とある科学の劣化魔導   作:fukayu

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反逆の魔道書 後編

 初めて魔道書に意思が生まれたのはもう幾度も自身を扱う魔術師が変わってからだった。

 あらゆるものには意思が宿る可能性がある。日本という国に付喪神という伝承があるように、長い年月を経過した道具には意思が生まれる。使っていた人間の意思が乗り移る様に魂無き者達にも魂が宿る。

そういう意味では魔術師たちが己の全てをつぎ込み完成させる魔道書は始めから魂が宿ってもいてもおかしくはなかった。多くの魔道書がそうであるように魔道書「複写幻本」にも意思が宿った。しかしそれは道具としての魔道書としての意思。自身の役目を――知識を記録し広めるという役目だけを優先する人格。それは時に自身の主にすら牙を剥き、その全てを記録した。当然だ原典である魔道書を持つ事が出来るのは魔術師の中でもひときわ優秀な――”異常者”だけである。他者と一線画す人格を持った主たちは魔道書にとって記録するべき最高の知識に他ならなかった。

 そうしてあらゆるものを、自らの主達すら記録しようとした魔道書はついには封印された。必要悪の教会(ネセサリウス)。魔術師殺しの魔術師たちによって自身の存在を、記録し広めるというたった一つの存在理由を否定され数百年に渡り暗い闇の底で禁書として埃をかぶり続けた。長い年月の中記録した人間たちの意識を統合し、かつての創造主たちと遜色ない人格を確立させながら長い時を過ごした。

 

 そして、再び必要悪の教会(ネセサリウス)によって解放された魔道書を最初に襲ったのは強烈な疎外感だった。禁書目録(インデックス)と呼ばれる少女のバックアップとして利用されることになった”彼”はもうすでに狂っていたのかもしれない。かつての自分と同じ役目を負わされながらも、常に笑顔を絶やさない少女に対し、親近感を覚えついには守りたいと思うまでにそう時間はかからなかった。

 そして、自身と首輪と呼ばれる礼装によって少女の記憶と命を天秤に掛けられていることを知り、それをどうする事も出来ず諦めていく彼女のパートナーたちを見て魔道書は―――彼は決意した。

 

 世界への反逆を……たったひとりの少女が笑って過ごせる世界を創る。ただ、それだけのために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この少年の意思は変わらない。しかし、もう人間を信用する事は出来なかった。

例え禁書目録()の事を守りたいと思い、禁書目録()もそれを望んでいようと……たった一人守りたいと思った少女を永遠に守り抜くためなら、その意思を踏みにじってでも―――

 

『やっとだ。やっとなのだ!この娘の意思を操作しこの街へとたどり着きやっと見つけた可能性なのだ!』

 

 禁書目録の身体を正体不明の力が包み込む。五感全てを狂わせる霧のような”ナニカ”はすぐに周囲を侵食し始める。

 

『我はやっと見つけた。この街で人間同士を繋げ合わせる術式に似た何かが発生したあの日、一瞬でその全てを狂わせ全く異質ものに変換した圧倒的な異物を―――そして手に入れた。この力さえあれば、我は永遠に主の脳を汚染する事は無くなる。そうすれば、あらゆる災厄を退ける事が出来る』

 

 魔道書が禁書目録を守る上で絶対的な障害として立ちふさがるのは他ならぬ魔道書自身だった。かつて習性として行っていた行為がそのまま魔道書の持つ強烈な毒として変化した。その強力な毒はたとえ10万3000冊の魔道書を記録している禁書目録をもってしても防ぎきれるものではなかった。普通の人間と比べれば圧倒的なほどの知識を持つ、しかし魔道書を持つ限りその脳はどんどん汚染されていく。それはどんな魔術を使っても完全には押さえ込むことができない。

 だからこそ、魔道書は魔術とは別の可能性に―――科学に賭けた。

 そしてその賭けに勝った。この街で、最低と呼ばれる能力。それこそが長年追い求めた力………無尽蔵に、無差別に吐き出される知識は魔道書の毒を相殺するに相応しいものだった。

 

『それを……それを貴様のような人間に邪魔されて堪るものか!』

 

「……ふざけんじゃねえ」

 

 上条は無尽蔵に出現する霧を右手で払いながら立ち向かう。

 

「テメェも結局、同じじゃねえか!インデックスを助けるために必死に……必死にどうにかしようとした!それは俺やステイルたちと変わらねえ!ならなんで協力するって手を思いつかねえんだ。最初からみんなで手を合わせれば、なんてこと無かったんじゃねえのか?もうお前たちには任せられねえだと?じゃあテメェは今まで一度だってそいつらに協力してやったのかよ!?ステイル達だって魔術のプロだ。原因さえわかっちまえばなんとか出来たに決まっている。それをテメェはひとりで抱え込みやがって!最初で最後でいい俺たちと……」

