グランツ研究所。それは俺が思っていたよりもずっと規模の大きい施設だった。と言うか驚くような規模と、目を見張る景観をしていた。どこか無駄を含んだようなデザインチックな建物と、広々とした敷地に緑が生い茂る。
「なんか、すごい所みたいなんだけど?」
思わず出た感想は、かなり語彙の貧相なものになってしまった。それくらい常識離れした見たといっても良い。
「実際すごい所ですよ」
そう言ってここまで案内してくれたシュテルが笑う。
「何せ、世界でも屈指の天才のラボですから」
誇らしげなシュテルの目には尊敬の念も感じ取れた。彼女にそこまで言わせる研究所の主とは一体どのような人物なのだろうか……。
「ん、でもゲームを作ってるんだよね?」
「はい、そうです。三人の天才が、知識と技術の粋を集めて作った最新にして最高のゲーム……」
たかがゲーム。最初はそうとしか思っていなかった俺も、思わず息を呑む。そうさせるだけの迫力が、彼女の熱弁には篭っていた。
「その名も?」
「
その後、学校からここまで『内緒です』と言い続けた事を、ついうっかり口にしてしまった事に気づいた、シュテルのハッとした顔がまたプリティーで心を奪われました。
研究所の内部は更に圧巻だった。まだ作られてそう時間も立っていないらしく、随所には真新しさを感じさせる。
これほどの建物だというのに、近辺に住む俺が知らなかった事を疑問に思ったが、街の中心街からは離れており、そもそも一般人には関わりの薄い研究所という場所柄で納得をした。
「今は割と郊外の方に位置していて寂しい場所ですが、これから賑やかになりますよ」
シュテルがそこまで押しているブレイブデュエルとは一体どのようなものなのか、期待を膨らませつつ研究所の奥へと進む。正面入口から入り、カフェのようなスペースを抜けさらに奥へ。ここだけ見れば研究所というより娯楽スペースの様だ。
「そうですね。今はまだ利用できませんが、正式稼動と同時にイートインスペースとして利用されます」
「じゃあ最初からそのつもりでこの研究所を建てたってこと?」
ゲームをするための研究所。天才が考えることは良くわからないな。
最後に、シュテルが設置型の簡易セキュリティにカードキーを通して奥へと進む。ロケテスト中というだけあって情報漏洩を防ぐシステムなのだろう。後々撤去されることが想像できた。
そしてたどり着いた場所は、まるでステージの様だった。
中央には大きな舞台とも思わしき機械装置、付近には謎の筒状ポッド、その頭上には大きなモニターが四方に向けて設置されている。更に、取り囲むように設置された観客席と、かなりの広さを持った場所だ。
今は殆ど人も居らず、照明も必要最低限に抑えられているらしく、良くわからない機器類の光が怪しくきらめき、物々しい雰囲気を醸し出していた。
「これが……」
「そうです。プレイヤー自身が身体を動かし、3D立体映像のキャラクターを操作する、体感シュミレーションゲーム。ブレイブデュエルです」
「まずはこちらをプレゼントします。プレイヤーデータを保存するデータカートリッチと、カードデータを保存するブレイブホルダーです」
そう言ってシュテルが差し出したのはライターぐらいの大きさの記録メモリーと少し大きめのカードホルダーの様だった。どちらも細かな意匠が施されていてなかなかカッコイイデザインだ。
「でも良いの? 貰っちゃっても」
「ええ、テストプレイのお礼。その先払いだと思ってください」
それはとても嬉しい話だが、シュテル個人的にそうやって渡してくれるとは、研究所の関係者が知り合いではないかと思ったが、それほど自由に出来るものなのだろうか?
「次はこちらです。カードローダーマシーン」
そう言って案内されたのは入口付近の壁際に設置されたマシーン。まるで近未来の公衆電話のようなデザインだ。近未来に公衆電話なんて残ってないかもしれないけど……。
「データカートリッチをセットして身長体重年齢性別を入力。その後カメラがあなたの体をトレースします」
必要事項を入力すると、それほど間をおかずに光とともにカードが製作(?)された。
「これが俺のカード、ねぇ」
手にとってみたカードには、学生服の俺がサイバーっぽいデザインの剣を持っていた。平凡な顔の俺が学生服で剣を持っている姿はなかなかに微妙に思える。
「できましたね。それはパーソナルカードと言って、
「右下のN+っていうのはレアリティ?」
「はい、強さを測るカードランクです。最初は大体N+で、強化や合成していくことになります」
まあ、そりゃ最初からレアカードとかが出たりはしないよな。それにしてもすごい技術だ。
「とりあえず、後は実際にやってみた方が手っ取り早いですね。こちらのブレイブシミュレーターの、中央に立ってください」
そう言って案内された円柱型の機械の中へ、普段見ることのないような光景、状況を体験して心が踊っているのがわかる。
「準備オッケーだ」
『ではスイッチを入れます』
そういうが否や、足元から光が漏れてくるとともに今まで感じていた重力感が消失、体がふわりと持ち上がる。
「一体どうなってるんだか……」
『ふふ、ウインドウの一人プレイ、フリートレーニング、雲海上空ステージを選択してください』
言われた通りに目の前に現れたウインドウを操作する。まるでSF映画の様で、これ以上は何が起きても驚かないような気がする。
「できたよ」
『それじゃあ、ブレイブホルダーを胸の前に掲げてコールします』
『「ブレイブデュエルスタンバイ!」』
「前言撤回、これは驚かずにはいられない」
コールとともに、全身を光が包んだかと思えば視界が二転三転して思わず目を閉じた。その後、変化が終わったのをまぶた越しの柔らかな光に感じて恐る恐る目を開けたら、そこはまさに雲海と云うべき場所だった。
上下左右前後、どこを見ても空と雲、遠くの水平線と遥眼下の丘陵が光を浴びて輝く。そんな空の一点に重力を無視して留まっている自分がいた。
『どうですか、ご気分は』
突如虚空に出現するウインドウ如きではもはや驚かない。ウインドウ越しのシュテルは悪戯の成功した子供のような笑顔でこちらの反応を伺っている。
「なんというか……、最高?」
気分もそうだが今日この日が明らかに、最高の一日として記憶に刻まれそうだった。
シュテル達の年齢が明文化されていない問題。とりあえず、作者はなのは達より一つ二つ上、性格が大人びていることもあって、見た雰囲気中学生相応として執筆しています。主人公との関係性に関しては本文日て後々触れる予定であります。