とある科学の劣化魔導   作:fukayu

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都市伝説編
意外な再会


 数日の入院生活から解放された秋瀬はなぜか見知らぬ学校の正門前で立ち尽くしていた。

 数日無駄にしたとは言え未だ世間は夏休み真っ只中であり、部活や委員会以外でこんな所に来るものは稀だろう。

 

 ましてや他校である。

 自分の学校ですら居場所がないのに初めて来る場所で上手くやれるはずもない。一昔前の不良やスキルアウトでも無いので他校に殴り込みというわけでも勿論ない。そんなことをする義理も道理もなく、行けば返り討ちに会うのは目に見えている。

 

「なあ、俺はどうしてここにいるんだ?」

 

『我に聞かれてものう』

 

 自分と同じようにこの学校の制服ではない学生たちが次々と冷房の効いた校内に入っていく中、真夏の熱気に頭でもやられたのか一人無線機のような電話に向かってうわ言のように呟く。

 これが耳に当てての会話ならまだ受話器の向こうに相手が居るのだと予想はつくが、残念ながら秋瀬の話し相手は受話器の向こう側ではなく受話器の中にいる。

 

 帰ってきた返事は秋瀬以外には聞こえず秋瀬もそんなことは気にしないので周囲からは完全に「携帯に向かって愚痴を言っているヤバい奴」として見られているだろう。

 自然と注目度は上がっていくがしかしそんなことは今更である。

 通っている高校が名門なのでどこにいても自然と目立つし、能力のせいで他の能力者からの印象は最悪――――その上肝心の長点上機からは放逐気味……、というわけで最終的にあの学校のブランドを落とす事にもなるので却って悪い意味で目立つことには歓迎の意すらある。常盤台のように放課後も制服着用が義務付けられているわけでもないのに秋瀬が常に制服を身に纏っているのはそれが理由だ。押し付けられるのは押し付けてしまえ、決して他に着る服が無いとかそういうわけではない。

 

「あれ、もしかして秋瀬さんじゃないですか?」

 

「ん?」

 

 そんなあからさまにおかしい根性のねじ曲がった男に話しかけてくる声があった。

 こういう場で話しかけられるときは厳つい顔をした兄ちゃんか電撃を身に纏わせた女子中学生、親切そうな顔で身分証の提示を要求してくる警備員と日頃の経験から決まっているのだが、今回は意外なことに普通の可愛らしい女子中学生だった。

 

(…………誰だ?)

 

 しかし、残念ながら常に頭痛その他の異常現象に悩まされている秋瀬に彼女の事をそのポンコツデータベースに登録しておく余力はなかった。

 長い黒髪に、何かの花を模した髪飾りを着けている少女。活発そうな見た目と着ている制服には見覚えが有る。

 

(う~ん、すぐそこまでで掛かっているんだけどなぁ)

 

 しかし、こういうもの忘れでよくある事にあと少しの情報が引き出せない。

 流石にこのまま反応をしないのは良くないしここは無視か聞こえないふりでもしてしまおうか。どうせ自分には関係ない人間なのだから。

 

『柵川中学に通う佐天涙子じゃな。無能力者(レベル0)で能力は空力使い(エアロハンド)。身長は160cm、体重は46kg。お前さんが髪飾りという風紀委員とよく一緒にいた生徒でスリーサイズは………』

 

「ああ、佐天さんか………」

 

 無線機を通じ脳内に響き渡る声を遮り、佐天という少女に返答をする。

 すると少女も自分の名前を言われたことに気づいたようで元気に駆け寄ってくる。

 

『好感度1アップじゃな』

 

「あ、覚えてくれていたんですか!てっきり私忘れられているものだと」

 

「ああ、そう思ってたんならこっちこそ悪かった。ご想像の通りついさっきまで忘れていたわ」

 

「え?」

 

『おい、せっかく我がお前様の記憶を複写(コピー)してアドバイスしてやったというのに―――!』

 

