木山春生は愛車に乗り、他に車のいない高架橋上の高速道路を走っていた。
自身が作成した
そのネットワーク経由で彼女は幻想御手使用者にある指令を出した。
《劣能力者――
事前情報として同じく先日会った”彼女たち”のデータと
報酬にはより進化した幻想御手を与えると言っていたが、無論そんなものは存在しない。
そもそも彼女は、幻想御手などに頼っている人間に
あくまでこれは先日会った”彼”の
(私が調べた通りなら今の彼の能力は以前とは異なっている。低位能力者には効果が薄いという情報が本当ならば幻想御手のネットワークを利用してその負荷を受け流してしまえばいい。)
ここ数日で
かつて木山があの実験の直後にいくら探しても影も形もつかめなかったあの能力が数年経った今こうも簡単に調べられてしまうことに驚きを隠せない。
「まあ、かつての私が知ったところでこのようなことをするとは思えんがな」
今自分がやろうとしていることは最早単なる私怨だ。数年前の教え子を救えなかった自分への罰であり、そしてその元凶ともいえる存在への復讐。かつての自分ならばそれでも希望を信じて彼らを救おうとしたのだろうがその過程をすでに終え絶望に辿り着いてしまった今の自分にはこの道しか残されてはいない。
最早教え子たちを救うという本来の道には戻れない。
彼の――秋瀬七実の存在を知ってしまったその瞬間にすでに絶望しかけていた木山春生の世界は壊れてしまった。
(もし彼が幻想御手のネットワークに干渉したのだとしたら私の正体にも気づいただろう。どちらにせよ風紀委員か警備員に気づかれるのも時間の問題だったろうが…)
そう考えていると車のモニターがアラートを鳴らす。
どうやら研究所においてきたPCのセキュリティが発動したようだ。
「もう踏み込まれたのか。この手口、警備員か。まあ正規の手順を踏まなければパソコンのデータはすべて消去される様になっている。…あとはこれだけか。」
木山はそう呟くとハンドルを握っていない方の手に小型の音楽プレイヤーを持つ。
これは
そこで前方にいくつものの捜査車両から成るバリケードが見えてきた。
「やはり
木山はやれやれと項垂れるように車を止める。
『木山春生だな。
よく響く拡声器で話しかけられ頭が痛くなる。木山はしょうがないといった雰囲気で車を降りる。
『よし。そのまま手を後ろに組んでこちらへ来い。』
無数の武装した警備員に諭され木山は歩く。しかしその顔には薄い笑みが浮かべられていた。
「
「ん?何を話している!?」
木山が小声でつぶやいたのを警戒し、一人の警備員が近づいてくる。
その警備員の動きを木山は片手で制すると、その手から空気の塊を噴出する。それは油断していた警備員へと一直線に進んでいき、対象をフェンスへと突き飛ばす。
「それを今から君たちに見せてあげよう。」
木山は次々と幻想御手に取り込んだ能力を自ら発動させていく。
右手には水を、左手には炎を。強化された能力をいくつも扱う彼女には最早警備員など敵ではなかった。
(さあ来い、
決着は自分の手で着ける。それが壊れてしまった彼女の唯一の望みだった。
そこから始まったのは一方的な蹂躙だった。
「まさか能力者か?能力開発を受けていたのか!」
勿論木山は能力開発など受けてはいない。幻想御手のオリジナルを持つ彼女はそのネットワークを介して幻想御手使用者たちの能力を借りているに過ぎない。しかし、それは自分の能力ではないため限定的ではあるが《能力は一人につき一つ》という法則を無視して複数の能力を使うことができる。
木山の繰り出す複数の能力に元々対能力者戦を想定していなかった警備員たちは成す術もなく倒れていく。
「さて、そろそろ舞台も整うか。」
警備員たちがあらかた片付いたところで木山はつぶやく。まるでこれから起こる劇の場を整えていたかのように。
ここは原子力発電施設の近くなのであたり一面建物はない。高架下に下りれば多少派手に暴れまわったとしても周囲にさほど影響はない。
今の木山といえども必要以上に他人を巻き込みたくはない。
この場へは必要な役者だけそろえばいい。
そしてそこへ一人の少女が現れる。
「
名門常盤台中学の制服を着て、肩まで届く短めの茶髪の少女は、木山の起こした凄惨な現場に戸惑いながらも舞台へと上がる。
「御坂美琴。
「それは悪かったわね、期待に添えなくて。それにしてもあんた能力者が能力者だったの?」
