前回の戦闘でキャスターが敗走し、アサシンが脱落した。しかし、キャスター、アサシンのマスターは今だ判明しておらず依然危険は残り続けている。そして、何よりも注意すべきなのはアーチャー。大英雄ヘラクレスであり、そのスペックは例え2対1という戦況であっても十分に優位に戦いを進める程だ。前回はマスターのあるイリヤが眠ってしまったために引いただけであり、次に闘う事があればアーチャーは全力で戦うだろう。今まで負けた事は無いが、不安でため息が出る。しかし、勝機が無い訳ではない。ビッグボディにはまだ隠してある宝具がある。しかし、本人の話では特別な状況下で無いと使えないらしく、使うあても無いらしい。そして、自らを悪魔超人と名乗る二人組だ。ブラックホールと名乗る穴あき男は、アーチャー戦で奴の宝具を受けながらも平然としている。恐らくあの顔の穴に秘密があるのだろう。そして、ステカセキング。古い。ただこれだけだ。今どきカセットなんてリサイクルショップにも並ばない。しかし、アイツの足から流れる音楽で魔術回路の塊であるイリヤの意識を沈めた。色々と難儀な奴ではあるが無能ではないようだ。
ズズズとほうじ茶を啜ってまったりとした空間を楽しむ。家がビッグボディによって壊され、泣く泣く衛宮家に居候させてもらっているが、お茶の間というのは心が安らぐ。日本人の血が、この空間に馴染んでいる。ほうじ茶をもう一啜り。そこで衛宮家の道場から爆音がする。道場では、士郎がビッグボディにプロレスを教わっている。おそらくバックドロップでも喰らったのだろう。体だけは丈夫な士郎なら大丈夫だろう。
「なん・・・で・・・さ」
道場の板の間では士郎が地面から生えていた。強烈なジャーマンを食らいその衝撃で床を貫通した訳だ。相手はブラックホール。変幻自在のトリックスターであり、影に入り込めたり、影を分散して分身を作る事も出来る。四次元レスリングと評されるブラックホールの戦法である。
「ケケ、ブラックホール。素人相手に無茶すんなよ」
ステカセキングは自分の体をめん棒で掃除しながら釘をさす。
「この小僧の超人強度を知っておきたかったんでな。しかし、やはり人間。強度は良くて300と言った所だろう。しかし、魔術があるのならあまりあてにはならんな」
「さすが悪魔超人の参謀。さて、今度は俺様が付き合ってやるぜ。頭出しな、兄ちゃん」
士郎の体を引っ張り抜く。そして、士郎が無事なのを確認するとそのままスパーリングに入った。しかし、やわらかいリングならスープレックスが撃てるが、ここは板。ステカセは少しだけ優しさを見せる。
「おら兄ちゃん。胴がガラ空きだぜぇ~」
士郎の体を持ち上げ、士郎の足と足の間に膝を構え落とす。どこかでキーンと鐘の音が鳴り士郎は股間を抑えてうずくまってしまった。
「ありゃ?力加減間違えたか?」
「お前やスプリングマンじゃないんだ。男には急所がある」
士郎の失神KOでスパーリングは幕を閉じた。
「いい事、今日は街の巡回なんだから面倒起こさないでよ」
深夜2時を回り凛達一行は衛宮邸の前にいた。既に巡回に何度か付き合っているビッグボディは何も言わないが、初参加のブラックホールとステカセキングは大あくびをしていた。
「ふああ・・・俺は眠いんだよ。さっさと三人で行っちまいな」
「ステカセ、眠いのは凛やビッグボディも一緒だ。私も眠い。しかし、凛は聞いた話ではこの地のオーナーなのだろう?巡回は当然の義務だ」
「だからって俺を巻き込むなよ」
「仕方ない今度キン肉マンの36巻かしてやる」
「それなら話は別だ」
そんな小芝居を終えてやっと凛達は巡回を開始する。
凛とビッグボディは市街地をブラックホールとステカセが住宅地をそれぞれ巡回する。凛達は真面目にやっていたが、悪魔の二人が真面目にする訳なく半分遊びながら見回りをしていた。
