もし、この依頼がパチュリーさんが幻想郷に帰ることに直接繋がるのなら、俺はどうすべきなのか。
どうせ、帰ってしまうのだ。それが早いか遅いかの話だろう。
「おい煉、昨日の古文を詳しく教えろ」
このように国語系統を教えろと迫るのはAである。というより、俺には不運にも友達と呼べる存在はAしかいない。非常に残念なことだ。
「おいA、お前、予習復習はどうした」
そう返すと、Aは驚いたような表情を見せてからすぐさまドヤ顔へと移行する。今回は期待してもよいのだろうか?
「そんなもの、俺がやっているとでも思っているのか?」
殴りたいこのドヤ顔。
「そうだな、ならばこう言おうか。いつから俺が復習していると錯覚していた?」
「なん……、だと……! って言ってもらいたいのかもしれねえけど、その系統で俺はこう言おうか」
「次にお前はこう言う!」
「「別にお前をぶん殴っても構わんのだろう?」」
「ハッ!」
なんてコント的なものを繰り広げつつも、帰る準備を進める俺である。
「煉、お前まさか帰るとか言わねえだろうな?」
「そのまさかだよ、今から俺はちょっと用事があるからそこに向かう」
「テスト3週間前の俺を殺そうというのか…?!」
勝手に殺されてろ、と言いたいところではあるが、それを言えばこいつは喜んで俺に絡んでくる。それでは、時間がかかりすぎる。
リュックを背負い、振り返らないまま教室を出た。
その時、Aの悲鳴が聞こえたような気がするが恐らくは気のせいだろう。
自転車に跨り、東深見高校までのルートを確認する。
隣の隣の市ということはかなり遠いと踏んでいた。しかし、意外にも近いと分かると、やはりやる気にもつながってくるものである。
漕ぎ出してすぐにいつもの帰り道のルートを辿ろうとしてしまったことは言うまでもないだろう。
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疲れた。行き道にあんな急勾配の坂があるなんて知らない。時間はそこまでかかってはいないのだが、それとは不釣り合いなほどに体力は奪われていた。
「東深見、東深見ー」
マラソン後に歩くように、ゆっくりと自転車を走らせる。
こちらへ向かってくる制服姿を発見。恐らく、この道をまっすぐに辿って行けば、あの制服姿が多くいるはずだ。そこから探せば良い。
そう腹を括り、ラストスパートをかけるように大きく漕ぎ出した。
すると5分もしないうちに東深見高校は見えてきた。
「ほーう?」
私立というだけあり、制服も綺麗だし校舎も綺麗である。
ここから菫子さんを探すということをやるのだが、無理難題な気がしてきた。チェック柄の制服ということはここで合っているのだろう。しかし、この人の波からたった一人だけを探すとなれば、学校を探すことと比べるとかなり違うだろう。
「詰みゲーか……?」
そんなことを言っていても仕方がない。待つか突貫するか。幸いであるのかどうかは判断しかねるが、俺は違う制服のため目立っている。そのため、人の流れは俺を避けるように動いていた。
「あのー」
「は、はい。なんでしょうか……?」
おもむろに男子生徒に話しかけてみたが、思いっきり警戒されている。まあ、知らない人に話しかけられると警戒するよな、うん。
「宇佐見菫子さんってどこにいるか知ってます?」
「菫子って秘封倶楽部の?」
どんぴしゃり。最高のスタートだ。もしかすると、変な生徒として広く認知されているのかもしれない。そんな考えはほどほどに、話を続ける。
「宇佐見菫子さんなら恐らく、昼寝のお叱りを先生から受けていると思うので、あと30分くらいかかるかと」
30分か。待てない範囲ではない。適当に時間を潰していたらとっくに過ぎる時間であろう。それにもう後にも引けない状態だ。30分どころか1時間でも待ってやろう。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
話しかけた男子生徒はお辞儀をして俺の目の前を通り過ぎていった。礼儀正しいなぁと思っていると、遠くから何かコソコソと声が聞こえる。
なんだかあの人も苦労してるなぁ、なんて言葉が聞こえてきそうだ。
事実ではあるが、グッと堪え、東深見高校の正門前で待つことにする。
次回は菫子さんの登場となります。