ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
……( ゚д゚)ハッ!
彼がデュノア社に入社したのは『近年急成長しているここなら実力次第で幾らでも上が狙える』といった極めて打算的な目論見があったからである。加えて、これから間違いなく賑わうであろうIS業界に進出する、と小耳に挟んだのもあった。僅か一代でこれほどにまで急成長した企業だ。地力も嗅覚も確かなものなのだろう、との判断だった。
先に待つ栄光を思えばこそ、彼は腰を低くし、頭を下げることに何の躊躇いもなかった。着実に実績を積み重ね、周囲からの信用を勝ち取り、遂には幹部役員を任されるようになった頃、転機が訪れた。若くして社長夫人でありながら営業の為に全世界を駆け回っている
そして、いざ迎えたその会食の日。
――――
初めての体験だった。生来の整っているとはいえない外見と人見知りで幼年期に盛大に拗らせてしまった彼の価値観は、周囲の女性を「所詮顔と金しか見ていない醜い獣」と判断し、最初から一片の期待も抱かないという何とも捻くれた自己防衛手段を確立。それ故に全く華のない青春時代を過ごした彼はこの日、『恋は落ちるもの』という衝撃を味わったのである。
無論、相手は人妻。しかも社長夫人。常識や道徳は弁えていた。あれは“隣の芝生”なのだ、“酸っぱいブドウ”なのだ、と自分に言い聞かせもした。しかしそれでどうにかなるものなら『七つの大罪』などというものは存在しないのである。ましてや無味乾燥に等しかった40余年の人生で初めての恋。積もりに積もった
そして、故にこそ。
「……なぁ、アンタ。あの女が欲しいんなら、手ェ貸してやらなくもないぜ?」
彼がその甘い言葉に耳を傾けてしまったのは、仕方のないことだったのかもしれない。
結婚してからも、社の運営が軌道に乗ってからも「これが性に合っているのよ」と周囲を振り回しながら、しかしいつだって営業課の誰よりも多く太い顧客を口説き落としてくるのだから、社員としては「頼もしい」と「堪ったものではない」とが半々といった具合であった。
何せ彼女は“自分の武器”というものを良く解っていた。四十路を目前にして尚、一流の女優やモデルに勝るとも劣らない美貌。均整の取れたプロポーション。それらを更に魅力的に見せる、シックな黒で統一したタイトスカートタイプのスーツを愛用しており、しかも丈はミニときた。裾からスラリと伸びるストッキングに引き締められた美脚がハイヒールでカツカツとフロアの床を叩く様を見られた日には、若い社員たちの中に頬をポケーッと紅潮させ上の空になる者が続出。同性でさえも「どんな美容テクを使っているのか」と身を寄せ合い姦しく文殊の知恵を捻り出そうとする。そして皆、決まってこう続けるのだ。「どうしてあんな美人が未だに子宝に恵まれないのだろう」と。
故にこそ『妾腹の子
「誰よりも社に尽くしてきた妻を他所に他の女と寝ていたクズ社長」
「結婚理由は金? 事実上の
国内メディアは挙ってアルベール社長をバッシング。デュノア社の株価は瞬く間に下落の一途を辿り、一部の幹部役員からも早急に社長の罷免に関する株主総会を開くべきだ、との声も上がっている。
「―――ですので、貴女様にも是非とも出席してしただきたいんでシュよ、ロゼンダ様」
アメリカはカリフォルニア州ロサンゼルス。U.S.バンクタワー地上71階、ビストロダイニング“71 Above”。窓から見渡せるダウンタウンと遠くに見える海がオレンジ色に染まり、徐々に宝石箱のような夜景へと移り変わっていく頃。オットーは
けれど、オットーにはどうにも
すると直ぐに、
そして、昨年の冬。ようやく社長が陰ながら彼女の銀行口座へ定期的に養育費と思しき金額の送金を続けていることを突き止めた。ここまで解れば、導き出される答えは1つだった。
オットーは即座に知り得た情報を纏め、会食の際にどうにかして聞き出したロゼンダ個人の携帯電話のアドレスへメールを送った。
『
