とある科学の劣化魔導   作:fukayu

15 / 42
体晶

「だからこそ今の俺はこの劣能力(チカラ)に振り回されるわけにはいかねえんだよ。幻想御手を操る黒幕はどういうわけか俺に狙いを定めてきた。さっき見た幻想御手使用者(アレ)から流れていたノイズは普通じゃねえ。このまま放っておけば……」

 

「ええ、間違いなく後遺症が残るでしょうね。下手をすればもう二度と能力はおろか脳の殆どの機能すら使えなくなるほどに」

 

そう、先ほどあのスキルアウトと戦っていた時に感じたあのこちらを狂わさんばかりの悪意や怨念(ノイズ)は間違いなくこの街を狂わせる。そしてその悪意や怨念(ノイズ)は明らかにこの秋瀬七実を狙っていた。つまりは、

 

「犯人は過去に俺が関わった相手ってことだ」

 

それ以外に想像できるものはない。かつて自分が実験に参加した際に自分に恨みを持った誰かがこの事件を起こした。

その回答を聞いた妹達の姿をした男はとてもうれしそうに手をたたきながら正解を告げる。

 

「正解です。あなたも多少は頭が切れるようになってきましたね。犯人は木山春生学園都市の科学者です。彼女はかつてあなたが参加した実験の被害者の教師で……」

 

その答えを聞きながら秋瀬七実は納得していた。その口から出てきた名前には聞き覚えがある。数日前自分たちが病院であった科学者だ。彼女があの病院で白井黒子などと事件について話し合っていたところから自分はこの事件に関わり始めた。

 

(まさか、犯人に事件に対して相談していたとはな。さすがに驚いたぜ。だがまあ納得だ木山はあそこで俺について知ったってことか)

 

あの場で確かに自分は彼女に自身の能力を名乗った。たとえ彼女がこの秋瀬七実という名前を知らなくても能力障害(AIMノイズ)だと名乗れば正体は一発だ。事件の最初がいつからかは知らないが恐らく始めは全く別の目的で幻想御手を作り出したのだろう。しかし、秋瀬七実のことを知り、かつての復讐を企てたというところか。

 

(俺が関わらなければもっとましな事件だっただろうに……能力障害(AIMノイズ)は、劣能力者(マイナス)はすべてを狂わすか。……………いいだろうやってやるよ。お望み通りすべてを狂わしてやる。)

 

決意する。自分はケンカを売られたくらいなら気にはしない。たとえ自分が何もやってなくても能力のせいだと納得してしまうから。しかし、過去の自分を追いかけてくるものには容赦はしない。たとえ自分が犯した過ちが原因だとしても何としてでも逃げ切ってみせる。それが秋瀬七実の……学園都市最低能力障害(AIMノイズ)の生き方だ。

 

「……どうやら決めたようですね」

 

「ああ、どんな手を使っても逃げ切ってやる。だから、リミッターをよこせ」

 

先程のどの表情とも違う覚悟を決めた表情をした秋瀬七実は自らの研究者に能力を制御するリミッターを要求する。あれがなければ、木山に会うまでに無数の無関係な能力者に干渉してしまいたどり着く前に力尽きてしまう。

 

「ああ、そうでしたね。ですがリミッターはもうありません」

 

「あ!?」

 

「無いといったのですよ。正確には最早成長した能力障害(AIMノイズ)を抑えるだけの力はないといったところですが」

 

とてもうれしそうに科学者は秋瀬七実にとっての事実上に死刑宣告をする。リミッターが無ければ今回はおろか秋瀬七実はこの学園都市で生活すらできない。一生長点上機かカエル顔の医者が用意してくれた部屋で生活をするしかない。

 

「おいおい、どうすんだよ!?あれがねえともうノイズは抑えられねえぞ!?」

 

先程の決意の表情はどこへやら、一瞬で秋瀬七実はいつもの焦った表情に戻ってしまう。

 

「心配いりませんよ」

 

「一体どこら辺が心配いらねえんだよ!」

 

「代わりがありますから」

 

科学者は妹達のスカートについているポケットからガラス状のケースを取り出す。(余談だが恐らく先ほどの動作も決して女子中学生の体を触ろうとしたわけではなくこれを取り出すためだったのだろう。多分)

 

「そいつは!?」

 

