ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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リングフィットアドベンチャーのエンディングまで終わりました。
音楽が意外と良くて、サントラが欲しくなりました。
そして『フォードvsフェラーリ』は実にいい映画でした……


To Be or Not To Be Ⅶ

――――あの時はそりゃあもう、大騒ぎだったわよ。

 

 

 当時はアタシ、来賓席にいたのよ。中国から管理官が来てたから、挨拶ついでにそのままそこで観戦してたの。周りは各国のお偉方がズラリ勢揃いで、どいつもこいつも試合に出てる生徒を値踏みする気満々な上に、自分とこの生徒が活躍する度にドヤ顔で勝ち誇ったりしててさ。こんなところでも()()かぁ、ってげんなりしながら見てたっけ。

 

 すぐ横でセシリアもイギリスのお偉いさんと話してて、『いつになったら彼を我が国へ招けるのかね?』とか随分と上から目線でさ、見ててイライラしたっけなぁ。あの時のセシリア凄かったわよ? 終始ずっとTHE"お嬢様"な嫋やかスマイルで受け流してたもの。あぁいうところは未だに勝てる気しないわねぇ……

 

 アップを始める頃合いになって、セシリアにそろそろ待機部屋に行こうかって声かけたの。折角の一夏の試合だったから最後まで見たかったんだけどね。セシリアもちょっぴり惜しがってたけど、お偉方と話すのもやっぱり辛かったんでしょうね。ボソッと「ありがとうございます」って溢してたし。

 

 丁度その時だったのよ。“あれ”が起きたのは。

 

 シャルの"灰色の鱗殻(Gray Scale)"でラウラが盛大に吹き飛んでったのとほぼ同時に、アリーナの反対側で一夏が箒を壁面に叩きつけて。で、2人が合流して、ラウラがゆっくり砂煙の中で立ち上がろうとしてたのが見えて、面白いことになりそうだな~って思ってたらさ、突然ラウラのISの輪郭が、歪んだの。

 

 そう、()()()の。比喩でもなんでもなく、粘土細工をこねたみたいに。砂煙が晴れたら、真っ黒い泥みたいなのが泡立ちながら膨らんでいくのが見えて、直ぐに非常事態宣言が発令されたわ。アリーナ中にサイレンが鳴り響いて、観戦していた生徒たちは直ぐに『我先に』と避難口へ詰めかけようとしてた。勿論、来賓席も例外じゃなくてね……あぁ、ゴメンね。あの時のアイツら、あまりに無様で醜かったもんだから、思い出すだけで萎えちゃって。

 

 でも、誰一人としてアリーナから出ることは出来なかった。案の定というか、隔壁が、ね。それも全部。流石に学園も()()で学んでだみたいで、何があってもいいように予めアリーナ周辺に教員部隊を配置させてたらしいんだけど、隔壁の権限が前回以上に設定されてて、出入りそのものが封じられてたのよ。まぁ、それくらい余裕だったでしょうね、『あの人たち』なら。

 

 で、結局その時中にいたメンバーで守らなきゃって話になってたんだけど、まぁ~、ね。来賓席の連中が、酷くて。この辺、NGでもいい? 出来れば話したくないのよ、アタシの精神的な意味で。……ん、ゴメンね。大丈夫、大体()()()()()()()()だと思うから。

 

 そんな感じで『色々』あって、アタシたち来賓席から離れられなくてさ。もし何かあったらこんな連中ほっぽり出して、何としてでも助けに行こうって事の成り行きを見守ってたら、そのヘドロみたいなのが段々『人の形』に収束しだして――――

 

 

 

 

――――その立ち姿には、朧気ながら見覚えがあった。

 

「バカなッ!? VTシステムだとッ!?」

「アラスカ条約で禁止された代物が何故ここにッ!?」

「ドイツは一体何を考えているのだッ!?」

「し、知らんッ!! 私はッ、私は何も聞かされていないッ!!」

 

 地獄絵図とはこのことか。"甲龍(シェンロン)"と"蒼い雫(Blue Tears)"をそれぞれ展開したアタシたちの背後で、汗やら唾やらを撒き散らしながら喧々諤々と『責任の所在の追求』を続ける連中に呆れながらも、アタシの視線はアリーナの中央から逸らすことが出来ずにいた。

