とある科学の劣化魔導   作:fukayu

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魔道書編
白い少女


この世界は、この街は決して楽園なんかじゃない。

能力開発によって超能力という特別な力を手に入れられてもそれは一部の人間だけが得られる特権で多くの才能のない人間は無能力者というカテゴリーに収められる。それも本当に何の力も無い訳でもなく多くの者がちょっとした――自分でも理解できないほど小さな能力に目覚めている。

ならばその差――才能の有る者と無い者の違いは何だ?

超能力を発動させる土台である自分だけの現実(パーソナルリアリティ)をしっかりとした形で確立させることが、《まともな現実から切り離されている状態》を自分たちで作り出すことが強大な能力を作り出すことになる。それが出来るのが超能力者(レベル5)で出来ないのが無能力者(レベル0)

……だが普通の人間が、平和な社会で生きてきた学生たちがそんなものを生み出すことなど可能だろうか?勿論可能だからこそ超能力者(レベル5)がいる。彼らはその才能があったからこそああいった超常の能力を持つに至った。それぞれに違う経緯はあれど彼らはしっかりとした自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を確立しその能力を手に入れた。自分たちの世界の、その枠組みから少しズレた世界を彼らは見て超能力者になった。

 

『じゃあ、あなたは何を見てその能力を手に入れたの?』

 

頭の中に少女の声が聞こえる。その姿は見えないがただ白い、白い印象が残る。真っ白なワンピースに白い髪、白い眼も白い口も自分の眼で今見ているわけでもないのに容易に想像できる。それが自分の能力で見たノイズなのか、それとも自分は彼女に会ったことがあるのか。ハッキリと今は思い出せない。

ただ少女は語り掛けてきた。

超能力者(レベル5)達が自分達の世界とズレた世界を見て自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を得たなら、劣能力者(マイナス)である自分は一体何を見てこんな能力を手に入れたのだろう。

自分の人生の中に有ったのは常に……

 

『理不尽、不条理。あなたの見てきた世界は常にそれに包まれていたんでしょう?』

 

そう、だからこそ自分はこの世界に、自分のいた世界とは違う学園都市(この世界)に逃げてきた。

 

『でも、この街も変わらなかった。今までいた世界と何一つ。逃げてきたあなたはすぐに捕まって、何もしていないのに理不尽に脳を弄られて、望んでいない能力を手に入れた。そしてその能力であなたは望んでいないにも関わらず他人を……自分と同じ無力な子供たちを沢山、たくさーん手に掛けた』

 

自分に同情するように、責めるように白い少女は笑いながらかつて自分に起きた出来事を話す。

そう、こちら側にきても何一つ変わらなかった。

身体中を切り開かれる子供とそれを嬉しそうに観察する大人、絶叫しながら壊れていく少年の眼にはすでに人としての何かは失われている。

血反吐を吐きながら何かと戦わされる少女とかつて人間であったであろう何か。瀕死になりながらその何かに馬乗りになって止めを刺そうとした少女の手が止まる。少女は泣きながら誰かの名を叫ぶも、その一瞬の隙により戦っていた何かに握り潰される。

前を進む男は満面の笑みで、

 

「あの少年は血行が良さそうなので選びました。あの少女が戦っている相手は昨日まで唯一無二の親友だったんですよ」

 

と説明してくる。

彼らは何か悪い事でもしたのだろうか?

 

「まさか!みんないい子たちですよ!何せ私が世界中から集めたんですから!みんなちゃんと私の言う事を聞いてくれます」

 

この男は狂っているのだろうか?いや狂っているのは……

 

ガラス越しの部屋では複数の子供たちが何かの発音をして手にした様々な石や、糸、紙切れなどに触れていく。その瞬間個人差こそあるが彼らは全員身体中から血を吹きだして倒れる。

 

「おやおや、また失敗ですか?あなたには期待していますよ?」

 

勿論彼らも何もしていないのだろう。幸せだった日常が突然崩れ去る。何もかもが壊れて、自分さえも狂っていく。ここだけが特別なんじゃない。この世界そのものが……

 