(余計なお世話なんだよ)

 

 本当に余計なことをしてくれるものだこの魔道書は。

 何事にもリスクがあるようにこの魔道書が今行った行為にも多大な副作用がある。

秋瀬の持つ魔道書はあらゆるものを記録するために作られた複写(コピー)本だ。持ち主によっては大魔術や超能力すら再現可能な代わりに使用すればするほどその精神を複写され、最終的には成り代わられてしまうという割と致命的な欠点を持つ。これは魔道書本人にも抑えられないもので歴代使用者を食い尽くした挙句、秋瀬のひとつ前の持ち主すら殺しかけたところで秋瀬の手に渡ったのだがなる程、こんなどうでもいいことで頭の中を覗かれては歴代の所有者達が次々と成り代わられるのも無理はない。

 自称”魔道書一の主思い”の魔道書をそのまま無造作にポケットの中に入れ、少女と対峙する。

 

「で、なんのようですかね。こんなあからさまな不審者に」

 

「いや、自分で不審者って―――ただ奇遇だなあ、と思っただけですよ」

 

「……………」

 

「な、なんですか?」

 

「なるほど、今回の集まりを見れば例え殆ど言葉を交わしたことのない相手でも知り合いと一緒にいたほうが気が紛れるってこと、か」

 

 今日秋瀬がこの学校に立ち寄ったのは偶然でも何でもない。

 ただ単に招待状が届いたのだ。この日この場所この時間に集まるように、とそしてそれは恐らくこの少女にも届いている。

 

幻想御手(レベルアッパー)使用者に対する特別補修』

 

 巫山戯た話だが、止むおえない事情があったとは言え最終的に使用したことには変わらない秋瀬にもお呼びがかかっていた。

 早い話が佐天も幻想御手(レベルアッパー)を使ってしまったということだろう。秋瀬としては割と早期に解決したつもりだったがニアミスで倒れてしまったというところか。

 

「…………そんな言い方」

 

「別に不自然じゃねえだろ?人間誰でも罪悪感を感じた時は同じ罪を背負ったやつと集団を組みたがるものだ。自分の罪がそれで軽くなるわけじゃないのになァ?」

 

「………確かにそうですね」

 

(おや、ここは反論してくるものだと思ったが)

 

 以前風紀委員の支部で見かけた際に感じた印象だとどこにでもいる調子のいいガキ。つまり、自分の都合が悪くなると途端に責任転嫁を行うような人間に見えたが、少しだけ認識を改める必要がありそうだ。

 

「―――――ま、罪悪感を感じるだけ今までヘラヘラした顔でここを通り抜けて行った奴らよりはマシだと思うけど、な」

 

 少なくとも秋瀬を異常者として見下しながら入っていった者達は罪悪感よりも目の前で起きた異常な出来事の方が上だったのだろう。ちょっとヘマをやってしまったとか夜中に外で遊んでいて補導されたとかそういう気持ちでこの場に来たわけだ。本当に自分のやったことをやってはいけないことだと理解している人間は佐天のように少しでも罪悪感を軽減して押しつぶされないようにするか、そもそもこの場に来ないで部屋で震えているだろう。

 

『評価を改めるのならもう少しマシな返し方をしたらどうじゃ?人間社会で生きるコツというのは取り敢えず相手と笑顔で接することじゃ。その点前の主は上手かったぞ』

 

(他人に善意で接するのが当たり前の聖職者なんかと比べてんなっての。こちとら悪意を向けられるのが日常なんだ。俺がそんなことすれば良くて気味悪がれる程度だが、運が悪いと即通報レベルだ。第一、俺だってちゃんと相手を嫌いかすごく嫌いか判断してから接している)

 

『好きというのはないのじゃな………』

 

 呆れ混じりの魔道書の声を聞き流す。

 相手が自分を好いていないのに何故こちらから好意を示さなければいけないというのだ。例えその言葉がブーメランのように自分に帰ってきたところで秋瀬は学園都市最低として真摯に受け止めてゴミ箱へと投げ捨てるだろう。