 

「千冬、さん?」

 

 随分と前にだけど、あの人がモンド・グロッソで優勝した時の機体、"暮桜"の姿に随分と……いや、瓜二つと言っていい。あんなに特徴的な大太刀を見間違うはずもない。

 

 VTシステム。正式名称"Valkyrie Trace System"。これでも候補生の端くれだ。その名前には心当たりがある。

 

「過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の戦闘・操縦技術をデータ化、そっくりそのまま再現・実行するシステム。パイロット自身の能力以上のスペックを要求するため肉体に莫大な負荷がかかり、場合によっては生命の危機すら危ぶまれる禁断の代物……現存していたのですね」

「なんで、あの子の機体にあんなものが入ってるのよ……ッ!!」

 

 この数週間、ラウラ・ボーデヴィッヒという少女と少なからず触れ合って、彼女が()()()()()()()()()()に頼るような人物ではないことは、十二分に解っていた。そうとなれば、考え得る選択肢は決して多くない。いや、解ってるのだけれど、それが真実だと思いたくない。

 

「恐らく、本人にも知らされていなかったのでしょう。大方、『万が一にも黒兎隊に負けてもらっては困る誰か』か、『どこかの戦場で稼働データでも得られればと思った誰か』が密かに組み込んだのでは?」

「…………」

「お怒りは御尤もですが、今はどうか冷静に。……正直、私も怒り心頭に発する思いですが」

「わかってるわよ」

 

 眉間に皺を寄せ唇を噛んでいたアタシに、極めて抑揚を抑えたような声色でセシリアが釘を刺してくる。ぶっきらぼうな返答になってしまっただろうが、許して欲しい。今、アタシは自分の中のブレーキをべた踏みするので精一杯なのだ。

 

「一夏……」

 

 もどかしさで言葉が上手く形にならず、ただ零れ落ちるように、アタシはアイツの無事を祈ることしかできない自分への苛立ちを募らせた。

 

 

 

 

「あれ、あの姿、織斑先生の……」

「―――――――」

「……一、夏?」

 

 ラウラの雄叫びがあの黒い泥のようなものに呑み込まれ、やがてそれが二回りほど大きなISの姿を象った瞬間、僕の目の前で構えていた一夏から、スゥっと熱が消えていくような錯覚を感じた。今日までの付き合いで、一度たりとも見せたことのなかった一面。けれど、直ぐに解った。あの温厚な一夏が、激怒していた。

 

 ギリッ、と"雪片弐型"を強く握り直すような鈍い音がして、ザリッ、と彼の脚がより深く地面を抉った。そこで初めて気づいて。

 

「ッ、いちk」

 ズンッ!!

 

 止めようとした時には、もう遅かった。フッと視界から彼の上半身が沈むように消えた瞬間、"白式"は既に弾丸のような速さでその変わり果てた"黒い雨(Schwarzer Regen)"へと吶喊していってしまっていた。

 

 左に深く構えてからの居合のような"零落白夜"による胴一文字。彼が最も得意とする一撃。しかしそれはいとも簡単に阻まれ、ギャリィッ!!と耳障りな金属音が鳴る。途端、一夏はそのまま独楽のように身体全体を回転、正反対の逆胴へと叩き込もうとして、しかしそれを鋭く跳ね上げた真っ黒な"雪片"に弾き返されてしまう。

 

「ッ、あ゛ぁッ!!」

 

 ここで初めて、吠える様ながなり声を上げて一夏は両翼を展開、瞬時加速(Ignition Boost)で跳ね返るように再度吶喊。切っ先をその喉元へ向けて強烈な突きで刺し貫きにかかる。だが。

 

『―――――――』

 バキィッ!!