『あなたは何も思わないの?今まで見てきたこの理不尽な世界に、不条理な出来事に何も感じないの?』

 

少女の声に耳を傾けるのを止める。

自分はずっと逃げてきた。この不条理を見て自分がその中に加わったあの8年前の9歳だった頃から逆らわずに感情を殺し、他人を壊し狂わせた。ただ無感情に無表情にこの現実に対して何も思わないように、ある時は目を背け、ある時は淡々に受け入れ実験を繰り返していく。

そしてあの日、1年前の6月。

 

『あなたの前にあの少年が現れた。淡々と受け入れ目を背けて、この街で手にした仲間たちのその最後の一人を、最後の希望を自分の手で破壊しようとしたあなたの前にあなたと同じ破壊する力を持つあの右手が現れた』

 

その右手は自分では救えなかった希望をいとも容易く救おうとする。壊して狂わせるしかない自分とは違い、その右手()ですべてを救おうとする。自分が救いたかった、救ってやれなかった者達をあの右手()なら簡単に救ってやれるだろう。

 

『何もかもを問答無用で救ってしまう右手()。でもそれは、この世界の本当の姿を知っているあなたには……それから目を背けて逃げ続けていたあなたにとっては、何よりも理不尽で何よりも不条理だった』

 

何も知らないくせにその右手()で勝手に救っていく。その先に何があるかも知らないで。

 

『確か、「お前のその力でも救える人間は沢山いたはずだ!お前が目を背けずに……逃げずに立ち向かっていればお前は誰も傷つける必要なんてなかったんだ!逃げてんじゃねえ!!目を背けずにその子を救ってやれ!それが出来ないっていうお前のその狂った幻想を……ぶち殺す!!!!」だったかしら?一言一句覚えている私すごい!褒めて!お兄ちゃん褒めて!………………何はともかくあなたには堪えたんでしょ?全てが正論、全てが真実……』

 

「違う!!」

 

自分は……いや俺は少女に反論する。その声に決して答えてはいけないのに、決して反応しては決して立ち向かってはいけない(”””””””””””””””)のに……その心が反射的に反論してしまう。

 

「あの男は何も知らない。何もわかっていないくせに勝手に首を突っ込んだだけだ!!アイツを救って、その先に何があるかも知らないで!!」

 

『やっと反応してくれたわね?ずっと聞こえてなんだと思っていたわ。最近はちっともこっちに来てくれないし、この街中で変なノイズが流れてるし、何より私とは別の者が割り込んでくるしでずっとずっと寂しかったんだよ?』

 

白い少女は泣きながら満面の笑みで此方に抱きついてこようとする。しかしそれは出来ない。彼女は受け入れられない。受け入れてはならない。必死に背を向けて逃げる。何処が後ろで何処が前かも、自分が立っているかも寝ているかもわからない真っ暗闇の中で白い少女と決死の鬼ごっこをする。

 

『クスクス。こんな所でも鬼ごっこなんて本当に面白ーい。あなたが受け入れてくれないと私は指一本触れられないのに……まだあの時のことが怖いの?』

 

あの時……初めて彼女を自分の意志で受け入れたあの時の事は思い出いしたくない。あの時自分は大切なものを沢山失った。

 

『大丈夫だよ!あなたはあれから一年能力を押さえて、裏だけじゃなく表にあるものまで知ったもの今度は暴走しないよ!だから私をだっこしておにいちゃん!』

 

裏の非人道な実験だけじゃなく、表にある才能の無かった無能力者(レベル0)達の姿も知った今の自分なら確かにこの少女の言う通りできるかもしれない。

しかし、それは出来ない。まだ自分はこの街の全てに触れたわけではない。学園都市の暗部、7人の超能力者(レベル5)、学園都市統括理事会、そして虚数学区。自分はまだ様々なモノから逃げきれている。そして今の自分はその全てを救う気も関わる気もない。