 

『ならば貴様は”あの時”そうしたのか?』

 

「!?」

 

『我には見えるぞ。このノイズが見せる貴様の過去を。貴様はあの日、あの時助けを求めた少女を救えたのか?救う手は本当になかったのか?いいや、有ったはずだ。貴様がその助けるその手を払い除けてさえいれば未来は変わっていたはずだ。貴様が余計なことさえしなければ、あの少女も、あの男ももっとましな結末があったはずだ』

 

 それは上条当麻の過去。一年前、自分に助けを求めた少女を救えなかった過去。拭いきれない負の記憶。上条当麻は少女を救おうとしたもうひとりの少年とぶつかり合い、結局二人共救えなかった。それは、今の状況ととても良く似ている。救いたいものは、求める結果は同じはずなのに互いに譲り合えずに時間だけが過ぎていく。

 

『そうだ。我の目的は主の存在を脅かす全てを変えること。そして貴様が望み叶えるには首輪と我を……この魔道書自身を破壊しなければならない。二つを同時に叶えることなど不可能。だが、時間はない。こうしている間にも主の精神は消えかかっている。そうなる前に、我はこのノイズ(能力)を制御しすべてを終わらせる。我の力はすべてを記録し、写し出す。10万3000冊の魔道書の力があれば世界を書き変えることなど造作も無い!』

 

 その知識を総動員すればあの『魔神』にすらなれると言われる魔道書達を使い世界を変える。もう少女が苦しむことのない世界へと、少女を脅かすものが”一つも無い”世界を創り出す。それが魔道書の考えた計画。

 

『その前に障害になり得るイギリス、ローマ、ロシアの者共を葬っておきたかったが、もう時間がない。だが、貴様は――その幻想殺し(右手)を持つ貴様だけはここで消す。世界の基準点であるそれは、何より貴様は危険だ!ここで……消す!』

 

 空間を支配するノイズ()が、性質を変える。異能を打ち消す右手ではなく、上条当麻本人を殺すための兵器として……

 

「毒……いや、これはあの時の」

 

 一分一秒と増大するノイズはすぐに上条の体を包み込む。

 

『これは貴様の脳を直接破壊する。一体こんな危険なものを作ってこの街がどうするつもりかは知らんが、逃れる術はないぞ』

 

「違う。これは……コイツは(・・・・)そんなもんじゃねえ!」

 

 霧を吸い、意識を失いかける上条は思い出す。上条はこの霧と、この能力と以前確かに戦ったことがある。しかし、そこから導き出されるのは経験による打開策ではなく。ひとつの絶望。

 

「それは、そんな簡単に使っていいもんじゃねえんだ!このままじゃ俺だけじゃなく、お前の願いも……狂わされるぞ!」

 

『何を言っている!?我は完全に再現した。本物に限りなく近い、複製品を作り出すのが我の力だ。暴走等有りは――!?』

 

 そう、魔道書『複写幻本』はあらゆる魔術を、能力を、礼装や現象果ては幻想までも完全に再現する。

再現してしまう。

 

 現れるのは、一人の白き少女。髪も眼も肌も服装もすべてが白一色で統一された幻想。

 

『なんだこれは――我はこんなものを記録した覚えは――――!?』

 

『……クスクス』

 

『!?』

 

 白き少女が笑い出す。まるで開けてはいけない箱を開けてしまった愚か者を嘲笑うように……ヒトではない少女は魔道書も上条当麻も分け隔てなく嘲笑う。   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ……間に合わなかった!」

 

 白き少女はその笑みを崩さぬまま上条当麻の目の前へと現れ……

 

『クスクス』

 

「!?ぐ、ああああああああ!!??」

 

 幻想殺しを宿すその右手ごと腕をもぎ取った。

 そして、上条から右手を奪い取った少女はそれを小さな両手で抱えるように持ってみせる。

 

 全て、一年前と同じだった。明らかに異能による存在であるこの少女に幻想殺しは通用しない。いや、幻想殺しだけではない。おそらくはこの世界にあるあらゆる異能は少女に通用しない。

少女は、その貼り付けたような笑みを浮かべながらその場に静止する。

 

『……そうか。完成させることで初めて発動する能力。初めから制御することなど考慮していないこの能力は、これを呼ぶための……ククク、ハハハハハ!!そうか、我の計画は最初から――』

 

 魔道書は自らの過ちに気付き笑い出す。

 