「古今東西、悪魔六騎士のダサい所~」
「スニゲーターの技」
「ジャンクマンの技」
「プラネットマンの必要性」
「全敗のザ・ニンジャ」
「アシュラマンの素顔」
「タイルマンと見た目が被ってるサンシャイン」
「あとは・・・・こんなもんか」
二人がゲームをしていると、路地裏からかすかに物音がする。何かを啜る音。二人の足が止まり音のする路地裏を見る。
「俺が行くぜ。周囲の警戒、怠るなよ」
「まかせろ」
ブラックホールが塀を足場に建物の屋根に上るのを確認してステカセは路地裏に突入する。ステカセの予感していた通りそこには異常な空間が広がっていた。頬を赤らめて恍惚の表情を浮かべる少女とその少女の首筋に噛みつき血を啜る妖艶な美女がいた。
「・・・・おや。奇妙な所で奇妙な人物と会いますね」
「てめえ、何してやがった」
「答える義務はありません。死んでください」
女が少女から離れると同時に、鎖に繋がれた杭が飛んでくる。紙一重でそれをかわすと上から女の蹴りが放たれる。反応できなかったステカセは蹴りを顔面で受ける。衝撃で意識が一瞬飛びかけ体がふらふらする。追い打ちにステカセの心臓付近に女の杭が飛んでくる。ステカセは背中のランドセルに手を伸ばし、ランドセルの中からカセットテープを取り出し、体のレコーダーに差し込み再生する。素早い身のこなしで杭をかわし、打って変わってまだ空中にいる女に強烈な蹴りを放つ。しかし、女もぎりぎりの所で身をよじってかわし二人は着地する。
「いきなり雰囲気が変わりましたね。何をしたんです」
「俺は百の顔をもつ超人だ」
ステカセはテープを入れ替え再生する。
「超人大全集第19巻 ジェロニモ。アパッチの雄叫び!」
路地裏全体に超音波のような雄叫びが轟く。衝撃で周りの塀がひび割れ、あまりの暴音に女は思わず耳を塞いだ。しかし、それが大きなスキとなった。女の頭にステカセが飛び乗りイヤホンである足で女の耳を塞ぐ。
「そんなに今の音楽は気に入らなかったか。なら白鳥の美しい調べを聞かせてやろう。地獄のシンフォニー!」
ステカセの足から100万ホーンの白鳥の湖が流れる。
「ケケケ、芸術的に死ねるんだ。本望だろう?」
そのまま行けばステカセの勝利だった。しかし、ここで思わぬハプニングが起こる。上で見回りをしていたブラックホールが降りて来たのだ。一瞬謎に思うステカセだったがすぐにその理由を知る。
「雑種以下の玩具の分際で芸術を分かったつもりか?甚だしい」
空に黄金に輝く英雄が鎮座していた。黄金の船の上に立っている男は不愉快そうにステカセを見降ろしていた。
「ケ、ケケ」
乾いた笑い声だけが響き地獄のシンフォニーが中断し女は一目散に逃げ出す。それを黄金の男は見るだけで特別意に介さなかった。それよりも問題は目の前にあった。
「玩具。貴様、人に遊ばれる存在でありながら人を愚弄するか。良いだろう、我が遊んでやろう。たっぷりと、その身で、芸術が如何に尊い物であるか教えてやろう」
男がそう言うと背後の空間が歪みそこから無数の装飾された刀剣が現れる。
「文字通り、その体に刻みこんでやろう。感謝するがいい」
そして、無数の刀剣はステカセ目掛け飛来する。最初は避ける事が出来たが、第二射は倍以上の密度で撃たれ、避けるスペースなど無くなった。
「吸引ブラックホール」
ブラックホールの顔面の穴にブラックホールが現れ、飛来する刀剣を全て吸引する。
「・・・・・貴様。何をしたのか分かっているのか。我の財宝を盗んだのならば、肉片一つ残らず消し去ってくれる!!」
男が手をかざすとそこに真っ赤な刀剣の様なものが握られていた。
「許さん!もはや贖罪もいらぬ!消し飛べ!!」
そして、そこから巨大な渦が発生し二人を飲み込もうとしていた。