とある科学の劣化魔導   作:fukayu

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嵐のあとに

 この学園都市では能力者同士の戦闘というのは別段珍しいことではない。

 街中での些細な喧嘩が能力を使った大規模な戦闘に発展する事などよくあることだ。

 

(しかし、ここまでのものとなると中々お目に掛かれませんわね)

 

 風紀委員として白井が通報があった現場に急行した時には戦闘は既に終わっており、先に来ていた警備員達が後処理をしているところだった。

 現場である鉄橋の上はコンクリートが何か強力な衝撃を受けたのか所々抉れており、とても本来の目的で使用できないほど荒れていた。

 ここまでの被害を出せる能力者というのは限られており、白井の予測では最低でも大能力者(レベル4)以上の仕業だろうと考えられる。

 

「お、風紀委員か。朝早くからスマンな」

 

「いえ、これくらいの時間ならいつも起きていますので………これは―――」

 

「ああ、相当ひどいな。事件が起きたのは深夜らしいんだが―――」

 

 作業中だった警備員の一人が白井を発見して話しかけてくる。

 力仕事もあったのか汗を垂れ流す屈強なその姿はとても本職が教師とは思えない。

 

「正直どんな能力か想像もつかんよ」

 

「見た限りでは能力以外の痕跡もあるようですが?」

 

 警備員達が被害状況の確認などを殆ど行っている中、風紀委員である白井が呼ばれた理由は別に作業の人手が足りないからというものではなかった。

 

 そもそも風紀委員の存在意義とは警備員と似て非なるものだ。

 共に学園都市の治安を守る組織だが権限がまるで違う。

 風紀委員が取り締まるのは主に軽犯罪であり、事件がない時はもっぱら迷子の対応や落し物搜索がほとんどである。

 それに対して警備員は風紀委員で対応することの出来ない人の生死が関わる重犯罪が主であり、それに応じて火器などの使用も許可される。

 

 二つの組織が共に同じ案件に関わることは実は希であり、大体の場合はどちらかで処理してしまうか、風紀委員で処理できない案件が警備員まで回されるのが殆どだ。

 

 その例外が先の幻想御手事件である。

 複数の能力者が関わったこの事件は規模的に言えば警備員の案件なのだが、白井達風紀委員の活躍が無ければ被害はもっと拡大していた可能性もある。

 警備員の殆どが現職の教師であり、当然能力開発を受けていない人間だ。教師として生徒である能力者達に気を配っているが、彼らの”能力者としての”悩みというものにはどうしても理解が追いつかないことが多い。

 そこで必要になってくるのが能力者であり、警備員と同じく学園都市の平和を守る風紀委員たちだ。

 この街の犯罪の多くが思春期の学生によるものである以上同じ学生である彼らの意見は大人達の考え付かないものであることも多い。

 

 そういった能力者にしかわからない痕跡を探している内に白井は警備員たちの中に一際目立つ人物を見つける。

 屈強で強面な外見に警備員とは違う軍服のような格好をした壮年の男性が並み居る警備員たちに指示を飛ばしていた。

 

「おや、あの殿方は………」

 

「ああ、統括理事の一人だよ。赤傘瑠王。警備員の事実上のトップさ。本来ならこんな場所に出てくる身分じゃないんだが、相当正義感が強いらしくてね。たまに率先して捜査に乗り出してくるのさ」

 

 その名前は白井もよく知っている。

 「学園都市の治安は生活する学生自身の手で守るべきだ」として風紀委員設立の後押しをした人物。元は学園都市外部で警察官をしていたという生粋の正義漢であり、学園統括理事会では治安維持という途方もない分野を一人で担っているらしい。

 

「多忙な割には随分とフットワークが軽いんですのね。まるで最初から事件が起きるとわかっていたとでも言うような―――」

 

 通報があってまだそれほど経ってもいないのに、という白井の皮肉に対する返答は意外なところから返ってきた。

 

「フン、事件が起きれば例え会議の最中でもそちらを優先する。それくらい出来なければこの学園都市の平和を守ることなどできん」

 

 件の赤傘瑠王がそこにいた。

 その不機嫌そうな顔に完全に聞かれてしまったなとバツが悪くなる。

 

「何、この顔は生まれつきだ。別にその程度で腹を立てるほど儂も偏屈ではないよ。君は風紀委員か。どうだ、何か気づいたことはあるか?」

 

 白井の表情に出ていたのか赤傘は仏頂面のまま更に不機嫌そうな顔をするという高等テクニックを駆使してきた。

 本人にそのつもりはないのだろうが白井の方はまるで取り調べを受けているような気分になってくる。指先一本までその動きを監視するような視線から逃れるように白井は周囲を見渡し、そこで見てはいけないものを見てしまう。

 

 鉄橋の上を一直線に抉ったような奇妙な傷跡。

 一見すれば他にある傷と変わり無いと思えるが、白井にとっては違った。

 

 似ている。

 白井がお姉様と慕う彼女の代名詞とも言える一撃のそのあまりの威力に副次的に発生してしまう地面の傷とアレは酷似している。

 

「何か、見つけたか?」

 

 赤傘の質問に白井は答える事が出来ない。

 赤傘瑠王という男はその強い正義感から学園都市の法の番人とまで言われる人物であり、その行き過ぎた思想は悪を絶対に許さないとまで言われるほどだ。治安を守る組織のトップとしてはそれでいいのかもしれないが、もしこの事件にあの第三位の超能力者が関わっていたとなるとその権限で何をしてくるかわからないまである。

 

「い、いえ気のせいですの。それにしても目撃者がいないというのは本当ですの?」

 

「―――あ、ああ、そこがおかしいんだよないくら深夜だからって目撃者は愚か監視カメラの映像もその時間帯だけモヤがかかったように――――」

 

