とある科学の劣化魔導   作:fukayu

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偏光能力

とある立入禁止の廃ビルの中

 

取り壊し予定のビルの中を荒い呼吸をしながら走り回る少女がいた。

ツインテールのジャッジメント白井黒子は現在追われていた。

幻想御手の取引現場らしきところで友人の佐天涙子を発見し、それを助けるため三人組のスキルアウトを取り押さえようとしたところまではよかったのだが、二人を軽く圧倒した後最後の一人というところでその一人の予想外の能力により自身の空間転移(テレポート)の能力が通用せず、この廃ビルまで追い込まれていた。

 

一応こちらもただ黙って逃げているわけではなく、策を講じているのだがそれが完成するまではまだ少しかかる。

 

「言っておくがな隠れ場所なんて気の利いた場所はここにはないぜ。せいぜいお得意の能力で逃げ回るんだな。何なら携帯でほかの奴に助けを呼んでもいいんだぜ?」

 

曲がり角の向こうから相手の声が聞こえてくる。

白井は空間転移で上へと跳ぶ。

 

幸い相手は遊んでいるのか、こちらを一気に攻撃はしてこない。それどころかまるでこちらが誰かに助けるのを待っているかのように執拗に十重をかけてくる。

 

(助けを呼ばれたら不利なのは向こうですのに、いったい何を考えて?)

 

そんなことを考えながら曲がり角に差し掛かる。

 

「みーつけた!」

 

「え……」

 

横合いから突然の衝撃に体が吹き飛ぶ。

 

「な、なぜ!?」

 

「お前はテレポートで逃げて安心しているかもしれないけどよ。このビルは俺らの吹き溜まりで隅々まで熟知してるんだよ」

 

そう言いながらこちらに近づいてくる男。

 

(ま、まだ仕掛けは未完成。このままでは)

 

焦る白井黒子だが、一向に攻撃は来ない。

 

「?」

 

「いいぜ、連絡しても。わたくしはボロボロにやられてしまいました。助けてくださいってな!」

 

男は下品にげらげらと笑いながら黒子に携帯を使わせようとしている。

完全に舐められていると屈辱に震えながら黒子は問いかける。

 

「いったいどういうつもりですの?」

 

「どういうつもりも何も早くお知り合いに助けを求めろって言ってんだよ。風紀委員第一七七支部の白木黒子ちゃんよう?」

 

(こいつ私のことを知って!?なら狙いはお姉さま!?)

 

心当たりは一つしかない黒子のお姉さまである御坂美琴ならこのようなスキルアウトの恨みを買うことも珍しくもないだろう。何故なら学園都市に七人しかいない超能力者というのはそれだけで目立つものだから。

黒子は答えてもらえないことを承知で相手の目的を聞き出そうとする。

 

「一体、お姉…様に何の用…ですの?」

 

先ほど蹴られた脇腹が痛む。それに堪えながら絞り出した声は相手の声にかき消される。

 

「あん?お姉さま?……ぷっくっく。違う違うそっちじゃなくて――あ、もしかしてお前知らねえの?」

 

まるで見当違いの回答に男は堪え切れないといったようで笑い出す。

そして、

 

「最近俺らの周りで広がってる噂を」

 

そういった男の顔を見て黒子は背筋が凍った気がした。

まるで自分を仮のエサとしか見ていない目、そしてそのとてもまともな人間とは思えない表情に。

 

「お前劣能力者(マイナス)って知ってるか?」

 

なぜそこでその名が……いや待てこの流れはまずい。

 

「知ってるよなあ。最近お前んとこを出入りしてるもんなあ。こっちから支部を襲撃してもよかったんだがやっぱ準備のできたこのビルの方が殺り易いだろ?」

 

「な、何を?」

 

「これは罠なんだよ。お前が助けたあの豚も脅して芝居を打たせたんだ。まあ、あのガキは予想外だったが、お前さえ釣れればどうにでもってなあ?」

 

黒子は思い出す。先日会った自身を劣能力者(マイナス)と呼ぶ高校生を。デスクワークの多い初春と組ませてあまり外に出ないようにさせていたあの少年を。

彼はいくら協力者と言っても風紀委員でもない一般人だ。危険に巻き込むわけにはいかない。

 

「一体あの殿方に何の恨みが…」

 

「ああ?恨み?そんなのねえよ」

 

じゃあなぜ?

 

「ただ、あいつを殺せば報酬としてもっと強力な幻想御手が手に入るって噂があるんだよ!」

 

「な、殺す?何の恨みもない人を?あなた正気ですの?」

 

信じられなかった。高々能力の強度のために人を殺そうとする人間がいるなど。

 

「当たり前だろ、普通の奴でここまで強度が上がるんだ。これ以上なら超能力者にだってなれるかも知れねえ!そのためなら、人間の一人や二人。第一あいつは無能力者より低い劣能力者(マイナス)だぜ?そんな奴殺しても問題ねえだろ?」

 

これがこの町の歪み。元々大能力者で周りも高位能力者ばかりの白井黒子の知らない学園都市のもう一つの顔。

自身の能力のためなら他人ましてや何の能力もない無能力者やそれ以下の劣能力者(マイナス)の命などどうでもいいというエゴの塊。

 

「あなたは!」

 

「うるせえなあ、もうちょいボコッておくか。心配すんなお前は殺さねえよ。半殺しにして、能力者を憎んでいる奴らに売りつけてやるからよ」

 

そういって男は倒れて動けない白井黒子の首をつかみ、持ち上げる。

 

「あ、があああ!!」

 

息ができない。苦しい。そしてそんな事よりも……先ほどから感じているこの『ノイズ』は…

そして、男の後ろに見える少年のあの姿は……間違いない秋瀬七実――目の前の男が自分を使っておびき寄せようとしている人間だ。

幸い男は自分の方を向いていてノイズにも秋瀬七実にも気づいていない。

 

(今ならまだ間に合う。合図を送って秋瀬さんを逃がさなければ……)

 

太ももに残った自らの武器である鉄矢に手を当て、どうにか秋瀬七実の元に跳ばそうとする。

しかし、

 

(え、演算ができない!?)

 

元々自分の能力である空間転移は複雑な演算を要するため、集中力を欠いた状態では使えない。しかしこれは自分や大きなものを動かす時で、今のようなあまり正確でなくてもよく、さらに鉄矢のような軽量のものなら跳ばせる自信があった。

しかし今は、

 

(演算そのものができない!?もしやこれが秋瀬さんの!?)

 

その時、ビル中とはいかないが1フロアなら易々と響く声で彼は言った。

 

「おいソコの薬中。風紀委員(ジャッジメント)だ。盛大にお縄に付け~い!」

 

シリアスな雰囲気を軽く壊すような声で、右腕につけた盾を模した腕章を左手で見せ付けながら彼は笑っていた。

 

意識が途切れる寸前で黒子は男の腕から解放される。

そして、朦朧とした意識の中彼女は少年が叫ぶ直前、少年には届かない声で、

 

「助けて」

 

助けを求めていたのに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は黒子サイド。あと5話ほどで幻想御手編は終わりです。多分
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