『センセー』
『木山センセー』
声が聞こえる。
遠い昔に感じるような記憶。
――私は子供が嫌いだ――
「私が教師に?」
「君は確か教員免許を持っていたよね?」
所属している研究チームの所長室に呼び出された私は困ったことになっていた。
すでに初老は過ぎ還暦も越えているであろうしわだらけの老人に所得単位で取れた教員免許を盾に施設で育てている
――厄介なことになった。だが、とにかくこの実験を成功させるまでの辛抱だ――
――子供は嫌いだ。騒がしいし、デリカシーがないし、失礼だし、悪戯するし、論理的じゃないし、なれなれしいし、すぐに懐いてくるし。――
『センセー』
『木山センセー』
『私たちはこの街に育ててもらっているから、この街に役に立てるようになりたいもん』
――全く論理的ではないな。研究の時間の無くなるしいい迷惑だ。……だがこれも、悪くわない――
「怖くはないか?」
生徒たちを専用のカプセルの中に寝かせる。
――『AIM拡散力場制御実験』長い期間を掛けて準備してきた実験だ。何の問題もない。これで先生ゴッコもおしまいだ――
『うん!だって、センセーのこと信じてるもん』
実験の経過を見届けるため二階の監査室へと上がる。
――これでおしまい……私は子供が――
そう思っていると視界に生徒たちより4,5歳ほど年上と思われる少年が入ってきた。顔は長く伸びた赤髪でよく見えないが遠くからでもわかるほど顔色は良くない。
少年はそのまま生徒たちのいるカプセルへ近づいていく。
「教授――あの少年は?」
「ああ、
実験の効果を高める?生徒たちの体調を安定させるというところだろうか?しかし
少年が生徒の一人が眠っているカプセルの前に立ちその右手をガラスを経て生徒の頭に添える。
『ううう…ああアアアアアアアアアアアアアアアアアア』
その瞬間生徒の顔がみるみる苦しそうになり悲鳴を上げた。
「バイタル異常!!!」
「脳波が乱れています!!」
「AIM拡散力場が!!!」
同僚の怒声や悲鳴が聞こえる。
一瞬、訳が分からなかった。しかし、すぐに教授に詰め寄る。
「一体彼は何をしているんです!!??すぐにやめさせてください!」
「落ち着きなさい」
とても落ち着いた表情で老人は私をなだめる。
「限界です!早く病院に連絡を!?」
「いいからいいから。君たちはデータを取りなさい」
私と同じく慌てる研究員を老人は笑いながら制して研究を続けようとする。
そうこうしている間にも少年は2人目3人目と次々と生徒に触れていく。
「ああアアアアアアア!!!やめろォーーーーー!!!」
暴れる私は他の者に無理やり取り押さえられ、ただ見ていることだけしか出来なかった。
次々と信号が途切れる生徒たちの中その少年
「!!???い、今のは……」
「フーーッフーー……ック、観られたのか……!?」
木山春生は頭を押さえながら膝をつき、御坂美琴を睨む。
電気能力者の力なのか電撃を流した際に一部の記憶が相手に流れ込んでしまったようだ。
「ク、フフフフフフフフフ」
その事実に気づき木山は堪え切れないというように笑い出す。
「これで分かっただろう?
