ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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久し振りのTRPGがクッソ楽しかったけど、俺はどんなにぶっ飛んだキャラ演じても最後には苦労人ポジションさせられるんだな、と痛感した所存。やっぱGMがイチバン楽しいわ。



Be A My Child Ⅻ

「―――ここは?」

 

 目を覚ましてまずオットーは、見覚えのない天井に戸惑いを露わにした。

 

「ッ、アイタタタ……」

 

 どうやら気絶していたらしい。ズキズキと痛む腹部を摩りながら辺りを見回す。簡素ながら清潔感に溢れた寝具が並ぶこの部屋は、どうやらどこかのオフィスの仮眠室か何かのようだ。ゆっくりと身を起そうとして。

 

「お目覚めですか、オットー・エスコバル様」

「んナァッ!?」

 

 突如聞こえた声に、思わず大袈裟に反応してしまった。声の方へ振り向くと、両方の瞼を閉じたままの、艶やかな銀色の髪をした少女が、部屋の戸を開けて入って来るのが見えた。

 

「ふむ。瞳孔の開度、脈拍、呼吸、全て正常。極めて健康体ですね。念の為に体温の測定を。どうぞ」

「ムグッ!?」

「では、他に何か異常があるようでしたら、申し出て下さい。改めて診察の手筈を整えますので。それでは」

 

 暫くこちらを観察するようにした後、徐に自分の口に体温計を突っ込んで深々とお辞儀をし、部屋を去っていく。瞬間、ふわりと舞い上がった銀髪から柑橘系のような心地好い香りが鼻腔を擽り、その後ろ姿に暫し見惚れる。しかし。

 

「あの子は止めといた方がいいよォ? 漏れなくコワァ~イ()()()()がついてくるからねェ」

「ッ!?」

 

 背後を振り向いて、何故気付かなかったのか、と思うほどの巨大な筋肉の塊が腕組みをして壁にもたれかかっているのを見つけた。手に壁に繋がっている受話器を持っているのを見ると、自分が起きたのを彼女に告げたのは彼なのだろう。そこまで観察してようやく、目の前の男が気を失う寸前まで暴れ回っていた“筋肉ダルマ”だということを思い出し、咄嗟に先ほどまで自分にかけられていた布団に包まり、首を勢いよく回して改めて周囲を警戒するが。

 

「安心したまえ。真っ赤なルージュの()()()()()()()なら、ここにはいないさ。例え来ても、()()()()()。最高のセキュリティだよォ?」

 

 大仰に両腕を広げ自信たっぷりに語る口上には、しかし嘘の気配は微塵もなかった。

 

「ふわぁ~、あっふ。さて、キミも大丈夫そうだし、ボクはひと眠りするよ。後は()()()()()でお話ししたまえ。何かあったら起こしてチョーダイな……ZZZZZZZZZZ」

「早ッ」

 

 大きなアクビと共に伸びをしてベッドに潜り込んだ直後、直ぐ様寝息を立て始める。大口を開けてイビキを上げる様は、到底演技とは思えなかった。そして。

 

「寝つきの良さも一級品か。きっと起こそうとしても直ぐにパッチリ起きられるんでしょうね。優れた兵士の才能だわ」

「ロゼンダ、様」

「ハイ、エスコバル。アナタも寝起きがいいのね。羨ましい限り。とても、ね」

 

 颯爽と入室し、隣のベッドに腰かける想い人。アレだけの騒動に見舞われて尚、全く草臥れたり困惑している様子がないのは流石、長年想い続けた()()である。しかし。

 

「彼、相当ハードなスケジュールの合間を縫って来てくれたみたいよ? 明日の朝には撮影に戻らなきゃいけないんですって。流石、絶賛売り出し中の人気者よね」

 

 その、まるで手のかかる息子を見る様な慈愛に満ちた視線は、やはり自分の知る『ロゼンダ・デュノア』のものではない。今日は彼女の知らない顔ばかりを見せられる。「お前はまるで“彼女”を見ていなかったのだ」と思い知らされる。