 

 羽虫を払うような乱暴な一振りで、防ぐばかりか"雪片弐型"が一夏の手を離れてクルクルと宙を舞い。

 

「―――ッ、一夏ァっ!!」

「ッ、づぁッ!?」

 

 相手を嘲笑うかのような大上段からの一閃が一夏の左腕へ勢いよく吸い込まれ、叩きのめされるように一夏がその場に膝をついた。思い切り左腕を庇いながら動けずに蹲っている。あれは、明らかにマズい。

 

 そこでようやく我に返って、僕は両手の"Galm"でアイツを圧し返すように弾幕を張りながら一夏を庇うように躍り出た。

 

「一夏ッ!! 大丈夫ッ!?」

「ぐ、ぐぅ……ッ!?」

 

 見れば、彼の左腕には恐ろしいほどに鋭い切り傷があり、だらだらと決して少なくない流血が地面へ滴り落ちている。装甲ごと叩き切ったというのか。その切れ味を想像するだけで背筋に寒気が走った。

 

 傷自体、かなり深い。早く手当しないと危険かもしれない。そして、それだけじゃない。"白式"の左腕だけじゃなく、全身の装甲から量子化の際に発するあの『光の群れ』が漏れ出ている。"絶対防御"すら通り越した"強制解除"寸前の際の現象だ。"白式"のSEが尽きかけている何よりの証明である。

 

(たった一撃で、そこまで持っていった……どれだけの威力だって言うんだ……?)

 

 篠ノ之さんとの戦闘で多少の消耗こそあったとはいえ、まだまだ十分な残量があったはずだ。少なくとも1度や2度の"絶対防御"程度じゃあこうはならない。これじゃあまともに戦えるはずもない。

 

「クソッ、畜生ッ!! ふざけんなぁッ!!」

 

 傷を抑えるように右手を当て、一夏はその左手の装甲だけを残して"吹雪"を召喚する。銃口は真っ直ぐ漆黒の"暮桜"へ向けて、何度も何度も引鉄を引いた。察するまでもない。完全に怒りに呑まれていた。

 

「それはッ、その剣はッ、()()()()だッ!! 誰だッ!? 誰がラウラを()()()にしやがったッ!?」

 

 そう、彼女の意志じゃないことは、呑み込まれる前の雄叫びが何よりも物語っている。そして、その一因が『自分にある』ことを、この場にいる中で僕自身だけが知っている。

 

(オーバスさんは、一体僕に何をさせたかったんだ?)

 

『"黒い雨(Schwarzer Regen)"の絶対防御を発動させること』。それがこの試合における、彼からの唯一の注文だった。どういった意図があってなのかは不明だが、少なくとも彼は『これ』を知っていたハズだ。でなければわざわざ()()()()()()()()()()()()()()を突かせるメリットがない。

 

(どうする、どうすればいい?)

 

 もしや、嵌められた? それともやはり『用済みになったから』と体よく外交に利用された? あれやこれやと混乱の坩堝で溺れそうになる思考回路に必死に酸素を送りながら、僕は引鉄を引き続けた。

 

 

 

 

――――失っていくことが、いつしか当たり前になっていた。

 

 “白騎士事件”を経て無味乾燥な日々を送る内、私自身が冷たい水底へ沈み、ゆっくりと錆に四肢の末端から浸食されていくような“仄暗さ”の中から“明るみ”を見上げるのが、日常になった。

 

 すっかりと卑屈で捻くれてしまった性根は、自分で解っていても尚、感情の制御をあっさりと放棄する。あっさりと嫉妬し、あっさりと憤怒し、一気に燃え上がったと思えば簡単に尻込みする。こんな自分が何よりも嫌な癖に、変わる為の努力に取り組むことすら思いつきもしない。

 

 どうしてだろうと考えても、どうしたって答えが出ない。“このままでいい”と思っていないハズなのに、そこから本気で抜け出そうとしない自分が、いちばん不思議でならない。そう、思っていた。

 

「当たり前だ。お前は何もかもを諦めているだろう」

 

 あっさりとそう言ってのけたのは、トーナメントのペアを組もうと誘ってきた時のラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

「解るとも。私も、嘗てはそうだった」

 

 勢いのままに否定することは出来なかった。彼女の過去を聞いた後では、とてもそんな真似が出来るはずはなかった。

 

「その“仄暗さ”に慣れてしまうとな、“明るみ”は眩しすぎるんだ。それこそ、吸血鬼のような気分になる。日の下に出るだけで網膜は潰され、肌は焼けて爛れるんじゃあないかと不安になる。そんなことはありえないと解っているのに、な。違うか?」

 

 その慈愛に満ちた微笑みに、言葉を失った。あまりに的確だったからだ。

 

