幻の理想の果て   作:惣菜

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 なんとか、戻ってこれました。とてつもない、四半期近い遅刻という形ですが、どうにか戻ってくることができました。何故ここまでの時間が掛かったのかといえば、大学受験も終わり、PCを起動した瞬間が原因でした。画面、真っ黒いままなんでした。数時間掛けてとりあえず進めるところまで行くと、今度はブルースクリーン。という感じに数々の災難が降り注いだわけです。というより、半年ぶりに付けたPCが一瞬でも動いた辺りで察するべきだったのですが……。

これからは、自由に使用できるPCが身近にないということで、かなりの苦労が強いられてしまいますが、それでも完走は絶対にするというつもりでやっていきますので……四半期近い遅刻も構わん、という人も、貴様生きていたのか、という人も、暖かく見守ってもらえると嬉しいです。

それでは、ようやく戻ってこれた幻想郷の舞台、楽しんでいただけると嬉しいです。


第十六話 契約と結束

 はっきり言って、パチュリー・ノーレッジはこの聖杯戦争には一の希望と九の遊びで挑むつもりだった。

 

生来抱えている喘息を治せる可能性というのも一つの魅力だが、純粋に今まで見えてこなかった魔法(外ではこれらを総称して魔術とするらしいが)の新しい研究の一歩になりうるかもしれない、という淡い期待がある。

まぁ、最悪『先』は長いのだから、それらも追々見つかるのだろうが、それを叶えてくれるのだから、折角だから貰っておこうくらいの気分でいた。

 

だから、久々の長いサーヴァント召喚の魔法の詠唱も、一時的に発作を抑える薬を態々呑んで、その上で臨んだのだ。

 

 失敗はしなかった。

 

 改心の出来だったとすら言える。 

 

……さて、言葉遊びのようで感に堪えないかもしれないが、私はこの聖杯戦争に一の希望と九の遊びで挑むつもり『だった』というのだから、当然にして現在は違うのだ。

 

それは一つ、断りを入れておこう。

 

今の私を動かしているモノ……それは。

 

「どうしたのかね? さっさと案内したまえ」

 

『友人』への九の恨みと、一の渇望だった。

 

 

 こうなった経緯を、私ことパチュリー・ノーレッジが、少し時を巻き戻して、思い出しつつ語ろう。

 

……思えば、私が予想だにしない、障害になり得ないものが突如現れたと言っても過言ではないのだ。いやこの場合、予想だにしない障害へと変貌した、というのが正しいだろう。

 

 サーヴァント召喚をするにあたって、ひいてはこの聖杯戦争の『監督役』として現れた謎の男……とは言うものの、一応名前は聞いていた、その男はその原因の一割程度を占めている。

 

彼が、この失敗の一端を担っている。……というのは、些か言い過ぎだろう。

 

 衛宮切嗣。どこから来たか、どう来たか、どこで生まれ、どう育ち、どのように過ごしたか。何もかも知らなくて当然だが、それにしても何も見えてこない、どうしようもなく謎ばかりの男。

 

だがそれは今は最早問題ではない。寧ろ、これは半分私の落ち度でもある。

 

 聖杯戦争というのは、私たちからすれば外から流れ込んできた流行の遊び程度のものでしかなかったのに、この『失敗』はそんな幻想(ちいさいユメ)を吹き飛ばしてしまった。

 

「サーヴァントを召喚するには、大体の場合その英霊に所縁のあるものを触媒に、そのサーヴァントをピンポイントで狙って召喚するんだ。と言っても、そうしなければ聖杯戦争が行われないとか、そうしなければ聖杯戦争で勝てない、とかではないから安心してくれ。宝具のない場合は、聖杯が召喚者と相性の良いサーヴァントを適当に呼び寄せてくれる。サーヴァントも自我があるから、そちらの方がいい場合もある」

 

 説明として成されたのはこの程度のものだ。前提条件として、触媒で呼べればなどという話をしても仕方がない。

 

 そもそも、この紅魔館に保存されている霊験あらたかな……と言えば聞こえの良い趣味の悪い年季の入ったコレクション達は、正直その触媒に当たるものとしては下級に手が届けば御の字も御の字の、文字通りガラクタだ。諦めて、というかそもそも選択肢が用意されておらず、そのまま進めることになった。まぁ他の魔法使いも同じような状況だろう。それについては全く問題がない。

 

 では一体、何が問題なのか。それは、勿論触媒である。

 

 ……何を言っているのか私も混乱しているが、実際にそうなのだ。というより、そう考えれば影響がなさそうなのはあの人形遣いのところくらいだろうか。

 

 何が起きたのか、端的に言おう。

 

 有り得ない話だと思うかもしれないが、狙ったサーヴァントを召喚『できてしまった』のだ。

 