『最初から間違っていたのだ。例えどのような手順を踏もうと世界を書き換える行為は、これを呼び出す結果になる。全く、本来ならこんな過ちを踏むのは狂気に駆られた愚かな人間たちの役目なのだがな。いや、我も結局――同じだったというわけか』

 

「……何、諦めてやがる」

 

『!?』

 

 それを発したのはほかならないひとりの少年だった。たった一つの武器である右手すら無残にも奪い取られ最も絶望しているはずの少年。しかし、少年の瞳にはまだ諦めの色など浮かんでいなかった。いや、浮かびなどしない。上条当麻が上条当麻である限り、救いを求める誰かがいる限り決して諦めることなどしはしない。

 

「……確かに、俺はあの子を救えなかった。ボロボロのあの子を放っておけずに手を伸ばしてしまった。お前の言うとおりそれはきっと余計なことだったんだよな。俺が手を貸さなくても誰かがあの子を救おうとした。そしてもしかしたらそいつがもっと別の結末にしてくれたのかもしれねえ。でも、それを見過ごせないのが俺なんだ。偽善者だってのはわかってる。でも、もうあんなことは繰り返したくねえんだ」

 

 過去に犯した失敗。救おうとした少女と上条とは別の方法でその少女を救おうとした少年。その両方を上条は救うことができなかった。彼らと上条の持つ右手は恐ろしく相性が悪かった。この右手はあらゆる異能を、神様の奇蹟さえも消し去ってしまう。それは同時に異能で生きながらえている者たちにとってはこの上ない毒となる。関わってはいけなかった。触れてはいけなかった。今の上条を作り出しているのは紛れもなくその過ちだった。

 一人では決して救えないものがある。だからこそ、たったひとつある力を失っても諦めない。もうあの悲劇を繰り返さないために、本当に救いたいものを救うためならどんなことだってする。

 

「だから、俺は自分をヒーローだなんて思わねえ。だって、誰かを救いたいと思うヒーローはどこにだっているだろ?」

 

 その意志を持つものは―――上条と同じくどんな手を使ってでも誰かを救おうとする人間はどこにだっている。少なくてもインデックスを救おうとする奴はここにいると、そういった隻腕の少年は笑っていた。

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)!」

 

 巨大な炎の魔人が白き少女に襲いかかる。上条の右手を持ってしても消しきれない圧倒的な力。そしてそれを操る人物はたったひとりの少女を救うためにこの力を手にした。

 

「全く、一体どんな状況だ。彼女は無事なんだろうね」

 

「ステイル、心配ありませんよ。あの魔道書の目的がわかった今私達のやるべきことはひとつだけです」

 

 この世にひと握りしかいない聖人と呼ばれる彼女は救われぬ者を救うためだけにその力を振るう。

 かつて救えなかった親友のためだけにこの島国まで追いかけてきた二人は少女の体を乗っとている魔道書ではなく白き少女に立ち向かう。

 

「おい、古本。もしその子に傷一つついてみろ、僕はお前を文字通り消滅するまで焼き尽くす」

 

 赤髪の不良神父は紛れもない殺意を魔道書に向ける。

 彼らは一度失敗したものたち。一度は挫折し、魔道書によって一方的に切り捨てられた人間。しかし、今の彼らには絶望はない。あるのはたったひとりの少女を救う意志だけ……

 

『………』

 

 魔道書は彼らを見て、過ちに気づく。そして、

 

『悪いがそれは出来んな』

 

「貴様……!」

 

 容易く魔女狩りの王(イノケンティウス)を消滅させようとした白い少女をみる。

 

『あれは、魔術や能力とは別種の――一段上の存在だ。勝つ手段はない。故に貴様らの望みは叶わん』

 

 この世のあらゆるものを記録してきた魔道書だからこそ理解できる。あの少女には勝てない。禁書目録を守りきることはできないと……

 

『だから……』

 

 魔道書は上条当麻を見る。この中で最も戦力にならない少年はこの中で一番諦めが悪かった。

 

『頼むぞ』

 

「お前……」

 

 だからこそ、魔術にも精通しておらず自身では能力も使えない少年は魔道書の言わんとしていることを理解できた。

 

「もっと別の方法があるんじゃねえのか!?」

 

『残念だが、アレを消すにはあれを発生させている力を消すしかない。だが、もう我にも自分の意志で止められんのでな。これしか無いのだよ。……ステイル・マグヌス受け取れ』

 

 魔道書が自らの意思で禁書目録から離れる。意識を失った少女は赤髪の神父に抱かれる形で倒れる。同時に空中に一冊の本が現れる。

 

