とある科学の劣化魔導   作:fukayu

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サミット 後編

木原幻生が立ち去ったことで後に残されたのは俯いて表情の読めない木原幻無と木原達の会話を黙って聞いていた黒いカチューシャのアイコン――雲川芹亜だけだった。

幻無は数十秒あるいは数分固まったあと残ったもう一人に静かに問いかける。

 

「………………今の話は本当なのですか?」

 

問いかけられた雲川は段々幻無が哀れに思えて来たのかそれとも他の木原が立ち去ったからか沈黙していたモニターからその声を発する。

 

『……プロデューサーというのは一般的に計画の全体を統括する人物の事で、お前の言うアイドルのスケジュール管理は業務にはあまり含まれていないけど。……多分お前の参考にしたゲームでは事務所の人出が足りないからマネージャーの仕事を兼任していたんだろ』

 

統括理事会の一員である貝積のブレインであり、超の付く天才女子高生でもある雲川は淡々と用件を済ませようと説明する。

 

「しかし、続編で事務所が大きくなったにもかかわらず私の業務は変わらなかった!」

 

しかし、雲川の説明に全く納得せずしまいに幻無は私は間違ったことはしていない事務所に言われた通りにやったんだと駄々をこねだす。

仕方ないので雲川はハア、と大きくため息をつくと

 

『続編でゲームのコンセプトを根本から変えるわけないけど。後主人公と自分を重ねるな気持ち悪い。第一お前は手広くアイドルをプロデュースしすぎだ。あのゲームは一人ずつが基本だけど』

 

という感じで幻無に先程より熱意のこもった説明をする。

 

「しかしですねえ、私としてもそこは譲れないのですよ。あれだけ魅力的なアイドル達の中一人に絞るなど……男なら全て揃えてみたいじゃないですか。例え課金してでもSR欲しいじゃないですか!」

 

因みにその課金額は相当なもので能力障害を育てた影響か酷く運が悪くSRカードは何万円課金しても出ない。その為一人で何百万と課金しているお得意様である。そのお金は主に秋瀬七実が実験に参加して稼いだお金であり、それに気付いた秋瀬七実が反乱を起こすのは別の話である。

 

『お前そっちにも手を出しているのか…………因みに私は今回のガチャすでに10回以上コンプリートしてるけど』

 

先程の発言からもわかる通り天才女子高生であり、ブレインな雲川もすでにプレイはしておりモバイルな方もバッチリ廃人済みだったりする。

 

「なっ!私なんて能力障害の通帳を空にしてもまだ一枚コンプリート出来ていない(しかも一番欲しい奴)というのに10回だとう!?」

 

『あまり統括理事会を舐めない方がいいけど。そこらの実験の報酬とは入ってくる額が違うんだよ。因みに勿論貝積の金で、貝積のデータからいらないカードとかとトレードしたりしているけど』

 

勝ち誇った様子で誇らしくモニターのカチューシャが踏ん反り返る。幻無も完全に負けたといった様子で両手を地面につき、「今度から能力障害の実験回数と報酬を増やさなければ」とブツブツつぶやいている。

二人とも自分の金は一切使っていない上に、被害を追っている貝積と秋瀬七実はこの事を全く知らされていないのでこんなことをしてないで早く謝れよといった話だが、ブレインと木原は気にせず次はレアカード自慢などを続けていった。

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

『はあ、はあ、はあ……』

 

いくらか時間が過ぎた後二人は全く同じ息遣いでダウンしていた。両方役柄体力を使う方ではない上、今回は普通に得意の舌戦に持ち込んだはいいのだが両方これまた柄にもなくヒートアップしてしまいお互い顔を合わせていないにもかかわらず殆ど睨み合い、掴み合いのようになってしまったのだ。最終的に身振り手振りが可笑しなブレイクダンスのようなものになってしまった木原幻無は自身の机に置いてあったペットボトルのキャップを開けゴク、ゴクと勢いよく中身を一気に飲み干し生き返る。恐らくあちらも同じ状況だろう。

 

「いえいえ、柄にも無く熱くなってしまいました。まさかこんなとkろでどうしにあえるとは……」

 

『お前と同類扱いはして欲しくないけど』

 

二人とも一瞬で冷静さを取り戻し沈黙する。数刻ほど続いた沈黙を破ったのは幻無だった。

 

「それにしても今日は何故またこんな時間まで?」

 

