世界一初恋・エメラルド発売記念2017 高律SS 作:bui
その人は夏を手前にしたある時にやって来た。
季節外れに東京から来たというだけでも目立っていたのに、整った顔立ちは雑誌の中のモデルのようで、白髪が混じり始めた担任より頭二つぐらい背が高く、紹介された時に名乗った声も良く通るテノールだった。
学年中の女子は色めき立ち、男子は劣等感からかちょっと引いていた。
しかし、クラスメイトになってからもその人は私たちと仲間になろうとはしなかった。
いつだって何も言わず、誰とも交わろうとせず一人遠い所を見つめていた。
「高野君」
そう呼ぶといつも一旦は無視をするように反応をしないのに次の瞬間アッという顔をしてこちらを向く。
それが不思議だったけどおばあちゃんがする噂話でそれがなぜかを知った。
両親が離婚して名字が変わったのだそうだ。
馴染まない名前、馴染まない土地、馴染まない言葉・・・。
今私の両親が離婚をして突然見ず知らずの土地に行くことになったら・・・。
考えただけでも苦しかった。
きっと高野君は今どうしていいのかわからないのだろう。
だからきっといつか高野君も私たちと仲良くなってくれるに違いない。
そう祈った。
夏を過ぎる頃にはこの学校でも三年生は受験の事ばかりが話題に乗るようになってきていた。
おばあちゃんの話では高野君は東京の大学を受けるのだそうだ。
そうだよね・・・。もともとあっちの人だもん。きっとここよりあっちの方がいいにきまってる。
そう思うと涙が出た。
私の好きなこの街を高野君は好きではないんだ・・・。
そして私は高野君が好きなのだと悟った。
悲しい。
高野君に好きになってもらえないこの街も、学校も、私自身も・・・。
寂しい目をした転校生は最後まで転校生のまま卒業した。
卒業写真に写っている高野君はみんなと少し色の違う詰襟のままそこに静かにいた。
やがて高野君のおばあちゃんもなくなって、私のおばあちゃんもおじいちゃんも鬼籍に入り、高野君の噂を聞くこともなくなった。
月命日にお墓参りに行くと高野君のおばあさんのお墓にお参りをしている跡があった。
高野君が来ているのかしら?
そう期待をして少し周りを見渡すと、少し離れたところを歩く後ろ姿が見えた。
背が高くて相変わらずカッコイイ。
隣に居るのはお友達だろうか?茶色い髪の毛の人と笑って何かを言い合っているみたい・・・。
高野君が笑うなんて・・・。
人違いだろうか?
でもやっぱりあの後ろ姿はずっと見ていた私にはわかる。間違いなく高野君だ・・・。
少し振り返った時に見えた顔が嬉しそうで、楽しそうで、あの時ずっと苦しさと辛さしか感じられたなかった高野君なの?と疑いたくなった。
いや、やっぱり人違いだ。
あそこにいる人はあの高野君ではないんだ。
私が好きだったあの人ではなくてちゃんと「高野君」になれた高野君だ。
もう呼ばれても気が付かないとか無いよね。
「居心地は悪くなかった気がする。」
きっとそんな風にこの街の事を思ってくれているはず。
そう思ったらなんだか夫に会いたくなった。
今日はごちそうを作っちゃお。