とある科学の劣化魔導   作:fukayu

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 約半年ぶりの投稿になってしまい申し訳ございません。
 それなのに懲りずに東京喰種との二次創作で外伝を書いてしまいました。好きな作品があるとどうしてもストーリーを考えてしまうのが悪い癖だと分かっているのですが…………
 一応そちらは時系列的には大覇星祭前後のお話になっていますので宜しければ立ち寄ってみてください。


新たな火種

「本当にいいのかい?」

 

 とある病院でカエルに似た顔をした小太りの医師の質問に少年は答える。

 

「ええ、きっとアレでよかったんだと思います」

 

 現在少年には―――上条当麻には記憶がない。

 この医者の話によると魔術によって少年の記憶は脳細胞ごと吹き飛んでしまったらしい。

 

 この学園都市で魔術なんてオカルトの大御所の存在を説明されても上条には信じきるには難しい話だ。

 しかし、実際に思い出せない。

 自分が上条当麻という人間だということはわかる。学校で習った知識も食事のとり方だって覚えている。

 ただ、思い出という人間にとって最も重要な要素がまるごと消失してしまっていた。

 

 上条当麻としてのあり方を無くしてしまった少年ははっきり言って不幸の一言で片付けられないその状況に軽く絶望しかけていた。

 しかし、先程上条のいる病室に来たシスターの涙を見て、反射的に”自分は覚えている”と宣言してしまった瞬間、何を考えたのか自分の中に明確にこの少女だけは悲しませてはいけないという感情が芽生えた。

 

 きっと、それが上条当麻という人間なのだろう。

 何かを守るために自分の命すらかなぐり捨てる事の出来る―――出来てしまった人間。

 それを少年は誇りに思い、『記憶を失う前の上条当麻』が必死に守ろうとしたナニカを自分を守ろうと決意する。

 

『クスクス』

 

 ふと、

 上条と医者の他に誰もいないはずの病室に少女の笑い声が響く。

 

「!?」

 

 反射的に、上条の神様の奇跡すら打ち砕く力を宿していると言われた右手が小刻みに震える。

 

「ど、どうしたんだい?」

 

 突然の患者の急変に驚く医者とは対照的に、上条はベットを挟んで対面側にうっすらと現れた白い少女を睨みつける。

 

 直感で「コイツだ」、と理解する。

 今の上条に記憶はなくとも、記録としてこの白い少女のことだけは覚えている。

 

 上条にとって記憶を失う前と今を繋ぐ唯一の手がかり。

 

「――――お前は………」

 

『クスクス』

 

 上条の質問に少女は答えることなくそのカラ笑いを繰り返す。

 

 右手の震えはいまだ収まらない。

 必死に左手で抑えようとすると、その震えは痙攣するように伝播する。

 

『ギャーーーーーーー!?』

 

「―――――ッ!」

 

 そこで、シリアスな空気をぶち壊すような悲鳴が轟いた。

 地獄の釜を開いたような悲鳴に医者はさして動揺することなく「また、彼か………」と呟く。

 

「あ、あれ行かなくてもいいんですか?」

 

「うん、心配いらないと思うよ?いつもの事だからね?それより君の方こそ大丈夫かい?」

 

 言われて気づく。

 いつの間にか病室から少女の姿は消えており、気が抜けたように右手の震えも収まっていた。

 

(あれ、俺何してたんだっけ?)

 

 それどころか次第に自分が一体今なにと対峙していたのかさえ記憶が薄れていく。

 大事なことの筈なのに昨日見た夢の話をしようとして思い出せなくなるのと同じように徐々に白い少女の記憶は少年の頭からすっぽりと抜け落ちる。

 

『ぬわぁぁぁぁぁ!?』

 

 それよりも隣の部屋から聞こえる悲鳴がいよいよ緊急性を帯びてきたので、

 

「………本当に行かなくていいんですか?」

 

「………はあ、行ってくるよ」

 

 瀕死で送られてきた上条を完璧に処置した医師の心底面倒そうな溜め息を見て、彼をそれだけ疲弊させる患者とは一体どんな人間なんだと少し興味が沸く。

 

「………鎮静剤、残りあったかな?」

 

 しかし、上条のそのちっぽけな好奇心は―――ポツリ、と呟かれたカエル顔の一言で消え失せる。

 

 触らぬ神に祟りなし。

 

 上条に出来るのはただこれから不幸な目に遭うであろう相手の冥福を祈ることだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、待て、話せばわかる!ヒトは話し合いで分かり合える生き物だ!」

 

 秋瀬のそんな必死の説得も虚しく、白いベッドに大量に撒きつけられたベルトに拘束されたその体にいくつもの注射器が向けられる。

 それらの中身は事前に約一分間の内容を理解するにはあまりに少ない説明時間の中で言い渡された一般人である秋瀬にとっては全く未知の薬品であり、取り囲んでいる面々も入院生活を癒す麗しのナースさんなどでは無く「あれ、軍隊経験お有りです?」といったような男たちだった。

 

 魔術師との死闘を経験した秋瀬とて、この状況で平然としていられるはずはない。

 持てる知識と能力を駆使して抵抗しても無駄だったので現在は交渉という名の説得を行っている最中である。

 

「全く、絶対安静だといっただろう?」

 