 

「ま、俺はもう少しここにいるからキミはもうすぐ来る友達と一緒に入るといい」

 

「もうすぐ来る?」

 

 秋瀬の予言じみた言葉に佐天は訝しげな顔をする。

 しかし、そんな顔をされても秋瀬はどうすることも出来無い。学園都市ほぼ唯一の劣能力者である秋瀬には予知能力などない。そもそもそんな能力であればよっぽどのことがない限り劣能力者認定などされない。

それなのに佐天の状況を予測できたのは彼女の性格をここまでの会話と彼女の動作、それと魔道書が秋瀬の頭から勝手に掘り出した情報からただ単に予想したに過ぎない。

 

 佐天という少女がネット上に転がっている幻想御種を手に入れる確率は決して低くない。幻想御種をばら撒いた木山春生は馬鹿な中高生が手に入れられるように彼らが利用しているサイトに裏リンクを貼り付けていたようだし、佐天の人となりを考えると友人は秋瀬と正反対に大勢いるだろうし無能力者はこの街にいる以上劣等感に苛まれ大なり小なり徒党を組みたがる。それを考慮すれば友人から幻想御手を提供されることもその逆も十分に考えられる。そうなればこの補修にサボってさえいなければ同時に利用した友人が来ることは当然と言える。

 後は、友人が居るにも関わらず秋瀬などに話しかけてきたことを考えればまだその友人に会えていないか先に行かれたかだが、この校門に立ち尽くして暫く経つがそれらしき人物は見ていないので前者だと判断できる。

 

「おーい、ルイコー」

 

「あ、アケミ!」

 

 遠くで佐天を呼ぶ声がする。

 三人くらいのサテンの同年代の少女達だ。彼女たちが待ち人で間違いないだろう。

 彼女達は佐天(と秋瀬)の姿を確認すると駆け足でこちらに向かってくる。その表情はどこか険しい。

 

「と、マズイなこの状況」

 

 自分が他人から見てどういう印象なのかはよく把握している。おそらく、あちらの彼女たちは佐天が変な男に絡まれているのだと思って駆け寄ってきたのだろう。実に友人思いだ、反吐が出る。

 

「…………じゃ、また後で」

 

 何度かこういうパターンは経験しているので、聞こえるか聞こえないかの声で佐天に挨拶をした後、そそくさと校門から内側へと入る。その先で秋瀬を待っていたと思われる佐天よりも更に幼い見た目をした子供を目にし、また誤解されるという自分の未来予想図を描きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルイコ大丈夫だった?今ここにゴミみたいな目をした奴がいたけど!」

 

「ゴミみたいな目?ああ、秋瀬さんの事?それなら今もここに…………あれ?」

 

 数日ぶりに再会したアケミ達の元気な姿に喜びながらも、さっきまで話していた男の人の思い出した私はそこでようやくその人がいなくなっていることに気づいた。

 初めて初春たちと一緒にいるときも同じだった。あの人に―――秋瀬七実の近くに寄っただけで強烈な嫌悪感と頭の中にもやがかかったような気分になる。それで気づけばあの人はいつもいなくなるのだ。

 まともに言葉を交わしたのもこれで何回目かというくらいで殆ど私はあの人について知らない。知っているのは事件の後に初春から聞いた秋瀬が犯人を捕まえたということだけ。………正直そんなすごい人には見えないし、そんなことをする人にも見えない。ましてやあの場には超能力者の御坂がいたのだ。御坂を差し置いてどうしてあの人が、と思わずにはいられない。

 

「秋瀬さん、か」




 新章「都市伝説」編やっと入れました。
 今回はアニメ超電磁砲1期の幻想御手編後日談である14話「特別講習」から始まります。都市伝説ということで彼女の出番は多めにつくろうと思いますが、あくまで予定です。
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