とある科学の劣化魔導   作:fukayu

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妹達と研究者

ビルが倒壊していく中、すでに外には通報を受けたと思われる警備員(アンチスキル)が駆けつけていた。

それを横目で見ながら、秋瀬七実は彼らから隠れる位置で合流した白井黒子に先に支部へと戻らせておいた初春へと連絡を取らせていた。

 

本当は自分で連絡をした方がいいのだが、生憎今の自分はそんなことができる状態ではなかった。

先ほどの戦闘で能力のリミッターを外したはいいものの、そのリミッターが使い物にならなくなり今は必死に暴走しそうになる能力を必死に抑える事に全精神を集中させなければならない。

白井黒子には軽く事情を説明したものの、不用意には近づけない。何せ手を相手に向けるだけで大量のノイズを送りこんでしまうこの状況では危険すぎる。

 

「その能力をどうにかして抑え込む事は出来ませんの?」

 

俺のとった一定距離離れたところから白井黒子が話しかける。

一応二つ心当たりがある事にはあるが……

 

「一応二つ心当たりはあるが、片方は病院に行かないといけないから却下。今の状態じゃ危険すぎる。もう片方は……」

 

言わずと知れた俺の専属研究員だ。奴ならこの状況を何とかできるだろうが……

余りというか絶対に気が進まない。断固辞退したい。少なくてもこのまま目の前にいる白井黒子を連れていく事は出来ない。

 

どうしようか決めあぐねていると視界の端に見慣れた制服の少女が移った。見慣れたというより、今目の前にいるツインテールの風紀委員の制服と同じデザインだった。

 

(あれは……)

 

少女の容姿には見覚えがある。というか有り過ぎる。あの茶色の短髪は最近支部に入り浸っている俺を暇人だとか役立たずだとか言ってケンカを売ってくる小生意気な小娘だ。休日の昼間からコンビニで立ち読みしているお嬢様の言われたくないっつうの。

しかしその姿には一つ決定的な違いがあった。おでこにかけている軍用ゴーグル。その圧倒的な存在感がその少女が御坂美琴とは別人だということをこちらに知らせている。

少女は白井黒子からは死角になっている位置から秋瀬七実を見つめていた。

 

(こっちに来いってことか)

 

何の用かは知らないがこのタイミングで現れた事には何か意味があるはずだ。

今はそれに乗るしかない。

 

「やっぱもう一つの方に俺は言ってくるわ。お前は警備員への報告やらをよろしく~」

 

秋瀬七実は白井にこの場の全てを押し付ける形で御坂美琴にそっくりな少女とは全く宇別の方向へと走り去っていく。

 

「ちょっ秋瀬さん!?」

 

混乱する白井黒子を余所に秋瀬七実の姿は先程の怪我などまるで堪えていないかのようにあっという間に消えていった。

 

 

 

 

第七学区の路地を何度も通り抜け人が入り込まない奥へ奥へと進む。細い道を抜け少しばかり開けたスペースに出たらまた別の道に入る。すでに先ほどの御坂美琴似の少女がいた場所などからはかなり離れているが秋瀬七実は構わず走る。

そうして何度目かの路地を抜けた先に少女はいた。先ほどこちらを見ていた時と何一つ変わらぬ恰好・表情で秋瀬七実を待っていた。

 

「結構急いだんだけど、早いな。俺と違って息も乱れていないようだし」

 

ハアハア、荒い息を吐きながら、額に流れる大量の汗を手で拭う。

少女はその様子をじっと観察してからようやく口を開く。

 

「このミサカは先程あなたにコンタクトを取ったミサカとは別のミサカですと、ミサカ9888号は答えます」

 

その少女から放たれた言葉からやはり自分が最近行動を共にしている御坂美琴とは別人だと確信する。しかし、秋瀬七実は一切動揺せずに答える。

 

「ああそうか、別個体か。みんな顔同じだから気が付かなかったぜ。ってことは俺がここに来るってことは最初から筒抜けだったってことか。」

 

無数にいる彼女たちはその意識や記憶を独自のネットワークで共有している。

 

「はい、あなたなら下手な尾行が付いてこないように用心して無作為に周囲を走り回り、最終的にこのあたりにたどり着くとのことでしたのでと、ミサカは答えます」

 

