「そうして生まれたのが俺、秋瀬七実だ。残夏の次だから秋の瀬――単純だろ?でも俺は別にそんなことはどうでもいい。重要なのは俺は残夏骸とあの少女の残骸だってことだ。今更守るものもない。生きてるのはあくまで惰性だ。あいつらに報いようなんて気はない。ただ……」
秋瀬はその場にいるもうひとつの存在に向かって語りかける。
それは秋瀬と同じ残骸。生きる意味を失いながらも死ぬことができなかった哀れな魔道書。
「お前は大切なものを守るために戦い、その役目を次代のパートナーに引き継いだ。だからもうお前は自由だ。俺と同じ生きる意味を失った者同士だ」
『貴様は何を望む』
魔道書は秋瀬七実の―――――残夏骸の人生を見てきた。そして同じように秋瀬もまた魔道書の思いを知った。
魔道書の複写するという毒と秋瀬の能力障害の発するノイズが相互に働きかけた結果、互いの過去を知ることになったのだ。
「それはこっちの台詞だ。お前だろ?ここ最近俺に語りかけてきたのは?器だなんだと睡眠の邪魔しやがって。まあ、その様子じゃもうそれも意味ないみたいだがな」
『そうだ、我は失敗し破壊された。原典故の頑丈さから生きながらえはしたが最早望みなどはない』
「そう、まさに俺と同じってわけだ。互いに生きる意味を持たないもの同士手を組むってのはどうだ?」
秋瀬の言葉を魔道書は理解はできなかった。生きる意味のないものたちが手を組んで何になる。魔道書の毒と劣能力という世界にとって害悪でしかない者たちがいまさら手を組んでなんになるというのか。
まさか、世界に対して仇なすというわけでもあるまいし………
「別にこの世界をどうこうするわけじゃねえよ。俺もお前も厄介なことには変わりないが世界にとっちゃ取るに足らない存在だ。でも、無意味な存在じゃない」
『!?』
「世界に対し、何もできない存在じゃねえだろ。別に他人の迷惑なんか気にする事ねえ。だって俺たちはそういう存在だろ?」
秋瀬も魔道書も世界にとって自分たちがどんな存在かなど今更言われずとも理解している。
秋瀬は多くの人間の人生を狂わせた逃れきれぬ過去によって、魔道書は自身と同じ役割を持ったひとりの少女に出会ったことで既に十二分に理解している。
二人に違いがあるとしたらそれは受け止め方にほかならなかった。
「俺は先代のあいつがやってきたことに一切責任は取らねえ。あいつと俺は違う。俺はあいつがやったことを一切認めねえ。そうやって新しい自分を秋瀬七実を世界に作り出す。俺は俺だあいつじゃねえって世界に対し知らしめるんだ」
過去との決別なんて聞こえのいいものではなく、過去から逃げることで生きる。それが秋瀬が自分の全てを懸けた思いだった。誰の目から見ても最低の行為。それでも、秋瀬は生きることが出来るならどんなものにでも縋り付いてみせる。それが何も持たないものとして彼が見出したものだった。
『最低だな』
「そうさ、俺は学園都市最低の
『ククク、ならば我は最悪の魔道書ということになるかな』
それが彼らの生きる道。最低最悪の一人と一冊が歩む道。
過去を捨てることで新たな価値を見出そうとする者たちの生き方だった。
白い光が収束し、先ほどと一切変わらない状況に秋瀬は安堵する。
体は地面に座り込まされ、両腕は怪力を持つ死者たちによって拘束されている。そして、目の前では10歳くらいの見た目の金髪の少年が秋瀬を見下ろしていた。
少年の名前はサウロ・マルティス。魔術師であり、死者を操っている張本人だ。科学サイドの総本山である学園都市には本来いるはずのない存在であり、超能力とは一線を画すその異能はどんな法則で動いているのかすら理解できないものだ。ただ一つ言えるのはその異能に対して秋瀬の能力は全くの無力であること。勝率など計算するまでもない戦いだった。そう、さっきまでは……
「よう、待たせたな」
サウロに対し挑発気味に言葉を放つ。その濁った瞳には絶望も諦めもなかった。ただ底知れず濁りきった二つの眼が見据えるのは不純物の混ざったこの世界そのもの。既に目の前の敵にすらその焦点はあっていなかった。
「忘れていたよ。俺が何故学園都市最低と呼ばれているのか」
『学園都市最低』その呼び名の意味は『学園都市最強』と言われる
最強と呼ばれる能力者はあらゆる相手に対して相性など関係なしに圧倒する。最弱と呼ばれる能力者は最弱と呼ばれながらも時に他者を圧倒できる程の底力を見せる。ならば、学園都市最低は?
「答えは簡単だ。最強よりも弱く、最弱にも負ける。この街の最底辺であり最下層。能力が効く効かないの問題じゃねえ。常に負ける戦いだ。俺より下に人はなく、全ては俺の真上にいる。そう、俺こそが基準だ。上に上がることはできる。だが、ゼロから下へ――『マイナス』へ下がることは誰にもできやしねぇ」
「一体キミは何を言っているんダイ?諦めたんじゃなかったのカナ……」
頭のおかしい人間を見るかのようなサウロに対し、秋瀬は焦点を未だ合わせぬままやさしく語る。
「……いや、何。この街に新しくやってきた新参者のお前に教えてやろうと思うんだよ」
「ナニをカナ?」
「最低の存在ってやつをさ――!」
確かに秋瀬七実の能力は魔術には全く意味を成さない。しかし、それは同時に能力者でないサウロもまた気づけないことを意味する。
この街の学生ならば、少しでも干渉すれば不快感をあらわにするはずの
「は、じ、け、ろ」
ひとつずつゆっくりと発音された言葉に合わせるように秋瀬を拘束していた死者の体が吹き飛んだ。正確には秋瀬を中心に半径100メートルに溢れ出ていたノイズが全てその性質を変えた。
そしてそれは今、一冊の古びた本の形となって秋瀬の手に握られていた。
「言っただろ?抗える可能性が少しでもあるなら俺は抗うって」
「まさか本当に手に入れてくるなんて、彼の言ったとおりキミは面白い人間ダネ!」
死者の肉体を文字通り壁とすることによって知覚できない攻撃を防ぎ切った魔術師はその見た目と相まって無邪気を感じさせる笑みを浮かべる。
無邪気故に平気で自分よりもちっぽけな命を踏みにじることのできる子供だけに許された特権を持って、崩れた自分のおもちゃを混ぜ合わせる。崩れた頭同士を繋げ、もぎ取れた腕や足を使い長いロープを作り出す。元は別々の人間であったそれらは少年の手によって死を冒涜され、望まぬ進化を果たす。
『
一冊の本が言葉を発する。それは、主である秋瀬の頭の中に直接響き、疑問を抱くまもなく知識が流れ込む。
「さあ、遊ぼう?キミは抗うんダロ?ボクに見せておくれよその魔道書のチカラを!」
それは、ボールのような球体から無数の手や足を動かすだけの肉塊。全長5mを超えるそれは生物的な動作をしながら腐肉をバラまく。
「さあ、はじめよう!キミとボクのどちらがスゴイか!」
次の章ですが、絶対能力実験編の前に都市伝説編というのをやろうと思っています。
幻想御手編の後日談的なものになる予定ですが、アニメ超電磁砲の『乱雑開放編』と違って木山先生たちの出番はないです。その代わり『路地裏で無能力者に声をかける謎の人物』と『超能力者同士の戦闘を目の当たりにした自販機の子』が登場予定です。