ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
『JUDGE EYES』未プレイなので、ここからでもいいかなぁ、と。
某瀧さんの件でお店からなくなるかもしれなくなる前に確保した方がいいですかねぇ……(今更焦燥感)
――――妻、
前期日程のシラバスを眺めていて、上手く必修科目の間の時間で受講できそうだと思った私は、選択科目に経済学部教授の講義を選んだ。そして、そのグループワークにて、偶々彼女と同じグループになったのだ。
「へぇ。あなた工学部なのに、どうしてわざわざ経済学部の講義を?」
自己紹介の場でそう聞かれ、別段やましいこともないので、私は正直に答えた。実家の町工場の経営が思わしくない中、両親が少ない貯蓄を崩して大学に入れてくれたこと。それ故に在学中に学べるものは少しでも多く学ぼうと思ったこと。
「ふぅん、ご実家の。面白そうね。聞かせなさいな」
随分と上から目線ではあったが、経済学部在籍で成績も優秀な生徒だった彼女の知識は、素人の私でも解るほど有益だった。恥ずかしながら、私は工学以外の講義にはついていくのに必死で、彼女に試験勉強や課題、レポート作成を手伝ってもらったことも少なくなかった。そうしている内に、徐々に彼女と接する機会は増えていき、その過程で互いに同じ甘党であることも知った。
3年の夏。いよいよ実家の経営が本格的に傾き始めてきたことを、実家の工場で働く社員の1人からの手紙で知った。両親からは『
シャルロットの母、
そして、その年の冬。ただの一学生にまともな打開策が思いつくはずもなく、ずるずると無力な自分を慰め続ける日々を送っていた、ある日のことだった。
「あなたのご実家のお金、私が出してあげてもいいわよ?」
ロゼンダは所謂“名家の娘”というやつで、大学には家業を継ぐための社会勉強と経営に関する知見を広めるために進学したのだと、その時初めて知った。既に
何故、私に? そう問うと。
「……あなた、結構鈍いのね」
『私、何とも思ってない相手に態々貴重な時間を割いてでも付き合いを続けるほど暇じゃないのよ?』と唇と尖らせながらそっぽを向いてそう言う姿は酷く魅惑的で、アニーという相手がいながら思わず心臓が高鳴ったほどだった。
「最近のあなた、大学にも来なけりゃ電話にも出ないし、勝手に調べさせてもらったわ。それで、あなたのご実家の方にも窺っちゃって……」
これには文句を言えなかった。実家のことをつぶさに相談していただけに『何かあった』と察するのは難しくなかったのだろう。そこで学友であること、私を憎からず思っていること、自分が持つ経営についての知見や資金を提供してもいいと考えていること、何もかもを話す内にすっかり両親は彼女を私の
「結果的に卑怯な真似になってしまって、私としても心外だったのだけれど。あなたに交際相手がいるのは噂で聞いていたし。……でも、こうなった以上、私だってもう一歩も退く気はないの」
『選んで』 はっきりとそう言い切り颯爽と去っていく彼女の背中には、有無を言わさぬ力強さがあった。そのまま、呆けた足取りで自宅へと帰り、渡した合鍵で待っていてくれたアニーに、前後不覚なまま全てを打ち明けた。何もかもが多すぎて、重すぎて、心身共に軋むような悲鳴を上げていたのだ。吐露し続ける内にぼろぼろと大粒の涙が零れて見えなくなり、彼女の膝の上で幼い子どものように眠りに落ちたのだけは、覚えている。
その、たった数日後のことだった。何の前触れもなく、アニーが私の前からいなくなったのは――――
『信頼できるヤツをそっちに送る。後はソイツを通じてってことで、ヨロシク』
その一文を最後に彼がチャットルームを去ったのが、ついさっきのこと。相変わらず、恐ろしいほど
「ふぅ……」
やりとりに使っていたノートパソコンを閉じ、紫煙を燻らせながら、深く椅子に腰かける。背凭れに身体を預けると、ギシッと強く擦れる音が鳴った。すっかり古くなったものだ。
がらんどうになった工場の中をグルリと見回す。ここは私の実家の隣に建つ
社のIS開発業が軌道に乗ってからも、私は隙間を見つけて、よくここを訪れていた。幼少期の私にとって、ここは言わば家の隣にある遊園地のようなもので、隙あらばあれやこれやで遊ぼうとしては怒られたらしい。ベテランの従業員たちには親や兄姉のように可愛がってもらったものである。そんな思い出が山ほど詰まっており、私の技術者としての原点でもあるこの工場は、来る度に日々の業務で摩耗していく心身を一時安らかに癒してくれるのだ。
「後、30分くらいか」
その後は直ぐ社に戻らねばならない。社長である私がやらねばならないことなど、山積こそすれなくなることはあり得ないのだから。さて、彼の言う『信頼できるヤツ』が来るまでは暫くかかることだろう。戻りしな、パスワードにも使った“思い出の味”でも久し振りに買っていくことにしようか。暫く口にしていないことだし。
そんなことを考えていた、その時だった。
「―――ドウモ。初めましてッス、アルベール・デュノア社長」
「ッ」
背後からのその声に、身体が強張る。ここには誰も連れて来てなどいないし、作業机と椅子以外のものはすっかり運び出された殺風景な空間なのだ。誰かが隠れるような物陰などあるはずもない。あるとすれば傾き始めた午後の日差しの射し込む窓くらいのものだが、ここは2階だ。外壁に掴まれるような凹凸はないし、そもそも登ってくるような輩がいれば物音で解る。
そして、振り返ることで、私は更なる驚愕に目を見開くことになる。何せ、そこには。
「既に話は聞いてるッスよね。ワタシ、これよりアリスター・カデンソンの
随分と堂に入った仕草で深々と丁寧なお辞儀をする、ランドセルのような大きさの銀色のロボットが、窓枠の上に立っていたのだから。
どうも、作者のGeorge Gregoryです。
今回は特にフラグ管理が難しいエピソードなので、どうしてもペースが落ちがちです。すみません。
さぁ、全世界1000億人の“マル秘エージェント”ファンの皆様、お待たせしました。ようやくこのSSでも彼の活躍を描けます。初期ヒロイン's最後の1人、シャルの背景の掘り下げでもあります本エピソード。1回1回の更新は短くなってしまいそうですが、今まで以上に頑張りますので、どうぞ見守って下さいませ。
では、また近い内にお会い出来ることを願って。
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