全く抑揚のない機会のような喋り方で彼女は答える。

 

「……俺の行動パターンは筒抜けなわけね。まあ、俺の専門家だし別にいいけど」

 

秋瀬七実は自身の専門家もとい自身の能力開発を一身に執り行っている科学者のことを思い浮かべながら目の前の彼女に目を向ける。

 

「それにしても9000番台も後半に差し掛かったか。大変だねえオタクも」

 

彼女は……いや、彼女たちは第3位の超電磁砲御坂美琴から作られた体細胞クローンで妹達(シスターズ)と呼ばれている。

元々彼女たちは御坂美琴のDNAマップを使い、超能力者を量産しようとする量産型能力者計画(レディオノイズ計画)で開発されたのだが、計画の最終段階で樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)によって妹達の能力は超電磁砲(オリジナル)の1%にも満たないことがわかり、即座に計画は凍結された。

しかし、最近になり新たに立てられた絶対能力進化(レベル6シフト)という実験において20000体の彼女たちが作られ、実験に参加している。

勿論このことは、計画の事共々オリジナルである御坂美琴は知らない。仮に知っていてあのように笑顔で暮らせるなら大したものだと秋瀬七実は思う。

少なくとも絶対能力進化(レベル6シフト)の件については知らないはずだ。何せ内容が内容だ。

 

「《20000通りの戦闘環境で量産能力者(レディオノイズ)を20000回殺害する》だっけ?しかも相手があの学園都市の最強だってんだから、最悪もいいところだよ。逃げようとは思わねえの?俺だったら逃げてるね」

 

そんな実験がこの平和な学園都市で行われていると知ったら平和ボケした連中は腰を抜かすだろうが秋瀬七実に言わせればこんな実験はかなり昔からこの学園都市中で行われているため別に不思議とも何とも思わない。一応最近やっと一般的な感性を手に入れた身としては多少なんとかしてやれないかとも思わなくもないが。

 

(俺も元々そういう系出身だからな。殺されるためだけに生み出されたってのには同情するけど、実験に直接かかわってない以上俺が何言っても無駄だろうし第一こいつらも望んでないだろそんなこと)

 

「ミサカにとってこれが仕事ですのでと、ミサカはミサカのあなたの質問に対する自分の考えを述べます」

 

「ふ~ん」

 

秋瀬七実はやはり、というように自分の境遇を受け入れてしまっているクローンの言葉につまらなそうに返事をする。本人たちから助けを求められない以上何をしても無駄だ。

第一この実験のために生み出された彼女たちは急速に体を成長させたことで長生きできない身体になっているだろうし、そもそも20000体のクローンを養い続ける事はいくら学園都市でも簡単なことじゃない。と、彼女たちのことを考えていた秋瀬七実へ今度は彼女の質問がくる。

 

「それに、あなたも普段は色々文句を垂れるがいざ実験となったら黙々とこなすと聞いていますが?と、ミサカは研究所で聞いたあなたの評価を口にします」

 

それを聞いた秋瀬七実はうげっ、とあからさまに嫌そうな顔をする。自分は彼女たちのことは知っていても面識はあまりない。そもそもまともに会話したのはこれが久し振りで、自分の情報は相手に知られていないはずだ。大体この実験には直接関わっていない自分が彼女たちのことを知っていることさえおかしいのだ。

ではそもそもなぜ彼女たちのことを秋瀬七実が知っているのかそして今、能力が暴走気味のこの状況で彼女と会っているのかという疑問になる。その答えは簡単だ。

 

「その評価ってのはやっぱりあいつか」

 

「はい、ミサカたちとあなたの研究を担当するあの人からの評価です先輩と、ミサカはプロデューサーから教わったあなたがきゅんと来るであろうワードを後輩らしい動作を交えて口に出します」

 

ぎこちない動きで後輩らしい動作(?)をする彼女。その表情は終始真顔で自分がやらせているのではないので無性に申し訳なくなる。

 

「後輩らしい動作ってのはさておき、プロデューサーってクローン(お前ら)にもそう呼ばせているのかあの変態!というか俺はそういう属性はねえよ!……多分」

 

