とある科学の劣化魔導   作:fukayu

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サミット 中編

統括理事会の面々が消えたことで残ったのは、お人好したちの下らない妄言を淡々と聞いていた木原一族数人と統括理事会側でただ一人残った貝積のブレインこと雲川芹亜だけだった。

木原一族は当初もう少しいたのだが、会合が進むにつれ次々と回線を切断していった。そもそも彼らの目的は様々な研究に手を出す木原幻無が自分たちの邪魔にならないか確認する事であり、もし邪魔になるのなら容赦なく殺すつもりであった。しかし、統括理事会との話で自分たちとは関係が無いと理解した者からどんどん消えていったのである。彼らにとって学園都市最低の爆弾が爆発したところで特に関係はない。勿論自分たちに被害が出れば爆発させた者や幻無はもれなく殺すが、それ以外は新しい研究材料が増えるだけなので特に問題はない。

ここに残った面々もその事が理解出来なかった者達等ではなく、それ以外の事で幻無に用事がある者達である。

 

『まあ、五月蠅い者達が帰ったところで例の話をしようか』

 

木原幻生が口を開く。

 

「ああ、幻想御手や幻想猛獣の話ですね?」

 

『とぼけんなや幻無…テメエが必死に隠してた3つ目の映像の事だ』

 

『後はあの体晶を精製した置き去り達についてですね。確か、テレスティーナが使いたがっていましたよ』

 

木原数多と木原病理の二人が別々の案件について尋ねる。話に出た木原一族と思われるテレスティーナはこの場にいない。どうでもいい事だが、この二人同じ木原なので本質は同じなはずなのだが、本性を隠そうともしない数多とまだまだ奥の手はありますよと言ったラスボスみたいな病理……それぞれ第1位と第2位の超能力者に割と関わるだけにあまり仲は良くなく、言ってる事もまるで違う。

 

(残ったのはこの3名ですか……)

 

幻生もそうだが、この三人は皆木原という存在を象徴する人間たちだ。研究の為なら他人をモノのように扱い必要なら表に出て直接戦闘もこなす。木原でありながら、比較的自分の育てた研究成果(アイドル)達を大切に扱い、尚且つ決して表に出ない黒幕タイプの木原幻無としてはなかなかに絡みずらい者達ばかりだ。これなら早々に帰った同じ黒幕タイプの木原唯一や動物だからという理由で出来んを食らっている《ゴールデンレトリバーに演算回路を外付けしただけ》というぶっちゃけ喋る犬な木原脳幹が居てくれた方がまだマシだ。

幻無は一筋の希望に縋る様に同じ陰で暗躍するタイプの雲川芹亜の方を見るが彼女のモニターに映った黒いカチューシャのアイコンはピクリとも動かない。どうやらこの会合を最後まで見届けるために残っただけのようだ。

 

(まあ、居る分には終了時までこちらからどうこう出来ませんからね)

 

それにしても木原が4人もいるこんな異様な空間に一般人である彼女が残るとは大したものである。

 

「では病理さんからの質問ですが……諦めて下さいと言っておいてください」

 

『諦め』を司る彼女にピッタリな伝言を託す。

 

「彼女がやろうとしていることはわかります。体晶を使った実験ですよね?そして恐らく絶対能力進化(レベル6シフト)級の……」

 

『そこまでわかっていながらどうして拒否するんです?絶対能力進化(それ)はあなたにとっても望むところでしょう?』

 

『まさか他人に取られるのは嫌だってかァ?それだったらテメェもずいぶん丸くなったもんだな?伝言なんて頼みやがって……以前ならそんな事言う奴ごと実験材料にしていただろうが!!』

 

「何を起こっているのです数多君?私はただ忠告しているだけですよ?正直絶対能力(あんなもの)誰がやっても同じですし……」

 

現在幻無も同じ実験(こちらは学園都市第一位を使ったものだが)しており、結局は辿り着く場所は同じであるため特に幻無がやらなければいけない事でもないので他人がやっても構わない。というより、あくまで幻無のメインは能力障害(AIMノイズ)であり絶対能力進化(レベル6シフト)は他人から押し付けられたものなので代わりに誰かがやってくれるのであれば万々歳だ。第一2万通りの実験など面倒なだけだ。……妹達のスケジュール管理が楽しいので手放す気はないが。

 

『チッ俺は元々こんなテンションなんだよォ。』

 

不貞腐れる木原数多を尻目に幻無は続ける。

 

「無駄だからですよ。その実験は成功などしない。樹形図の設計者に聞いてみても同じことを言われるでしょう。だから、拒否します。最初から失敗するものに価値など無いですからね」

 

『何故だい?木原(僕達)ならその失敗こそが価値の有るモノだろう?実験と言うのは限界までやってこそだよ?』

 