 

「それに、こうも言ってたわ。『どんな悪党にだってやり直すチャンスは与えられるべきだ』」

「それ、は」

「『どん底に落ちてから銀河大統領になれたこのボクが言うんだ、間違いないさ』ですって。フフッ、過去の出演作にそういうのがあるんでしょうね。今度探してみようかしら」

 

 そう言って熟睡しているスティーブンソンから、ゆっくりと視線をこちらに戻す。その表情は、まるで。

 

何歳(いくつ)になっても慣れないわ。嫌なのよ、()()()()()。どっちが悪いわけでもないのに、必ず悪役が生まれるでしょう? でも、嘘は吐けない。吐いちゃいけない」

 

 彼女が枕元から手に取るのは、自分が用意していた小箱。中身は、自分があらゆる雑誌などから情報をかき集め、なけなしの知識を総動員して選んだ指輪。その小箱を、まるで赤ん坊を愛でる様な優しい手つきで撫でる。

 

「久しく忘れてたわ。ううん、意図的に避けてた、って方が正解かしらね」

 

 小箱を元の場所に戻し、再び視線をこちらへ。その表情は、すっかり自分のよく知る『ロゼンダ・デュノア』へと戻っていて。

 

()()()()()()。貴方の気持ちには応えられない」

「それ、は」

「どんな高価な贈り物よりも、彼に貰うおもちゃの指輪の方が嬉しいの。どんなに高級なレストランよりも、彼が庭で焼いてくれるちょっぴり焼き過ぎなBBQの方が美味しいの。私はもう、()()()()()()()()()のよ」

「そう、でシュか」

 

 それは、もう、全く勝ち目がないじゃあないか。

 

「気持ちは嬉しい。それは本当よ。でも、その為に貴方がしたことは決して許されることじゃあない。ともすれば死人が出ていた。貴方にその自覚があったにせよ、なかったにせよ、ね。"Reepor Weaving Industry(リイポラ機業)"とは()()()()()()なのよ。身に染みて理解したでしょう?」

「……ハイ」

「裁きを受けて、出直して来なさい。貴方のその『面の皮の厚さ』は買ってるの。中々いないのよ? そこまではっきりと公私を切り替えられる人は」

「…………ハイ」

 

 あぁ、何故にこうも涙が溢れてくるのだろう。どんなに苦しくとも、悔しくとも、こうまで泣いた覚えなど少年時代に遡ったって片手で数えるほどしかないというのに。

 

 彼女が静かに部屋を去っていく。遠ざかっていく滲んだワインレッドと、仄かに香る薔薇の香り。花言葉は『美貌』『情熱』『熱烈な恋』そして。

 

「ロゼンダ様……『あなたを、愛しています』」

 

 この日、Otto Escobar(オットー エスコバル)の初恋は終わったのだった。

 

 

 

 

 

 Great Clock Company本社ビル地上6階 研究室。Albert Dunois(アルベール デュノア)は困惑の表情で、目の前で会話する2人の間で目線を右往左往させていた。

 

「どうかな、ドクター」

「全然大丈夫。無問題(モーマンタイ)。折角だからさっき採取した細胞を培養して、新しく心臓を創っちゃおうと思うんだけど、どう?」

「本人の細胞なら、拒否反応も起こりようがない、か。体力の問題は?」

「そっちもOK。クーちゃんの力も借りることになるけど、いいかな?」

「あぁ、成程。()()使うのか。いいんじゃない?」

「ならヨユ~のよっちゃんイカだね~♪ 術後の経過観察は必要だけど」

「ウチと提携してる病院だと……あぁ、ここなんかいいんじゃないか?」

「ン~? 確かにこの中じゃ設備が充実してる方だけど、なんでここ?」

「メシがイチバン美味い。重要なことだ」

「アハハッ!! あっくんらしいね~」

 