そう推測した美琴の携帯に支部で待機していた初春から通信が入る。
『木山春生は能力者じゃありません。しかし幻想御手が巨大な1つのネットワークだとしたら、そしてつながっている学生たちの能力をある程度自由に使えるとしたら、最早これは実現不可能と言われた能力――
その通信は木山にも聞こえていたため彼女は少し補足する。
「まあ、私のはそれとは少し仕組みが違うがね。さしずめ
木山はそう言うと能力を発動させようとする。そのたびにその眼はまるで呼応するかのように充血していく。
「一応1万人分の演算能力を使ってそれぞれ能力も強化してある。さて君に1万の脳を統べる私を止められるかな?」
充血する目で木山は美琴を挑発する。そしてこの挑発に乗らない御坂美琴でもない。全身から電気をたれながし、臨戦態勢で彼女は答える。
「あんたがどんな目的でこんなことしてるのか知らないけど…絶対に止めてやろうじゃない。」
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「ああ?今から幻想御手の仕組みについて説明するだア!?」
路地裏を出て白井黒子と合流した秋瀬七実は彼女の能力を使って現在超電磁砲と木山が戦闘しているであろう高速道路に向かっていたのだが
表示される番号を確認するが当然のごとく非通知。しかしこのタイミングで掛けてくる人物の心当たりは一つしかない。秋瀬七実はともに移動している白井黒子に確認を取り、電話に出る。
『おやおや、今は
「そんなことはどうでもいいからどういうことか教えろ」
電話に出た途端こんな状況になったというわけだ。
『いえいえ、あなたの力じゃこのままでは確実に負けるでしょう?いくら体晶である程度能力が制御できるからと言って相手は先程の端末とは違うのですよ?あなたも一応考えて第3位を先に戦わせて消耗させるなどとサル知恵を使っていますが……現場を見る限りそれでも足りませんよ?』
「……おい、俺の完璧な策略のことはあまり声に出すな。バレたら面倒だ。」
今現在隣で能力を使ってくれている超電磁砲大好きな風紀委員にそのことがばれるとせっかく風紀委員支給の『カエル顔印の万能救護セット』で先ほど負った傷をかろうじて塞いできたこの風紀委員に空中から叩き落されてしまう。
『……まあいいでしょう。幻想御手とはそもそもある特定の脳波パターンを元に複数の脳をつなげて巨大なネットワークを作ることで一人一人では限界のある演算能力を複数で補うものです。そしてここからが本題なんですがその副産物としてそのもとになったとある脳波パターンを持つ人物……ここでは木山春生ですね。その人物はネットワークにつながった人々の能力を限定的ながら使えるようになるのです』
つまりは、一人の人間が複数の能力を使用できるということ。この学園都市の常識としては能力は一人につき一つ。二つ以上の能力を使用できるものは
『当然脳をネットワークで繋いだ位では
「…………」
「見えてきましたわよ!」
秋瀬七実が通話中も律儀に移動してくれていた(そんなことしたら酔いますわよ。と忠告されたが)白井黒子が空間転移によって、上空数10m上がった現在地から下方で繰り広げられる戦闘を確認する。
「ありゃあまずいな」
視界に広がるのは学園都市第3位の馬鹿げた量の電撃だが、その攻撃は木山には届いておらず木山が身体の周囲に展開しているバリアのようなもので電撃を受け流している。対して木山はその多彩な能力で時に巨大な火球を飛ばし、時に液体を発生させ弾丸のように打ち出すなどをして徐々に御坂美琴を追い詰めている。
『ふむふむ、学生が使っていた時よりも強化されているようですね。ネットワークの中心であるのも理由でしょうが元々才能があったというところでしょうか。もう少し若ければ私の
電話口から世迷言が聞こえる中、御坂美琴が反撃で放った砂鉄を利用した無数の槍のような攻撃も木山が地面を隆起させたことで防がれる。そして攻撃の際に出来た隙をついてゴミ箱に溜まっていた空き缶を念動力で空中にばらまいた木山はそれを量子加速を使って爆発させる。即座に戦場は爆風に包まれて確認できなくなる。
「お姉さま!」
(なんでさっきから必殺の超電磁砲を使わない?まさか威力が高すぎるから使えないのか?ッチ、手加減してんのかよ。これだから甘ちゃんのお嬢様は!)