そう、そこなのだ。彼ら一般的な木原と幻無の違う所は研究対象を限界まで追いつめて壊すか否かだ。幻無もかつては彼らと同じようにいや、それ以上壊してきた。今も必要ならするが、プロデューサーとしての使命に目覚めたため必要以上にアイドルは傷つけはしない。

 

「いえいえ、それは得られるものがあってこそですよ。そもそも体晶というのは幻生さんが作ったものと私の能力障害が作ったものの二つがありますが基本的に性能は私の方が上です。何せ専用の能力を使っていますからねえ。と言う事はその実験に使われるのは恐らく能力障害産でしょう。……それでは駄目なんですよ」

 

体晶が引き起こす能力の意図的な暴走は確かに平常時とは比べ物にならないパワーを生み出す。しかし、体晶では劣能力者(マイナス)を利用したものでは絶対能力者(レベル6)には到達できない。

 

「そもそも私の作った劣能力者(マイナス)は他の無能力者から超能力者までと違い『天上の意志』など目指していませんからねえ。我々が目指しているのは変わらないもの(絶対)というよりは有り得ないもの(可能性)ですからね。絶対には成り得ないのですよ」

 

仮に出現してしまえばやる事成す事全てが絶対となる『絶対能力者(レベル6)』ではなく、出現すればこの世の全てが有り得ない事として処理される『可能性(ナニカ)』を目指す。

その発言にこの場の全員が黙る。解を求める科学者としては絶対という言葉は確かに面白くはない。しかし、全ての結果があやふやになるソレは果たして実験と言えるのだろうか?

 

『ククク、アハハハハハハハハハハ!!!!』

 

木原数多が笑う。続けて声にならない笑みを浮かべる病理、かつて木山春生が見たモノよりはるかに邪悪な笑みを持つ幻生。三人の木原がそれぞれの最高の笑みを浮かべる。

 

『いいよ、いいよ。幻無君是非やりたまえ。全ての結果が有り得ないことになる世界そんな世界になれば僕達にとっては楽園だ』

 

ただの科学者ならば自分が必死に組み上げてきた理論が有り得ないの一言で瓦解するなど耐えられないだろう。しかし、彼らは『木原』は違う。例え既存の枠組みが全て崩れたとしても彼らは笑顔で新たな研究をする。可能性(ナニカ)が生まれた世界は彼らにとっては自分たちの遊べる玩具が増えたくらいの感覚でしかないのだ。

 

『わかりました!それではテレスティーナにはその子たちについては諦めてもらいますね!期待していますよ幻無先生!!』

 

上機嫌で帰っていく木原病理。

 

『まァ、そういう事なら構わねえけどあのガキがこっちの邪魔するようなら殺すぞ?』

 

「ですからそれをすれば……」

 

『それも面白そうじゃねえか!そもそもそうなった場合責任取るのは俺じゃねェしな』

 

「やれやれ」

 

呆れたことを言いながら木原数多は強制的に回線を切断する。こちらから繋がらないところを見ると爆破などであちらの機器事破壊したのだろう。

幻無は最後に残った木原に向き合う。

 

「さて幻生先生は何かありますか?」

 

『そうだねえ。しいて言うなら、別に研究自体はしてもよかったんじゃないかい?たとえ失敗しても得るものが無い訳では無いだろう?』

 

「フフフ、流石に鋭いですね。ですが駄目です。あの子供たちは木山春生へのご褒美です。プロデューサーたるもの頑張ったアイドルへのご褒美は欠かせませんからねえ。正直幻想猛獣(AIMバースト)を生み出した後に立ち上がれるとは流石に思いませんでしたよ」

 

本来なら彼女の役目は幻想猛獣(AIMバースト)を生み出した時点で終わりだった。後は、幻想猛獣(AIMバースト)に対して能力障害が覚醒するかたとえしなくても超電磁砲が処分してくれるはずだったので今回木山による秋瀬七実の覚醒(変化)は幻無のシナリオから抜け出したものだった。

 

『なるほど。やはり君は変わったねえ。昔の君ならそのあと彼女の生徒たちも合わせてもう一回実験でもさせようとしていたと思うのだが』

 

「……確かにそうですね。ですが、私は触れてしまったのですよ。直接ではありませんが、この世の不条理がもたらすものに……」

 

幻無の研究の先にあるもの……この世界の常識そのものを覆す真理。それに触れた時木原幻無の価値観は一新してしまったのだ。

 

(そしてソレは能力障害が……秋瀬七実が不条理から逃げずに立ち向かおうとした時に現れる。しかし、今出現させても制御する手立てはありませんからねえ。今回は少々危なかったですが……私のシナリオ通りにいけば必ず制御できる。そのシナリオに体晶を使用した絶対能力進化など存在しないのですよ)