『相手は
『彼女の年齢からして、貴女は結婚する前から相手にされていなかったのだ』
これで、ひょっとすると彼女はこっちを向いてくれるかもしれない。もしかすると、空いた社長の椅子に自分が座れるかもしれない。彼にそんな淡い期待があったことは確かである。少なくとも、夫婦仲はとうに冷め切っており――――否、そもそも
そして。
「いいわ。デザートも食べ終わったし、詳しく話を聞かせて頂戴」
ここまで本当に長かった、とオットーはテーブルの下、見えないように強く拳を握り締め、自らの勝利を確信していた。長年かけて少しずつ“反デュノア派”の風潮を社内に流行らせる為のあらゆる情報収集及び操作の対価として“彼女たち”が提示した交換条件の為、
そして、何よりも、今。彼女が、真っ直ぐに、自分を見てくれている。
挟んで座るテーブル1つの距離が何とももどかしい。オフショルダーのワインレッドなドレスは、全く衰えを感じさせない彼女の白い肌を更に際立たせ、後ろで髪を緩く束ねることで惜しげもなく晒された首元の眩しさに、そっと拭う唇にひかれた淡いピンクのリップに、惹き込まれそうになる。企業同士のパーティにも同じような装いで赴くそうだが、納得しかない。こんな艶姿で迫られたなら、そりゃあ大抵の男は首を縦に振ってしまうことだろう。
ずっと、ずっと、機会を伺い続けた。報告の直後、社長が
実に15年以上にも渡る社長の
ポケットの中に忍ばせた小箱の蓋を、乾いた指先でそっと撫ぜる。そこに確かにあることを確かめる。そして、この後に待つであろう勝利を確信して、頭の中の台本をなぞりながら話を続けようとして。
「―――興味深い話をしているようだが、私も混ぜてもらって構わないかね?」
そんな。まさか。逆接ばかりが脳内を巡り、しかし鼓膜は確かに『この場で聞こえるはずのない声』を聞いたと物語っている。錆塗れの滑車のように、頭の中の不協和音を堪えながら振り向くと、そこには仄かに額に汗を滲ませた
「ハァイ、アル。ちょっぴり遅刻よ?」
「直通のエレベーターが無いのなら最初からそう言ってくれ。お陰で暫く迷ってしまったぞ」
「しゃ、社長、何故ここに」
「私が呼んだのよ。だって、『社の未来について大事なお話』なんでしょう? ……それで、続きは?」
その天使のような微笑みに、初めて恐怖を覚えた。そして、その背後に『暖かく降り注ぐ陽光』ではなく、『とぐろを巻いた蛇』を幻視した瞬間に、喉にキュッと締め上げられたような苦しさを覚えて呼吸は乱れ、背中には堰を切ったように滝のような冷や汗が流れ始めた。
いや、待て、まだ大丈夫だ、何なら直接この場で引導を渡してやればいい、そんな風に必死に自分を奮い立たせようとして。
「あぁ。最初に言っておくけれど、
「……は?」
「むしろ私からアルを焚き付けました。『生活環境をコソコソ調べさせるくらいなら直接支援してあげなさい』と」
「ロ、ロゼンダ様?」
「そもそもシャルロットのことなら、私はちゃんと認知してるし、今回の公表にもちゃんと関わってるの。まさか本当にアルが独断でやったと思ってたのかしら?」
「え、いや、そ、その」
「そりゃ複雑な気持ちはあるけれど、私たちの気持ちとあの子は無関係。この際だから教えておくけれど、世間が勝手に勘違いしているだけで、アルと私の仲は冷えてなどいません。むしろ今でも隠れて最低でも月に2度は熱烈に愛してもらっています」
「ウォッホンッ!!」
「あら。フフッ、ごめんなさい。……それで、貴方の言う『社の未来について大事な話』って、一体何かしら?」
完全に、思考が止まった。いきなり水底に引き摺り込まれたような息苦しさ。『自分が知る
ようやく、ここに来てようやく解った。『呼び出せた』んじゃない。『呼び出された』んだ、と。
「あら、だんまり? 折角私の貴重な時間を割いてあげてるのに。……それじゃあ、私たちが有意義に使わせてもらっていいかしら?」
