幻の理想の果て   作:惣菜

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第十一話 勘違い

 

 

 

side 切嗣

 

「誰だ、あいつは……」

 

思わず、そう呟いていた。

 

目の前に、というよりも現地にいる八雲紫の前に現れた謎の白黒の魔法使いの出現によって元々不安定であった作戦が拙い方向へ向かおうとしている。あの登場の仕方で考えられるのは、こちらの標的を連れての逃走か八雲紫を打倒しその勢いで此方に突撃を仕掛けるか。だが、それらを行える実力が目の前に現れた少女にあるかどうかが疑わしい。ただの勢いだけで仕掛けてきたのならば、此方から近付いて機関銃(キャリコ)なり狙撃銃(ワルサー)なりで殺してしまえばいい。できるならば八雲紫が即座に下してくれるのが最も良い。だが、その決断を下そうとした僕に八雲紫は警告してきた。

 

『やめておきなさい切嗣、彼女は幻想郷の住民よ』

 

『八雲紫、今彼女を排除しなければ人形遣いごと逃がすことになる』

 

『……駄目よ。彼女は今回の聖杯戦争でこちらのマスターになり得る魔術師。わざわざ戦力を減らす必要はないわ』

 

『今目の前にいる脅威と比べればまた別の話だろう』

 

『……』

 

『これ以上は待てない。此方でやらせてもらう』

 

そうして八雲紫の静止を振り切り引き金を引こうとした。だが、結果的に引き金は引けなかった。その行為を邪魔するように立ち塞がる一人の黒衣の男性が現れたからだ。

 

「貴様……魔術師殺し、衛宮切嗣とお見受けしたが相違ないかな」

 

この黒衣には嫌と言うほど見覚えがある。忘れることなど到底できないだろう。僕が死力を尽くして戦ったあの男と同じ服装なのだから。僕が唯一注意という意識よりも恐怖という感情を覚えたその男も同じ服装をしていたのだから。

 

聖堂教会所属の代行者。それがまたしても立ち塞がるという現象に半ば運命じみたものを感じずにはいられない。だが、そんな余計な感情は戦場には不要だ。目の前の障害物は全力で取り除かなければならない。

 

「だとしたらどうするつもりだ」

 

掛けられた問いにただ返答をする。この間に照準器(スコープ)などの周辺機器は既に狙撃銃(ワルサー)から取り外している。匍匐状態でいるが、手元にはすぐに抜ける拳銃が一丁。ナイフは三本。機関銃(キャリコ)は装填済みの状態で脇に置いてある。一方の代行者は手には黒鍵を持っている。恐らくあのカソックには防弾防刃のどちらかのルーンが刻まれているはずだ。

 

『八雲紫、もう一人の侵入者だ。……かなり強い、そちらは任せた』

 

『離脱はできないの?』

 

『そんなことをすれば君が挟撃に合う。そんなことできないだろう。第一逃げ切れるか分からないんだ、迎え撃つしかないだろう』

 

会話をしつつ、念話で八雲紫と連絡を取る。こちらが加速できるのは固有時制御(タイムアルター)を使っている間のみ。しかも連続して使うことはできない。世界と自分を切り離し、作為的に時間を操作することによる加速。それは世界からの強制力の所為で多用ができないものだ。それに比べて比較的簡単に行える強化の魔術と元の身体能力の差を考えれば、逃げ切れないのは火を見るより明らかだ。

 

……さて、どう切り抜けようか。

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

霧雨魔理沙は普通の魔法使いだ。今回この場に限っては魔術師と呼ぶべき存在ではあるが。そんな彼女が大妖であり格上の八雲紫と、見ず知らずの初対面である人間の前に出てきたのには理由があるのだ。

 

「なんで魔法の森で人間なんて追い掛けてるんだ? 面白そうじゃないか」

 

最もそれはただの純粋な好奇心である。なんとなく気になったからこの場に現れ、目の前のイザコザに頭を突っ込み、そして粗方楽しんだ後何事もなかったかのように退散していく。それが霧雨魔理沙であると紫は考えていた。

 

「ついでに面白そうな人形もいるじゃないか!」

 

「(今回ばかりは性質が悪い……さっさと負かしてさっさと返すのが得策ね)」

 