 

幻無の頭にはアイドルの育成と研究の事以外のモノはない。ただただ、人の命を……人生を操り、壊し、狂わせる。それが彼の『育成』という個性が木原という一族が背負う『科学を悪用しなければならない』という宿命により歪んだ姿だった。だからこそ彼は自分の持つ技術の全てでアイドルたちを育成し、その技術が足りなければどんなものにだって手を出す。

アイドルの数が足りなければクローンを、アイドルの寿命が足りなければ不老不死を、そしてアイドルを次の段階へ引き上げるためなら彼らに必要な敵を用意する。

だが彼のアイドルたちへの強すぎる思いが仇となり、毎回ついつい強すぎる敵を、高すぎる壁を用意してしまい壊してしまう。確かに彼の協力した研究は皆多大な成果を上げている。だがそれは彼がそれらに対して興味が無くなった場合であり、興味深く熱を上げたものほどブッ壊れた結果を残していた。被験者も研究者もアイドルも、全て壊れて動かなくなっていく。

だからこそ、彼はとある実験の過程で発見した絶対に壊れないアイドルに執着した。正確には『完全には壊れない』だ。それ自体はよく壊れる(他の者と比較しても壊れやすいほど)。殴られて壊れ、けられて壊れ、能力で壊れ、自分の行いで壊れ、体も心さえも壊れる。しかし、いつでもボロボロになりながらも立ち上がる。いや、立ち上がらずにはいられない。

 

(あれは最早呪いというしかありませんねえ。自分で不幸を、不条理を引き付けて殺されかける。今回もまさかスキルアウトに殺されかけるとは思いませんでしたが……以前の彼なら少なくとも今のようにはならず、どちらかというと完璧に勝利できていたのですがねえ)

 

今の能力障害――秋瀬七実は若干脆過ぎる。まあ、それで生き残るのだから文句はないが、少なくとも旧能力障害ならばあの程度の障害は簡単に乗り越えていただろう。……いや、そもそも実験でもない限りあの時の彼が動く事は無いのだが。

 

(そして彼のその変化こそが、私にとって最高の成果となる)

 

木原幻無の目下の目的は秋瀬七実の成長であり、それ以外の実験は暇つぶしか趣味、もしくは秋瀬七実の成長のためのエサでしかない。しかし、実は幻無自身にもいったいどれが彼の成長の材料になるのかは全く分かっていなかったりする。学園都市最低であり、彼のアイドルたちの中でも特に読めない性格の上、その能力により監視カメラも綿密に立てられた計画も必ずどこかにノイズが入り込んでしまい、使い物にならなくなってしまう。それもそれで楽しんでいる幻無だが、あまりたくさん計画を立てすぎると流石に制御が難しくなる。適当にたくさん種を撒いても良いモノには成長しない。念入りに育て上げたモノこそが最高のアイドルになる。それを他人に……しかも同じ木原に任せるのは幻無としてもあまり気持ちいい事では無かった。そして第一に、

 

「木山春生へのご褒美もそうですがテレスティーナ(彼女)には他に役目がありますし、どうせ木原を使うならばもっと磨き甲斐の有る者を育てたいですしね」

 

幻無にとってはアイドルの育成が第一でテレスティーナ(育成側)にはあまり興味が無いのだ。まあ、自分が支配していると勘違いしているものを操り人形(アイドル)にするのもそれはそれでいいが、若干飽きている。

幻無は慣れた手つきでタッチパネル式のモニターを操作し、いくつかの写真を出す。

 

『ん、どれどれ?……ほう』

 

写真を見た木原幻生はとてもネバつっこい見る者に不快感を与える醜悪な笑みを浮かべる。先程孫娘であるテレスティーナがはっきり使い物にならないと言われたばかりだが、幻生にとってはどうでもいい事らしい。

3枚の写真に乗っている人物にはいくつか共通点があった。一つは皆少女であることしかし、年齢は見事にばらけている。二つ目は彼女たちを木原幻生が知っているというより、彼の身内つまり木原だというとこだ。

 

「以前から私が目に掛けていたアイドルたちです。これらはなかなか面白そうでしょう?一人は丁度先日木山春生の件で第三位に敗れたばかりですが……というよりあの場に第七位が来たのは流石に予想外です。彼女には能力障害のデータを応用した能力を与えていたのですが、残念ながら躰に影響が出るためノイズの方は移せませんでした。……本当に残念です。破損した彼女は幻生先生から譲り受けていましたね。ああ、しっかり眠らせて誰が直したのかわからないようにしていますよ。彼女にとっては私も……いえいえ、私こそ本当に倒すべき敵ですからね」