 タクシーから降り、勝手知ったる我が家のようにズンズン奥へと入っていくスティーブンソン氏の後をついていくこと数分。通された小奇麗なオフィスにふんぞり返るようにして座っていた人物を見て、我が目を疑った。それはそうだろう。よもや世界中で指名手配されているIS開発者、篠ノ之束博士がこんなところにいるなんて、一体誰が想像できようか。

 

 しかも。しかもだ。その後を追うようにこのビルの屋上に着陸した"黒猫"――――正式名称は"黒豹"だと先ほど教えてもらったが、その中から現れたのが、まさか“彼”だなんて。この数日間だけでどれほど自分の度肝を抜けば気が済むのだ、この破天荒極まりないトンデモ技術者(Mechanic)は。

 

「治る、んですか? お医者さんには、『良くて五分五分』と言われたんですけど」

「ヘーキヘーキ。まぁ、機械と違って人体だからね。100%とは断言できないけど、限りなく近づけることはできるよ。まず間違いなく治せるね」

「少なくとも、ヨソで手術するより遥かに成功確率は上がるよ。心臓ごと交換だから、後遺症やらの心配もなし。むしろ今までよりずっと健康になるハズだ」

 

 隣で同じく2人の会話を聞いているアニーも、やはり信じられないと呆けたような表情をしている。40年近くに渡って彼女を苦しめ続けた病気が、こうも簡単に治ると言われたのだ。その反応も当然と言えた。

 

「一先ず、器官培養に2週間ってとこかな。その後なら、手術室の空きさえできればいつでも。どうする?」

「―――お願いします。直ぐにでも」

「了解。それじゃ、暫くこのオフィスで大人しくしてるように。仮眠室のベッドは自由に使っていいし、食事は毎日同じ時間に届けさせる。他に食べたいものがあるなら言ってくれれば手配するし、デリバリーを頼んでもいいけど、その時はキッチリ領収書とっとくように」

「とにかく外出は控えてね~。どこに目があるか解んないし。……もういっそウチで雇っちゃう? チョード事務員さん欲しかったとこだし」

「あぁ、いいね。本人さえ良ければ、どう? 会計事務職だからコアタイム制になるけど、基本的に固定給に資格手当がついて、有給日数と保険がこんなで……手取りの月給がこんな感じかな」

「……え? こんなに?」

 

 どこからともなく取り出されたパンフレットにサラサラっと書き込んだものを見て、アニーの目の色がガラッと変わる。横からそっと覗き見ると。

 

「オイ。これ、ウチよりよっぽどいいじゃないか。そんなに稼いでるのか、この会社は」

「ま、ね。取り敢えず、まずはちゃんと手術受けて治してからだ。時間はたっぷりあるからゆっくり考えてよ」

 

 ムムム、と真剣な表情で考え込むアニーの横顔は本当に記憶にある『あの頃』のままで、なんと言葉をかけたものかと躊躇ってしまう。

 

「で、アル」

「ッ。なんだ、カデンソン」

()()()()()()()?」

「……あぁ。十分だ。十分だとも」

 

 その真剣な表情にいつもの軽々な雰囲気はなく、自然とこちらも背筋が伸びる。

 

「んじゃ、後はそっちの仕事だ。会社に戻って残党を()()()()なり、メディアに全部ブチ撒けるなり、好きにするといいさ。あぁ、でも会見をやるなら日時はこっちに決めさせておくれよ。良いタイミングがあるからさ」

「……カデンソン」

「ん?」

「どうして、ここまでしてくれたんだ」

 

 そう、解らないのはそこだ。確かに自分は彼に助力を仰いだ。だが、まさか()()()()とは思っていなかった。精々が、自分たちがしくじった時の保険を、と思っていただけだったのに、彼は自分たちを取り巻く問題を根こそぎ掻っ攫っていってしまった。それこそまるでブルドーザーが瓦礫を撤去していくような爽快さすら覚える見事な手腕でもって。

 

「なに、大したことじゃないよ。……まぁ、強いて言うなら」

「強いて、言うなら?」

()()()()()()()()()、ってヤツさ」

 