そう思いつくや否や紫は懐からスペルカードを取り出すと即座に発動しようとした。目の前の敵を確実に仕留めるための攻撃。しかしそれに対する魔理沙の行動はある意味意外でもあり、そして彼女らしい行動ともいえた。

 

「こいつと首なしは貰っていくぜ!」

 

魔理沙は箒に乗りながらも器用に二人(?)の襟首を掴むと即座に自分が突っ込んできた方向へ逃げ出したのだ。更に魔理沙も同じようにスペルカードを発動させていた。

 

「『彗星 ブレイジングスター』! 一気に行くぜ!!」

 

その直後、魔法の森に文字通り彗星が走った。

 

木々を吹き飛ばし、砂塵を巻き上げ、ただ一直線に光の筋は伸びていく。どういう原理で加速しているのかと言えば、大量の魔力をただ力任せに噴き出しているとしか言えない。だが、その単純さがこの技をより強く速いものにしているのだ。

 

一方で、助けられた創也はどうなっているのかといえば……

 

「(助かったはいいが、首が締まってる! そっちじゃなくてこっちに殺される!)」

 

慣性の法則と強引な輸送方法による絞首刑が執行されていた。驚異的な加速に耐えられているの反射的に発動させた強化のおかげである。

 

「おぉ、悪い! 首が締まってるな」

 

小脇に抱えるような体勢に変わって幾分か楽にはなった。しかし今も速度と風圧による暴力に晒されている。

 

「助けてくれるのはありがたいんだが、もう少しどうにかならないか?」

 

「あと少しだから黙ってろ! 舌噛むぞ!」

 

そう答えた三秒後には二人は深く暗い森から脱出していた。それに少し遅れる形で紫が森のはずれに現れた。

 

「逃がした……。こっちはアサシンのいる方向じゃないわね。それじゃあ死神さん、あの二人のあとは追えるかしら?」

 

そんな呟きを拾ったのは遥か遠くにいるはずの死神、小野塚小町であった。サーヴァントとマスターの主従関係にある訳でもないのになぜこのようなことができるのか。答えは八雲紫の能力で他と自分の意識の境界を曖昧にしたからだ。簡単に言葉にはできるがその行為は失敗すれば自身の精神の喪失というとても大きなリスクを孕んでいた。それをやってのけるのが妖怪の賢者、八雲紫ということだろう。

 

『あの男はどうした? そこにいるんじゃないのか?』

 

「貴方も霧雨魔理沙は分かるでしょう? あれがよりにもよってあんなタイミングで現れたのよ。目標を連れて森の中を一直線に駆け抜けていったわ」

 

『……賢者様も随分と苦労なされてるようで』

 

「そう思うなら口ではなく手を動かしてもらえるかしら? サボマイスタ?」

 

そう言うと遥か遠く三途の川の畔にいる彼女、小野塚小町は能力による追跡を開始した。

 

 

 

side end

 

 

 

 

 

 

 

other side

 

「生憎あれは生きた状態で捕獲しろと厳命されているのでな。その邪魔をしようと言うのならば全力で排除しなければならんのだが」

 

「……生憎とこちらもあれは絶対に殺せと厳命されている。ここでこちらの邪魔をするというならば貴様を全力で殺すしかない」

 

代行者の男を前に切嗣は一歩も動けないでいた。接近戦になればこちらが不利なのは経験上分かっている。ああいう手合いには自分の距離から一方的に攻撃するのが確実かつもっとも効率的な手段だということを嫌というほど経験している。

 

「そこにいるのは分かっているぞ? 動かなくていいのか?」

 

「そういうお前こそ、動いたらどうだ?」

 

今お互いが動かずにいるのは事前に仕掛けておいた罠のおかげである。切嗣のいる茂みを囲むようにして配置されたワイヤーと手榴弾を利用したものが二つ。指向性を持たせ切嗣の周囲360度を爆風でカバーすることができ、その中心の切嗣には爆風が行かないように絶妙に配置されている。もう一つもワイヤーが使用されているがこちらはナイフによる攻撃を行うもの。これは丁度あの代行者の3m先に配置されている。こちらで任意で動かすこともできるが、それで仕留められなければこちらは一方的に逃げ回ることしかできない。戦闘をするにも前回の聖杯戦争のように全て遠き理想郷(アヴァロン)の治癒能力の恩恵もないため、固有時制御は乱発できない。