「何であんなこと……」
「あの実験の正体は『暴走能力の法則解析用誘爆実験』そして
その事実を知った木山は何度も何度も学園都市上層部に取り合った。しかし、
「人体…実験…だ、だったらそれこそ警備員に……」
「23回だ。あの子たちの恢復手段を探るためそして事故の原因を究明するシミュレーションを行うために『
そういいながら木山はヨタヨタとふらつきながら立ち上がる。
「統括理事会がグルなんだ警備員が動くわけがない!だから私は決めたんだよ!あんな悲劇はもう二度と繰り返させはしない!……だから、私はその元凶をつぶす!」
もう少しであの悲劇を作り出した元凶を倒せる。今の木山が立ち上がれるのはそのたった一つの執念がなせる業だった。
「じゃあ、あんたの目的は……」
ここまで説明してやっと自分の目的が最早生徒たちの恢復ではないことを御坂美琴は理解したようだ。
木山は彼女の後ろに立つ人物に自分の目的を告げる。
「あの研究の真の目的を知っていた人間のデータは完全に隠ぺいされていて、ここ数年全く尻尾すら掴めなかったよ……結局君にしか辿り着けなかった……だが、君さえ、君の能力さえ使い物にならなく出来れば……もうあんな悲劇は繰り返させない!!!」
木山の視線の先の人物がだれであるか察した御坂美琴も振り向く。
「……全く。この俺を消すためだけにこんな大がかりを用意すらたぁ……ご苦労なこった。そんなに殺したいなら、言ってくれりゃあいいのに」
「あ、あんた……」
その姿を見た御坂美琴は絶句する。何故なら現れた人物は今にも倒れそうなほどふらついていて、額からは大粒の汗が流れ出ており、そして何よりその他にはいま彼女が戦っていた相手が作り掌握している幻想御手があったからだ。
「
「ま、そんなこと言われたら、全力で逃げるけどな!!!!」
秋瀬七実は大粒の汗をかきながら今回の一件の黒幕と向かい合っていた。
木山春生――かつて
「自ら幻想御手を使ったか……」
自分の手には彼女が作った幻想御手が握られており、それを自ら使ったことで秋瀬七実の脳は普段以上の負担が掛けられていた。
「あ姉さま!!」
秋瀬七実から少し遅れて御坂美琴の後輩であり、風紀委員でもある白井黒子が御坂美琴の袖をつかみ秋瀬七実の後方に空間転移する。
「黒子……あいつなんで……」
なぜ、自ら的の術中にはまるような真似を……と、考えたところで気づく。先程木山の能力の発動が一瞬遅れた時のことを。あのまま至近距離で爆発を受けていたらいくら自動防御があるとはいえ自分でも危なかっただろう。
(まさかアイツ……それだけのために!?)
たったそれだけのためにあの男は自らをこんな危険にさらしたのだろうか。
「てめえに隙を作らせるためなら安いもんだ……このくらいいつもと変わらんし」
そんなはずはない。いくら
「それに噂の幻想御手を使ったんだ強度が上がって逆に心地いぜ!」
彼は後ろにいる御坂美琴と白井黒子を安心させるように飛び跳ねたり、まわったりと今にも倒れそうな体で精一杯アピールする。
「そんなわけないだろう。すでに幻想御手はその役目を終え、本来の巨大なネットワークを作るというプログラムに移行している。……しかもそれはより繋がりを強固にするためにホストである私以外の意識を刈り取る様になっている。……つまり今君に掛かっているのは学園都市1万人分の負荷だけだ」
「ああ、知ってるよ。さっきから、『努力しても報われない』だの『結局才能のない奴らじゃだめだ』だのごちゃごちゃ人の頭の中でわめきやがって!!そんなこと知ったっこっちゃねえんだよ!」
だから、と秋瀬七実は続ける。
「木山春生……てめえを倒してこんな茶番は終わらせる。そんでもって、後のことはこいつらに任せる!」
自らの後ろに控えている白井を指さし、その右手を構える。
(右手!?)
その動作に秋瀬七実の姿がとある少年と重なった御坂美琴は驚く。
「
そしてその自らの能力名を唱えた瞬間秋瀬七実は走り出す。
「っく!!」
木山もそれに応じて周囲に落ちていた石ころや鉄骨を秋瀬七実に向けて飛ばす。
「!!??」
しかし、その全てが秋瀬七実とは見当外の方向に跳び、その歩みを止めることにはならなかった。
「演算を狂わされているのか!!」
「ああ、そうさ別にこの腕が触れなきゃ大した効果はねえってわけじゃねえ!第一ノイズを流すのには最適な環境があるじゃねえかよ!」
「幻想御手!?そうか、最初からそのために!?」
1万人の脳を使ったネットワークである幻想御手に外からノイズを流し込んでも、先ほどのスキルアウトの時より完成している木山には効果は薄い。ならば、自分がそのネットワークの中に入ってしまえばいい。外から侵入してくるものには対処できても内側から広がるノイズには対処なんてできやしない。
「だが私は!!」
木山の攻撃をすべて避け、その頭に直接ノイズを流し込める位置まで来た秋瀬七実は迷わずその頭をつかもうとする。
「こんな簡単に終わるわけにはいかない!」
秋瀬七実からは完全に死角……木山たちの足元に落ちていた空き缶が不自然な収縮を始める。
完全に使用者である木山自身をも巻き込むその一撃は彼女の意思に応じるように今までの中で一番の破壊力を見せようとする。
「まずい!!!」
それを唯一確認した御坂美琴は咄嗟に二人の足元の砂鉄を操りその体を強制的に吹き飛ばす。
「っぐ!!!」
「がっ!!!!」
その直後二人の立っていた地点はドッゴーーン!!と爆音を立てて爆発し、円形のクレーターを作る。
「はあはあ!