 その、人差し指を口元に立てての悪戯っぽい微笑みに、暫し呆けたように口をぽかんと開けた後、自分もつられて童心に帰ったように、笑った。そんな自分たちを見て、篠ノ之博士とアニーが『男ってしょうがないなぁ』とでも言わんばかりの表情で苦笑しているのが横目に見えて、それで妙に恥ずかしくなって顔を背けようとすると『なに照れてんだよ』と彼に額を小突かれ、余計に恥ずかしくなって小突き返して、それがなんか可笑しく思えてきて、堪え切れなくてまた笑った。

 

 

 

 

「――――ってのが、丁度2週間前の話ね。で、ついさっきまでアニー・ミシェルさんの手術の真っ最中だったってワケ」

「手術は無事に成功。今はまだ麻酔が抜けきっておらず、ぐっすり眠っているみたいッスね……シャルロットさん? どうしたッスか?」

「あ、え、と、その」

 

 僕は今、夢を見ているんだろうか。軽く頬を抓ってみるけれど、じんじんとした痛みを感じるのだから、やっぱり夢じゃあないのだろう。

 

「そりゃ『100%じゃない』とは言ったけどさぁ、そんなにボロ泣きしなくても」

『仕方が、ないだろうッ!! 気になってしまうものはッ!!』

「相変わらず変なところで小心者だよなぁアルは。それに結構涙脆いしさぁ」

『う、うるさいッ!!』

 

 先ほどまでの、僕の知らない間に繰り広げられていた数週間の激闘もさながら、カデンソンさんとの少年のようなやりとりにムキになっている父の姿は、自分の知る『アルベール・デュノア』とはかけ離れていて、余りの温度差で風邪をひきそうなまである。

 

「で、今朝方の記者会見の反応はどうなのさ? 想定通りにいったのかい?」

『ズズッ……あぁ、全て説明した。オットー・エスコバルによる社の乗っ取り計画、隠蔽していた使途不明金の存在、それに賛同していた部下や幹部役員のリスト。暫く“デュノア社”の名がメディアから消えることはないだろうな』

「その辺は覚悟の上だったろ? 一緒に発表した()()についてはどうなのさ?」

『あぁ。お陰で我が社の株価が徐々に息を吹き返してきたよ。……狙ったのか?』

「まぁね。他の健全に働いてきた社員の皆さんは完全に()()()()()な訳だし、これくらいは。ってか、アルも少しは狙ってたんだろ? だからずっと伏せてたんじゃないのかい?」

『まぁ、な。お陰で、最悪の事態は免れそうだ』

「ヤバい時は連絡くれよ? 多少の働き口なら、こっちの伝手で斡旋できるからさ」

『あぁ。その時は頼む』

()()って……ん?」

「これッスよ、これ」

 

 話の途中に出てきた心当たりのない代名詞に首を傾げていると、膝の上のクランクさんが取り出したモニターに表示したものを指さしている。見てみると、今日の日付のフランスの新聞のようで。

 

「……渦中のデュノア社が新たなIS用後付武装(Package)を発表。あの"黒豹"ことAlister Kandenson氏との共同開は、ハァッ!?」

 

 その信じられない文字列に素っ頓狂な声を上げながら視線をやると、カデンソンさんが実に悪戯っぽい笑顔でこっちを横目に見ていた。視線を記事に戻して続きを読むと。

 

「発表された"Constructo Series(コンストラクトシリーズ)"は"Pistol"・"Bomb"・"Shotgun"の3種類。銃身や炸薬の種類、爆風の指向性等をパーツの組み合わせによって自在に切り替えることができる画期的なシステム。現行の機体全てとの互換性を持っており、リリース後も新たなパーツの開発を予定している……こんなの、いつの間に」

「実は学園のVRルームで使える武装にちょろっと紛れ込ませて、色んな生徒に感想を聞かせてもらってたんだよね~。お陰でデータはたっぷり集まってるのさ。後はひたすらトライアンドエラーの段階かな?」

