「それでは行きましょう」
「おう」
放課後になると、シュテルとたったそれだけの言葉を交わして席を立つ。周りがにわかに騒がしくなったが、意図的に無視する。
教室を去る間際、隆と目が合う。昔から慣れ親しみ、本人には内緒だが割と頼りにしている友人である隆。いざといえばアイコンタクトで意思疎通もできるその目が熱い気持ちが篭っているように見受けられる。
あの空が立派になって、まあ。
どうやらシュテルへの告白が上手くいったのだと勘違いしているらしい。悪いがブレイブデュエルのことを考え過ぎていたせいで報告し忘れたことを思い出した。
苦笑しながら軽く手を振って教室を後にする、後で誤解は解いておこうと考えつつ、背後の教室が盛り上がる様子を耳にした。
さて、明日教室中に誤解が広まっていたらどうしてくれよう。隆に対して貸しにしといてその内返してもらうことにしようか。
「ソラ氏のセキュリティパスも用意しないといけませんね」
シュテルはそう言いながらグランツ研究所のセキュリティゲートを開いて奥へと入る。
「いいの? 俺なんかがパスなんて持っちゃって」
「ええ、私も委員会などですぐには帰れない日もありますから」
彼女の後に続きながら、何処かズレたその言い分に苦笑する。セキュリティとは何のために存在するのだろうか。
確かに一人でも入れるようになれば便利だ。だがしかし、せっかく放課後に彼女と一緒にいられる理由となっているのを簡単に放棄しても良いものか判断に悩む。委員会で遅くなるシュテルを待つ、と言うのも悪くないシチュエーションだ。
「まずはこっちです」
そう言って連れらてたのは、昨日アバターを作ったローダーマシーンの前だ。
「ローダーでは一日一枚、新しいカードを引くことができます。スキルカードなんかが増えればそれだけ戦闘にも幅が出来ますのでお忘れなく」
「へぇ、太っ腹なんだな」
前言撤回、やっぱりセキュリティパス要るわ。一日一枚という事はカード枚数上限がプレイ日数に等しい。後から始めた人間は先に始めた人間と比べて、決して埋め難いハンデを持つことになる。一枚だって無駄にできない。
シュテルがお手本にと、自分のデータカートリッジを認証してカードを一枚引く。
「む、斬撃系スキルですか。私には不要なカードですのでプレゼントしますよ」
「え、でも。いいのか?」
特に考えるでもなく、スっと差し出されたそのカードに俺は戸惑う。
「ええ、新しいカードが出るとは言っても自分には不要なカードや、持っているのと同じカードも出ます。同じカードは融合して強化することもできますが、使用しないカードはどうしても出てきてしまいます。そう言ったカードは他のプレイヤーとトレードするのも一つの手です」
その辺はよくあるトレーディングカードゲームによく似ている。プレイヤー同士のコミュニティを育むのにも一役買うのだろう。
「それに、上級者は初心者を育てる義務があります。いや、義務という日本語は強制的な意味を持つのでしたね、だったら少し意味は変わりますが……。しかしゲーム全体の雰囲気を良くする一つの方法として、上級者が初心者を育てる流れというものは作られるべきだと私は考えます」
つまり、上級者が初心者を育てればその育ったプレイヤーがまた新たなプレイヤーを育てる。そうやってゲーム全体が活性化していくという事だ。
こうやってカードを譲って貰った初心者の俺が、いずれ他の初心者にカードを譲ることもあるだろう。そう言った流れが生まれることを、シュテルは望んでいるのだ。
「そっか、よくわかった。ありがとう」
素直にお礼を言ってカードを受け取る。ただ貰うだけだと悪いからいずれ何かの形でお礼をすることを密かに計画する。
「しかし、カードの取引は確かにコミュニティを活性化させるかもしれないけど、トラブルのもとにもなりそうだな」
「そう、ですか?」
「ああ、無理やり奪ったり詐欺まがいの行為だって起こるかも」
それでゲーム全体の雰囲気が悪くなっては元も子もない。
「なるほど……、所有者設定をかけて譲渡は機械を介さなければ出来ないようにしましょう。後は記録が残るようにしておけば、そう簡単に悪いことは出来ないでしょう」
俺の素朴な疑問に即時対応するとは……。やっぱりカッコイイシュテルも良い。じゃなくて、本当にどこまで権限を持ってるのか謎になってきたなぁ。
「それはさておき。さあ、新しいカードを引いてください」
「おっと、忘れてたな」
特に気負うことなく新たなカードを引く。僅かな光とともにカードが排出される。
「あ、ダブり」
それは二枚目のN+、パーソナルカードだった。
「リライズアップ!」
それは二枚のパーソナルカードを合成することによって強化すること。その際見た目、と言うか武装の主に防具が大きく変わる。今まで普段着だったアバターがそれぞれ戦闘に適したスタイルへと変わるのだ。
眩い光が一瞬、俺の体を包み込むと共に戦闘服が展開された。
「これが俺の……」
緑青色をベースとしたスマートなレザーハーフコート。強度のある部分は腕足肩腰などの最小限の金属部品のみ。大げさなグローブガントレットにエンジニアブーツ……。
「なんか地味じゃない?」
カラーリングこそ普通じゃないが、ヴィータやシュテルの様なドレスの様で、要所要所に防具と言える装甲を持った防護服が一般的ではないのだろうか?
