「おいソコの薬中。
俺は目の前の白井黒子の首を絞める男(ちらっと見たけどあれ絶対普通の人じゃないね!薬中だね!)に向かって声を張り上げる。薬中に言ってもしょうがないが、女子中学生に向かってあれは流石にやりすぎだね。殺す気かっての!
若干話を聞くか心配だったが、男はおとなしく白井黒子を壁に放り投げこちらを向き直る。
「お前が劣能力者か?」
それを見て俺は心の中でガッツポーズをとる。
やっぱ花飾りから必要だからって無理やり、腕章借りてきてよかったな。やっぱこれ自分が着けないと効果無いんだよ。
(つーか、投げるなら普通こっちだろ。ま、重くてキャッチ出来ないからよけるけど。)
秋瀬七実にとって、怪我人だろうと何だろうと生きている限りはというか、戦闘中は優しくしないのである。
本人は知らないとはいえ、自分を逃がそうとしてくれた人間に対してあんまりな言い方だが、それこそ秋瀬七実それこそ学園都市ほぼ唯一にして最低の劣能力者の異名を持つ、
「そうだよ。俺が
男は標的が現れたことで白井黒子のことなど忘れたように秋瀬七実に向かっていった。
白井黒子は解放されたことで失った空気を必死に取り戻しながら、その二人を見つめていた。
男はまだノイズには気づいていない。そしてそのノイズが白井黒子の空間転移が使えなくなるほど濃いことにも。
「てめえを殺せば俺も超能力者だ!」
男の鋭い蹴りが秋瀬七実に迫る。
「ノイズで遠くからじゃよく聞き取れなかったけど、そういう話だったの?じゃあ本命は最初からこの俺だったわけね」
そういいながら秋瀬七実は蹴りを後ろに躱す。
(やはり能力の演算が出来ていない。これなら秋瀬さんでも――)
そう、あの男の厄介なところは光の屈折により自身の体を全く別のところにあると錯覚させるその能力。そのせいで黒子の攻撃はすべて躱され、防御しても全く見当違いのところから攻撃が来たのだ。
黒子自身の口から秋瀬七実に教えてあげたいが、先ほどの影響で喉から声が出ない。
しかし、伝えられなくても現状ここにいる人間は秋瀬七実以外すべて能力が使えないも同然。一般人にこんな役目を押し付けるのは風紀委員として失格だが、それでも今は彼がこの男を倒してくれるのを祈る事しか出きない。
(どうか頑張って下さい。秋瀬さん)
その数瞬後、黒子の目の前には男の蹴りをまるで別の位置からくるものと予測して躱した筈という顔で受けて倒れる秋瀬七実の姿があった。
「あ、がっ!!」
腹に思いっきり蹴りが入る。完全な不意打ち。いや、確かに俺は来た攻撃を完全に躱した筈だ。
「な、なんで蹴りを交わしたすぐ後に同じ方向から蹴りが来るんだよ!」
意味が分からない。そんな俺をあざ笑うかのように男はもう一度蹴りを放ち上体の崩れた俺を蹴り飛ばす。
「カッカカ。やっぱ混乱するよなあ。確かお前の能力はノイズだかを出して他の奴の能力を無効にするんだっけ?」
こいつ俺の能力を知ってたのか。細かいとこは違うが(なんだよ無効化って、そんなんあったら最強だろうが)、言ってることは大体あってる。
「でもなあ、『効かねえよ』俺たちには。」
(俺たち?)