爆風が晴れた後に見えてきたのは何とか爆撃を防いだ御坂美琴と次の攻撃の一手を投じようとしている木山だった。
援護しようにもここからではまだノイズも届かない。
「クソが!」
秋瀬七実は木山が攻撃に移る瞬間、それよりも早く秋瀬七実は携帯でふさがっている方とは逆の手で制服のズボンからイヤホンを取り出し、耳にかける。
「今のを耐えたか……ならばこれはどうだ?」
流石に今の量子加速の爆撃で御坂美琴を倒せたと思っていた木山だが、御坂美琴は何と電撃で量子加速寸前の空き缶を撃墜して防いでみせた。……流石に全てとはいかずいくつかは爆発したが、それでも現在木山が使用しているどの能力も圧倒する力ではある。
(さすがに個々の火力では敵わないか。ならば……)
「あんたいったい何が目的なわけ?」
周囲の爆炎が収まらないうちに不意打ちを決めようとしていた木山だが御坂美琴の一言で気が変わる。
今戦っている少女はあくまであの実験のことを知らない部外者だ。風紀委員経緯で自分を突き止めたのだろうが、あくまで彼女は前座でしかない。能力障害戦の前に気絶だけでもさせておきたかったが、少し話をするのも悪くない。
「君は先日会った秋瀬七実という少年をどう思う?」
「なっ!!!なんで今あいつの名前が出てくるのよ!?」
名前を出したくらいでここまで動揺する必要があるのだろうか。
「いや、君は彼となかなか親しい関係のようだったからね。一体どう思っているのかと」
「どうしてあれを見てそんな風に勘違いできるのよ!?」
御坂美琴の周囲の電撃が先程と比べて大きくなる。どうやらこの話題は止めた方がよさそうだ。
「なら質問を変えるよ。君は
「どこまでって、能力者のAIM拡散力場に干渉してその演算を乱す能力でしょ?」
「ふう、やはりその程度の認識か。それはあくまで能力の一例だ。……あの能力の真価は他人の精神を壊す事にある」
自らのトラウマを抉る様に言葉を絞り出す。
「な、人間の精神を壊す?!?そんなこと出来るわけが!?」
出来るんだよというよりそれが本来の使い方だろうと木山は思う。少なくても他人の演算を乱す程度の能力が本来の使い方ではないはずだ。
「君は経験した事は無いかね?彼の使うノイズによって自分の体が全く予期せぬ反応をしたことが……例えば能力を限界まで酷使されるとか」
「!!???」
続けざまに言った木山の最後の一言に御坂美琴はあからさまな反応をする。
「どうやらあるようだな」
(もし、去年の大覇星祭であいつが使った力がそれだとしたら……)
御坂美琴の頭に去年の大覇星祭で始めて秋瀬七実の
「もし、人間の脳に使ったらどうなるかね?」
「あいつがそんなことするわけない」
「君はそんな風に断言できるほど彼を知っているのかい?たとえ彼が偶々他人を救ったとしてもそれはあくまで彼の気紛れだ断じて彼の本心ではない!!!」
周囲の爆煙は完全に晴れ、木山は無駄話を止め御坂美琴を気絶させるために手元に隠していた空き缶を彼女の頭のすぐ横へテレポートさせる。この距離から爆発してしまえば、いくら電撃のシールドを展開していても気絶程度には追い込めるはずだ。
「無駄話は終わりだ」
「っく!!!」
完全に先ほどの会話で警戒がおろそかになっていた御坂美琴は反応が一歩遅れる。
後はこのまま爆発させれば……
「ッグ!!!!!」
突然自身の演算が一瞬乱れる。そのせいで爆発が少し遅れ、
「つーかまーえーたー!」
猛スピードでこちらに突っ込んできた御坂美琴に体をがっちりとホールドされる。
「ゼロ距離からの電撃……あのバカには聞かなかったけど流石に効くでしょ?」
「っく!」
念動力で周囲の物を自分事御坂美琴にぶつけようとするが、
「遅い!」
それよりも早く彼女の電撃が木山の体を流れる。
「がああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
木山はその一撃で地に伏した。