「そんなことは無いと思いますよ。私やヴィータは防御力は高い方で比較には向きませんし、それにほら。この金属部分ハードポイントのようです」
「ハードポイント?」
「ええ、武装や装甲をマウントする……、接続ポイントの事です。だからカスタマイズして装甲を追加することも出来ます」
カスタマイズまで出来るのか、本当に凄いゲームだ。と言うかゲームの粋を超えている様な気がしてならない。一度開発者の天才の顔が見たくなってきた。
「ふむ……。デバイスは両手でも片手でも扱えるバスターソードですし、装甲が厚く防御に秀でたスタイルでも装甲が薄く速度に秀でたスタイルにも見えない。タイプが判断しにくいですね」
むむむ、とあごに手を当てて考え込むシュテル。また新たな表情を見せるシュテルに俺の好感度が少し上がった。
『マスターのアバタータイプはプロテクトスーツに分類されます』
「なるほど……、うっかり忘れてました。という事は武器の切り替えも可能ですか?」
『はい』
俺をおいてけぼりにして話をするシュテルとデバイス……。そう言えば名前考えるのをすれてた。後で考えよう。ぼやっとしてると右手に持った剣が光と共に形を変える。
「これは……、槍か?」
約130cm程に伸びた取り回しやすいサイズの柄に先端の緑青のコア。音叉の様な形の装飾華美な刃が特長と言える。
『槍であり杖でもあります。俗に槍杖と呼ばれるものです』
「これはまた珍しい物が出ましたね……」
「珍しい? もう少し詳しく説明して貰っても良いかな?」
一人だけ感心してて貰ってもかなわない。このままだとシュテルとデバイスにはぶられそうだ。
「そうですね……。プロテクトスーツと言うのは全アバター中唯一武器の切り替えが可能です。それにその槍杖は槍でありつつ魔法効果を高める杖の役割を果たす複合武器です。こっちは更にレアですね……、私も初めて見ました」
「えーと、レアなのは分かったけど」
もうちょい具体的な内容が知りたいです。
「剣による近接戦闘、槍による中近距離、魔法による遠距離。オプションによる盾装備や追加装甲による前衛役、三種の兵装による遊撃役、魔法に専念する後衛役。選びたい放題ですね」
「人はそれを器用貧乏と呼びます」
それぞれのスペシャリストには叶わないっていう。本当に役に立つのか?
「そうなるかどうかは貴方次第ですよ」
それを言われては叶わないなぁ……。まあ、選択肢が多いのは良い事だ。幅が狭いよりずっと良い。
「次はスキルを確認しましょう。安心してくださいブレイブデュエルはスキルによって無限の可能性があります」
そう言われたが、スキルはまだ枚数も四枚しかない。
「一体一じゃ約に立たなかった探索スキル」
「相手によっては設置型バインドを暴いたりも出来ますし、使用に慣れてくると視界外の敵の位置さえ把握出来るようにもなります」
何それニュータイプ? こっそり練習しよう。
「シンプルな射撃スキル、バレットシュート」
「素のままだと弱誘導の単発射撃スキルですね。シンプルな分、訓練次第では化けるかもしれません」
また特徴の無いスキルなのか……。
「ラウンドプロテクション。普通の盾だよな」
「ええ、指向性の防御魔法です。相手の魔法射撃に強い特性があります」
ヴィータの物理射撃には弱いらしいもんな。あれか、物理系は剣で受けろと。
「さっき貰った斬撃スキル、ヴィントシュトース」
「確か刃に乗せて撃つ風属性の魔法斬撃ですね。属性系は相性がありますから使えるかどうか不明ですけど……」
せっかく貰った初のプレゼントだ。使いこなしてみせる、絶対にだ。
「どれも応用の効きやすいスキルが揃ってますね。これはあなたの訓練次第ですね」
「なんか実力が結果に直結しそうな装備だな……。まああれだ。大丈夫だ、問題ない。できる限りやってみせるさ」
そんなネタというかフラグを立てつつ……。しかし本当にどうしよう、決定力なさすぎにしか見えないだけど。ヴィントシュトースが強いスキルだといいんだけが……。
「まあ、応用を考える前にまずは基本制動からです。速く正確に動けるようになることから。その後は飛びながらスキルを発動できるように。そうですね、高速機動とバレットシュートによる牽制行動の両立までを今日の目標としましょう」
事もなさげにそう言い放つシュテルに苦笑しつつ、俺は決意を新たにする。練習などではなく、シュテルとともに並び飛ぶ日を思いながら、俺は訓練に精を出すことにして気合を入れ直す。
何よりも、この空を自由に飛べるようになるのは、それはとっても気持ちのいいことだと。そう思わずにはいられないのであった。
あれ、あのキャラ出すって言ってたような気が……。
次回、お楽しみに!(無理やり