「ええ、そうですよあなたの良く知る物です。最近は色々複製品が出回っていますがこれはちゃんと過去にあなたが作り出したものですよ」

 

透明なガラスのケースに入っている白い粉末状の物を見る。

それは『体晶』と言われる代物で、意図的に能力者に拒絶反応を起こさせ能力を暴走状態を引き起こす薬品だ。

 

「それをどうしろと?まさか俺に木山ごと学園都市を滅ぼせと?」

 

「確かに樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)によるとあなたの能力障害(AIMノイズ)は覚醒・暴走すれば学園都市の第一位、第二位を除くすべての能力者・すべての電子機器を暴走させられる学園都市史上最強最悪のテロリストになる可能性を秘めてはいますが、体晶程度ではどうにもなりませんよ」

 

秋瀬七実の能力は通常の成長以外に自身の危険に対応して恐るべき進化を遂げると言われている。その最たる例がこの学園都市最高のスーパーコンピューターによる学園都市最低の予知だ。樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の演算する予測は最早確定100%の予知とも呼ばれる正確さで、この結果を知った者たちは即座に秋瀬七実を処分しようとしたが、能力障害(AIMノイズ)の最大の特徴にして最悪の欠点によりそれは未然に阻止される。

 

「あなたが覚醒する可能性はこのままの状態だとあなたが死亡する以外にありませんからね。全く本当に興味深いですよ。劣能力者の最大の特徴が死亡した場合も能力が発現し続けるだなんて」

 

そう、劣能力者は死んでもそのマイナスは残り続けている。今でこそ秋瀬七実は学園都市ほぼ唯一の劣能力者と呼ばれるが一応過去にも同じ実験で劣能力者に覚醒したものは何人かいた。実験で彼らが死んだ後もその能力が残り続けていたことからその仮説が立てられた。

 

「実際わかんねえだろ。全員が全員残ったわけじゃねえし」

 

「だからこそですよ能力障害(AIMノイズ)は危機に陥るほどその能力範囲が広がる。死に方によってはこの学園都市を覆うことも十分にあり得る。だからこそ上層部はあなたに手を出せない。例えあなたを拘束してもストレスを与えすぎれば覚醒しますからね」

 

「ふん。で、その体晶なら大丈夫だと?」

 

「ええ、元々相性もいいですしそもそもあなたの能力は常に暴走状態ですから問題ないでしょう毒を以て毒を制すといったところですよ」

 

「ああ、そう。ま、信じるよそういうことに関してはうちのプロデューサー様は嘘はあまりつかないしな」

 

「ええ、ええ。大事なアイドルの為ですからねえ」

 

妹達の体に近づき、ガラスのケースを受け取る。そしてこのまま黙っていると彼女たちに影響が出るのですぐに掌に体晶を少しだし、それを舐めとる。

 

「がっ!!!???!?」

 

舐めた途端頭に電流が走ったかのように意識が覚醒する。先程まで自身のノイズでもやもやしていた思考はかつてないほどすっきりとし、体の調子もすさまじくいい。そして何より普段は全くできない能力の演算が簡単にできるようになっている。

 

「こいつは……!?」

 

「これなら能力も制御ができるでしょう?ただ、あまり使い過ぎはお勧めしません。何せ元の使用用途があれですから。相性がいくらいいといってもその副作用は溜まっていきますよ」

 

「わかってるよ。今回だけだ」

 

「そうですかでは私はこれで。次回までにその能力を多少は抑えられるようにしておきますよ」

 

そう言い残すと妹達の中に入っていたノイズが消えるのが今の秋瀬七実にははっきりとわかった。

 

「さてと……」

 

「?あれ、先輩どうしましたか?と、ミサカは突然目の前にやってきている先輩にわずかながら動揺します」

 

科学者の意識が消えたところで必然的に目を覚ましたクローンは先程まで遠くで話していた相手がいきなり目の前にいる事態にわずかながら動揺しているようだった。

 

「ああ、心配するな。別に時間を止めたわけでも消し飛ばしたわけでもないから。……それより時間を取らせてすまんな。実験の方は大丈夫か?」

 

「いえ、ミサカの実験にはまだ少し日にちがありますのでと、ミサカは現在野外研修中であることを説明します」

 