男は意気揚々と言った感じで俺に近づいてくる。
「やっぱ形振り構ってられねえか。」
俺は常に着けていてすっかり忘れてしまうグローブを外す。
これで、
「おっとあぶねえ。お前の素手はやべえんだっけか」
相手に向ける前に、男によって俺は叩き起こされ、胸倉をつかまれたまま殴られる。
1回、2回、3回と殴られ顔が腫れていくのがわかる。口の中は切れて元からノイズでぼやけ気味だった視界はさらに物理的に霞む。
「カッカカ。やっぱ情報通り邪魔するぐらいしか使い道のない能力みたいだな劣能力者!」
ああ、もうどうにでも言ってくれそうだよ元々ハンデが有り過ぎたんだ。
自分の能力でまともに動けない俺とアイテムで補強してパワーアップしているお前たちじゃ……
またもや蹴りが来る。何とかそれだけはガードしようとするがまたもやその足が不自然な方へ曲がり俺の腹へ直撃する。
こうして吹き飛ばされて壁に頭をぶつけた拍子に耳に付けていたピアスも取た。
これで、
「長かった」
体が痛い。もうピクリとも動けねえよ。つうか普通なら気絶するだろこれ。
「アン?」
それでも、この目の前の奴だけは、
「いやあ、長かったよ。俺はボコられるのは慣れているけど別にМじゃねえから嬉しいわけじゃねえんだよ。なのに自分からこれ全部外すと怒られんだよ。『データを取るには壊れる限界まで、いや完全に壊れるまでやらないといいデータは取れません』ってな。なあ、それって俺と
口から自然と笑みがこぼれる。
これでやっと全てのリミッターが外れた。
おかげで副作用は今までの比じゃないが、それでも散々俺をボコボコにしてくれた子の薬中に復讐できる。
俺は右手を奴に向ける。
「な、なんだ!?」
奴も何か感じとったみたいだがもう遅い。
これでやっとこれでやっと『ダレカヲコワセル』。
「ひ、ひいい。クソが!!」
男はどこかに隠しもっていた拳銃を取り出した。
(そ、そんな)
白井黒子の目の前には、散々殴られた後さらに吹き飛ばされ、壁に頭をぶつけた衝撃で血を流し、満身創痍どころか今すぐ病院に運ばねばならないほど瀕死の秋瀬七実だった。
(わたくしが助けを求めたから、こんな事に!少なくとも秋瀬さん一人に任せず二人で立ち向かっていればこんなこと)
後悔の念は尽きないが、そんな事ばかりしてはいられない。
まだ、彼は生きている。しかし、このままでは確実に殺される。
(動かなくては、早く動きなさい!白井黒子!本当に取り返しのつかなくなる前に!)
自らを奮い立たせ、動こうとしたその瞬間黒子は信じられないものを見た。
男に向かって右手で制すようにする秋瀬七実と両手を前に突き出す男の手には、
(拳銃!?一体どこにそんなものを!まさか能力で!?)
黒子の予想通りならあの男の能力で拳銃の一丁くらいは隠すのは容易なはずだ。
「や、やめっ!!」
乾いた銃声が響く。
やっとのことで絞り出した声が形になる前に、男に引き金は引かれ、秋瀬七実の体が弾丸により大きく跳ねる。
しかし、男はそれだけでは飽き足らずさらに秋瀬七実の体へと打ち込む。腹や頭、心臓など銃弾がすべて打ち尽くされるまでその銃声が鳴りやむ事は無かった。
「あ、あああ、あああああ!!!」
もう自分を抑えることなどできなかった。
周囲にあったガラスを直接男の体の中へ転送させようと、演算をする。
しかし、演算がうまくいかない。何度やっても能力が発動できない。
これは自身の精神が能力を使える状態じゃないから?こんなにも自分の能力は肝心なところで役に立たないものなのか。
(秋瀬さんの敵をとることもできない。)
そう嘆いたところで黒子は気づいた。
先ほどまで周囲に溢れていたノイズが無くなっていない。
通常どんな精神状態でも自分の能力とは違い発動できる能力はいくらでもある。
しかし、それは生きているからだ。気絶していても能力が発動したという話は聞いたことがある。
なら、死んだ場合はどうだ。能力を形成する
少なくてもその力は弱くなるのではないか?