それ以前にこの少女の姿は一度見た(かもしれない)記憶では5、6歳だった気がする。自分は決してロリコンではないので彼女を受け入れる事は出来ない。

 

『……でも超能力者(レベル5)のお姉ちゃんと仲良くしたり、ウサミミの子もなんだかんだ言って放っといてるよね?』

 

目には見えないが恐らく凄まじいジト目でいじけているであろう幼女……少女に再び反論しそうになるのを必死に抑える。

超電磁砲はすでに一度会っていたし、もう一人の方は自分的には嫌いな部類に入る。というより、必要な限り避けているつもりだ。

 

『う~ん。今のでも反応しないかあ。やっぱりあの少年はあなたにとっては本当に特別な存在なんだね?』

 

自分が少女に試されていたことに気付く。それにしても自分にとってあの少年が本当に大切などはこの少女も出任せを言うのがうまくなったものだ。

 

ただ理不尽に、不条理に救おうとするあの男。その言葉でかつての自分は壊れ、今の自分も無意識にその言葉に引き摺られている。立ち向かってはいけないのに、逃げたいのに……必死に今まで逃げて来たのに……あの少年に言われた言葉に引き摺られてあの時木山を救おうとしてしまった。本当はこの少女の力を使って彼女の教え子たちを救ってしまいたかった。かつての自分なら考えられない事だ。

 

『一瞬惜しいかと思ったんだけど、流石に八年以上逃げ続けていただけあってブレないね!最後は思わず力を貸しちゃった!』

 

嘘を言うな!!

確かに自分のあの力は元々この少女の力を参考にしたものだ。しかし、あくまで参考にしただけであって使用には彼女の許可など必要ない。

 

『てへ!でも、使えるのは私の100万分の1以下……あの新しくできたクローン(後輩の子)よりも低い割合なんだよ。私を受け入れれば……』

 

何度も何度もくどい少女だ。自分はそれを受け入れることなどない。今まで通り目の前の理不尽な事や不条理から逃げるだけだ。逃げて逃げて逃げて、決して立ち向かおうなどとはしない、しても必死になんかしない!自分が彼女を受け入れる時は必死に運命から立ち向かおうと、この逃げるための能力障害()と彼女の力、持つ者全てを使おうとした時だけだ!! キッパリ

 

『………なんか受け入れる定義が勝手に変えられたような気がしたけど、それでいいよ!今回はもう時間が無いからしょうがないけど……今度はちゃんと遊んでね?そしたら今度はもっとイイことしてあ・げ・る!バイバイ………お兄ちゃん』

 

そう言って少女は消える。

少女が消えた音、自分の身体を青白い光がまるで抱き着くように包み込んでいた。

 

 

 

 

「う、ううん?」

 

目を開くと自分は真っ白な部屋にいた。何もない。自分の能力の障害になる者が何一つない部屋のベッド(””)で秋瀬七実は眠っていた。

 

ベッド(コレ)があるってことは長点上機じゃない。……ってことは)

 

自身の帰る場所であり、寝室でである長点上機のコレと似た部屋にはこのベッドも含めすべて家具が無い。

そしてあの部屋と同じような部屋がある場所を秋瀬七実は一つしか知らなかった。

 

「やあ、お目覚めかい?ずいぶんよく寝たね?」

 

「うわっ!!??」

 

いきなり仰向けの自分の視界にカエルに似た顔が入ってくる。軽くホラーだった。

 

「……なんで?」

 

「君が事件を解決して、患者たちの容体がよくなったすぐ後にね?どうせ倒れているだろうから君の携帯に連絡して運んできて貰ったんだよ?」

 

枕元に置いてある自分の新しい(”””)携帯を指差す。

カエル顔の医者――この医者は患者の為なら何だって用意する。この部屋だってそうだし、例え携帯の番号を教えていなくても用意できるのだろう。……それにしてもこの携帯、今時のモノにしては大きく、無線機のような黒い携帯はあれだけの戦闘があったにもかかわらず、というよりあのノイズを至近距離で受けて動くとは見た目に反して、いや見た目通りの丈夫さだ。『どんなノイズも防げる電話』として売り出せばそこそこ売れるんじゃないだろうか。