既にサミットの開始からゆうに三時間は過ぎており、遮光カーテンで外はよく見えないが恐らく完全に日は落ちているだろう。

 

『別に個々は色々情報が集まるから利用させて貰っただけだけど。今回は統括理事会もかなりの人数が集まっていたわけだし、最後まで残ったことで木原(お前達)の考えも結構わかったけど』

 

「まさかそんな下らない事の為に?その情報で私やあの中の誰かを止められるとでも?」

 

学園都市を動かす人間と危険人物たちの会合の内容を下らないと吐き捨てる幻無に雲川はヤレヤレといった様子で答える。

 

『それこそまさかな話だけど。別に情報なんて集めるのは自由だろう?それを使うかどうか考えるのが私の仕事だけど。そんな事に使うわけないだろう。せいぜい使って貝積の敵に売り渡して自滅させるか、お前達を恨む連中に流すくらいだけど』

 

あんな会合で手にした情報などふるいに掛けてしまえば罠やダミーだらけで一グラム残るかどうかの信憑性しかない。その一グラムも役に立たないものだろう。それを精査していくのが雲川のブレインとしての役目だが基本的に今回は動く気はない。何故なら、

 

『一体どういうつもりだ?前半のアレは完全に能力障害を襲いに行けと言っているようなものだけど』

 

木原幻無は統括理事会の面々に能力障害がどれだけ危険な存在か説明しながら同時に今しか襲うチャンスはないと水面下で伝えていた。恐らく何人かは気付いているがもしあの中に気付いておらず、いや気付いていながらあえて乗るやつがいたとしたら……それこそが雲川がここに残った理由だった。勿論木原幻無が素直に真実を言うとは思ってはいない。しかしそこから出た情報の中から使えるものを探し出すのが雲川の仕事だ。だからこそ二人っきりになるまで待つ必要があった。

 

「フフフ、ただの挑発ですよ。恐らく乗ってくれるのは赤傘さんくらいでしょうね。……それでもいいです。彼が覚醒するには大量の理不尽ともいえる状況が必要ですからね」

 

『お前は能力障害(アレ)を一体どうするつもりだ?まさか一年前現れたあの少女をコントロールでもできると思っているのか?』

 

「おやおや、あの少女についてどこまで?ああ、話さなくていいですよ。その存在を知っていると言う事はあなたもかなり奥まで来ているという事ですから。いやー嬉しいなまさか今日という日にあなたという人に出会えるなんて!」

 

幻無はお礼にイイことを教えてあげますといった風に自身の過去の研究――つまり劣能力者(マイナス)の資料をモニターに表示する。

 

劣能力者(マイナス)というのは勿論先程統括理事会や木原達に説明したものとは若干事実に差異があります。まあ、潮岸さんクラスはもちろん知っていますが他の方は精々何のために作り出したのかわからないもの……位の認識でしょう」

 

数十ページにまとめられた資料にはこれまで開示されてきた情報とは全く異質の”学園都市では”有り得ない内容のモノが書かれていた。

 

『能力者による魔術の行使だと……』

 

「そうです。あなたは超能力以外にもこの世界に異能と言われる力があるのをご存知ですか?……ああ、勿論ご存知ですね。天然の能力者――原石の回収に躍起になっているのはあなた方ですものね。今度ぜひいくつか私のアイドルとしてスカウトしたいものです」

 

『一応貝積の方はお前にそれをさせないために動いてるんだけど』

 

「そうでしたね。あなた方のおかげでずいぶん私のアイドルは減ってしまいました。しかし、そんな事はどうでもいいのです。その原石は学園都市が出来るはるか以前からその存在を認められています。いわば才能を持った人たちですよ。そしていつの時代もそれを妬む人間が出てくる」

 

それが魔術師と呼ばれる者達。彼らは才能を持たない人が才能を持つ者達と同等の力を得るために世界の伝承やおとぎ話と言った人々の心に強く残る力を利用して異能の力を引き出すことに成功した。

 

「勿論色々と制限はありますが……そして彼らとは逆に才能を持つものになろうとしたのが超能力者です。一般的には科学と言われていますね。魔術側は私達の事をある程度知っているようですが、我々はあちら側について全く情報が入ってきませんよね?だから、誰も知らない。魔術は科学に関わろとせず、科学は魔術の事など知りもしない。そうして不可侵の境界線が生まれたのです。私はとある出来事で魔術の存在を知りましてね。試してみたかったのですよ魔術と科学が合わさるとどうなるか」