 

写真の中の一人金髪で赤いランドセルを背負っている小学生を指差しながら、幻無は笑顔で紹介をする。本当はしっかり副作用であり能力障害の真価であるノイズをつけたかったのだが、いろいろリスクがあり使い物にはなりそうも無かったので別の使い方することにした。

 

二人目の少女木原円周は黒髪を左右にお団子みたいに揃えた中学生くらいで、幼い頃木原を憎む科学者たちに誘拐され一切科学に触れ合う機会を与えられない環境で独自に学習・分析をし、一見落書きとも見える独自の記号で『冷凍睡眠装置』理論を証明した。彼女はカタカナも九九をできないが、木原であるというだけで天才であるという運命に縛られた少女だ。……因みに彼女を攫った連中が木原を憎んだのは幻無が原因で彼らが攫える手頃な木原の情報も”つい”幻無が漏らしたもので、さらに言うと彼女を救出したのも実験と称されて誘拐犯たちを狂わせに来た旧能力障害である。

それ以来幻無が引取り育成してきたが彼女を救った(一応)ヒーローである能力障害に円周は憧れを持っており、今の彼と接触させるのは楽しみである。

 

そして三人目。高校生くらいの少女。前述の二人は木原の中で落ちこぼれ、及第点とはいかないと言われているのだが、彼女もまた木原としては変わり者と呼ばれている。同じ変わり者と言っても木原幻無とは全く別方向で、彼女にとっては幻無は倒す敵なのだそうだが……

 

『ほう、彼女か。でも彼女は君……というより木原(僕達)を目の仇にしているだろう?』

 

「いえいえ、はい。全く困ったものですよ。今月だけで施設が三つ以上破壊されました。……それ自体は大した事では無いのですが、いずれ絶対能力や能力障害の方へ手を出されると流石に危険なのでこちらで勝手にアイドルにさせていただきました。最も私の実力では彼女に間違いなく勝てませんから許可はもらっていませんが……」

 

木原とは巡り巡って皆悪意の塊でなければいけないのだが、彼女はその理から逃れようとしている。嘗て、木原加群という木原の中で例外的に善良な性格をしていた者がいたが、彼は幻無と同じく(少なくとも幻無はそう思っている)趣味で行っていた落第防止(スチューデントキーパー)によって救われかけた者だった。救われかけたというのはその前に木原病理と当時様々な種を撒いていた幻無が加群を罠に嵌めて結果彼が学園都市から出ていったためだ。

しかし、その少女は独自に立ち直りどういう訳か木原の敵になっていた。

 

『なるほどねえ、面白いよ。じゃあ、僕も……』

 

幻生が何かを言いかけたところで異常を知らせるアラームがモニターから、正確には通信をしている木原幻生の研究室でなったようだ。

 

『ふむ、どうやら今日の標的は僕の所らしい。最も今いる場所ではないし、特に重要でもないがね』

 

どうやら様子から察するに噂の少女が幻生の施設に襲撃を仕掛けたらしい。特に慌てた様子でもない幻生だがどうやら電話が引っ切り無しになっているようで、意外に事態は深刻なのではないだろうか?

 

「まあ、しばらくは泳がしてください。と言っても、彼女の戦闘力は木原の中でもかなり上位に位置しますから放っておけば被害が出てしまいますが……」

 

『そのつもりだよ。一応聞く筈も無いけど他の木原にも伝えておこう。もしかしたら、僕のように君に賛同してくれる者もいるかもしれないからねえ』

 

曲者揃いの木原は基本的に他の特に木原の言う事は聞かないが一部なら聞くかもしれないという幻生のジョークに幻無は口をゆがめる。勿論二人ともそんな事は思っても願ってもいない。手を出してこないならまあそれもいいが、邪魔をしてくれた方が実験材料が手に入るのでお得なのだ。恐らく幻生は先程幻無がしたようにあえて獲物を襲わせようと”忠告”しに行くだろう。

 

「では、取り分は半々と言う事で」

 

『ああ、そうしよう。………ところで、前々から言おうとしていたことだがね』

 

醜悪な笑みからいったん幻生は真顔に切り替えて幻無に向き合る。

この老人がこんな顔をするのは珍しい。流石に幻無と言えども身構えてしまうのは無理もないだろう。

 

幻生は一旦真顔の戻した顔で幻無に問いかけるように言う。

 

『君はよく自分を表す時にプロデューサーというが、君のやっていることはマネージャーなのではないのかな?』

 

その一言を言い幻生はプツリと答えも聞かずに通信を切ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は前回と同じく伏線会です。三人の木原ガールズのうち最後の木原だけはオリジナルです。一応自販機の彼女は一日か二日前くらいにファンファーレは終わった設定です。
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