幻の理想の果て   作:惣菜

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第一話 誓いの夜/始まりの夜

月が綺麗な夜だった。

 

僕は重くなった身体を縁側へ腰かけて、月を眺めていた。

 

冬だというのに、気温はそれほど低くない。だが、そう思わせる感覚は既に鈍り切っていた。

 

聖杯より流れ出た泥。この世全ての悪(アンリ・マユ)がこの身体を蝕んで5年。

 

日に日に弱っていく身体を考えれば、5年はずいぶんと長く感じることができた。

 

だが、それも恐らく限界だろう。既に視界はぼやけ始めていた。寒さが気にならないのも、この鈍った感覚のせいかもしれない。

 

だから、次に目を閉じればそれが最期になるのだろう。だから伝えなければならない。

 

僕が唯一救えた少年に、僕の最期の願いになるであろうそのことを伝えなければならない。

 

純粋すぎるこの子には、少し辛いことかもしれないけれど。

 

「子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた」

 

少し驚いたように、こちらを見たその少年はこう続けた。今思えばこの子には少し悪いことをした。

 

「なんだよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ」

 

魔術を知ったこの子に多少の手ほどきを加えた。最初は手品や冗談で誤魔化していたが、最後までそれを続けられれば、この子はまた別の道を行くこともできただろうと。だが、それも過ぎた話だ。

 

正義の味方になれる可能性を見出したこの子は、恐らくどこまでもまっすぐになろうとするのだろう。

 

だから、できるならばその道には進まないでほしい。法外な希望を持ってなろうとした物が、現実とかけ離れた物だというのは過去に何度も話したことがある。でもその度に憧れを強めていってしまった。

 

「うん、残念ながらね。ヒーローは期間限定で、大人になると名乗るのが難しくなるんだ」

 

ほんの少し長く話しただけで息が詰まりそうになる。一旦言葉を切り、確かめるような口調でこう言った。

 

「そんな事、もっと早くに気が付けば良かった……ごめんね、士郎。もっとちゃんと話してあげればよかった」

 

申し訳なさそうな表情で、僕はこう言った。いや、その表情は既に悲しみに溢れていたのかもしれない。

 

だが、その少年はその謝罪に対して何か文句を言うわけでもなく、相手にするわけでもなく、こう言った。

 

もしかしたら、この子も僕の死期が近付いていると分かったのかもしれない。子供は意外とこういうところは鋭い。士郎はとても優しい表情のままこう言った。

 

「そっか。……それじゃ、しょうがないな」

 

「……ああ、そうだね。本当にしょうがない」

 

僕はただただ、そう返すしかなかった。

 

「うん。しょうがないから……俺がなってやるよ。爺さんは大人だから無理だけど、俺なら大丈夫だろ。まかせろって……爺さんの夢は俺が……」

 

止めなければならない。この少年が突き進む道は茨の道なんてものじゃない。血で塗り固められ、悪意で舗装された地獄への道だ。彼が気付き、割り切ることができる子ならばこんなにも悩みはしない。

 

絶望か、失望かは分からないが、言えることはただ一つだった。

 

この子は確実に不幸になる。

 

だが、この子の瞳はこんなにもまっすぐで……

 

                     ――本当にそうだろうか――

 

この子の夢が叶うのを信じてみたい……。

 

                     ――同じように不幸になるだろう――

 

ただ、この子の笑みが、僕の幻想(ユメ)と重なる。悲しいくらいに明るかった。それを見てただ一言。

 

「あぁ……安心した」

 

空を見上げた。こんなにも月が綺麗な夜に、僕は初めて救われたのかもしれない。

 

この願いが、この子の呪いにならないように。

 

この願いが、この子の世界を殺さないように。

 

ただ、それだけ。たった一人、救うことができた少年の未来を願いながら、衛宮切嗣は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ケリィはさ、どんな大人になりたいの?』

 

――僕はね、正義の味方に、なりたかったんだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だったら貴方のその幻想(ユメ)、貴方自身の手で叶えてみない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい。後先考えずに話を書き始める惣菜さんです。
東方も型月も好きな作者はどうやら相当なバカのようで、「見たいと思った作品がないなら、自分で書けばいいじゃないか!」の精神で書き始めてしまいました。

どのような展開にするかは粗方考えてはありますが、まぁバットエンドもハッピーエンドも両方ともかければいいなぁ、なんて……。

生暖かい目で応援していただければ嬉しいなぁ、と思います。
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