首をかしげるクローンを余所に秋瀬七実は激昂する。

今この場にいないその科学者はとてもとても頭のおかしい困った人物で、自分の被検体のことをアイドルと呼び、そして彼らに自分のことをプロデューサーと呼ばせる悪癖があるのだ。恐らく理由はとあるアイドル育成ゲームをやったからだろうと推測されるのだが、それにつき合わされる身としては堪ったものではない。しかし、科学者としての腕は確かでルックスも人当たりも(表向きは)いいので、たまに頭のおかしい女子生徒やこのように純真無垢なクローン(実験体)が奴のことをプロデューサーなどと呼んでいる。

はっきり言って秋瀬七実はその科学者のことは嫌いだった。

 

「まったく本当にどうしようもない変態だな。実験で身も心もボロボロになって相手の言葉を素直に何でも聞いちまう型落ち品に言わせるならまだしも、こんなまだ現役バリバリでなんも知らねえガキに自分の趣味押し付けるなんてどうかしてるぜ!」

 

「いえ、ミサカ達はプロデューサーから与えられたアイ〇スで学習済みですと、ミサカは特別にもらった開発中の最新作のことを思い浮かべながらモバ〇スに課金します」

 

携帯電話を取り出した妹達にすでに洗脳済みかよとあきれながら忠告する。

 

「あんまそういうの他人に言わない方がいいぞ、今はフラゲですらいろいろ叩かれるんだから。後こんな路地裏でしかも俺の能力が暴走気味の時じゃ電波通じねえだろ」

 

能力障害(AIMノイズ)は普段は能力者限定な能力としか使えないが、暴走した時やある程度まで能力が進行した場合は電子機器や一般人にも影響することがある。普段はリミッターで無理やり押さえつけていたのだが今はそれがないためモロに電波障害が起こっているだろう。

 

「普段はいいんだけどな。ま、そういう意味ではお前たちやそのオリジナルの能力に近いともいえるからあながち先輩って表現は悪くないか……ま、なんか嫌なことがあったら一応は相談に乗ってやるぜ?一応はな」

 

学園都市第1位は怖いから何も言えないけど、あの変態の事なら何でも言ってくれと若干テンションを上げながら続ける。

しかし、

 

「いえいえご心配なく。私の趣味はなかなかに皆様方には受け入れられていますよ。受け入れてくれないのはあなたと一方通行(アクセラレータ)君くらいです。あ、あとこの携帯電話はあなたの能力下でも使える特注品ですからご心配なく。差し上げますよ」

 

聞こえてきた後輩の声は先程とは全く違う口調であった。声も姿も同じなのに明らかに先ほどまでとは”中身が違う”。秋瀬七実はとっさに身構える。

見れば今までおでこに付けていた軍用ゴーグルをしっかりと目に付けており、それが機械的な動作で信号を打ち出していた。

 

「てめえ、どうやって!?」

 

「彼女に持たせた携帯に特殊なプログラムを仕込んでおいたのですよ。特定の操作をすると彼女が受信できるようにね。ちょうどこの時間は毎回課金する時間帯でしたので。それにしてもこれで23回目の試みなのですがこの干渉に彼女たちの誰一人築かないのは少々問題がありますね。いくら私のダミー記録が完璧とは言え、少々ネットワーク同士の繋がりを調整しますか」

 

課金する時間帯って決まってんの?という疑問を抱かないわけではないがそれよりも妹達の体を使ってここに現れたこの”男”が問題だ。

 

「この時間は『講義』の時間だろうが。てっきり忙しくて使いをよこしたものだと思っていたのだがな」

 

「ええ、今の今まで他の生徒(アイドル)達の講義(レッスン)でしたが、今終わってきたところですよ。スケジュール上こうしなければ間に合わなかったので。先程まで私の意識は講義堂の中でしたし、今も身体は研究室にありますよ」

 

スケジュール上――つまりはこの男は最初から分かっていたということだ。秋瀬七実がスキルアウトと戦うことも普段は逃げて無事なのに今日に限ってボロボロになった挙句能力が暴走することも、そして今日この時間にこの場所に来ることも。すべてはこの男の計画(スケジュール)通り。

 

「何せメインアイドルの重大イベントですから。飛んでくるのは当たり前でしょう?まあ、あなた的には私が用意した先ほどの後輩・先輩のイベントの方が良かったかもしれませんが」

 