 

逆に向こうも踏み込んで罠を回避できるかどうか分からないのだ。初撃になるであろうナイフはともかく、爆風を凌ぐことができなければ後は切嗣に全身蜂の巣にされるか、更に手榴弾を追加され爆風に身を晒すしかないのだ。

 

「(初撃のナイフだけでは奴を倒すのは不可能。罠の手榴弾の爆発範囲からも外れている。続けて爆破するのは効果的じゃない)」

 

「(聞き及ぶ話では銃器や現代の利器に頼るらしい。いくら強かろうがこちらもまた人間……)」

 

お互いに喉元にナイフを突き立てた状態。動けば目の前の標的を仕留められる。だがそれをすれば自分の命も同じように奪われる。お互いが次の一手で詰むような異常な状態で、奇妙なバランスでお互いの均衡が保たれている。

 

しかし、そんな状況は些細な変化で崩れるものだ。

 

突如、森の中を破壊という爆音を伴いながら閃光が走った。森に対して背中を向けていた代行者は何事かと振り向き確認しようとする。この一瞬が勝負を分けた。

 

森に対して向かい合う形を取っていた切嗣はその閃光の主が先ほどのイレギュラーであること、そしてそのイレギュラーに標的を連れ去られたのを一瞬で認識することができた。そしてその現象を確認しようとする代行者の姿も。

 

「(今しかチャンスはない!)」

 

代行者も一瞬ではあるが意識が外れてしまったことに気付き既にこちらに向き直ろうとしているが、その時には切嗣はその茂みから脱出していた。そして代行者を襲ったのは三本の刃と閃光と爆音であった。

 

三本のナイフの内二本は拳で捌く事ができたが、残りの一本は避けられず直撃しそうになった。

 

「防御せよっ!」

 

その一言により周囲の風が吹き荒れ、ナイフの軌道を変えたため直撃はしなかった。否、壁によって弾かれたといっても過言ではない。風を一瞬にして集め、形作るその術は明らかに異常なモノ。それは正しく魔術であった。しかしその前にも視力と聴力を失った状態で襲いかかるナイフを捌くという正に超人技をたった今行って見せた。これが代行者になるために必要な実力の一端を示している。

 

「しくじったか。……まぁいい。次は目標であれなんであれ即座に潰す……」

 

その一言と共に黒いカソックに身を包んだ代行者はどこかへと消えていった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

side ???

 

 

 

ただ黒く、汚く、蠢いていた。

 

「ようやく、始まるのね。あの呪われた願望器による聖杯戦争が……」

 

それを命と呼ぶにはあまりに脆すぎた。

 

「この地も、この空も、私という願いが壊してしまう……」

 

それを希望と呼ぶにはあまりに残酷すぎた。

 

「もうすぐよ、貴方が望み、貴方が叶える。貴方の世界がもうすぐできるわよ」

 

「ねぇ? 切嗣?」

 

幻想の地でただ一人、終焉を願い続けるその杯は、まだ見えない。




久しぶりの投稿です。そして皆様にお知らせ……というよりも一身上の都合なのですが、次の更新が遅れてしまうであろうことをお伝えしておきます。学生の身ながらこのように作品を書いているものであります。学生という身であるならば確実にぶち当たる壁と言うものが存在します。まぁ定期考査なのですが。

簡単に言います。定期考査が近いため、またその次の定期考査もわずか一月も間を空けることなくあります。恐らくその間に一度くらいは更新できるでしょうが、頻繁に更新できるようになるのは今年の終わり、即ち冬休みの頃になります。この作品を楽しみにしている読者の皆様がいることを考えればとても心苦しいのですが、誠に申し訳ありません。来年には受験を控え、学業を疎かにするわけにはいきません。読者の皆様にはご理解のほどを何卒よろしくお願いします。そしていつものようにご意見ご感想をお待ちしております。ここがダメではないか、などという批判でも構いません、その一言一言が作者の力になります。重ね重ねになりますが、ご意見ご感想のほどをよろしくお願いいたします。
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