 

そうして生み出されたのが劣能力者。才能を持つものとして天井を目指すはずのモノが、全く真逆の凡人たちの持つ力を手にしようとした。その結果はひどい有様だった。

 

「ですがどうやら能力者が魔術を使おうとすると魔術を発動させる為に生命力を魔力に変換する過程で体が拒否反応を引き起こすらしくてですね。能力者が魔術を使うのは難しいと分かったのですよ。その後いろいろと紆余曲折ありました」

 

雲川のもとに転送された資料にはその過程が簡単な報告書として書かれている。

まず負荷がでる段階を知るまでに一体どれだけ犠牲を出したのか見当もつかないが、少なくとも数十は下らないだろう。

 

『………お前はこれだけの人員どうやって?』

 

自然と雲川の口調が重くなる。

それに対して幻無は今日どの時間帯よりも饒舌に話し出す。

 

「色々ですよ。置き去りも使いました。逆に魔術師も使いました。原石だって使いました。暗部だって、一般人だって。そんなものは関係ないのですよ。要は私の実験さえ成功すればいいのですから。見境なく知識の為なら何だってやる。それが私です。……その実験の過程で発現した能力が劣能力なのですよ」

 

そうして集めた人員を無差別に使った結果幻無がたどり着いたのが劣能力というものだった。

能力とは本来学生たちが自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を獲得して得られるものだ。しかし、劣能力とはその自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を無理やり不完全な状態で固定してその状態を維持させて発現させるものだった。

能力障害を筆頭にする劣能力者達は本来得られるはずの能力とは全く別の異質なオカルトじみた能力を得る事になった。

 

「本当に面白い能力ばかりですよ。魔術と科学を見分ける能力に全ての異能をコピーする能力。……ああそうそう、科学を自動的に魔術に変換する能力なんてのもありましたね。あれは面白かった。普通に負荷が出て死にましたけど。共通しているのは見境なく能力が発動する事ですかね。常に暴走状態なので処分が大変でした。おあつらえ向きに脳を破壊する能力というのもありましたがね。最終的には彼一人で自滅を除いて八割方処分したのではないですかね?」

 

それこそが現在の劣能力者の生き残りにして最低の劣能力者――能力障害(AIMノイズ)だ。以前の彼は一切の容赦もなく同じ仲間たちの脳をそのノイズで破壊していった。最後に残った一番親しかった劣能力者さえ自らの手で処分した。

 

「まったく幻想殺しには困ったものですね。まさか能力ごと人格まで壊してくれるとは」

 

『…………』

 

幻無は忌々しいというように全ての異能を消さる右手について話し出す。それを雲川は無言で聞いていた。

本来ならあの右手は異能だけを打ち消すものだ。しかし、一年前能力障害と激突した時彼の右手は確かに能力障害の人格を破壊したその理由はいまだ不明だ。

 

「……まあそれ置いといて、無数の劣能力が発現しましたがそれでも魔術を行使できるのは一部だけでしたね。というより私の求める結果はあまり手に入りませんでした。わかったのは副作用には個人差がある事と、全くの無能力者(レベル0)――AIM拡散力場すら発現しないものならリスクは限りなく低いと言う事だけです。まあ、それでは魔術と科学の両立にはなりませんが……しかし能力障害(AIMノイズ)は、彼は二つの異能の両立に成功したのです」

 

無数の犠牲の果てに確かに幻無の目指した劣能力者は完成した。

その成果の説明をしようとしたところで幻無のモニターに『完了』と、これだけでは全く意味の分からない二文字が映し出された。しかしその文字に幻無は薄く笑い雲川に対して優しく語り掛ける。

 

「さて、準備は終わりました。お互いにね」

 

『……何の話だ?』

 

「とぼけなくてもいいんですよ。あなたと私の回線は完全につながりました。少々時間がかかってお互いに無駄話をしましたが、ここまでですね」

 

『そうか。まあ、こちらもお前の長話に付き合ったんだ。いい加減始めさせてもらうけど』

 

雲川がそう話した瞬間幻無のモニター全体が赤いアラート信号を発した。とてつもない量のウイルスが入ってくる。

 

『私特製のウイルスだ。ああ、心配するな学校の方には迷惑はかけないけど』

 

