全く相変わらずついていないとしか言いようがない。散歩に出かけたら暗殺部隊とレアな魔術師に遭遇とか………そういうのは経験値集めをしている路上戦士の皆様に任せたい。
というかどうせなら律儀に順番など守らずに一緒に来て欲しかった。そうすれば同士討ちも狙えて都合が良かったのだ。秋瀬の能力である
「ま、結局どんなものかわかっても理解できないからほとんど対策できないんだけどな……って、俺も立派にストリートファイターな思考してるな。ま、結構路上で戦ってるから否定は出来んけど」
少なくても未知の魔術師などと戦うことだけは避けたい。ここは後腐れのないこちらに殺意丸出しの練習台……もとい暗部の連中とエンカウントしたいと普段なら絶対考えない世迷言すらつぶやいてしまう。
現在位置はこれまた人通りの無い夜の公園を突っ切っている。別に他人を巻き込むのは気にならないが相手の見た目が子供なため間違っても紛れ込まないように昼間とは真逆の人層の公園を目指していた。
「夜の公園には逆上がりの練習をする以外に子供が寄り付くことはないからな。それもに周りが多いこの街じゃ都市伝説級だし……」
”見事に人っ子一人いない”公園で思わず足を止める。
「確かに人がいないところへは向かったが、”誰もいない”方向へは向かっていないぞ……全く」
先程も言ったとおり学園都市には完全下校時刻というものがあり、それを過ぎると学生たちは一部の素行のよろしくないもの以外は姿を消す。その代わりに現れるのは妖怪―――ではなく、見回りの
「俺のようにあの光の柱を見に行ったってのも考えられるが…………最悪を想定したほうがいいな。これは」
そういって、今初めて遭遇した相手の方向を向く。
黒一色で染められた服装。無数の相手を殺すための装備。それらには見覚えがあった。でも、何より見覚えがあったのは、
「で、お前頭どこに忘れてきたんだ?」
その相手には首から上が存在しなかった。鋭利な刃物で切り取られたかのように綺麗に切断されていた。
「全く、ヤツラは自分にないものを求めるとか聞くけど……いくら俺がゲーセンとかで出来ないからって現実でやるのはないんじゃねえの?」
そう呟くと同時にあたりから無数のこれまた見覚えのある黒い連中が現れる。それぞれの体は首が無いだけのものよりもいくらか損傷が激しく、区別が付かないものもある。
それらで一致する共通点があるとすれば即ち死体。死人であること。
「クソ、こんなのは
はからずとも相手の魔術の系統がわかった秋瀬はこの洒落にならない敵に対し早くもめげ始めていた。
「珍しくほぼ無傷だったのが幸いしたが――マジでシャレにならねえぞ!」
夜更けの公園にいるのは無数のゾンビと劣能力者という烙印を押された名門・長点上機学園所属の学生一人。シチュエーションとしてはありそうな話だが、実際当事者となってみると冗談ではなかった。
物語のゾンビは「あ~、う~」と呻きながらのろのろと動き回るが、現実の――現在相対しているゾンビは機敏な動きで数メートルの大ジャンプをし、短距離選手顔負けのスピードで近づき、遊具を一撃で破壊する攻撃力を持って確実にこちらを殺しに来る。
もっともそんなことをしてくるのは一部であって、殆どのものはそんな原始的な方法ではなくその手に持った重火器で攻撃を仕掛けてくる。
「明らかに生前よりパワーアップしてるんですけど――!」
せめて生前と同じように無線で連絡を取り合ってくれれば多少楽なのだが、そんな隙はない。そんなものがなくとも奴らは本能で連携を取っているとしか思えない野生ジミた動きでこちらを追い詰めてくる。
具体的には遠距離から牽制しつつ、接近戦で殺りに来ているのでどちらかを潰そうと動けば確実に殺される。
そんなこんなで現在秋瀬七実は都会に突如現れたゾンビたちと壮絶な鬼ごっこを繰り広げていた。
「こいつらゾンビなんてもんじゃねえ!ゲリラだ!訓練を受けたゲリラだ!」
しかし、逃げ回るのにも限度がある。秋瀬が倒さないから減らないのは当然として増えないとは限らない。というよりこれ以上続けていれば高確率で敵の数は増えるだろう。これが能力によるものならばある程度法則も限られてくるが、魔術の場合どんなルールの上に成り立っているのかはわからない。ただ、逃げてからそう経たないうちに死体がゾンビ化して襲ってきた事から考えるに死体さえあれば操るのにそう時間はかからないと思われる。
「ターゲットが無駄に逃げ回って、埒が明かない時……俺なら、死体を増やすな。あいつ全く同じ状況だとすればこの街に住んでいるのは全て赤の他人だ。殺すのに良心が痛むことはない。なにせあっちは通りがかった人間を殺すだけで簡単に自分の人形に出来るんだ。特に外傷なく、直接手を下しさえしなければ死体は勝手に移動してくれる。もし俺が倒しても殺したのは俺に見えるはずだ。なら殺らねえ手は無い」
