「あれ、みんな死んでるネ?」
そういったのは襲撃部隊を退けた秋瀬の前に現れた新たな人物だった。
「……その最後の一人は今お前さんがやったんだけどな」
視力の悪い秋瀬がその姿をはっきりと認識できたのは、ただ単純に異質な存在だったというだけだ。
少年は――幼子と言っていい容姿をしていたその人物は金色の髪に絵本から飛び出たような黒くて縦長の帽子を被り、これまた絵本から飛び出したようなマントだかローブだかわからないもの(多分夏用)を羽織っている。
率直に言ってこの学園都市にはふさわしくない格好だった。
「……完全下校時刻はとっくに過ぎてると思うぜ」
「う~ん、僕にはちょっとよくわからないナ。これからが楽しい時間なの二」
そういった少年は、あからさまに片言の日本語を使いながらも辺りに散らばる死体を怖がりもせずに眺めていく。
マズイ。何もかもがマズイ。この少年はおかしい。頭が、というよりも存在そのものがだ。この町の常識にひとつも合致していない。金髪、片言というのは勿論だが何よりも。
(……AIM拡散力場が無ぇ)
能力者ならば一部の本当に特殊な例外を除いて必ず発するAIM拡散力場をこの少年は発していない。だからこそ、秋瀬七実は今の今までこの少年の接近に気付くことが出来なかった。
秋瀬の
(……一部の例外はあるが、あの年のガキは学園都市に来た時点で善意を装った科学者どもにモルモットとして能力開発を強制させる。見た感じ日本人じゃねえから、元は外部の人間。あの見た目なら学園都市内部で生まれたって線も否定できねえが……)
いくつもの仮説を立てていく。普段とは明らかに動きの違う自身の脳細胞は必死に”ひとつの可能性”を否定しようとする。考えたくはないがおそらくそれが正解であろう答えを否定する。
この世界には残念ながら超能力以外にも異能と呼べる力が存在する。それは学園都市が能力開発によって能力者を作り出すずっと以前から存在していた。そして、その異能を扱う人間たちはこう呼ばれる。
「魔術師……」
「正解~。ボクの名前はサウロ・マルティス。
「そういえば、どうして彼を?」
聖ジョージ大聖堂にてサボりグセが染み付いてしまったシスターがぐったりとやる気の感じられない姿勢で自身の上司とおしゃべりをしていた。
「サウロ・マルティスのことかしらん?」
上司であるイギリス清教
「ええ、そのサウロ……さんのことです」
シスターが話題に出したイギリス清教所属の魔術師は金髪の幼い姿をしているのだがその特異な性格から近づき難く、少なくてもシスターがここに来た7年前からその姿を変えていないので呼び方に困る――もとい、謎の多い人物だ。
しかし、その噂からとてもじゃないが今回の仕事にふさわしくないと思える。
「アレ個人の希望よ。なんでも学園都市に興味がありしとか。まあ、ステイルたちだけではいろいろ不安があらんこともありだから、ね。それになにより、アレは鼻が効きけるからね」
「ステイル君たちだけじゃ不安って向かわせたのは最大主教じゃ……まあ、その結果こうなったんですが」
禁書目録に付けられた首輪は半壊状態にされ、反逆した魔道書は消滅。そして、騙してたことがバレてステイルたちの好感度は激減。対応を間違えば今度は彼らがこちらに牙を剥きかねない。
「少なくとも新しい首輪は付けれそうにないですね~というかしばらくインちゃんと会わせてすらくれないんじゃないですか?」
ステイル、神裂両名ともに並みの魔術師とは一線を画す実力者であり、流石に面と向かってこられても負けはしないが禁書目録とともに他の宗派に亡命でもされると厄介だ。
「ま、そこは現地で出来たという新しい
イギリス清教に所属しているとしても魔術師なんて生き物は所詮個人の利害によって動く狂人どもだ。こんな離れた地からではとても制御できない。それに加えサウロ・マルティスの魔術はおよそ平和な島国には相応しくないものだ。
いくら能天気なシスターといえども、どんな時もしたり顔も忘れない器の大きな上司とは違い溜息をつかずにはいられないのだった。
魔術師。そう名乗ったサウロという少年はそのいかにもな格好と相まってたとえ嘘でも信じてしまいそうなほど真実味を帯びていた。
嘘だと否定したい。季節はずれのハロウィンだと信じたい。しかし、秋瀬七実にはもう否定する材料も時間も余裕もありはしなかった。
(……マズイ、圧倒的にマズイ)
秋瀬はとある理由から学園都市の人間でありながら魔術の存在を知っている。しかし、秋瀬が知っているのは魔術の存在だけ。この壁に囲まれた街で本物の、それも魔術師狩りと名高い
そして、学園都市が自ら否定したい最低の
「バレてたか……」
イタズラがバレた子供のようにバツの悪い表情をしながら、サウロの目的は先程撃退した暗部の部隊と同じだろうと想定する。魔術とは本来秘匿されるもの。便利であり、能力とは違い勉強すれば誰でも使用できる魔術は同時に心無いものが扱えば取り返しのつかないことになる。だから連中のほとんどは自分たちは間違っていませんよと見ているかわからない神様とやらに必死にいい子ちゃんアピールをするために宗教というのに入っている。基本的には属さないで魔術を使えば異端という判断で行動していると思っていい。その点で言えば秋瀬の存在は学園都市にし移入するリスクを負ってでも消す価値があるということだ。
「だからといって、黙って消されるわけにはいかないけどな」
走り出す。全力で自身の運動能力の全てを使って――ただし、魔術師とは真逆の方向へと。
現在いる場所は鉄橋の真上。昔の戦などでは橋の上には屈強な一騎当千の
「悪いが俺はもう行くぜ。
途中、倒れていた暗部のスタングレネードを使い完全に先手を取った秋瀬は見る見るうちに姿を消していった。
「へ~、やっぱり
魔術師――サウロ・マルティスは逃げたターゲットを追いかけずにのんびりとした口調でターゲットが戦っていたと思われる黒い格好の男たちを順番に眺めていた。
「ふ~ん。基本的に味方の銃で撃たれているのか~例外は僕が殺った奴とこの爆死体くらいだネ。あ、これなんかまだ生きてる。エイっ」
「うっ」
殆どは”なぜか”同士打ちでやられたという状況はとても愉快だった。
敵を知るにはそいつが戦った相手を見ればいい。それが殺してあれば尚良し。それがサウロの持論だった。
確実に一撃で殺していたら相当な手練だってわかるし、何度も攻撃していたら下手だったのか相手が強かったのか楽しんでいたのかといった分析ができる。
反対に殺していないと少し面倒だ少なくても手加減をしているので相手の力量も思い切りの良さもわからない。サウロの嫌いなタイプである。
「さて、今回の場合は……」
ターゲットに対して分析を終えたサウロはそれでもすぐには動かず、まずは念入りに準備をすることにした。
どうせ、あの男は逃げられはしない。だから、まずはまだ息のある連中で楽しんでおこう。