「そうですか、それはよかった。ですがそちらの心配もした方がいいのではないですか?ああ、ほらあなたの美しいご尊顔も見えてきましたよ?」

 

『!?』

 

先程まで黒いカチューシャのアイコンしか映し出されていなかった雲川のモニターは幻無の手によって雲川芹亜本人の姿が映し出されていた。

 

「やっと会えましたね。お待ちしておりました。本当に美しい」

 

室内のパソコンが次々と煙を上げている中それを全く気にせずに幻無は雲川に話しかける。まるで自分の研究成果よりも雲川に会う事の方が重要だというように。

 

『余裕こいてるとこ悪いけど、お前のしかけたウイルスはすべて除去済みだ。流石にダミー含めて1万ほど流してくるとは思わなかったがこんなもの危険度が高いモノさえ除去すれば問題にはならないけど』

 

「…………」

 

幻無の顔が一瞬で無表情で塗りつぶされる。

 

『因みにこちらに仕向けられたバカみたいな兵隊は全部排除したけど。お前に他に手はあるのか木原君(”””)?』

 

そう話している間にも研究室の被害はどんどん増えていく。恐らく雲川の様子から察するにこちらの仕掛けた罠は全て突破されているのだろう。

幻無は絶望からか薄く笑い雲川に話しかける。

 

「………そういえばそちらには(”””)がいたのでしたね」

 

『そうだ。だから、お前の先程から話していた内容は全て知っていたんだよ。流石にこうもペラペラ喋るとは思わなかったけど』

 

「フフフフフフ、ハハハ。……やられました。やはり私は表に出て戦うのは不向きなようですね。こうも追いつめられるとは」

 

幻無は頭にかぶった帽子を手に取り目元を隠すように顔の前にかざす。

そして口元だけで表情を作る。

 

「……彼によろしく伝えてください。決して短くない時間を過ごした私のアイドル達にね」

 

その口元は笑っていた。

 

『何を……』

 

「そこにいる彼はいえ彼らは私を完全には理解してはいないようですね。能力障害ならばこんな真似はしませんよ。……こんな無駄なことはね」

 

今や幻無の部屋の機器は雲川と通信をしているモニター以外すべて機能を停止している。

そう、雲川との回線以外は。

 

「あなたとの回線にすべての機能を集中させました。……取引です」

 

その一言でモニターの奥の雲川の身体が一瞬で痙攣を引き起こす。

 

「一体だれがいつ異能が使えないと言いました?能力開発は受けていなくとも先ほども説明した通り私は魔術も研究しているのですよ?そちらにいる彼はあまりご存じないでしょうが能力障害はよくご存知ですよ?だから彼は私に逆らわないのです。さて取引です。今から私は幻想殺しを殺します」

 

その一言で痙攣した雲川の表情が一瞬で険しいものになる。

 

「私が気付かないとでも思いましたか?あなたは幻想殺しについての話題の時だけ雰囲気が変わります。別に姿が見えなくてもそれくらいわかるのですよ」

 

まるで蛇のように雲川へ幻無の言葉が絡みついてくる。

 

『木……原幻……無……何が……』

 

必死に言葉を紡ごうとするが声が出ない。

しかし雲川の言わんとしていることを理解した幻無はすらすらと答える。

 

「簡潔に言いましょう。私はあなたが欲しい。私のアイドルになって下さい」

 

『…………』

 

全く意味が分からないと雲川は思った。何故このタイミングで?なぜこうまでして?しかし、この男のアイドルという言葉の意味は一般的なものと文字通りの意味で常軌を逸している。

 

『ふ……ざける……な!』

 

「ふざけてなどいませんよ。あなたのその才能はとても魅力的です。是非、プロデュースしてみたい」

 

幻無はいたって真面目というように痙攣する雲川の姿を見つめながら畳みかけるように言う。

 

「それに、あなたがどう動こうと幻想殺しは助けられませんよ。あの右手は決してあなたの思い通りにはならない。あなたでは本当に彼が困った時彼を救えない」

 

『………』

 

「あなたの本質はね、偉そうな事を言ってはいても実際は何も出来ない事なんですよ。統括理事会のブレインと言っても結局はただの学生だ。その証拠にあなたは私の研究を一つでも止められましたか?どうせ絶対能力の方も指をくわえて見ている事しか出来ない」

 