『あぁ。開発チームの皆も、実に楽しそうに取り組んでいる。「こんな面白そうなこと考えてるならもっと早く混ぜろよ若旦那」と怒られたよ。……それと、シャルロットのことだが』

「ッ」

 

 そう聞こえた瞬間、心臓を掴まれたような苦しさを覚えた。そうだ。全てを明らかにした、ということは自分のことも明るみに出た筈。世界規模での悪質な詐欺を働いたのだ。決してタダでは済まない。そう、思っていたのだが。

 

『思っていた通り、殆どお咎めはなさそうだ』

「……へ?」

 

 思わず、間の抜けた声が漏れる。お咎めがない? まさか、そんな訳が。混乱した頭で視線を画面内の父とカデンソンさんの間でさ迷わせていると、カデンソンさんが膝に頬杖を突きながらこっちを見て、種明かしを始めた。

 

「ちょっと考えてみなよ。今回の作戦、最初から君に全部打ち明けてた方がもっとスムーズに事が運べたと思わない?」

「そ、れは」

 

 言われてみれば、確かにそうである。ならば何故、父は何も言わず僕1人だけを学園に送り込んだのか。思考の坩堝に落ちていく自分を見て、カデンソンさんは仕方がなさそうに溜息を1つ吐いて。

 

「理由は単純。君を『巻き込まれた被害者』にする為さ」

「ひ、がい、しゃ?」

「まぁかなり強引なロジックではあるけどね……要するに、君に『汚い大人同士の争いに巻き込まれた悲劇の少女』っていう、いかにも世論の注目を集めるレッテルを貼りたかったのさ。例え法が許さない結果になろうとも、世間がそれを許さない。そんな風潮を生み出すため。いかにも親馬鹿なアルが考えそうなことだよ」

『うるさい』

「…………」

 

 親馬鹿? 親、馬鹿? この人が? 自分の抱く『アルベール・デュノア』の人間像にまるで似合わない評価に処理が追い付かず、完全に頭がフリーズする。

 

「ついでに言っちゃうけど、どうして君が今まで一切メディアに露出しないままだったのか、理由知ってる?」

『お、オイッ!! カデンソンッ!!』

「それ、は、僕がISに乗ってたいって」

「本当にそれだけだと思ってる? 今や企業所属の代表候補生ってのは実質的な『看板』だよ? 看板を表に出さない店なんてある? ……まぁ、ウチのクロエは事情があって出来ないんだけどさ」

『嘘を吐けッ!! お前も同じ理由だろうがッ!!』

「ほぉ~? 前に話した時は否定してたけど、やっぱりそうなんだ?」

『ガッ、き、貴様ッ』

 

 それが話題に上がった途端、焦ったように食いついてくる父に、実に悪戯っぽい笑顔を見せるカデンソンさん。ゆっくりとこちらに身を乗り出してきて、誰に聞かれる訳でもないのに、内緒話をするように口元を手で隠しながら小さく呟いたそれは。

 

「見せたくなかったのさ。シャルロット・デュノア、君をね」

「……はい?」

「アルはね。君が目に入れても痛くないくらい、可愛くて可愛くて仕方がないのさ。『看板』である君を衆目の目に晒して、罷り間違って“悪い虫”なんてつこうものなら発狂してしまうんじゃないか、なんて心配になるくらいに溺愛してるんだよ」

『カデンソォオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!』

「だから君の"RRCⅡ(専用機)"の開発チームには自分の信頼してる古参の技術者しかいないし、普段君と接するスタッフも殆ど女性で固めてたんだよね。心当たりない?」

「……そう、言われると」

 

 トレーニングスタッフも、書類を提出する事務員も、何なら自分が普段利用する階層の社員でさえも殆ど男性の社員を見た覚えがない。え、まさか、本当なのか。携帯の画面に顔を向けると、耳まで真っ赤にして俯いている威厳のかけらもない父の姿。

 

