「まったく、なんなのよこれは――!!??」
御坂美琴は戦闘当初よりはるかに巨大になっていた
雷撃の槍は
(攻撃は一応通るけど、なんか吸収してるみたいなのよね……でも、さっきは攻撃しなくてもいきなりデカくなったし……ああもう!どうすればいいのよ!)
当初からそれなりにデカかった
「お姉さま!」
黒子が高速道路の上から(と言っても既に
『グギャアアアアアアアアアアア!!!!』
一応効果はあったのかその動きが止まる。
「ナイス黒子!……これで、どうだーーー!!!」
そのスキを逃さず、ポケットから取り出したコインを放つ。
必殺の超電磁砲……それは
しかし、
『ghp痛ftm』
「……マジ?」
反撃で繰り出された触手を回避しながら、御坂美琴は内心かなり参っていた。ゲームセンターのコインを使っているのでイマイチ火力が少ないとはいえ、
それが効かないとなると、
(あとは撃ちだすものを大きくするとか……でも、さっきから結構能力使いまくってるから電池切れ気味なのよね……コインより大きいもの……例えばさっきの鉄骨とか使ったら多分もう超電磁砲はしばらく撃てない……)
超能力者とはいえ、一日に使える能力には限りがある。御坂美琴にとっては電池切れだ。基本的に超電磁砲を一日十発程度撃っても何の問題も無いが、それは燃費のいいコインを使っているからであってそれ以上の質量の物を使うとなるとそれに比例して能力の消費も大きくなる。
特に今は、最初に木山と戦った時から全く休み無しで連戦しているので、体力的に後一回大きいのを撃つとかなりヤバい状況になる。
「流石に超電磁砲を撃てないと話にならないか……でも、撃ったとしてもさっきみたいに回復されちゃあ……」
一旦退いて体力を回復させるという手もつかない。この化け物は現在近くにある原子力発電所ではなく(そっちに向かわれても困るのだが……)、自身を形成するネットワークに唯一完全に取り込まれていない人間――秋瀬七実を狙っている。
あの少年曰く、自分を取り込んだら
「まあ、こいつが攻撃した相手の方に一瞬でも注意が向くってのが救いよねえ……」
現在は御坂美琴と白井黒子、そして彼女が救出した警備員達の攻撃で何とか動きを止めているといったところだ。
幸い
(しっかり決着つけてきなさい!)
木山春生との戦闘で彼女の記憶を垣間見た御坂美琴は彼女が秋瀬七実の能力『
(昔はどうだったか知らないし、今も能力を使うときはこっちが引くくらい無表情な時もあるけど……それでも私や黒子をアイツは助けようとしてくれた。やり方も原因もアレだけど、今のアイツは他人を何も考えずに壊せるような器用な人間じゃないって私は信じる事にしたのよ)
ここに来る前に後輩から、『秋瀬さんに助けてもらいました』的なことを聞き、どこかのツンツン頭を想像したのだがそのやり方はあの右手で何もかも救ってしまうあの男と違い不器用で、乱雑でとても褒められるような手段ではなかったと聞き、御坂美琴は秋瀬七実と初めて出会った去年の大覇星祭を思い出した。
あの時も理由はどうであれ、暴走した自分の能力を全て吐き出させあの男は自分を救おうとしてくれた。……当時中学一年生の御坂美琴的には、能力を使うのに必死になるあまり、全ての感情を削ぎ落として能面のようになったその顔を見て、1年近くトラウマになり、自分が能力を使うときは無意識に感情的になるようになったのだが……それは抜いて自分の知っているあの秋瀬七実という男はそういう男だ。今はそれを信じる。
そのためには、ここでこの怪物をどうにかしないといけないわけだが……
「おーおー、やってるやってる。っていうかすごいなこれ!?」
ここで聞こえてはいけない声がする。
後ろを振り向くと、今自分たちが必死に守っているはずの男が、まるで野次馬のように巨大化した幻想猛獣を見上げていた。
「アンタなんで!………決着はしっかりつけて来たんでしょうね?」
「当然だろ?あんだけ熱烈なラブコールをされちゃ、いくら万年負け犬でヒーローとは程遠いRPGで出てきたらかませか雑魚敵確定の
「っそ(あんたはRPGなら経験値もお金も大したことないくせに状態異常ばかり掛けてくるモ〇ボル的な何かよ)」