相手の心を折る様に幻無は一言一言雲川へと語りかけていく。

 

「ですが……ですがそれがいい。その空回りな才能こそ劣能力者の素養というものです。ああ、心配しなくてもいいですよ。劣能力は能力開発を受けていても元の能力を塗りつぶして発現しますから」

 

『……ック!』

 

幻無の魔術は確実に雲川の体を蝕んでいく。

魔術の存在自体は薄っすらと知っていた雲川だが、魔術というものはそもそもその種類の多様性が売りだ。そしてそれらに対して正確な知識を身に着けなければ対処は難しい。魔術側と接点の少ない学園都市でそのような知識を得る事などいくらなんでも不可能だろう。

つまりは、雲川に幻無の魔術を防ぐ術は無い。一度パイプが繋がった時点で雲川”個人の”敗北は決まっていたのだ。

 

『ククク……あまり我々を(”””)舐めるなよ』

 

「どういうことです?」

 

雲川が言葉を発した直後雲川と幻無二人を繋ぐモニターに奇妙な変化が生じた。

 

『………黒き羽は舞い、その視力を奪う……《迎撃術式 参》』

 

突如雲川のモニターからひどく単調な、まるで機会が喋ってるように抑揚のない男の声が聞こえてきた。

男が何かを唱え終わった瞬間雲川との回線が切れ、代わりにモニターから大量の黒い羽のような形をした槍が幻無に対して襲い掛かった。

 

(こ、これは!!!??)

 

槍は容赦なく木原幻無の前身を貫き、先についていた毒が一瞬で全身を駆け巡る。

 

「が、ああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

まず先に視力が全て奪われ、体のパーツが少しずつ次々とその感覚を失っていく。

 

 

そして、全身の感覚が完全に消えると幻無は動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、はあ。どうだ?」

 

雲川は乱れた呼吸をしながら壊れたモニターと自分の真横にいる男に向かって問いかけた。

 

「………神経毒だ。致命傷にはならない。槍の当たり所が悪ければ死ぬだろうがまず無理だろう」

 

男は――顔を烏のような鳥の仮面で覆い、身体中を大量の黒い羽が付いた外套を着こなした男は淡々と告げる。

 

「……まあいいよくやった”八咫烏”……助かったけど」

 

「…………」

 

雲川が八咫烏と呼んだ男は滅多にお礼など口にしない雲川の珍しい姿を見てもピクリとも動かず、自らの両足間から延びる第三の足を軽く動かして自身の”礼装”のチェックを始める。

 

「……相変わらず無口な奴だけど」

 

その様子につまらなそうに頬に手を置いた雲川は丁度掛かってきた緊急通信にめんどくさそうに出る。

 

「一体何の用だ?」

 

『何の用とはひどいな。これでも君の雇主なのだが……』

 

「私はお前のブレインだけど」

 

掛けてきた電話の相手――雲川芹亜とその隣にいる八咫烏の雇主である統括理事会の一人――貝積を軽くあしらう。

彼が連絡を寄越した理由は容易に想像がつく。

 

『一体なぜあんなことをした?』

 

「簡単な事だけど。今少しでも牽制しておかないとお前が集めている原石どもは全て奴に持っていかれるぞ?」

 

『しかし、それで君まで失っては……』

 

貝積という男は基本的に善人だ。世界中から原石を集めていることだって実際には学園都市外部の研究機関により非人道的な実験から彼らを守るために保護しているに過ぎない。

 

「お前はただでさえ他人に勘違いされやすいというのにそんな弱腰でまた敵を作りたいのか?……ただでさえ最近は暗殺者が多いというのに」

 

しかし、それを公表する事も出来ずそのせいで学園都市外部だけではなく、学園都市内部からも原石を独占しようとしているなどというあらぬ疑いを掛けられている。これは全て雲川の提案した策の中から比較的安全なものと誰かを救うため必要な事しか選択しようとしない貝積の甘さがもたらした結果だ。

時には危ない橋を渡る決断もしなくてはならない時もある。しかし、この男は原石を保護する時も彼ら個人の生活を尊重しようとしたりする甘さがある。そういった甘さと非情な決断を極力したがらないこの男の為に雲川と八咫烏は今回独自に木原幻無への牽制をすることにしたのだ。

 

「まあいい。今回は正直危なかったのは事実だけど。……まさか奴が研究を捨ててまでこちらに攻撃を仕掛けてくるとは……まあ、その可能性もあったからこいつに準備もさせていたが」

