学校に着いた俺は足早に教室へと歩を進めた。
席に座り、頭を抱えた。
すると、すぐに教室の扉は開いた。
「おはよっすって、お前か。ん…?
お前いつになく早いな……」
いつもであれば、遅えよ。と罵ってくるクラスメイトが驚きの声をあげていた。
「うっせえ黙ってろ」
「おいおいかなり落ち込んでんな、女にでも振られたか?」
こいつの言っていることは、見当違いの方向へと投げ込まれた。
現在俺が悩んでいるのは、パチュリーさんを家に置いてきて本当に良かったのだろうか。
もちろん、学校に連れてくるということは出来ない。
とりあえず、休み時間になれば一度電話をかけてみるか。
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「咲夜、かなり大変なことをしていたのね……」
今日の朝食なのだが、まるで簡単に作ったかのように見えたが、かなり時間がかかっていたりしていた。
本来であれば、パチュリーは何も食べることなく、研究に没頭することが出来る。
しかし、今は捨虫の術が機能していないため、何も食べないというわけにはいかないのだ。
ただ、パチュリーは一切料理を作ったことが無かった。
「私が料理をするなんて考えたこともなかったわね」
あくまでも居候させてもらっている身。
「煉はしなくてもいいと言うのだろうけれど、やらないと私が落ち着かないのよね」
そう思い、私は私にとっては少し高めの椅子から下りてキッチンへと向かった。
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そういえば、菫子さんも探さないといけないのだった。
どれだけ自分のことを忘れても、パチュリーさんの願いは叶えなければならない。
俺はノートの片隅に、菫子さん捜索。
と書き、丸で囲った。
その時、何か嫌な予感がした。
「パチュリーさん大丈夫か?」
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その煉の予感は的中していた。
パチュリーさんは洗い物をしていた。
洗い物といえば、片付けに近いものだろう。
パチュリーがいる台所では、皿やコップが片付くどころか、散乱していた。
「ここまで家事が下手だとは……」
パチュリーは台所で落ち込んでいた。
家事が下手だとは思わなかったのだろう。
しかし、パチュリーは諦めなかった。
洗い物を諦めて、他のところを掃除しようと、リビングへと向かった時だった。
固定電話というものが鳴った。
そこから流れてくる声はとても無機質であり、幻想郷では聴いたことのないような声だった。
固定電話の出方というのは昨日の夜に、煉から聞いている。
「もしもし?」
『あ、パチュリーさん、出れた?』
その私を未開人のように扱う喋り方に少しだけ、イラっとしたが、外の世界にとってはそれが当たり前なのだ。
だから、我慢した。
「ええ、特になんの問題もないわよ」
『本当にそうですか?片付けようと思って逆に散らかしたりしてないですか?』
「うっ」
なぜ、煉はそのことを知っているのだろうか。
ここにカメラなるものは一切置かれていない。
ということは、煉はエスパーなのでは?
「……洗い物しようと思って、逆に散らかしたわ」
『皿とか割れてケガしてないですか?ケガしたら、救急箱とかの場所教えるんで』
「大丈夫。心配しないで」
かなりの心配性なのだろう。
外の世界の人々は皆、このような者ばかりなのだろうか。
ただ、煉には心を許したが、他の者には心配させないように振る舞うつもりだ。
『あ、お昼ご飯は冷蔵庫の中にある丼に肉じゃがを作ってあるので、それをおかずに食べておいてください』
私はそこまでやっている煉に対して、クスッと笑った。
別に、そこまでやってもらわなくても大丈夫なのに。
「分かったわ。なるべく早く帰ってきてね」
『……はい』
受話器の向こうから聞こえた声は、とても嬉しそうな返事だった。
そろそろ、切ろうとすると向こうから切ってきた。
時間を見ると、授業とやらが始まるのだろう。
「私が好意を持てると思えるのは、煉のような人な気がするわね」
私はそっと受話器を元に戻し、洗い物の残骸を少しだけでも直そうと、キッチンへと向かった。