「もうそろそろ解ったろう、シャルロット・デュノア」

 

 最早、情報の激流に溺れる寸前の僕は完全に呆然自失といった状態でカデンソンさんを見て。

 

「君はもう、1人で頑張らなくていいんだ」

 

 ぽふぽふ、と頭に大きな掌が優しく乗せられる。じんわりと伝わる体温と、角張ってごつごつした皮膚の感触。それが、もうトドメになって。

 

「あ」

「アニーさんの病気はこれで治った。もう再発の心配もないし、快復した後はGGCへ就職するとさ。多分起きたら本人から電話が来ると思うよ……ぶっちゃけ、今の倍以上は稼げるようになるから資金的な面での問題もなくなる」

「ああ」

「アルとは、これから幾らでも時間をかけて好きな関係を築けばいい。もう解ったろ? コイツがどれだけ君を愛しているのかは。というかね、娘が可愛くない父親はいないよ。同じ娘がいる父親のオイラが保証する」

「ああああ」

「そもそも学園にいる間、政府はどう足掻いたところで君に手出しは出来ないしね。多少強引な手に出たところで、オイラたちが守る。君は何の気兼ねもなく、学生生活を送ってくれればそれでいい」

「ああああああああ」

「……今まで、本当にお疲れ様」

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」

 

 本当に久し振りに、大声を上げて、僕は泣いた。

 

 

 

 

 泣きに泣いて、ようやく涙も引っ込み始めた頃。

 

『ところで、カデンソン』

「ん? 何さ、アル」

『我々を救ってくれたことには感謝している。だが、シャルロットに手を出したらその時は、地の果てまででも追いかけて必ず仕留めるからな』

「んな物騒な。安心しろって。自分の娘と同年代の子に手を出すような真似をする訳がないだろ」

 

 クランクさんに差し出されたハンカチを使って顔を拭いながら、画面越しに相変わらず友だち同士のような気の置けないやりとりをしている2人を見る。じぃっと目を細めて強い語気で言い含めるようにする父と、呆れ果てたように両の掌を上に向けて『お手上げ』なポーズで言うカデンソンさんを見て。

 

「……ないんですか?」

「『えっ』」

 

 思わずそう溢してしまって、咄嗟に泣き腫らしとは違う理由で赤らめた顔を伏せる。

 

『カ~デ~ン~ソ~ン~……?』

「あ~……もしもし~、ガーッ、電波が、ガーッ、悪いみたいで~、ガガーッ!!」

『カメラ通話だぞッ!! こっちからも見えとるんだッ!! おいカデンソン、お前シャルロットに何k』

『アルッ!! アルベールッ!! 聞いて頂戴ッ!!』

『ムワッ!? ロ、ロジーッ、一体何g』

『さっき、博士から、私、私、子どもを産めるようになるかもしれないってッ!!』

『何だと!?』

 

 途端、烈火の如く怒り始めた父さんに、カデンソンさんがノイズの声真似を混ぜた小芝居をしながら通話を切ろうとした瞬間、父さんの背後から猛烈な勢いで抱き着いてきたロゼンダさんが息も整わないままにそう言った。

 

『時間はかかるけど、私の体質を改善できるかもしれないって、私、私、貴方との子どもを――――嗚呼ッ、シャルロットッ、そこにいるのねッ!?』

「は、はい、副社長」

『今まですげなくしてしまって御免なさいッ!! あなたは何も悪くないのに、どうしても自分の体質のせいで複雑な思いがあって、あなたをずっと避けてしまっていたのッ!! 本当に御免なさいッ!!』

「いえ、その、僕のほうこそ、距離を取ってしまっていて」

『ロジー、ロジー、首から、手を』

『あ、あら、御免なさい。つい、興奮しちゃって』

 

 画面から外れゲホゲホと噎せるようにして呼吸を整えている父さんをヨソに、今度はロゼンダさんが若干乱れた髪や服を整えながら咳払いをする。

 

