服を見に来たということを忘れていたのか、4階に書店を見つけるや否や、いつもとは違うスピードを出してパチュリーさんは書店へ入っていった。
本の中身を読んでいるかのようにじっくりと眺めていた。その目は真剣そのものであり、俺のような一般人には分からない価値を見つけ出そうとしているのだろう。
「ふぅん? 外来本で見たことあるものが何冊かはあるわね」
書店ではある作者が亡くなったことでの、「○○先生、今までありがとう」というのぼりがある。パッと見でも、最初期に書かれたものは本当に分からない。
売れなくなり、読まれることがなくなったものが幻想郷の方に流れ着くのだろう。
「こんなものか。待たせてしまって悪いわね、煉。行きましょう?」
「あ、はい」
さっきまでの雰囲気とは打って変わって、とても柔らかい。もちろん、俺はどんなパチュリーさんであったとしても大好きである。たとえ、それが今のように柔らかな雰囲気を纏っていたとしても、先ほどまでの熱量を感じさせられるとしても。
しかし、その熱がほんの少しだけでも、こちらに向くことを期待してしまった。
「どうしたのよ、煉」
「いえ、特に何もありませんとも」
確かに今の生活は幸せなものだ。それは疑いようがない。
しかし、パチュリーさんが幻想郷に戻ってしまえば、俺はどうなってしまうのだろう。まだ彼女と出会ってから1週間ほどである。こんなことを考え始めてしまうことは早いというのに。
「この周辺が女性服売り場になります。気に入った服がありましたら、なんなりと言ってください。財布と相談ってなりますけど。あと、ここではあくまでお洒落用の服を買うだけですので、5着も買えないことを先に言っておきます。普段着用は他の店で」
「分かったわ。そこまで私は服について興味はないし、センスに自信もない。悩んだらあなたに頼るわよ、煉」
責任重大な任務を依頼された気がした。
しかし、パチュリーさんからの依頼だ。遂行してみせようではないか。
「いらっしゃいませー、どういったものをお探しでしょうか?」
おおっと、その道のプロがここに入ってきた。パチュリーさんには申し訳ないが、ここはひとつ、店員さんの意見に従ってもらおう。そちらの方が、服のセンスが皆無の俺にとっても、パチュリーさんにとっても良いことだろう。
「そうね、ゆったりとしていて、紫が服のどこかに入っているといいわ」
「それならー」
「ら」の音を極限にまで引き伸ばし、店員さんはバーにかかっている服を見始めた。ちらちらとパチュリーさんのことを見ながら、似合う服を探している。
「こちらはどうでしょうか?」
そう言って、店員さんがパチュリーさんに手渡したものは、紐が紫でシンプルな白のワンピースと淡い紫のブラウス、見た目でも分かるぐらいに柔らかい生地のジーンズ。
「ふむぅ……、どっちもいいのだけれど……」
「お悩みにならているのでしたら、彼氏さんに選んでもらっては?」
なんですと!?
いや、選ぶということに対しては何の驚きもない。俺が驚いているのはその直前の言葉。
彼氏さん? いやいやそんなめっそうもない。こんなにもいと尊き御方であられるパチュリーさんの彼氏なんていう大層な役回りは私には未分不相応でございます、先ほどしてしまった愚考がこの人にバレてしまっていたのであれば致し方あるまい謹んで謝罪させていただきますのでどうかパチュリーさんにはお伝えしないでくださいどうかお許しを。
「そうさせてもらうわ」
あの、パチュリーさん?
「ねえ煉、どっちの方が私に似合ってるのかしら……?」
ゴフッ。
顔を赤らめてこちらに振り向いてきた。少し顔を服で隠している。先ほどの言葉はパチュリーさんにとって恥ずかしいものだったのだろうか。
可愛いです。
いや、そこじゃなくて。
真面目にパチュリーさんの質問に答えよう。
ワンピースは普段のゆったりとした服で隠れていた白い肌が露わになる。その白い肌が肩紐の紫が映える。
ブラウスはパチュリーさんが現代に来た際、このような服装なのだろう。それほどまでに似合いそうなのだ。
パチュリーさんは何を着ても似合うのではないのか?
それなら納得だ。彼女に似合わない服などこの世から焼き去ってしまえばいいのだ。
「どっちも似合ってますし、両方買いましょう」
即決で何も問題なし。
「お金の方は……」
「足りなかったらATM行きますんで、無問題です」
「問題大ありなんじゃないの? それ」