「最初は余りに重いそれを、直ぐにでも手放したかった。けれど、ズルズルと引き摺り続けていく内に少しずつ、少しずつ擦り減っていって、“どうにか我慢できなくもない”くらいになってしまうと、な。いつしか水底の冷たさにも慣れてしまって、沈み続けているための丁度良い“重石”になってるんだ」

 

 嘗て確かにいたハズなのに、四方を閉ざして引き篭もっている内に、誰もが当たり前のように享受している“明るみ”はいつの間にか酷く熱く、眩しく、耐え難いものになっていて、いつしか自分が水底の住人になってしまったことを思い知らされる。

 

「私は、そこの()()()()()()も知っている。だからこそ、はっきりと言ってやる。お前は、()()から脱け出すべきだ。何、気にするな。私が手伝ってやるともッ!!」

 

 ドン、と力強く胸を叩くその矮躯が、ずっと大きく見えたのを覚えている。今までと同じような恐怖と共に、どうしようもなくその力強さに惹かれた。

 

 そして私は、彼女とのペア申請を受諾することにした。

 

 

 

 

(……何の音だ?)

 

 断続的に耳朶の奥を擽る銃撃音に、沈み込んでいた意識がゆらゆらと浮上していく。ぼんやりと霞む視界の向こうには、淡く滲んだ3つの影。1つは大きい黒、もう1つは小さな白、そしてそれらの間に最後の橙色。それを認識して、ようやく現状を認識する。

 

(そうだ、私は)

 

 力を籠めても、指先すら微動だにしない。疲労困憊の満身創痍。肉体から精神だけが剥離され、それをどこからか画面を通して俯瞰しているような“第三者”感。あぁ、まだこれだ。すっかり馴染んでしまった“仄暗さ”の中にいる。

 

 もういいだろう? 無駄だと解っただろう? いい加減楽になれ。他者の無責任な言葉に誑かされて、その度に自分自身に失望するのはもう沢山だろう? 今もそうしてうちのめされているのだろう? その空っぽなお前の剣で、何が出来ると言うのだ?

 

 頭の中で声がする。甘い甘い声がする。瞼が重くなる。心地好さすら覚え始めた重さに身を任せて、遠ざかっていく光に安堵して。

 

『"前"に立つのが、怖くはないのですか?』

『怖いよ。当たり前じゃないか。誰だって、痛いのは嫌だよ』

 

(―――誰だ? ……いや、誰でもいい。黙っててくれ)

 

『……なら、何故?』

『何故、ね。そんなの、簡単な話さ』

 

(煩い。辛いだけなんだ。苦しいだけなんだ。こんなこと、続けていたって―――)

 

 

 

『オイラがね、嫌なんだよ、そんな自分』

 

 

 

(…………)

 

『そりゃあね、嫌なことや怖いことなんて、山ほどあるさ』

『でもまぁ、基本的に“かっこつけ”なんだよね。良い恰好したいのさ。家族に。友だちに。それに、自分自身に』

 

(…………)

 

『他の誰かにどう思われようが知ったことじゃない。家族が、友だちが自分を好きでいてくれたら、自分が自分を好きでいられたら、それでいいじゃないか』

『キミは、今の自分に、胸を張って好きだって言えるかい?』

 

(…………言えない。言える訳が、ない)

 

『なら、オイラから言えることは1つだ』

 

(でも、カデンソンさん)

 

『いっぺん、思いっきりバカになってみな?』

 

(一体、どうすれば、私はバカになれるのですか?)

 

 そりゃあ、私だってこんな自分が嫌で仕方がない。叶うならこんな暗がりを抜け出して、アイツらのように明るい空の下で―――――

 

 

 

 

(―――――は?)

 

 

 

 

 そこで初めて、ぼやけた視界のピントが戻った。そしてようやく、正確に現状を把握した。

 

―――――あの黒い機体は何だボーデヴィッヒはどこへ一夏は何故"白式"を纏っていない庇っているデュノアの足元の赤いあれはまさか

 

 脳内に雪崩れ込む情報、情報、情報。自分の心臓の音がやけに大きく、そしてゆっくりと聞こえ、世界はそれに合わせて酷く緩やかに流れて感じられる。

 

 負傷した左手を抑え苦悶の表情を浮かべる一夏を庇うようにデュノアが両手の銃器の連射で押し留めようとするも、謎の黒いISは難なくその右手を高く掲げ、そこには一夏の"雪片弐型"によく類似した大太刀が握られていて。