 少々喧嘩早い部分はあるもののこんな事で彼女を前科者にするわけには行かない。

 もし、本当にこの件に関わっていたなら今度こそ厳重注意しようと考えながら白井は赤傘の登場に縮こまっている警備員に話題をそらすのだった。

 

「………………フン、ならば徹底的に近辺の映像も洗い出せ。犯人が空間転移でもしない限り写っている可能性があるだろう!」

 

「了解しました!」

 

 指示を飛ばしながら再び警備員の中に消えていく赤傘の姿にほっ、と胸をなで下ろしながら新たに浮上した疑問点に頭を悩ませることになる。

 

(映像にモヤがかかったように…………?確かにお姉様の能力なら可能でしょうが)

 

 学園都市最高の電撃使いの彼女ならば監視カメラに細工するくらいなら造作もないことだろうが、果たしてあの御坂美琴が学生同士の喧嘩にそこまでするだろうか?

 第一、ここまでの被害が出るような戦いなら遠目からでもその戦闘の余波を必ず誰かが目撃しているはずなのだ。

 

「というか、昨夜はお姉様は門限破りで寮監殿に見つかってこってり絞られていたような………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かあの風紀委員は第一七七支部の所属だったな」

 

 専属の運転手が動かす黒塗の高級車に腰を落としながら隣に座る秘書へと赤傘は静かに尋ねた。

 

「はい、先の幻想御手事件で率先して事件解決に務めた一人です。詳細な情報を開示しますか?」

 

「いや、いい。あの小娘なにか隠し事をしていたが、大した問題ではない。問題はあの男だ」

 

能力障害(AIMノイズ)、ですか。差し向けた刺客は退けたようですが………」

 

「アレは悪だ。この街に存在してはならん。木原の小僧共々時期が来れば処分する」

 

 赤傘瑠王には警備員のトップとしての地位の他にもう一つ顔がある。

 

 学園都市の闇。

 暗部と呼ばれるそこでは大人子供問わず多くの人間が人権を無視したような危険な仕事を強制されている。

 彼らは境遇こそ違えど赤傘にとっては全て悪であり、悪に対して彼は一切の容赦はしない。

 

 いや、逆だ。

 赤傘に悪と見なされたものが暗部へと落とされるのだ。

 決して学園都市に逆らえぬように首輪を付け、死ぬまで飼い殺す。それが赤傘なりの正義であり、死刑の無いこの街での法である。

 

 その中で法に縛られない悪がいる。

 その経歴もその性質も限りなく悪と言えるのに未だ首輪も付けずのうのうとこの街を闊歩している。

 決して許されることではない。

 

「悪は全て裁かねばならんのだ。この街の悪は全て………」

 

 善と悪の捉え用は人それぞれである。

 しかし、赤傘瑠王という人物に限って言えば一度でも悪の道を歩んだものは永遠に悪であり、守るべき善良な市民と共に生活する事など絶対に許されないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ス・テ・イ・ルく~ん!」

 

 英国。

 聖ジョージ大聖堂にて、とある少年に遠まわしな脅迫状を送りつけ、神裂火織より一足先に帰国した魔術師ステイル・マグヌスはいきなり抱きついてきたシスターによって地面へと押し倒されていた。

 

「いやん、どこ触ってるんですかっ?もう、甘えん坊ですね~」

 

「黙れ、勝手に押し付けてくるんだろうがっ!大体アンタ年考えろ!」

 

 外見だけ言えば長身のステイルとこのシスターでは中々様になっている組み合わせだが、実年齢13歳のステイルからすれば一回り近く年が離れているのである。

 

「なっ、失敬な!私これでも2,3年前は立派なティーンエイジャーですよ!?そういうのは最大主教(アークビショップ)に言って下さい!」

 

 念のため言っておくが二人は断じてそういう関係ではない。

 このシスターは男女関係なく気に入った相手にはこうやって過剰なスキンシップを強要してくるだけだ。

 

「前に言ってたじゃないですか~好きなタイプは私だって~」

 

「僕が言ったのは聖母マリアの方だ。断じてあんたのことじゃない―――シスターマリア……」

 

「んふふふ~」

 

 マリア、と呼ばれたシスターは四六時中顔に貼り付けているような笑顔を絶やすことなく、2メートルほどあるステイルの体を投げ飛ばす。

 

「お姉さんその名前は好きじゃないんですよ~恐れ多いったらありゃしない」

 

「なら、話題を降らないでくれ………」

 

 受身を取れず地面に落下するだけだったステイルの体はマリアの取り出した1メートル以上ある大型の杖の力によって空中に固定される。

 地に足がつかない奇妙な感覚にウンザリしているとマリアの方が大きくあくびをして気だるげに膝をつく。

 

「………寝てないのか?」

 

 ステイル自身はあの辺境の国にいたおかげで被害は少なかったものの、あの少女の中にいた魔道書の攻撃をモロに受けた英国は表面上は普段と変わりないが魔術師特有の観点から見ると重要な魔術的要素が色々破損しているのは明らかだった。

 もしや、このシスターもその対処で駆り出され多忙な身でも自分を迎え入れるために出てきてくれたのでは、と思っていると、

 

「あ、いえ、最近読んでる漫画が面白くてつい徹夜してしまって――――」

 

「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ………」

 

 静かに。

 持てるルーンのカードを散りばめたステイルは静かにその怒りを顕にしながら数秒前の自分を射殺すように詠唱を始める。

 

「必ず殺す」という意味を持つ魔術を発動したステイルはこの不真面目なシスター相手に命懸けの鬼ごっこを敢行しようと決意する。

 

「え、なんで魔女狩りの王(イノケン)!?最大主教はツッコミは炎剣安定なり~って言ってたのに~」

 

 

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