『今度、日本へ出張がある時は連絡するわ。一緒に食事に行きましょう。あなたのドレスも選ばなきゃね。あぁ、やらなきゃいけないことが山のようだわ』

「そんな、僕、副社長にそんな時間を使わせる訳には」

『いいえ、させて頂戴。私に、()()()()()()()使()()()()()()な』

「あ……はい」

 

 その綺麗な微笑みを見て、断れる訳がなかった。成程、学生時代からこうだったなら、さぞかしモテたことだろう。

 

『本当なら敬語も要らないのだけれど、流石に急すぎるわよね。これから時間をかけて、仲良くなりましょう?』

「はい。あ、いや、えっと……うん」

『上出来ッ。それじゃ、またこっちから連絡するわね。ホラ、アル。まだまだ仕事が山積みなんだから、早く戻って頂戴。暫くまともに休める暇はないわよ?』

『いや、ま、待てロジー、カデンソンッ、おいッ、カデンソンッ、お前シャルロットに何かしたr』

 

 そこで唐突に通話は切れた。最後、首根っこを掴まれ引きずられていく父さんの姿には最早、僕が抱いていた『アルベール・デュノア』の姿は微塵もなくて、そこでようやく、僕は穏やかに微笑むことが出来た。

 

「ったく。ホント娘のことになると沸点低いんだから」

「相棒も、人のことは言えないッスよ?」

「ゲッ、マジ? ……まぁ、否定はしないけどさ」

 

 クランクさんの言葉にどこか気まずそうに返すカデンソンさんの顔は、目に見えて困ったような顔で気まずそうに後頭部を掻くようにする。と。

 

「……これ、何の騒ぎですか?」

「お、更識。お使いご苦労様。ちゃんと買えた?」

「買えましたよ。いきなりなんですか、こんな時間にお菓子が食べたい、とか言い出して。しかもこんな細かい注文までして」

 

 いつの間にかガレージルームに入ってきていた薄い水色の髪の女生徒。確かこの学園の生徒会長だったと記憶している。彼女は呆れたような顔でどこかの洋菓子店の紙箱を差し出して、カデンソンさんは嬉々としてそれを受け取った。

 

「よく知ってましたね、そんな珍しいお菓子置いてあるお店」

「調べておいたからね、国内でも食べられるとこ。こればっかりは今日でないと、意味がなくてさ」

 

 そう言って、紙箱を開いてベンチの上に。タルトのように並んだビスキュイ生地の上にたっぷりと盛られたチョコレートのムース。添えられたプラスチックのナイフで切り分けると現れた断面、そのチョコムースの底に敷き詰められているのは洋梨のようで。

 

 それを見た瞬間、解った。解ってしまった。

 

「カデンソンさん、これって」

「そう。君の父さんと母さんの“思い出の味”。チョコレートと洋梨のCharlotte(シャルロット)。……な? 食べるなら今日、だろ?」

「……ハイッ!!」

 

 差し出された1ピースに、ちょっぴり行儀が悪いけれど、そのまま齧り付く。チョコムースの優しい甘味が、仄かな洋梨の酸味に綺麗に洗い流されていく。これは、幾らでも食べられそうだった。

 

「美味しいです。すっごく」

「だろう? ほら、更識も食べなって」

「んもぅ、あんまり夜遅くになってからのスイーツは控えてるんですけど……あら、美味しいですね。梨ってちょっと意外なチョイスだと思ってましたけど」

「オイラはすっかりこれがお気に入りでね……ホラ、そこの君もどうだい?」

 

 突然、カデンソンさんはどこか自分たちのいない方を見て声をかけた。僕たちが釣られて視線をやると、そっちは丁度、このガレージルームの入口の方で。

 

「カデンソン、さん?」

「誰に声かけたんですか? まさか、“見える”タイプの人だったんですか、先生」

「違うって。え、気付いていないの? デュノアさんは兎も角、更識も?」

「……私、今入ってくる時、誰とも擦れ違いませんでしたよ?」

「あら、そう。それじゃあ」

 

