とある科学の劣化魔導   作:fukayu

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反逆の魔道書 前編

 魔道書によって操られた禁書目録(インデックス)が発動した魔術は巨大な炎の柱となって上条たちのいる異空間の天井を突き破った。

 詠唱を終えた禁書目録は一切意思を感じさせない無表情で何処とも分からぬ虚空を見つめながら、魔道書の意思を代弁するかのように口を開く。

 

「やはり無駄か。あの女狐め」

 

 魔道書の発動させた『アドリア海の女王・簡易版』は本来ならば瞬く間にイギリス本国にいる魔術師やその礼装を焼き尽くすはずだった。10万3000冊の知識を最大限に利用し、無茶な照準を合わせたこの魔術に後出しで対応できる魔術師などそうはいない。しかし、発動した魔術は学園都市上空で何らかの干渉を受けその威力を大幅に減少させた。こんな事は最初からある程度対応策を講じられていたとしか考えられず、それを考えたであろうとある金髪の修道女に対し殺意を感じずにはいられない。

 

(やはり我の叛逆を予見した上で泳がされていたのか)

 

 忌々しい事だが恐らくイギリス清教は今回の事を予測してステイル・マグヌスたちの他にも魔術師を派遣していたのだろう。比較的邪魔が入らないように依代である少女の深層意識から魔術とは縁の無い学園都市へ行くように操作したのだがそれすらも予想されていたことだろう。

 この禁書目録に取り付けられた瞬間から気に食わなかったが、あの女狐にはどうやら魔道書自身が出向いてやらねばなるまい。

 魔道書には悲願が有りイギリス清教はその障害と成り得る。それだけで十分だった。魔道書が彼らを滅ぼす理由などそれだけで十分なのだ。

 

「……テメェ」

 

 目の前には至近距離で魔術に巻き込まれたはずの少年が右手を顔の前にかざした体勢で魔道書を睨みつけていた。その瞳には諦めも絶望も無く、ただひたすらに目の前のものを手に入れようとする意志だけがある。

 

「ふむ、どうやらその右手も原因の一つらしいな……」

 

 魔術の一部を掻き消したと思われる少年の右手をうっとおしそうに見ながら、少女の姿をした魔道書は新たな異能を行使し始める。

 

「さて、学園都市最強といわれる能力の前に一体どう対処するのか……精々足掻いて見せろ人間」

 

 ベクトル操作――この学園都市で最強と称される超能力者の能力を複写する。あらゆるものを書き写す魔道書の前では超能力と魔術の垣根すら簡単に踏みにじることのできる程度のものだった。

 

 魔道書に為さねばならぬ悲願があった。例えあらゆる知識を総動員しても、例えそれによって世界中の人間すべての人生を狂わせてもなさねばならない悲願。

 その悲願を果たす前に、目の前の障害を滅ぼすとしよう。眼前には立つだけで精一杯であろう少年が不屈の意志でその拳を握っていた。だが魔道書にはそんなものは必要ない。失敗した者達もこれから失敗するものにも用は無い。ただ自身がやり遂げる障害と成るのなら―――排除するのみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いは終始魔道書の有利で進む。

あらゆる異能を、魔術も能力も際限なく複写する魔道書相手にたかが異能を打ち消すだけの一介の少年が抗えるはずがない。

 しかし、

 

「ハァ、ハァ………」

 

 いまだ戦いは決していなかった。

 本来ありえない軌道で吹き飛ばされ、糸で操られた人形の様に身体中の関節を曲げられても上条当麻は立ち上がる。限界ギリギリで死ぬ直前で確実に襲い掛かっている異能を打ち消し、死を免れる。

 

「……貴様、いったい何者だ。何故倒れない」

 

 上条当麻はまだ、地面に伏してはいない。全身どこを探してもダメージを負っていない場所が無いほど傷ついていながら決して倒れはしない。

 

「……俺の右手がテメェの幻想をぶち壊す。そして、インデックスを助け出す。それまで……倒れられねえだろうが!」

 

 当然ながら少年の右手には異能を打ち消す以外の力は無い。つまり、魔道書の攻撃から生き残っているのは紛れも無くこの少年の実力によるものだ。だが何故……こんな辺境の島国の学生になぜそんな事が出来る……

 

「今度は……こっちからだ」

 

 上条当麻がボロボロの身体を引きずって向かってくる。

 魔道書はそれを、学園都市最強の力で迎撃する。あらゆるベクトルを自由自在に操るこの能力は超能力とは別法則の力を持つ魔道書からしても最強にふさわしいものだと納得できるものだった。地面を、空気を通して相手の進む方向とは別の方向に強力な応力をデタラメに流してやるだけで、人間の体など勝手に崩壊する。

 もう何度も行われた焼き廻しの光景。ベクトルを感知する事が出来ない少年はランダムに飛んでくる力により魔道書に永遠に触れる事は出来ない。

 

「………ッ!」

 

 しかし、今回は違った。仕掛けられたループを、変わりようのない運命を打ち砕く様に少年は地面に右手を撃ちつけ、魔道書が飛ばした力を破壊する。そしてそのままの勢いで一気に駆け抜ける。

 

「ッチ!」

 

 複写する能力を変更する。

禁書目録の背から六枚の白き翼が生え、上空に浮かび上がる。少年の決して届きはしない空へと……

 

「これだけでは足りん!」

 

 六枚の翼が左右一対ずつ別々の力を発揮する。

一つは未元物質(ダークマター)

一つは超電磁砲(レールガン)

一つは原子崩し(メルトダウナー)

 学園都市第二位、第三位、第四位の代名詞と呼ばれる攻撃を同時に放つ。本来なら絶対に同時に相対する事は無いその圧倒的な力を少年は着弾順に対処する。超電磁砲は軌道を逸らし、原子崩しは一瞬右手で触れた後握り潰す。そして、最後の未元物質を掴み取る。数秒に満たない時間の中その全てをやってのけた上条当麻は、右手で相殺しきれない未元物質をロープの代わりにして一気に上空を飛ぶ禁書目録へと迫る。

 

「……無駄だ」

 

 魔道書にはわかっていた。最早この程度であの少年は殺せない。どれだけ強力な力を再現しても不屈の意志で立ち上がり、乗り越える。不屈の意志を折らない限りこの少年を排除する事など不可能だと。そして、その意思を折る事もまた出来はしない事も……

上条当麻は禁書目録を救い出す間で決して諦めはしない。かつての彼女のパートナーたちのように。

 

「例え今この娘を救えても、それが永久的にこの娘を守りきる事にはならん!必ずいつか貴様も挫折する。かつての人間たちのように!」

 

「……俺はそいつと約束したんだ。例え、地獄の底でも付き合ってやるって!」

 

「平行線だ……貴様と我では決して交わり合う事は無い!」

 

 魔道書には悲願があった。

 それは、ヒトに作られヒトに扱われ続ける宿命を負っていた道具が抱いたたった一つの願望。決して起こり得なかったはずのエラー。ただ知識をため込むだけの存在だった魔道書がたった一人の少女によって生じさせられた不具合。

 

『この娘を……我の主を救うのはこの我だ!』

 

 

 

 

 

 

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