全身ボロボロの姿と、とても他人を壊すとかどうこうしたとは思えないほどスッキリとしたその顔に、御坂美琴は割と酷いことを考えながらひとりでに納得する。
そう……全身至る所から出血し、着ている自分の所とは違う所の名門校の制服は破れてゾンビみたいになって、ふざけて押し倒せば二度と立ち上がれないんじゃないかというくらい満身創痍のその姿を見て……
「ちょっ!アンタ本当に大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫。全身ボロボロで死ぬ一歩手前になってからが俺の本番だぜ!」ゼーヒュー、ゼーヒュー
とても大丈夫では無い呼吸をしているが、目の前の
「上にいる役に立たない援護射撃をしている白井と警備員共ぉ!って、あぶねえ!鉄矢飛ばしてくんな!すいません!言い過ぎました!あのう……こっちはいいんで一度木山の車の中を捜索してもらえないでしょうか……多分役に立つものがあると思うんで……」
「アンタなんか考えあるの?」
「当然!イイこと思いついた。これは俺達にしか出来ない事だ……(っていうかここまで大きくしたのってもしかしなくてもさっきの
「アンタなんか言った?」
「いえ、何にも言っておりません!(逃げてえ~……今すぐ責任とか全てほっぽり出して逃げてえ~)っし!」
ぶつぶつ何かを呟いていた秋瀬七実は先程見た時より何故か幾分か元気になった姿で宣言する。
「っていうかさっきから痛いだとか苦しいだとかうるせえんだよ!テメエらが望んでやったことだろうが!今からそのお仕置きって意味も込めてたっぷりその体にノイズをぶち込んでやる!」
『グギャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』
……先程から叫び声かノイズ交じりの変な悲鳴(?)しか上げていない
『gsj苦pd(苦しい助けて)』
(まったく、嫌になるな……)
その声は大体才能に恵まれなかった無能力者たちからの声で、『能力が使える奴が羨ましい』だとか『自分も能力が使いたい』から始まり、『何故能力を使いたかっただけなのにこんな目に遭わないといけないんだ!』、『理不尽だ助けてくれ』に終わる。
それが約1万人分(勿論その中には無能力者じゃない奴らもいるが大体『もっと強い力を使いたい』とか『超能力者になりたい』とかいう高望みばかりなので大して変わらない)流れてくるので先程の木山戦も実はあまり集中できなかった。……もっとも、いつも聞いている街の
「まったく、自分の意志で使ったくせに勝手なこと言いやがって……まあ、その気持ちはわからなくねえよ。俺だって、いくらこの能力が不便だからって能力を手に入れちまった以上今更手放すなんて事は出来ないしな……だからイイこと考えたんだよ、俺」
「……アンタ今すぐ鏡見た方がいいわよ。自分がそれだけ悪い顔してるかわかるから」
「うるせえな!人格破綻者揃いの
隣で秋瀬七実の代わりに飛んでくる触手を消し飛ばしながら御坂美琴が茶々を入れてくる。
それを華麗にスルーした(?)秋瀬七実は意識を自身が繋がっているネットワークに集中する。
(俺のノイズはさっきの
ノイズというのは元々情報処理の過程で発生する無駄な情報――雑音の総称だ。当然それは様々な情報を処理するネットワークには無数にある。それは人間同士を繋ぐ幻想御手としても例外ではない。普段の……自分の出すノイズですら処理できない状態ならともかく、今は残量ゼロ且つ体晶効果で処理能力がかつてないほど上がっているため、ネットワークのノイズを拾い上げることなど容易い。
秋瀬七実は拾い上げたノイズをまるでコンサートの指揮者のように自在に操りながら言う。
「ズルして楽をしようとしたお前らに罰を与える。……テメェが言った泣き言をテメェで聞き続けやがれ!!」
そして本来は接近用だったノイズを先程の要領で一気に
『グギャアアアアアアアアアアア!!!!(苦しい、うるさい、なんだこれは、誰だ泣いてんの!?)』
けたたましい悲鳴とは裏腹に、秋瀬七実に聞こえてくるのはパニックに陥った有象無象の悲鳴だった。
(やべえ超楽しい!!)