 

こいつと言われた八咫烏は点検が終わったのか静かに三本の足で雲川の椅子の隣にあった人間用の止まり木へ三本の足を使って止まっていた。

この男はちょうど一年前雲川がどこからか拾ってきて半ば強制的に貝積の傘下に入らされた。

当時からかなり無口で愛想が全くと言っても無かったが、彼の使う学園都市には無い力である魔術と大能力者(レベル4)級の能力により、今や貝積の勢力は雲川と八咫烏の二枚看板によって支えられていた。

 

『そうか。八咫烏、君の身体は大丈夫かね?』

 

統括理事会の老人は八咫烏へと声を掛けるが、

 

「……問題は無い」

 

一言だけ告げ、八咫烏は身体中を覆う烏の羽の隙間から無数の血に濡れた無数の眼を覗かせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、かっこよく終わらせようとしているけど、コレは壊す意味があったのか?」

 

場面が変わろうとしているところに天才が割り込む。雲川は目の前にあるかなりお値段の高い通信・分析何でも御座れなコンピュータだったものを指差す。それは全盛期の姿を最早想像する事も出来ないほどグチャグチャに壊れていて、まるで100キロ以上あるこのコンピュータをものすごい勢いで壁に放り投げて更にその上から大量の質量を持つ何かをぶつけたような有様だった。

 

「…………」

 

八咫烏は何も答えない。

 

「普通に回線を通じてあちらに攻撃するだけでよかったのではないのか?一応ウイルスは全排除したし、幻無の魔術さえ何とかなれば電源を切るだけでよかったと思うけど」

 

「…………」

 

八咫烏は微動だにしない。

 

「………まさかとは思うが電源の切り方がわからなかったとでも言うんじゃ無いだろうな?」

 

「…………」

 

八咫烏は……ちょっとだけビクンと肩を跳ね上がらせた。

こういう時どこかの劣能力者(マイナス)なら即座にとんずらをこいているだろうが、八咫烏はそういう事はしない。彼はただ自分のキャラである無口という特性を生かしてこの嵐が過ぎ去るのを待つだけである。

 

「…………」

 

「まったくお前は……はあ、今度使い方を教えてやるけど」

 

「…………頼む」

 

雲川はため息をつき、八咫烏は止まり木の上から頭を下げる。高さ的に八咫烏が雲川の女子高生とは思えないほど豊満な胸を真上から見下ろす形になるのだろうが、無口&クールが売りの彼が咎められる事は無い。

そんな二人の何とも言えない寸劇を聞き終えた貝積は静かに通話を切ろうとする。しかし、彼のブレインがそれを引き留める。

 

「おい、ちょっと待て教育料を寄越せ!」

 

そんな老人から小遣いを寄越せというように雲川はばかげた金額を告げる。

 

『流石にそれは高すぎではないかね?』

 

「お前はこいつの機械音痴を知らないのか?一体何台犠牲になると思っている?」

 

そんな同僚と上司の会話を聞きながら再び八咫烏はその外套から覗かせる無数の眼を光らせる。その眼に他最早血の痕跡は無く、考える事はただ一つ。

 

「…………秋瀬七実………か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長点上機内にある研究室。室内にあるすべての機器がショートした中、身体中に無数の黒い羽が刺さった男は静かに立ち上がる。

 

「流石に効きますね。全くプロデューサーに向かって容赦がないですねウチのアイドルは……」

 

身体中を蝕む毒などどうとでも無いというようにショートしたパソコン同士から使えるパーツだけを組み合わせ即席で新しいモノを作る。

そしてそこに映し出されたいくつかの映像を満面の笑みで男は見つめる。

 

能力障害(AIMノイズ)幻想殺し(イマジンブレイカー)禁書目録(インデックス)……フフフ、さあ種は蒔かれました。一体どんな目が芽吹くのか」

 

モニターの中でそれぞれ眠る二人の少年を見つめる。一人は映像がノイズだらけ且つ、少年の眠っている部屋の警備が厳重すぎて姿は見えない。もう一人は傷だらけの身体を白い修道服を着たシスターが一生懸命看病していた。

 

「これは簡単なテストです」

 

七月二七日――午前零時の鐘がなり、日付が変わるころに物語は動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回からいよいよ本編開始です。
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