 そう言って、カデンソンさんは確信に満ちた表情で、徐に途轍もない速さで駆け出した。そこで初めて、ガレージルームの外から物音がして、本当に誰かいたのか、と僕たちは揃って驚いた。

 

 そして。

 

「ハイ。捕まえた」

「ひゃうッ!?」

「まぁ、昼夜問わずここに入り浸るくらいでないと気付けないようなスペースとか、山ほどあるからね。でも、この子に更識が気付けないのはちょっと意外だったなぁ。それとも、こっちが腕を上げたのかな?」

 

 カデンソンさんに、摘まみ上げられた野良猫のようにして連行されてきた顔を見て、生徒会長は顔色を変えた。

 

「―――簪ちゃんッ!?」

「ご、御免なさい先生。その、整備に夢中になってたら遅くなっちゃって、寮の先生にどう言い訳しようか考えてたら、デュノアさんがここに入っていくのが見えて……」

「気になって隠れて聞き耳立ててた、と。『好奇心猫を殺す』って聞いたことないのかな。まぁ、お姉さんのレーダーに引っかからなかったのは確かな成長だ。誇っていいと思うぞ?」

「そ、そうですか?……えへへ」

 

 顔立ちや髪の色からして親族なのは間違いない。目立つ違いと言えば、制服のリボンの色(僕と同じってことは1年生)と、かけている赤いフレームの眼鏡。後は、その、胸のサイズくらいだろうか。どうやら彼女は生徒会長の妹さんらしい。カデンソンさんのズレた誉め言葉に随分と嬉しそうに微笑んでおり、対して僕の隣で生徒会長は『嘘、嘘よ、私が簪ちゃんの気配を、嘘よぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』とこの世の終わりのような表情で絶望している。え、なんで?

 

「とはいえ、だ。盗み聞きは褒められたものじゃあないなぁ。それも今回は内容が内容だ。場合によっては、口封じされてもおかしくなかった。そこんとこ解ってる?」

「ハ、ハイ、御免なさい」

「ちゃんと反省してる?」

「も、勿論ですッ!! ここで聞いたことは誰にも言いませんッ!!」

「ン~、信じられないナァ~?」

「……カデンソンさん?」

 

 その棒読みは、一体どういう積りなんですか? 簪、と呼ばれていた女の子は真に受けたようでオロオロとしているけれど、明らかに真面目に言っている感じじゃない。傍から見ても『面白がっている』のが解る。そして、カデンソンさんはニヤリと嫌らしい笑みを浮かべて。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、協力してもらっちゃおうかなァ? ()()()、ね」

 

 その顔にちょっとドキッとしてしまう辺り、僕はもうダメなんじゃないかな、なんてズレたことを考えていたのは、ここだけの秘密だ。

 

 

 

 

 

 




 補足説明

・“コンストラクトシリーズ(Constructo Series)”(出典『FUTURE2』)
 作中に出てきた通り、ピストル・ボムグラブ・ショットガンの3種類が存在。パーツを組み替えることで性能を自由に変更できるばかりか、カラーパレットによって配色も自在。さぁ、これでアナタも自分だけの武器を創ろうッ!!


 どうも、作者のGeorge Gregoryです。

 “梨”の花言葉。『慰め』『癒し』そして『愛情』。えぇ、このタイミングで書いたことに深い意味はありませんよ。ありませんとも。


 くぅ~疲れましたw これにて完結です!
 







 …………冗談ですよ。冗談ですからその銃火器を下げて。ね? 下げなさいってばよ。

 改めまして、大分駆け足気味になりましたが、これにて『Be A My Child』並びに『Ratchet & Clank:Infinity Sphere』の第1章を〆させて頂きます。

 ここからは暫く臨海学校編までの小エピソードを幾つか挟み、いよいよ本格的にISサイドの『覚醒イベント』かな、と。今後ともダラダラと気ままに書き続けますので、どうぞお付き合い下さいませ。

 では、また近い内にお会い出来ることを願って。

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