「てめえ、さてはずっと聞いてたな。それならもっと早く出てこいっつうの」

 

普段はどこかの営業マンのようなふざけたトークをかますこの男だが恐らく先ほどの秋瀬七実の悪口を聞き、多少頭にきているのだろう。

 

「まあ、あなたについてはそういうキャラということで納得しました。さて本題ですが……」

 

そう区切りシスターズの姿をした男は物腰の柔らかい敬語を使いながら常盤台の制服のスカートに手を伸ばす。

 

「ちょっおい!何自然にスカートに手を伸ばそうとしてんだてめえ!」

 

「おやおや、可笑しなことを言います。今のこの躯体は私の意識が入っているのですよ。彼女たちのネットワークからも遮断されているのです。つまり、最早私の身体なのですよ。この体で何をしようと……第一私は彼女たちの実験の責任者ですよ。1体当たり18万の機材の体などもう調べつくしています」

 

「いま目を逸らしたよな。俺に言われて、『調べつくしてるけど実際自分がこの体になったのは初めてだから急に知的好奇心が……』とか思ったんだろ!……はあ、頼むから俺の前では変なことするなよ。今一応風紀委員と行動してるんだから」

 

犯罪行為は見逃せない。しかもよりにもよって被害者兼加害者が知り合いと全く同じ姿をした相手なんていやすぎる。明日から目も合わせられない。

 

(いや、元々怖いから合わせられないけど……)

 

「おやおや、不思議なことを言います。たとえ風紀委員と行動を共にしているとはいえ、あなたがそんなことを気にするとは。あなたの人格(パラメーター)ならそんなこと気にしないと思っていましたが……興味深いですねえ」

 

「俺だって多少は変わるよ!………それより本題だ。リミッターがどういうわけか壊れた。代わりをよこせ」

 

秋瀬七実は今までとは全く違う鋭く相手を射抜くような声色で男に手に持った革製のグローブとピアスを差し出す。

 

「おやおや、壊れてしまいましたか。それはそれは、素晴らしい。先程からこの躯体を通して得ている視覚も聴覚も嗅覚も――全てのデータが最近のあなたのノイズとは比べ物にならないと思っていましたが、遂にでしたか!こんな重大なイベントに立ち会えるなんてプロデューサー冥利に尽きますよ。あなたをプロデュースしてきてよかった」

 

「!!!いいから代りをよこせ!!今、俺は幻想御手の件を何としてでも解決しなきゃならねえんだ。まだ犯人につながる手がかりもわかってねえのに、俺は狙われてるしこのままじゃ周りの奴らもあぶねえ!能力が制御できないこんな状況じゃまずいんだよ!!」

 

妹達の口から発せられたプロデュースという言葉にあからさまに反応した秋瀬七実は男に対して掴み掛らん勢いで捲し立てる。

 

「………そう激昂しないでください。すべて大丈夫です。あなたの能力もその幻想御手の件もすべて用意しています。第一あなたは周りがどうなろうと一向に構わないでしょう。私の言葉が気に入らないからと言って心にも思っていないことで起こらないでください。まるであなたが嫌いな”彼”みたいですよ」

 

しかし、中学生の姿をした科学者は自分よりはるかに体の大きい高校生に対して実に落ち着いた態度で言葉を返す。完全に醒めた目とその口から出たとある人物を指すであろう彼という単語に秋瀬七実も黙る以外に選択肢はなかった。

 

「お、おれだって守りたいもののひとつくらい」

 

「いいですか。あなたはそういう人間ではない。その資格もない。一体どれだけの他人の守りたかったものを壊してきたと思っているのです?それを認めたく無くて逃げるのなら、そんなことを口にするのは辞めなさい」

 

冷たい言葉。自分の言葉をすべて否定しながら、その言葉全てが自分に対する真っ当な評価だった。秋瀬七実には守りたいものすら作る資格などない。今の自分にできるのは実験に参加することと他人の計画(幻想御手)を狂わせること、そして逃げる事だけだ。

 

(わかっているさ。そんな資格が俺には無いってことくらい。だからこそ)

 

だからこそ力が必要だ。今の自分にできることはこの街に今巣食っている幻想御手(ノイズ)を晴らすことだけだ。これは自分のやるべきこと、やらなければいけないことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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