周囲に漂うノイズは先程よりもはるかに濃くなっていた。
俺の体に銃弾が撃ち込まれる。
何発も何発も。流石にやりすぎなんじゃないかってくらい撃ち込まれる。
銃を持っている男も弾が切れた後は腰を抜かしてへたり込む。
それを俺は―――見当違いの方向に向かって銃を打っていた男の隣でそれを見ていた。
「
そしてつぶやいた一言に、男は反応する。
「ひいっ」
ひたすらおびえた表情。
そして今殺した筈の俺の方を振り向く。
そこにはしっかりと色々飛び出てすっかりグロッキーな俺の姿があった。
「幻像だ」とか言ってやりたくなっちゃうねホント。
「無駄だよ、もうお前は俺がいる方向どころか、自分の体がどの方向に曲がっているかすらわからない」
ようやく俺の能力のせいだと気付いた男は、
「何故だ!お前の能力は俺たちには通じないはずだ!」
「ああ、通じなかったよ。『お前たち』には。いや~びっくりしたぜ。まさか幻想御手の正体がそんなんだったとは。《人間の脳同士をつないだ巨大ネットワーク》そりゃ俺の能力が分散されて通じないわけだわ。納得納得」
俺は何度も頷きながら男の頭上を指さす。
「今なら見えるぜその体から流れ出てるAIM拡散力場の束がな!」
簡単な話だ。俺が今まで見た透明な線は幻想御手の使用者の証だったわけだ。
クソッこれじゃほんとに俺が幻想御手対策のスペシャリストじゃねえか。こんなの見えるやつじゃなきゃわからんぞ!?
そうこうしているうちに男は戦意を取り戻したのか、はたまた気が狂っちゃったのか、立ち上がる。
そうして、能力を使い俺にまた蹴りを繰り出した。
「何故だ!何故だ!何故だー!」
次々繰り出される蹴りや拳の全てを避けて否、避けるまでもなく見当違いの方向にはなって関節が変な方向に曲がっていたので普通に右手で相手の頭をつかむ。
「でも、通じなかったのはリミッターのかかっていたいつもより超抑えられてまともになっていた
「た、頼む許してくれ!こ、こんなつもりじゃなかったんだ!お、俺はあいつらが、あいつがお前を殺せっていうから!」
何発も撃っといて白々しい。
自分の顔が言葉とは裏腹に無表情になっていくのがわかる。心が凍る。
なんだっけこいつ?超能力者になれば怖いものなんて無いんだっけ?
「馬鹿だなあ。怖いものない奴なんているわけないだろ?でも本当に怖いのは今ならわかるだろう?本当に怖いのは圧倒的な力を持つ超能力者じゃなくて、枷をつけなければ自分の能力を抑えることもできない――なんだ?」
俺は男にその言葉の答えをいうように促す。
ただただ無表情に、一切の感情はなく、口調だけがおちゃらけていた。
「ま、
「負、せいか~い」
そうして俺は
しかしふと、
視界の隅に映る白井黒子の姿を見てヤメタ。
「いやはや疲れたよ」
白井黒子の目の前に先ほど死んだばかりの少年が立っていた。
「ゆ、幽霊……」
「え、マジで!?俺そういうのだめなんだよ!」
しかしそのたった一言で目の前の彼が生きていると理解できた。
見ると体中ボロボロで痣だらけの血まみれだが、撃たれた形跡はない。
「い、いったいどうやって?」
涙が溢れそうになりながら尋ねると、
「ああそういえばお前も効果範囲だっけ?心配するな。直接腕で触らねえ限り大した事は無いから。ほんとなら腕を向けただけでアウトなんだが、、生憎そこまで能力は戻ってねえしな」
などと言ってきたとても重大なことを言っている気がするが頭が混乱しており、そして何よりノイズがひどくて頭に入ってこない。
そして、黒子の涙があふれるより先にこの男はとんでもないことを言い出した。
「それにしてもお前結構やってくれたな。効果範囲内だからわかったけど……」
「へ?」
「お前が柱にガラス挿し込みまくったおかげで、このビルもう倒れる。」
そういえばすっかり細工したことを忘れていた。
「じゃ、俺逃げるから。こいつ頼むわ」
そういって秋瀬七実は片手で引きずっていた男を黒子に預け、本当にビルから飛び降りた。
因みにここはビル5階くらいだったりする。
「うわ、たっか!高っ!!」
幾分派手な着地音を確認してから黒子は男をつれてテレポートした。
不思議と涙は最後まで流れなかった。
「なんとか、コントロールできたか。それにしてもどうなってんだ?」
俺は効果の発しなくなったグローブとピアスを見つめながら、ブルーシートに引っ掛かったまま倒壊するビルを眺めていた。