 

「――――――――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!!」

 

 軋む四肢に歯を食いしばる。内側からの茹るような熱で肌と外界との境目が曖昧に感じられ、まるで解けた肉が大気に溶けて世界と一体化したような奇妙な感覚に捉われる。

 

 視界の中心に巨大な黒い影を定め、両手にはいつもの竹刀を握るようなイメージをし、構えは大上段。防がれようが、躱されようが、知ったことではない。

 

 今この時だけでいい。ほんの数秒、一瞬だけでいい。

 

「私からッ!! これ以上ッ!! 何も奪うなァッ!!!!」

 

 私の大切な人を傷つけようとするあの()()()()()を、思い切り叩き切らせてくれ。

 

 

 

 

【――――――♪】

 

 

 

 

『いっそのこと、翼ではなく、背に風を受けている、と捉えるのもいいかもしれませんわね』

『いい、箒。ビビったらダメよ。水泳の飛び込みみたいに、思いっきり踏み込みなさい』

 

 背中に強く感じる風に任せ、倒れ込まんばかりの勢いで地を蹴る。

 

『その真っ直ぐな剣はお前の持ち味だ、篠ノ之新兵。積み重ねた日々は嘘を吐かない。まぁ、偶に応えてくれないことはあるがな』

 

 搦め手など知るか。戦略などあるものか。今は兎に角、少しでも速く、少しでも鋭く、ただそれだけを願って。

 

(はら)から声を出しなさい、箒』

『どうしてですか、とうさま』

『お前は優しすぎるからな、まだ相手を打つことに慣れていないだろう』

『……はい、すみません』

『謝ることはない。お前は優しい子で、それは正しいことだ。だが、時にそのやさしさが仇になることもあるだろう。だからな、思い切り叫ぶんだ』

『さけぶ、ですか』

『そうだ。お前の迷いを払い、挫けそうな心を奮い立たせてくれるだろう』

 

『おねえちゃん、なんでやめちゃったの?』

『だってアタシには、箒ちゃんみたいに真っ直ぐで綺麗な剣はできないもん』

『ほんとに? きれい?』

『うん。大好き♪』

 

「――――――キァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 私は、雄叫びを上げながら、いつものように剣を振り下ろした。

 

 

 

 

 

「―――――うんッ!! それでこそッ、私の大好きな箒ちゃん(マイ ラヴリィ シスター)だッ!!」

 

 

 

 

 

「箒ッ!?」

「篠ノ之さんッ!?」

 

 視界の端に黒鉄が煌めいた瞬間、泰然自若として崩れる気配など微塵もなかった目の前の巨体が初めてぐらりと揺らぎ、ズゥンと大きな音を立てて倒れた。炸裂したのは極めてシンプルな上段切り。しかりその速度が尋常ではなかった。"瞬時加速(Ignition Boost)"の勢いが十全に乗ったあの一撃は、嘗て篠ノ之流剣術道場で真っ先に習った基本中の基本。それこそ、アイツにとっては呼吸も同然と言って過言ではないほど、身体に染み付いていることだろう。

 

「シャルルッ!! アイツ見ててくれッ!!」

「解ったッ!! 早く行ってあげてッ!!」

 

 その一撃を決めた勢いのまま、箒の"打鉄"は慣性に任せてアリーナの地表を2、3回弾んだ後、土煙を上げながら止まった。既に"打鉄"は解除され、四肢を投げ出したまま微動だにしない姿に焦り、シャルルに足止めを任せて傍に駆け寄る。

 

「おいッ!! 箒ッ!! 大丈夫かッ!?」

「あ、うぁ、い、ちか」

 

 助け起こしても反応が弱い。顔は紅潮して、呼吸もかなり弱く、瞳の焦点は明らかにズレている。高熱に浮かされているようにも見えた。

 

「まに、あった、のか」

「あぁ、あぁッ!! 凄かったぜッ!!」

「そう、か……」

「箒ッ!? 箒ッ!?」

 

 それだけを聞くと、フッと身体の力を抜いてぐったりする箒。どうやら意識を失ったらしく、揺さぶっても反応がない。

 

「うぁあッ!?」

「シャルルッ!?」

 