『我とこの娘は首輪によって一体化されておる。首輪を破壊しない限り切り離せん。だが、それも完全に破壊すれば必要悪の教会(ネセサリウス)は新たな首輪をつけようとする。だから、キサマらの望みを叶えるには半壊状態がベストだ。……その上で守り抜け』

 

 現れた本は上条当麻に向かって言葉を紡いでいく。

 

『失敗した我にはお似合いの末路だ』

 

「失敗したって、また挑戦すればいいだけだろうが。どうしてそこで諦めるんだ」

 

『順番だ。我が一番最後に失敗した。そして次に挑戦するのは我より前に失敗した貴様らだ。必ず守り抜け……」

 

 白き少女が完全に魔女狩りの王(イノケンティウス)を消し去る。応戦に向かった神裂の攻撃すらすり抜け、自らを呼び出したモノに引き寄せられるかのように真っ直ぐに魔道書たちの方へ向かっていく。

 

『化け物め。貴様を呼び出したのはこの我だ。だが、失敗したままというわけにも行かん。こちらの都合で悪いが、共に消えてもらうぞ!』

 

 魔道書が白き少女に重なる。そしてそれは上条の位置から見て一直線上の場所だった。

 

「クソ、どいつもこいつもどうして!」

 

『……クスクス』

 

 白き少女が動きを変える。魔道書を抜け、意識のない禁書目録の元へと。

 

『まさか、乗っ取る気か!?』

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 瞬間。

 上条のあるはずのない右手の部分から透明な何かが溢れ出す。それは一瞬にして既存の形を作り出す。

 竜の(あぎと)。上条の体を飲み込むほど巨大な竜王の顎(ドラゴン・ストライク)

そして、それは一つではなく上条のインデックスを守る意志に木霊するように無数に現れる。

 

『……クスクス』

 

 白き少女を飲み込まんと押し寄せた竜の顎はその肉体を次々と食らっていく。

 しかし、その状況でも少女は一切その笑みを変えることはなかった。存在が消滅することなどどうでもいいかのように竜王の顎(ドラゴン・ストライク)を出現させた上条へとつぶやく。

 

『キ……エ、テ?』

 

「!?」

 

『いかん!』

 

 頭部だけになった少女の額が上条の額に触れる。同時にその間に入り込もうとした魔道書を巻き込み三者が白き光に包み込まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果として。上条当麻だけが生き残った。

 あの光を発し白き少女は消滅し、上条を庇った魔道書は崩壊した。

 

「う~ん、こういう結果になったカ~」

 

 その一部始終を見届けた第三者である彼は学園都市に無数に設置されている風力発電のプロペラに乗りながらその結果を吟味する。

 

「それにしてもステイルも神裂も甘いナ~。魔道書は回収しろってさっき連絡してあげたのに、まさか共闘しちゃうなんテ」

 

 絵本に出てくる魔女がかぶっているような長い黒帽子に黒い薄手のコートを着込んだ彼は同僚の不甲斐なさに対し愚痴を言うと自分の仕事に取り掛かることにする。

 

「さてさて、あの程度でアレが完全に消滅する筈はないし、ボクもそろそろ動き出そうかナ?」

 

 未だ、この夜の騒乱は終わらない。

 

 

 

 




 とりあえずこれで上条さんサイドは一旦終わりです。
 魔道書についてですが、使える力は使う本人の理解度によって変化します。インデックスが自分の意志で使えば魔術ならそれこそ魔神に匹敵する力を発揮しますし、能力は全く理解していないのでそもそも使えません。同じように今回自分の意志で使っていた魔道書も能力についてはちょっと見て感じた程度なのでとりあえず強い力である超能力を使ってみたのですが、本当に基本的な部分しか使えませんでした。じゃあ、魔術使えよって感じですが基本的に常時幻想殺し対策の結界やら何やらを「戦いは数だよ、兄貴」といった感じで無数に使っている上所詮バックアップなので自前の魔術はほとんどなく、使うためには主の頭をいじんなきゃならないので自粛していました。
 この上条さんは記憶を失う前の俗に言う一回目の上条さんですが、この作品では救おうとした少女を救えなかったというトラウマがあるせいで無駄にしぶと……強く、ドラゴンブレスでやれそうになかったので最後の”アレ”が出ました。本当は食峰さんの能力でやろうと思ったのですが、頭に触れられたら終わりですし、腕抑えるのも無理ゲーだったのでボツになりました。
 救えなかった少女というのはこの作品の主役(劣)の方で出てきます。

 というか、新章入ってから一回しか出てきてないよあいつ…………
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