「パチュリーさん、ここまでおんぶで来ましたけど、そろそろ恥ずかしい頃合いです」
今現在、最寄り駅へと向かう道の途中。パチュリーさんを家からずっとおんぶしながら、ここまで来た。かれこれ15分ほどだろう。通り過ぎるオバサマ方の目が異様に温かいのです。根幹はしっかりしている俺のメンタルでもさすがに恥ずかしい。
「駅はもう見えているわ。そこまでちゃんと連れて行きなさい」
「サーイエッサー」
酷い棒読みである。
そこで井戸端会議をされている奥様方、やめて、そんな生温かい目でこちらを見ないでください。
一番の救いは、高校の同級生に一切会わなかったことだろう。もし、会ったらどう説明すればいいのやら。手っ取り早く説明するならば、彼女って言えばいいんだろうけども……。
そんなこんなで、ギリギリで駅に辿り着くことが出来た。
なぜだろうか、今日の天気予報ではそこまで暑くならないはず。汗が、冷たい。
「お疲れ様、煉。助かったわ」
「そう言って頂けると、苦労も報われます」
割と本気で。
「電車、と呼ばれるものなのね?」
「はい。まずチケット買いましょう。話はそこからになるんで」
「分かったわ。あそこの券売機に行けばいいのね」
流石パチュリーさん。飲み込みが早い。
あとは体力をつければ、すぐに日常生活では何も不自由はなくなりそうだ。
「れーんー、お金ちょうだい」
「はい、あと券売機の使い方も教えますね」
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「幻想郷にはない文明って素晴らしいほどに発展してるわね」
「幻想郷の方にはこんな冷房とかなさそうですね」
電車の中で揺られながら、目的の駅へと向かう。
今回は特にその駅の近くにあるデパートが目的だ。そこの女性物のところはうちの高校からも近いということで、女子高生が多くいることもある。その中でも同級生と会えば割とキツいかもしれない。
「そろそろ、足が疲れてきたわ」
「あと一駅なんで、我慢してください。今おんぶしたら私のメンタルが崩壊しますし、座席も空いてなかったんですから」
「むう、仕方ないか」
慣性によってパチュリーさんが倒れないよう支えるため、軽く手を繋いでいるのだが、パチュリーさんは揺れる度、強く強く両の手で、俺の腕を掴む。
それがなんと幸せなことだろうか。幸せに感じない人間がこの世にいるのだろうか。
「早く着きなさいよ、こんな姿、煉に見られたくなかったんだし」
「ツンデレですか?」
「違う」
即答されてしまった。
いやまあ、その見せたくなかったという姿を見せて頂いた時点で私の勝利でございますパチュリー様。誠にありがとうございます。
『○○○ー、○○○ー、お出口はー、右側ー』
「そろそろ着きますよ。駅の外に出たらまたおんぶします?」
「調子に乗るんじゃないわよ」
「了解しました」
駅を出ると、都会特有の熱気に襲われる。なんとも言えない不快感。自宅から出て暫く感じていた自然の熱ではない人の熱。パチュリーさんは大丈夫だろうか。
「早く、行きましょ。そうじゃないと私がこの暑さで倒れてしまいそうだわ」
その時にようやく気付いた。
電車を降りてからもずっと繋がれている俺の左手とパチュリーさんの右手を。
「手、繋いだままでいいんですか?」
「放してほしいの? それだと私、迷う自信しかないのだけれど」
「いえそんなことは全く微塵も思っておりません」
「そう、なら私を上手くエスコートしてね? 煉」
「仰せのままに、お嬢様」
何故だろう。このセリフがすんなりと頭に出てきたし、パチュリーさんも満足げな表情を浮かべている。
まあいいや。
今ここに、普段着の男性と紫の服を着た細身の少女の今日だけの主従関係が成立したように思える。