自身のノイズの影響を喰らい演算に支障をきたす高位能力者とは違い、普段は大した被害もなくただうるさいくらいにしか感じない無能力者たちは、ぶっちゃけ秋瀬七実からしてみれば能力が効くし数も少ない高位能力者たちより恐怖だった。数がいる分……というか学園都市の殆どが無能力者な為常にビクビクしていた身としては今の状況は非常に愉快だ。
………流石は学園都市最低……ブレない。
「なんだ結構アンタやるじゃない!」
秋瀬七実の内心や
それを横目で見ながら秋瀬七実は最大限の共感を示すように優しく言う。
「ああ、それと気持ちはわからなくないって言ったからな。例え得体のしれない道具に頼ってでも力を得ようとしたお前らにご褒美だ……よっと!」
苦し紛れで放たれる触手を体を回転させて回避した秋瀬七実は、正面を向きざまにその
「別に俺のは右手限定じゃねえんだよ!」
誰かにあてつけるように再びノイズを浴びせる。
このノイズは最初に撃ったモノとはまったく別種のノイズで、特別な……秋瀬七実オリジナルの力だ。
『俺の
ノイズに乗せた御坂美琴には聞こえない特殊な言葉を幻想猛獣に強制的に聞かせながら笑う。
『お前らの欲しがっていた能力をちょっとだけ使わせてやるよ……ただし俺のは
そういう意味ではネットワーク全体にすでに二度以上流されている彼らの感染率ははっきり言って彼ら的に言うと絶望的だった。
『本来は
「そんなこんなでそろそろ時間だし、まあ多分だけどその状態で練習すれば前より幾分かは演算はうまくなるから精々重力が何倍にもなる部屋で修行する気分でがんばってよ!」
どこからか五感に直接問いかけるような音楽が聞こえてきたのを確認して、秋瀬七実は最後に口に出しながら彼らにエールを送る。
「ちょっといきなり何訳のわからない事言ってんのよ!それにこの音楽……」
「多分木山が作った幻想御手の治療ツールだろ。白井達が見つけたらしいな。あのセンセーは優しいからこんなのも作ってたわけ……それすら捨てて俺を攻撃してきたけど……ま、今までのは時間稼ぎ(と嫌がらせ)でこれを待ってたんだよ」
その音楽が流れた途端幻想猛獣の驚異的な回復力は衰え、徐々にその身体は崩壊していく。
しかし、
「でもこれじゃ終わりそうにないわね……」
「ああ、多分誰かが核を破壊しない限り終わらねえよ……因みに俺他人を苦しめること出来ても直接的な破壊力はないから」
「そう、じゃあ私が……って言ってもこっちも電池切れ間際であれをやれるかどうか……」
いくら回復力が衰えたとはいえ、元々肥大化していた幻想猛獣は超電磁砲一発で倒せるかは微妙なところだ。
「……仕方ねえか。こいつはあんまり使いたくねえんだがしょうがねえ!ホントにホントの奥の手だ!」
溜息をつきながら秋瀬七実はボロボロの身体を奮い立たせる。
「『
そして自身の身体から圧倒的なほどの……それこそ幻想御手中のノイズを吐き出す。
「ゲホゲホッハア……流石にキツイ。まあ、半径一キロってところか。さすが一万人……桁が違うぜ!……俺一人で出してたらどうなっていたことか」
「グウゥゥゥ!!!アンタなんてモノ出してくれてんのよ!!」
一応人体にはあまり影響が無いようしたが流石に隣にいる超電磁砲には結構きついらしい。
「いや、これあまり見られると……ま、見られるのはいいんだが映像に撮られるのはまずいんでな」
「あんた何言って」
そういう御坂美琴の手を制してそのまま秋瀬七実はその右手を向ける。
「《逃げる事の本当の意味を知れ(Effugere773)》!!」
突然秋瀬七実は大きな声で叫び出す。
(英語じゃない!?これは……)
そう御坂美琴が思った瞬間に不思議なことが起こった。
「アッぐ!!!な、なにこれ!?力が……」
今まで自分が出したことの無い力……その出力は自分の出せる最大出力を大いに上回っている。
「お前の能力を意図的に暴走させた」
「ぼ、暴走って!!??」
それを聞き思い出されるのは去年の大覇星祭のことだ。しかし、今感じているこれはあの時とは似ているものの全く違う。
(確かに暴走している感じがするのに、いつもより自由に能力を使える気がする)
「あんまり長く使えないから単刀直入に聞くぞ。やれるか?」
「当たり前でしょ!?」
気合と同時に出た雷撃の槍でその巨大な幻想猛獣の身体の二,三割を消し炭にしながら答える。
「そうか、じゃ俺は巻き込まれないように後ろに下がるわ」
そう言って秋瀬七実は御坂美琴の真後ろに下がる。