吹き跳んだ衝撃で柱に体を強打した木山はそれでも立ち上がる。ズキンズキンと響く頭を押さえながら。
「それでも!!あんな悲劇を二度と繰り返さないために君を倒す!!そのためなら何だってする!もう私はこの街の全てを敵に回しても止まる訳にはいかないんだ!!!!!!」
ズグンッ!!!
「ぎあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
その瞬間木山は脳が割れるような痛みと共に自分の中から何かが生まれるような感覚に陥った。
「がッ…ぐ!こ、これはネットワークの暴走?いやっこれは……
ズギョオオオオ!!!
次の瞬間には木山の頭の中からおよそその中には入りきらぬであろう質量を持った『何かが』生まれた。
「は?」
木山が倒れると同時に現れたモノを見て御坂美琴は一瞬思考が停止する。
(胎児?こんな能力聞いた事ないわよ。
「秋瀬さん!!」
「!?」
そうまで考えたところで後輩の悲鳴を聞き振り返る。
美琴の力により自分たちのさらに後方まで吹き飛ばされていた秋瀬七実が先程の木山と同じように苦しんでいた。後輩が駆け寄るが全く気付かないようにただ一心不乱にその生まれたばかりの『モノ』を見つめていた。
ズキズキと痛む頭を押さえながら、ただそれを見据える。
「《
「あんたアレが何か知ってるの?」
御坂美琴の声が聞こえる。
「……さあな。とりあえず放っておいたらマズいのは確かだろ」
その胎児――
「あ、あれアンタを狙ってない?」
「ま、まあな。多分ネットワークに繋がっていながらまだ意識がある俺のせいで不完全なんだろ。多分俺が眠れば完全体になると思うが試してみるか?」
美琴を指差し秋瀬七実は笑う。電撃で気絶させろとでもいうのだろうか。手を合わせながら上目遣いで「やさしくしてね」とも呟いている。
「冗談でしょ?なんでわざわざ私が」
「じゃあ、俺を全力で守るんだな。お前が気絶させてくれないと俺多分アレに殺される羽目になるから」
「はっ!?」
その瞬間
「フンッ!!!」
それが届く前に全開出力の電撃で丸ごと消し炭にする。
「ヒュウ、やっぱ全力は違うねえ。さっきのはかなり手加減してたわけだ」
「当たり前でしょ」
人間にこんなものを使えば文字通り消し炭になってしまう。
「そりゃそうか。そんなの普段から使ってたらお前なんか3日と経たずに殺人犯になってるもんな」
「どういう意味よ!!!」
「そのままだっての!」
「まあまあお二人とも落ち着いて下さいの。まずはあれを何とかしませんと」
ビリビリと発電する美琴と挑発する秋瀬七実を白井黒子が宥める。
「じゃあ、超電磁砲はあれが俺に被害を及ぼさないように足止めで、白井は上で倒れてる連中の避難を」
速攻でこの最高戦力の役割を決める。これ以上ないくらいの采配だ。
「一応俺がいる以上大丈夫だと思うが……向こうは原子力発電所だからな。気を付けろ」
自分たちのはるか前方を指差し秋瀬七実はニヤリと笑う。
「……マジ?……っていうかあんたは何するのよ」
勿論逃げると言いたいところだが、
「そりゃあまあ、こっちはこっちで決着をつけねえとなあ!!!」
そこには、
次回はいよいよクライマックス!!!