秋瀬七実は全くフォローをしていかないプロデューサーの代わりに後輩アイドルに声をかける。彼女も今から一つの決着を付けに行く自分と同じく、いやそれ以上の実験という結末が待っている。彼女たちにとっては自らの存在意義となっているがそれ以外の者たちからすれば絶望的としか言えない結果が待つ戦場が。

 

「そうかじゃあ頑張ってな」

 

「はいと、ミサカは先程とは違い元気になった先輩に深々とお辞儀をして立ち去ります」

 

(いつかどこかのお人好しが助けてくれるといいかもな。……俺は……残り5人くらいになったら助けてやらんこともないか)

 

彼女が立ち去るのを見ながら、少しだけ情が移った彼女に対しエールを送り、たった今体晶と一緒に受け取った携帯でとある人物に連絡を取る。

 

「花飾りか?すまないが御坂美琴に連絡してくれ犯人がわかった。何?どうやってだって?……AIM拡散力場をたどったんだよ!とにかくあいつが一番強いだろ。白井はこっちによこせ!怪我してて悪いけど足に使わせてもらう」

 

電話口で騒がしい花飾りの少女とツインテールの少女の声を聴きながら、先ほどの妹達のオリジナルへと指示を出す。勿論妹達の話題は一切触れずに。彼女が実験のことを知ればすぐに止めようとするだろう。しかし、いかに超能力者と言えどもこの街の闇が、そして何よりあの科学者が関わっている以上実験は止められない。そんな無駄なことはさせないのが一番だ。

 

「とにかく木山春生を確保しろ!裏なんて警備員に言って奴にパソコン調べりゃ一発だよ!ツー訳でよろしく!」

 

半ば強引に通話を切った秋瀬七実は白井黒子に指定したポイントへ走り出す。

身体の調子はすこぶるいい。能力の制御もかつてないほど完璧だ。これがいつまで続くかわからないが移動するだけならテレポートの演算の邪魔にはならないだろう。

 

(過去が俺を追いかけてくるなら俺はその過去を狂わせてでも逃げ切ってやる)

 

 

 

 

 

 

 

 

長点上機学園内にある研究室で先ほどまで妹達の一体に入り秋瀬七実と会話をしていた意識が口を開く。

 

「《暴走能力の法則解析用誘爆実験》ですか。懐かしいですねえ。表向きは色々ありましたが。結局は能力障害(AIMノイズ)の力で置き去りの脳から体晶を生み出す実験でしたっけ。彼に渡したものがその時出来たものだと知ったら彼女はどう思うですかね」

 

薄暗い研究室で机に置かれたいくつものモニターに囲まれながら男は薄ら笑う。そのモニターには様々な映像や数列が流れておりそのうちの一つ――秋瀬七実についての情報が映し出されているモニターを興味深そうに閲覧する。

 

「それにしてもまさかこのタイミングであのリミッターが外れるとは……タイミングが良いんだか悪いんだか本当にこちらの予想を狂わせてくれますね彼は……」

 

男は言葉とは裏腹にとてもうれしそうな顔をして机に備え付けられた固定電話に手をかけダイアルを押し始める。掛ける相手は先程妹達の体を使って電話を渡したあの少年だ。いくら体晶を使って能力を制御してもあの劣能力者では今の木山春生には敵わないだろう。勿論そんなことは本人もわかっていて色々使えるものは何でも使うだろうが念には念のためというやつだ。それ程劣能力者が戦いに勝つのは難しい。

 

「全ての戦いにおいて覚醒あるいは何かを犠牲にしなければ勝つことは難しく、常勝などあり得ない。全くプロデュースする身からしてみれば本当に厄介なアイドルですよ。いえいえしかし、どれだけボロボロになっても壊れないというのは木原(私達)にとっては本当に興味深い人材ですがね」

 

あるいはすでに壊れているのか。薄暗い研究室で着信をかけた相手が出るのを待ちながら、その男は思案する。彼にはこの戦い何としても勝って貰いたい。

学園都市における研究者の中でも一部においてとても有名な一族である『木原』。彼らにとって実験体など限界まで使用して壊してこそ意味のある物なのだが。この男はその一族の中でも突出して異端だった。

男の名は『木原幻無』長点上機学園の教師にして能力障害(AIMノイズ)の開発者にして学園都市の様々な実験を援助する技術提供者(サポーター)そして『木原』の中でも珍しく研究対象を大切に扱う人間管理(プロデューサー)であった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。