多分、語られることのない、パチュリーさんが現代入りしてから数ヶ月後のお話。
「煉、そこどいて」
今日のパチュリーさんはその一言から始まった。
台所でだ。俺としては、おはようの一つぐらい貰えるとは思ったが。それはそれとして、別に大丈夫なことだ。
「朝食を作ってるんで、それが終わった後でもいいですか?」
「ええ」
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パチュリーさんに家を追い出されましたとさ。パチュリーさん曰く、18時までは帰ってきてほしくないそうです。
何か隠したいことでもあるみたいだが、その候補は皆目見当もつかない。ま、詮索するような野暮なことはしません。
さて、どうしたものか。
困ったときのクラスメイトAの家にでも遊びに行くことにするか。
家を追い出された時点で、その事項は確定していたため、今すでに、Aの家の前に着いている。
ちゃんと事前に連絡はしている。
「おーい、来たぞー」
「お、煉来たか。テスト前に何時まで居座るつもりだ?」
「18時まで。数学教えてくれ」
「ま、古典とか教えてもらってる身だしよ。OK。どこからだ?」
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さて、煉を追い出したことだし、早く調理を始めよう。
事前にクックパ○ドでどのようなものを作るのか決めていたのだが、どうしても悩むものがあった。
ケーキにするか、クッキーにするか、はたまたトリュフと呼ばれるようなものにするか。というか、あれはトリュフではないだろう。何故そう呼ばれるようになったのか気になるのではあるが、それはまた後日にしよう。
レシピに関しては既に印刷済みである。
コンビニはやはり便利だ。
タイムリミットは8時間。
失敗することも考えても充分すぎる時間量だ。
材料はなんとか全部揃えた。
煉から隠れてこそこそと揃えるのは何かと苦労した。
まずはボウルにマーガリンを入れて、レンジ200Wで1分。
「そういえば、どんな味のチョコレートなのか食べてなかったわね。どんな感じ……、苦い」
けれど、煉は甘いものは苦手だと言っていた。それならば、苦いぐらいが丁度良いだろう。
それにしても1分が長く感じる。いつもであればあっという間にすぎるというのに。
1分経つと、ボウルを取り出し、砂糖を加え、捏ねずに切るようにさっくりと混ぜる。
そこに卵を入れ、更に混ぜる。更にホットケーキミックスとココアパウダー、牛乳を少しずつ入れて混ぜる。
少し粉が舞うため苦しいが、そこはすぐにマスクを着用。これで粉塵系の作業も楽になる。牛乳を入れるため、すぐに固まるが。
「そして、板チョコを刻む……。あ、その前にオーブンを温めないと」
予熱を170℃にセット。
これで多分大丈夫なはず。
板チョコを4〜6mmに刻み、ボウルの中で混ぜてあるものに混ぜ込む。
そして、それをカップに入れる。この量だと6〜7個ぐらいは作れそうか。
オーブンは……まだ温まりきっていない。もう少し待たねば。
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「大体理解出来た。あんがと」
「おう、それじゃあ漢文教えてくれ」
「どこがわからない?」
「全部」
「は? 返り点はパズルだろ?!それも分かんねえのか?!」
「あんなん難解な暗号だろうが!」
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「ふう……」
完成した。
簡単なカップケーキではあるが、菓子作り初めてにしては良い方だろう。煉は喜ぶだろうか。
全部で6つ作れたため、1つは味見ということで。
それではいただきます。
「はむ…。ん……、想像よりちょっと甘い……」
美味しいのだが。
味がまだ立っている。1時間ほど置いたらいい感じに落ち着くだろうか。
とりあえず、残りの5個は置いておこう。
完成にかかった時間は1時間30分ほど。そこから置いておいたら流石に味も馴染むだろう。
手作りのものを煉にあげるということを考えると、とても嬉しく、思わず笑みが溢れそうになるが、至ってクールに。いつも通り、冷静に煉と接しよう。
それにしても暇である。
晩ご飯の献立でも考えようか。
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「パチュリーさん、ただいま帰りましたー」
「お帰り、煉」
パチュリーさんはなぜかそわそわしていた。あと、どことなく嬉しそう。
テーブルの上にはチョコと思われるカップケーキが5個ほど並んでいた。
「余ったからあげるわよ」
「作って……くれたのですか…?」
「煉のためじゃなくて!」
可愛いよパチュリーさん、ああ可愛いよパチュリーさん。
わなわなと手は震え始める。仕方ない。
あのパチュリーさんからチョコをもらえるのだ。
自分の大好きなパチュリーさんからチョコをもらえるのだ。嬉しくないわけないだろう。
「ありがとうございます!」
額を地面に打ち付けるほどの勢いで土下座した。
「私のような下賎な民に」
「下賎?!」
「なんともったいない…。家宝とさせていただきます」
「食べなさい」
「はい」
一口含むと、程よい甘みが口の中へと広がった。
しっかりと味が生地に馴染んでいて、あまり甘くもない。なんというか、凄く俺好みの味だった。
「超がつくほど美味しいです」
「そう、良かった」
素っ気ない返事の中になんとなく、笑みが含まれていたような気もするが、俺はそのことを気にしていなかった。
さて、このお返しはどうしたものか。
実際にクックパ○ドにあるレシピを参考にして作りました。試しに僕も作ったのですが、簡単だったのでそのまま採用という形です。美味しかったですよ?