そう言って、ロゼンダ様は指を組んで両肘をテーブルにつき、スゥッと目を細めた。それだけで高熱を出した時のような寒気が一気に襲い来る。そして、その隣。社長が懐から取り出した書類の束がテーブルに広げられた瞬間、その衝撃に眩暈すら覚えた。
「隠れて随分派手に買い物を楽しんでいたようだな、エスコバル。それも懐に入れず、
「あ、いや、その」
「お前がどのように認識しているか知らんが、今すぐに手を引け。いいか、
「――――ホラな? 保険かけといてよかったろ、次期社長」
背後、ユラリと立ち上がる気配がする。化粧の匂いが濃密で、普段なら近づきたくもない、幼少の頃より自分が他の何よりも忌避して止まない、濃密な“女”の気配。
「言ったろ? 女は生まれながらの役者なのさ。ましてやコイツァ世界相手にヒラヒラ飛び回る優雅な
「なんだね、君は」
「ドーモ、社長サン。アンタんとこはいい会社だったよ。金払いはいい。メシは美味い。福利厚生は手厚い。居心地最高だったぜ。……まぁ、お陰でアタシは退屈だったけどな」
「アル。彼女、カードキーの」
「ッ!! そうか、ザーゴくんのカードを使っていた1人かッ!!」
「へぇ、そこまで調べがついてるのかい。なら話は早いねぇ」
深紅のドレスを翻し、真っ赤なルージュの唇をニヤリと三日月のように歪ませ、その美貌に似つかわしくない下品さで嗤う女。私が大嫌いな女。
「ザーゴくんのカードキーをどうやって手に入れたッ!? 指紋や網膜認証をパスした方法はッ!?」
「あの
ベロリ、と長い舌を垂らして饒舌に語る“彼女”が自分の前に現れたのは8年ほど前。人事課からの書類を持ってきた時の彼女は、今の粗暴な立ち居振る舞いとは全く真逆の楚々とした落ち着きようで、当初は自分も盛大に勘違いをしていた。出会う順が違ったなら、“彼女”に恋焦がれていた自分がいたかもしれない、とすら思ったほどに。けれど、実際に自分に『取引』を持ち掛けてきた“彼女”は
「でも、エスコバル。これは、
「…………」
「沈黙は肯定ととるぜ? いやしかし、社長サンまで来てくれるとは嬉しい誤算だ。手間が省ける。面倒臭いのは嫌いだ。今のアタシは
「……クモのようだな、お前は」
「あぁそうさ。
どこからともなく取り出したナイフを、一呼吸もない内に社長の喉元に突き付ける“彼女”。しかし社長は微動だにせず、“彼女”へ睨みを利かせて続けていた。
「へぇ。ビビりもしないかい。余程の鈍感か、生きて帰れるとでも思っているのか」
「無論、後者だとも。孫の顔を見るまで死ぬ気はない」
「ハハッ!! 啖呵まで切るとはねッ!! いいね社長サンッ!! アンタを誤解してたよッ!! ……で?」
ツプ、と僅かに食い込んだナイフの切っ先が社長の首の皮膚を切る。それでも、その両目から光が消えることはなく、まるで何かを確信しているようで、ますますもって社長の意図が読めなかった。
「この状況から、どうやって、生きて帰れるってんだい?」
「それは――――」
「――――――このボクがッ!! 来たからさァッ!!」
「ア゛ァンッ!?」
店内に突如、腹の底に轟くような、ビリビリと窓ガラスを震わせるほどの大声。途端、“彼女”は振り向きながら逆手に持ったナイフをその声の主へ突き刺さんと思い切り振るう。しかし、その刃は。
「フ~ム。こんな安物でボクのトゥルットゥルのお肌に傷をつけられるとでも思ったのかい?」
まるで羽虫でも摘むかのように、太い親指と人差し指にガッチリと固定されていた。
そこに立っていたのは、筋肉だった。比喩でもなんでもなく、巨大な筋肉の塊。子どもの胴体ほどはありそうな逞しい二の腕。着ているスーツは大胸筋や僧帽筋で風船のようにパンパンに膨れ上がっており、今にもボタンがはじけ飛びそうである。軽々とナイフを摘まんでいる指でさえ、テニスラケットのグリップを彷彿させるような太さがあった。
そして、何よりも特徴的な、綺麗に2つに割れたアゴ。見覚えがあった。最近、
「ところで、お美しいレディ。お名前をお教えいただいてもよろしいかな?」
「ハッ。名前を訊く時は
「おやおや、このボクを知らないなんて遅れてるなァ。明日学校で笑いものにされちゃうぞォ?」