 しかも、考える限り、相当の猛者を。

 

 最初は何かの冗談だと思った。というより、私の中での思考の因果関係が逆だった。『これ』が触媒だったからこのサーヴァントが召喚できた、ではなく、このサーヴァントが召喚されたということは『これ』は触媒だったのだ、という風に。

 

 では、『これ』とは一体何だろうか。

 

 ――魔法陣? それなら全てのマスターが同じ条件だ。

 

 ――詠唱? これも同上、まず有り得ない。バーサーカーを呼ぶならまだしも、それをするメリットを見出せず、結局通常の詠唱だけで召喚を行ったのだ。

 

 ――場所? その英雄に所縁がある、特別な場所ならどうだろう。

 

 ――そういえば、私の友人である『彼女』が常々言っていたじゃないか。

 

『私はあの由緒正しき吸血鬼の子孫なのだ』と。

 

 ――ならば正解は、『場所』だ。『紅魔館』地下、ひいては『紅魔館そのもの』が触媒となったのだ。でなければ、目の前の偉丈夫が呼び出された理由が見当たらない。 

 

「問おうか。貴殿が私のマスターか?」

 

 反射的に、構えた。視線が、呼吸が、その在り方が、反射的に身体と脳髄を完璧なまでに働かせた。幾重にも重ねられた空間固定の魔法、英霊殺し、また怪物殺しのレプリカともいえる数々の武器の模倣、複製。既にその場から動く事すらままならぬ状況を作り、そして避けられぬ連撃を以て殲滅する。そして、この図書館だからできる鉄壁ともいえる防御。これをすれば恐らく、あの白黒はこの図書館から出ることはおろか五体満足でいることすら危うい。というよりも、そこまですればこちらとしても加減ができない。

 

『綻べ。常に流れゆくその身を歪めよ。汝は既に我が手の中にある』

 

『形作れ。その身、模倣されしその醜ささえ、今の世では美しき物』

 

『形態変更・無名の書より抜粋・強制待機』

 

Erfassen. All die harte Tour und vermieden.(捉えよ。その身を以て全てを裂け)

 

 これだけの詠唱が、全て私の口から発せられることは有り得ない。全てが、この図書館に眠る数々の魔法書を起動させて、半自律で動かしているのだ。一切の加減も、手心もない。神代から受け継がれる呪法もその中にあるかもしれない。そんな代物を全力でぶつけたのだ。何度も言うが、一切の加減なく、寧ろ『図書館』自体へ訴えかけ魔力的な補助を最大限得た、渾身の一撃だったとすらいえる。普通の人間であれば塵すら残さない一撃を何発も見舞った。

 

 砂塵が吹き荒れる。着弾したそれらが発生させた運動エネルギーが、この図書館に溜まりに溜まった埃を巻き上げた。無論、喘息の私がそのことを想定していないわけがない。気流の操作で埃一つ、自分の元へは到達させない。

 

「……現代の児戯に付き合っていられるほど、私は暇ではないのだが?」

 

 ……だが、無傷。

 

 それだけで、十分だった。十分に、それはこちらの心を折っていた。全力の魔法を、文字通り殺すつもりで放ったはずなのに、全くの無傷。それはおろか、その衣服にすら傷は見当たらない。

 

 文字通り、次元が違っていた。あの男の言う通りだった。そこには、埋めようのない深い差があったのだ。しかし、それでも、己の全力を全くの無傷で受けられたという事実は、如何ともしがたい、見逃せないものだろう。

 

「ば、かな……」

 

「当たり前だろう。私に魔術で傷を付けたければ、この館ごと吹き飛ばすつもりで来なければ無理だろうな。――さて、もう一度問おうか? 貴殿が、私のマスターか?」

 

 頭を垂れ、膝を付き、己の左手に浮き出た令呪を見せつけ、抵抗の意思を見せないこと。これだけが、私にできる精一杯だった。

 

「私が、貴方のマスターです。令呪はここに……」

 

「良かろう。契約はここに完了した。……、ほう。懐かしい場所だ」

 

 この発言も、僅か一時間も経たない程度の過去のものだが、どうしてそれで気付けなかったのか。今までこそ、酒に酔う度に出てくるその台詞を、私は今まで何度適当に聞き流してきたのだろうか?

 

「貴方の、クラス名と真名を聞かせてはいただけないかしら……?」

 

「ほう、ならば名乗らせてもらおう。我が名はワラキア公ヴラドⅢ世、君たちにはドラキュラと名乗った方が身近かもしれないがな。クラスは、ランサーとして現界した」

 

 私の友人、レミリア・スカーレットはどうしようもなく本物の、あの誇り高きヴラド・ツェペシュの末裔であった。

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