかった。無人機が使用していた火器が熱線を放つものであった為、
話を戻そう。篠ノ之箒の"恐怖"は、言ってしまえはこの世の誰もが当たり前に抱いているものと相違なかった。ISから遠いようで近いような
この国はいい。『死』が遠い。『殴る』が。『斬る』が。『刺す』が。『撃つ』が。『狙う』が。『射る』が。『奪う』が。誰より、何より近くにあるはずのそれらが、遠い存在になっている。それは幸福であり、そして同時に不幸でもあると思ってしまうのは、職業柄だろうか。
タァンッ!!
寸でのところで"零落白夜"を躱した篠ノ之新兵が裂帛の気合を込めて
「させんよ?」
「うわッ!?」
右肩のレールカノンを、彼女と
「……一夏と戦いたかったんじゃないのかい?」
「何を言っている?
「────最初からその積りだったんだなッ!?」
「これは
「あぁもうッ!! 面倒臭いこと引き受けちゃったなぁッ!!」
さて、これで暫くは“一対一と一対一”に出来るだろう。
「さぁ。どうするんだ、篠ノ之新兵」
お前は
どうも、作者のGeorge Gregoryです。
Q:どうして心が死んでる時の方が筆が進むんですか?
A:現実逃避
あっはっはっは。笑えよ。
……ホント、なんなんでしょうか、この感情の波は。
いつも安定して書けないんだよなぁ。1日の文字数ノルマを課した時期もあったけど、全然達成できなくて『俺はまかり間違ってもこれを商売にはできそうにない』と作家の道は諦めた若かりし記憶。
相変わらず情緒不安定な文章かつ不定期な更新ですが、お付き合いいただけたらと思います。
……ラチェクラ本編の軽~いノリはどこへ行ったんだろう。休暇取って惑星マクタールでカジノってんのかな?
では、また近い内にお会いできることを願って。
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