 病室のドアが開き、見慣れたカエル顔が入ってくると恨めしそうにその顔を見る。

 

「………気まぐれに夜の散歩をしていただけだ」

 

「それで行く前より重症になって戻ってこられたらこちらとしては外出を許可するわけには行かないな」

 

「別に許可されようがされまいが俺には関係ないし、大体戻ってきたつもりもない」

 

 ちょっと、魔道書による治療という名の複写が記憶を遡りすぎて幻想御手(レベルアッパー)の時の瀕死の状態に戻って死にかけの状態のところを捕獲されただけだ。断じて自分から戻ってきたわけではない。

 

「屁理屈を言うのは勝手だけど、ここは一般病棟だからね?他の患者の迷惑になるようなことはやめてもらいたい」

 

 カエル顔の言う通り、秋瀬は現在先日入れられた特別病棟ではなく一般的な怪我人や病人が収容される場所に居た。

 理由は簡単。現在秋瀬の不都合極まりない能力が継続的に安定しているからである。

 

『新しい着信は一件です』

 

 机の上に置いていた花瓶と同じくらいのデカさの携帯性が著しく低い無線機のような電話が静かに己の役目として主に情報を告げる。

 機械的な音声とは別に頭の中に直接響くその声は秋瀬を悩ませる頭痛の種の一つである。

 

 魔道書の原典の毒は予想以上に強力だった。

 ノイズを食い尽くし、そのままその精神まで犯そうとしたソレに対し、秋瀬は魔道書の習性を利用したある対策を講じた。

 

『それにしてもこのネット社会、知識の宝庫である』

 

 魔道書には決まった形はない。

 その知識を伝え、コイツに限れば蓄えられれば一体どんな形でも構わない。

 

 そこで、現代社会において最も情報を拡散させることに適している『ネット』の力を借りることにした。

 

(ま、要は無理やりコイツを俺の携帯に押し込んだだけだけどな)

 

 現代人にとって携帯電話というものは電話としての機能以上の価値がある。

 持っていることが当たり前であり、手元になければ安心出来ないというほど依存性があるソレは魔術師にとっての礼装と似た部分があるらしい。

 

「兎に角、少なくても今日一日は絶対安静だ。これ以上入院期間と費用を増やしたくないならね?」

 

「………へーい」

 

 今回はカエル顔の忠告に大人しく従うことにする。

 退院が遅れるのは別にかまわないがこれ以上医療費に費やせるほど秋瀬の懐は潤ってはいない。

 

「それに、」

 

 ベッドに手足を拘束されているので頭だけを動かして机に乗っている携帯の画面を見る。

 躯体に反して小さめのディスプレイには着信を知らせるメッセージが一件。

 

 発信先は、『長点上機学園』。

 

「はぁ………」

 

 溜め息しか出なかった。

 どうせ碌な案件でないだろうと話を聞く前から分かっているからこそ、せめて今日一日は惰眠を貪りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出ません、か。嫌われたものですね」

 

 教え子に対する猛烈なラブコールを無視されてしまった木原幻夢はさして落ち込むことなく本日の成果を吟味する。

 

 禁書目録に仕掛けられていた首輪の破壊と魔道書の解放。

 

 幻想殺しこと上条当麻の記憶の欠如。

 

 そして、能力障害――秋瀬七実の魔術師との初戦闘と魔道書の入手。

 

 

 全てが幻夢の想定内だった。

 これらの結果は全てあらかじめ幻夢が樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)を利用して予測していた現象に過ぎない。

 当の樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)は禁書目録の発動した魔術によって撃墜されてしまったが、それすらも予定調和だった。

 既に当分の事象の予測は終わっている。後は無数に予測されたデータを組み合わせて思い通りの未来へと導くだけだ。

 

「ふふふ、楽しいですねぇ。こうやって自らの生徒(アイドル)立ちを育成するのは」

 

 木原の名を冠するこの狂人にとっては必死に物語を作り上げる主人公達さえも、ただ自らの物語を演出する上での駒の一つでしかない。

 どれだけ彼らが必死に大切なものを守ろうと、許されざるものを討とうと、盤上の駒が動いただけに過ぎないのだ。

 

 全てを思いのままに動かす打ち手(プレイヤー)に対抗できるのは同じ打ち手(プレイヤー)だけであり、幻夢のシナリオに組み込まれた者たちに出来ることは絶望し諦めることと必死に抗おうとして帰ってシナリオを華やかにしてしまうことだけなのだ。

 

「さてと、次の一手は――――」

 

 本日、幻想殺しと能力障害の二人を中心に起きたそれぞれの事件の後処理を片手間で済ましながらいくつものモニターに映った自らの生徒(アイドル)の情報をその目に流し込む。

 

 幻夢は事件を直接起こしはしない。

 そもそも自らこの街で大きな事件を起こせるほどの力も人望もない。出来ることは情報を集めて事件の火種と言えるものを手にし、それを頃合を見計らってばら撒くことだけだ。しかし、この街はそれだけのことで多くの人々を巻き込む巨大な災禍へと姿を変える。

 

 だからこそ幻夢は思うのだ。

 

 

 

 

 この街は争いを望んでいるのだと――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新しいスレッドが立ちました。

 

・都市伝説魔女について(153)

 

 

 

 

 

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