 

「そりゃあ、どうも。それにしてもよく寝たって、今何時だ?」

 

この医者には前科があるので油断できない。もしまた誰かを待たしていたらマズい。

 

「今は大体昼過ぎだね?七月二十七日の……」

 

「昼って、まさか一日近く寝てたのか!?ん、七月二十七日?」

 

「……因みにもうみんな返したよ?運ばれてすぐに」

 

待て待て待て待て。思考が一瞬フリーズする。確か木山と戦ったのは二十三日だか四日だったはずだ。だが今日は七月二十七日?

 

「まさか、三日近く寝てたってのか?」

 

「医者としては寝不足も、寝過ぎもお勧めできないんだけどね?あ、動かない方がいいよ?」

 

暴れようとする秋瀬七実だったが医者に言われて今の自分の状態に気付く。全身包帯まみれで、右手には大きなギブスが嵌められていた。

 

「身体中酷かったけど、その右手は特にね?壊死寸前だったんだよ?」

 

「え、壊死って……」

 

身体が固まる。まさかそんなことになるとは……自分の右手にお別れを言わなければいけない日が来るなんて……

 

「こらこら、勝手に絶望しないように。大丈夫だよ、言っただろう?お礼に一度だけ無償で見てあげるって?」

 

「えっ?」

 

「ギリギリだったがもう大丈夫だよ?……その様子だともう大丈夫だ。夜にはそのギブスも外して構わないよ?」

 

秋瀬七実の涙目の視線を医者はウインクして受け止める。

涙が溢れる、あれだけの怪我をしてまさかこんなこんなことになるなんて……

 

「うわ~ん!まさか一週間頑張って獲得した権利をこんな事に使っちゃうなんて!しかも夜まで掛かるなんて!」

 

「そこで泣くのかい?普通右手が無事で済んだことに喜んでで泣くところだろう?それに医者の私から言うと三日は異常な速度なんだよ?」

 

「うるせ―!!どうせ使うなら右手失ってもいいから全身ボロボロの所を一気にサイボーグ化とかしてもらいたかったんだよ!!」

 

カエル顔に理不尽な無茶ぶりをする。というよりそもそもサイボーグ化(そんな事)したら自分のノイズで体が動かなくなるのだが……

そんな患者の暴言にも狼狽えず医者は患者に指示を出す。

 

「一応明日精密検査をして問題が無ければ退院していいけれど……くれぐれも今日は絶対安静だよ?絶対外に出ないようにね?」

 

精密検査と言ってもこの少年を調べようとすると設備がノイズで壊れてしまったり、カエル顔は耐えられるが医者の頭に直接ノイズが流れてしまったりと真面な検査が出来ないため、どうしても形式上になってしまうのだが……彼を治療した時も実は大した事は出来てない。

 

「とにかく今日一日は絶対安静だよ?」

 

「へ~い」

 

やる気の無さそうに返事をする自身の患者を背に部屋を出る。

あの患者は目の前ではああ言ったが、本来ならば一か月でも感知するかわからない状態だった。しかし何かの力が、何かの意志が働くように彼の身体を薄っすらと目に見えないような青白い光が先程まで包み込んでおり、それにより彼の傷はみるみる塞がっていったのだ。カエル顔以外の医者が彼に触れようとした途端まるで拒むようにその医者の足が何かに引っ掛かり、そのメガネが割れて逆に医者が患者になったり他にも様々な事が起こった。

しかし、カエル顔の医者には何も起こらなかった。勿論大したことはしていないが、まるで彼を信頼しているかのように白い少女は……

 

(僕は今、何を考えていたんだ?)

 

とにかく今日は嫌な予感がする。長年世界中のあらゆる患者を診てきた彼には予感があった。

今いる特別病棟の患者だけでは無い。今日は何か別の……もっとひどい状態の患者が運ばれてくる。そう、彼のカンが告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

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