“彼女”が新たに取り出したナイフの一撃をヒラリと躱し、お互いに距離を取った。“彼女”はドレスの裾を引き裂き、機動力を確保しながら姿勢を低くして。そして、この筋骨隆々の大男は首を左右に揺らしゴキゴキ鳴らしながら、両の拳を握り締めて。
「栄光に輝くボクの名前はキャプテ――――じゃなかった、そう、
どうも、作者のGeorge Gregoryです。
ハイ、ツッコミは感想欄にどうぞ(笑)
登場シーンは某オールでマイトな人をイメージしていただけると。
ではここから、前回に引き続き没ネタ供養をば。
2、『HIGH SCHOOL dxb』:HIGH SCHOOL DxD×Xenoblade
「……どういうこと、お兄様」
「どうも何も、言った通りだよ」
リアス激怒した。必ず、かの邪知暴虐の魔王を排除せねばならぬと決意した。――――と、お遊びはこの辺にして。
駒王学園オカルト研究部部長にして悪魔一族"グレモリー家"の長女、リアス・グレモリーは、兄にして魔界に君臨する4人の魔王が1人、サーゼクス・ルシファーにしかめっ面で問い詰めていた。
「駒王町は私の領地です。なのに先日紛れ込んだ“はぐれ悪魔”の目撃情報を頼りに行ってみれば、既に討伐された後。これでは私の管理能力を疑われているとしか思えませんッ!!」
怒りの理由を端的に説明すれば「面子が建たない」と、そういうことだった。先日、転生悪魔として新しく迎えた少年と共に、悪魔についての説明も兼ねて息巻いて討伐に向かってみれば、そこには真っ二つに断ち切られた悪魔の死体と、その前で気を失っていた被害者らしき少女と、被った外套で素顔の確認できない、その怜悧さに寒気すら覚えるほど冷ややかな刀身の日本刀を携えた謎の男。『何者か』と尋ねれば、『詳しくはお前の兄に訊け』とだけ言い残して、引き留めるのも間に合わずに身を翻して駆け出し、咄嗟に速さに優れた自分の"騎士"に追いかけさせるも得られたのは「全く追い付けませんでした」と悔し気な報告のみ。面目を丸潰れにされた、と彼女は強く感じていた。だが。
「愛しい妹よ、勘違いをしてはいけない」
「なんですって?」
「“実質的に”だ。本当に君の領地、という訳ではない。そうだろう?」
「ッ」
兄の言葉に妹は歯噛みするように、一層眉を顰める。それは事実であった。長命の悪魔であるとはいえ、彼女は騙っているのではなく、本当に十代の学生であった。
「加えて、敢えて強く言われてもらうけれどね、リーア」
「何?」
「私から言わせれば、"侵入させた時点でアウト"だよ。私が"彼"を送り込まねば、少なくともまた1人、餌食になっていたのは間違いないだろう」
それはリアスの心臓を抉るように深く突き刺さった。サーゼクスの目が『兄』ではなく、完全に『魔王』の冷たさを帯びていたからだ。
「……あの男は何者なのですか」
「彼は私が重用している“悪魔殺し”の1人だ。立場上、放っておけない輩は多くてね。解るだろう?」
「ですがッ、あの男はッ」
それは、殆ど直感に近いものだった。強いて言うなら嗅覚に近い。あの"匂い"は、まず間違いなく。
「そう、人間さ」
「ただの人間が、悪魔を殺す手段など限られていますッ!! 神器持ちでさえ、簡単なことではありませんッ!!」
「彼はちょっと特別でね。ともすれば、彼なら神をも殺せるかもしれない」
「神、を?」
何とも荒唐無稽。しかし、兄の顔に冗談の気配はなく、リアスは全く揺らぎのないその言葉に微か、息を呑んだ。
「私も彼は怒らせたくないのでね、リーア。なるだけ彼との諍いは避けてくれたまえ。私からも彼の方には言っておく」
「……解りました」
不承不承、リアスは頷いた。
……同じく、気が乗ったらどこかで書くかもです。やはりこちらも、今回の内容と同じになるとは限りません悪しからず。
では、また近い内にお会い出来ることを願って。
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