人間の中にはリスクをメリットが上回ったとき、平気で倫理に反すること仕出かす連中が居る。秋瀬自身もやむを得ない場合はやる種類の人間などでなんとなくわかる。
自分の目的のためならば他人がどうなろうが構わない。思うにそれが魔術師として最も重要な要素なのではないか。彼らの多くは叶えたい願いのために力を手に入れた。魔術というのは能力のような元々の素養ありきのものではなく、ある程度は本人の努力によって力を得られる。しかし、その努力をするためには必要なのだ。自分以外の他人が犠牲になっても構わないと思える精神が……
(……手段は二つ。一つはこいつらを即座に始末して一気に王手をかける)
そのために必要なのは火力だ。見る限りこの場で最も火力があるのは当然ゾンビたちが手にする武器だ。元々そのために作られたそれらは人を殺すための様々な工夫を凝らしており、そこらのものとは比べ物にならない効率を持ち主に与える。しかしながら、そのためには奪い取らなければいけない。軽々と子どもが遊ぶために安全設計された遊具を破壊するあの化け物どもからだ。そんなことは不可能。能力のおかげでただでさえ身体機能が低い秋瀬が勝つためには武器を奪うための武器が必要となるだろう。そんなものを用意している暇はない。
他の使えそうなものを探す。
ブランコ。なるほど、ブランコのチェーンは頑丈だ絡めとれることができれば足止めになる。だが、多分地面に固定されている支柱ごと抜かれる気がする。というかゾンビをすべて絡め取る前にブランコか秋瀬の体力がなくなる。
砂場。ゾンビは土に返すのが一番!……ゾンビは土から出てくるものです。
滑り台。上に登れば一度に相手をする数が減る。そもそも、飛び道具を持ってい敵相手に逃げ場のない高所を選ぶのは死亡フラグだが、それより何より人間の体は脆いんだ。飛び降りた時に骨を折ったらどうする?
(……無理だ。短期決戦など望めるはずもない。ならばもうひとつの方法を使うまで)
「やあ、また会ったネ」
「……どうも」
十分後、秋瀬七実は先ほどの鉄橋に戻ってきていた。起死回生の逆転劇による――というのではなく、ただ単に降参して術者のところに連行されたというのが正しい。術者である金髪ショタの魔術師サウロ・マルティスはスタート地点から殆ど動かず待っていた。
まるで最初から動く必要がないとでも言うかのように。
「ま、ここはボクが張った人払いの結界の中だから逃げられるはず無いんだけどネ」
「……人払い?………しまったー!」
人払いという単語を言われて初めて気づく。思えば最初に体晶を使ったとき気づくべきだったのだ。能力障害の影響範囲は数キロにも及ぶ。その範囲内に能力者がいないわけがない。つまりは最初に襲撃を受けた時から秋瀬と今は魔術師の忠実なゾンビとなっている暗部の連中はこの少年の張った一種の閉鎖空間に閉じ込められていたということだ。
だからこそ、サウロは結界が破られない限り一歩たりとも動く必要はない。獲物はこの法則に気づくまでは決して逃げることなどできないのだから。
「ウンウン。わかってくれたようでなによりだヨ。キミは面白いネ。逃げたと思ったらろくに抵抗しないで捕まるんだモン」
「何が面白いのかしれないが、俺は真面目だよ。抗える目があれば抗うし、無理だとしたら諦める。そうした方が一番シンプルで簡単だ」
「フ~ン。ならこの場合ドウナンダイ?」
サウロが少年とは思えないほど残虐な顔をする。最初から答えが分かっているというように……それ以外の回答はありえないというようにその笑みは絶対だ。
秋瀬の両腕は怪力を持つゾンビに抑えられ、後ろから全身の急所を正確に破壊できるように凶器が突きつけられている。少しでも動けば殺される。能力障害の力を以てしても突きつけられた複数の銃弾を逸らすことは出来ない。そもそもの話、能力障害という能力は魔術に対してなんの効力も持たない。ラジオの周波数があっていなければ聴きたい番組が聴けないように能力と魔術では規格が違う。魔術師には干渉するAIM拡散力場そのものが存在しないのだ。
しかし、サウロに言ったことは間違いではない。秋瀬七実という劣能力者は意地汚く逆転できる手が少しでもあればそれに縋って生きてきた。今までもずっとそうだった。
そして今回の場合は――
「……ダメだな。無理、勝てねえ。それどころかどうやっても生き残れねえ。俺の負けだよ諦める」
抜け道などなかった。そもそも、本物の魔術師と当たった時点で終わりなのだ。能力者には良くも悪くも影響力のあるこの劣能力は魔術に対してはなんの力も持たない。これがもし一般的な
「殺れ――」
サウロの非情な声とともに一斉にゾンビたちが動き出す。
だからこそ今回は諦める。勝つ目がないからこそ抵抗はしない。無駄なことはしないのが一番だ。
直後、秋瀬七実の体は青白い光に包まれた。