 と、直ぐ隣を"RRⅡC"がまるで藁束のように軽々と吹き飛ばされたのが通り過ぎ、アリーナの地べたを滑っていくのが見えた。

 

「シャルル、大丈夫かッ!?」

《――――――――――》

「ッ!?」

 

 声を張り上げた直後、俺たちの上に大きな影が落ちる。振り向き、見上げれば。

 

「嘘、だろ……」

 

 そこには、いつの間にか復活していた黒い"暮桜"が、高々と大太刀を振り上げていて。

 

("白式"は完全にエネルギーが尽きてるッ!! 今から箒を抱えても間に合わないしそもそもこの腕の傷じゃッ!! シャルルはあっちで倒れちまってるし、先生たちの救援も入ってこれそうにないッ!!)

 

 諦めずに打開策を探るも、突き付けられた現実がその悉くを打ちのめす。何故だ、どうしてこんなことに、俺たちが何をしたっていうんだ、と理不尽への憤慨が募っていく。

 

「畜生……畜生……ッ!!」

 

 せめてもと、咄嗟に箒の上に覆いかぶさる。"白式"の装甲ごと叩き切る切れ味なら無意味かもしれないが、それでもないよりマシなハズだ。アリーナの随所から悲鳴が上がる。遠くから鈴やセシリアの『速く逃げなさい一夏ァッ!!』『一夏さんッ、ダメェッ!!』という悲痛な声が聞こえた気がした。あぁ、今際の際って本当に時間がゆっくり感じられるんだな、と間抜けなことを頭の片隅で考えている自分がいる。

 

(千冬姉、ごめん)

 

 激情に身を任せず逃げに徹すれば良かった、とか、姉よりも早く先に逝く愚弟を許してくれ、とか、色々。

 

 いずれ来るであろう痛みに、あるいは痛みもなく訪れるであろう冷たい死に、強く目を瞑り、覚悟を決めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、そこで諦めちゃダメだろ、一夏くん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タァン!!

 

ガキィンッ!!

 

ズドォンッ!!

 

「…………へ?」

 

 1発の銃声が轟き、次の瞬間、黒い"暮桜"の大太刀の刀身、その側面で"何か"が弾け、軌道を大きくずらす。そして本来の狙いから僅かに逸れた斬撃は一夏たちの直ぐ傍の地面を抉るように深々と突き刺さった。

 

 そして、その直前、この数ヶ月ですっかりと聞き慣れた、しかしこの場で聞こえるはずのない人物の声に、ゆっくりと視線を上げた先で。

 

「そういう時は、何もなくても不敵に笑いながら見上げてやるんだよ。『俺にはまだ切り札があるんだぞ』ってな。それで相手が迷ってくれれば儲けものだろ?」

 

「カ、デンソン、さん、なん、で」

 

 それは。その、両手に持っている、銃は。どうして、貴方が、“その銃”を。

 

「質問は後で。ここは、オイラに任せときな」

《―――――――》

「……へぇ。AIなのに実力差が解るくらいには頭いいのか、お前。流石は元惑星チャンプのコピーってとこかな」

 

 黒い"暮桜"はジッとカデンソンさんを見据えたまま、微動だにしない。余りに無機質で、感情など微塵も感じ取れなかったヤツが、今は何故か、怯えているようにも見えて。

 

「さて。久し振りにひと暴れしようぜ、相棒」

「エェ。勿論ッスよ、相棒」

 

 キュイン、キュインと、傍らを通り過ぎていく、()()()()()()()駆動音。忘れられない、忘れられるハズもない、あの日の自分の手を引いてくれた、ランドセルのような小さな金属のボディがピョンと跳び上がり、カデンソンさんの背中にカチリと小気味よい音を立ててくっついた。

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――ゴォォォォォォオオオオオオオイングッッッッッッッッ!!!!!!!! コォォォォォォォォォォォマンドォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!

 

 

 その背中に、何故か、泣きそうになっている自分がいた。

 

 

 

 

 

 

 




 どうも、作者のGeorge Gregoryです。

 殊更に文章が乱れている気がします。上手く脳内映像が伝わっているといいのですが。

 さて、ここまで来ましたら余計なことは語りません。早く次の更新を書き上げられるように頑張ります。

 では、また近い内にお会い出来ることを願って。

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