「上の階へ上がるために階段を登るのではなく、階段を上へと動かせばいい、ね。楽をするためによく考えられてるわね」
そんなことを呟きながら、エスカレーターに乗るパチュリーさん。駅のエレベーターでも驚きはほとんどなかったため、エスカレーターもそこまで驚かないだろうと思っていたら、なにやら先人たちに感心しておられるご様子。
今回、パチュリーさんに文明の発達を見せにきたのではなく、パチュリーさんの普段服を買いにきたのだ。エスカレーターだと、俺の通う高校の同級生に見つかる危険性というものは格段に上がる。
「パチュリーさん、エレベーターで上がりませんか?」
「目的階は何階なのかしら?」
「5階ですね」
「今現在、私たち3階にいるのよ。わざわざエスカレーターから変える必要はないように思えるのだけれど」
ごもっともな意見でございます。
「それに、変な人間が私に近づこうとしたら煉が止めるのでしょう?」
「それは勿論。大好きなパチュリーさんに近づく不届き者には指一本、パチュリーさんに触れさせませんから」
ボディーガードは頼もしいわね、と軽く笑いながら、パチュリーさんは4階へと昇るエスカレーターに乗る。置いていかれてはいけない。そう思い、小走り気味にパチュリーさんを追いかけた。
何故だろう。今日はパチュリーさんにからかわれている気がする。まあそれはそれで、俺にとっては嬉しいことでもあるのだが。
あ、決してドMというわけではない。いいね?
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いつだったか、姉の影響で、ある少女漫画を読んだことがある。その中に出てきた言葉が脳裏に焼き付いている。
曰く、「恋は邪であり、愛は純情」。
ならば、それが同居する恋愛は矛盾を含んだものなのだろう。
しかし、今俺がパチュリーさんに抱いているこの感情は恋なのだろうか。それとも、愛なのだろうか。
未熟な俺の感情ではそれが見当もつかない。
もし、恋であるというのならば俺は、どうすべきなのだろうか。
「煉、そこにいたら他の人の邪魔になるわよ」
「あ、すみません」
どうやら、パチュリーさんが来る前によくあった、独りで考え出すという癖が出てしまったようだ。
今目の前にはパチュリーさんがいる。その幸せだけを今は噛み締めていればそれで正解なのだ。
ただ、そこに邪な感情が生まれてしまえば? 俺はどうなる?
そんなことを考え始めると、止まることが出来なくなる。
その考えを振り払うために一度、頭を大きく横へと振った。
「あ、パチュリーさん、待ってくださいよー。パチュリーさん1人じゃ迷っちゃうんですし!」
「なら、煉、早くしなさい」
とりあえず、今、この考えは忘れておこう。