「じゃ、遠慮なく!」
邪魔な触手を全て自動防御の雷撃で打ち消し、コインを構える。
「暴走は巨大な力を生み出す代わりに制御を失う、では完全に制御された暴走は単純に人間の限界を引き出すってことになるんじゃないか。ま、そんなの最早暴走とは言えないがな」
次の瞬間、あまりの出力に撃ち出したそばから燃え尽きそうになる一筋の弾丸が、幻想猛獣の肉体を全て消し飛ばして、その中にあった核を破壊した。
木山春生は警備員の護送車へ連行される途中、本当に死んでいるのではないかと錯覚するほどボロボロの少年と、それに比べると割と軽傷な少女が揃って倒れているのを発見した。
多分正確には寝かされているのだろうが二人とも仰向けではなくうつ伏せに倒れている。
「どうしたんだ?」
取り敢えず尋ねてみると少女が身体が動けないのかピクピクと痙攣にしたように、
「……電池切れ」
と答える。
「私はなぜそんな体勢なのか聞いているんだが」
そう言うと少女は動かない体の代わりに、ほんのちょっと電力が残っていたのか、髪の毛をアンテナのように立たせて、動かない少年を指す。
「……ここまで私を運んで力尽きた」
「ほう」
どう考えても少年の方が重傷なのだが、この少女を担いで下からここまで上がってきたという事は、やはりこの少年は木山が思っていたものとは全然違うお人好しなようだ。
自身の頭を未だに流れるノイズを感じながらフッと笑う。
『センセー頑張って!』
どうやら彼の放った攻撃のおかげで教え子の一人が持つ
「いや、奇跡なんて無い……か。そうだな私が必ず」
「え?」
その呟きを聞いていた少女が不思議そうに聞き返す。……体は動かせていないが。
「何でもない……いや、一つ伝言をその少年に頼もうか。『君は謝る事も自分が立ち向かう事もしないと言った。だから私も君に礼は言わない。……君のやったことは決して消える事でも許されることでもないから……しかし、君からもらったこれを使って私は絶対に目的を果たしてみせる』とな」
「あんたまだ!?」
その言葉を聞いた少女は立ち上がろうとする。
「いや、もうその気は無いよ。別の正しい方法であの子たちを救ってみせる」
「あ、っそわかったわ」
その一言で安心したのか再びうつ伏せになる。その体勢が楽なのだろうか……それにしてもたった一言で信頼するとは、この娘も大概なものだ。
「……それにしても人間の脳でネットワークを構築するって突拍子もないアイデアをよく実行に移そうとしたわね」
護送車に乗りかけた私をその一言が引き止める。
そうか、この少女は何も知らないのか。
「幻想御手の理論はすべて君から得たものだ」
「は?私そんな論文書いた覚えないわよ」
「そうじゃない。君のその圧倒的な力を以てしても抗えないものがある。……そう、君も私と同じ、限りなく絶望に近い運命を背負っているという事だ――」
「……何言って」
全く状況が呑み込めていない少女だが木山は続けて言う。
「だが、どうしても自分一人で立ち向かえないときは一人で背負い込まない方がいい。かといって突然現れた紳士のような男に騙されては駄目だぞ」
何を言っているんだ私は、と、自分も
「そうだな、そういう時はそこに倒れている彼に頼みなさい」
「は?なんで」
「彼は君に比べて低いのか高いのかよくわからないレベルだが、おそらく君の知らないこの街の本当の姿を知っている。普通に聞いても話してくれないだろうが、君なら別かもしれないぞ。……彼は気付いていないようだが私にも彼の
「んな!!!」
振り返らずともわかるほど少女の顔がみるみる赤くなっているのを楽しみながら、木山は警備員の指示で護送車に乗り込む。
「それと、、興奮しているようで悪いが先程から鳴っているのは彼の携帯ではないのか?」
横目でこちらに向かってくるツインテールの風紀委員の姿を見ながら木山は車に乗り込むのであった。
こうして
事件の裏に潜む黒幕の姿に気付くものはいない。
あれ、ナナミンはフラグは基本立てないんじゃないの?
ナナミン「うるせえな!ありゃ無意識だし、超電磁砲の名前とは誰も言ってねえだろ!勝手に勘違いされて後で知らないうちに振られる身にもなってくれ!」
???「おやおや、面白い話ですね。私も混ぜてください」
ナナミン「うるせえ!名前バレしてんのにひたすら《男役》で出やがって!」
ま、それはそれと言う事で。次回は黒幕サイドのお話をはさんで、いよいよ……いよいよ本編開始です!