パチュリーさんは現代の家で居候しています。   作:閏 冬月

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27話 パチュリーさんにカッコ悪いところは見せたくないのです。

「おい、A。お前に話しておくことがある」

「なんだ、結局俺に古文を教えずに欠点スレスレを歩ませた男よ」

 

Aはそれを未だに根に持っている。本当に器の小さな男だ。テストの翌日、コーラを奢ってやったというのに。

しかし、そんな話はどうでもいい。俺は嫌々ながらもこいつに言わなければならないことがある。

 

「A、俺はな、体育祭でな」

「逃げるとか言わないだろうな? もう逃げられないのによ?」

「ああ、そんなことは言わない。俺は、陽キャをぶっ倒しにいく。だから手を貸せ」

 

Aはゆっくりと立ち上がり、俺と同じ目線になって言う。

 

「……、ほう? お前にはその気がないと思うていたが、その眼はあながち冗談や嘘の類いではなさそうだ。一体どういう風の吹きまわしだ、一から十まで懇切丁寧に説明しやがれこの野郎」

「簡単に言えば好きな人が来るんだよ馬鹿野郎」

「リア充に片足突っ込んだお前に教えることなんざ1つもねえよ裏切りやがってクソ野郎」

「クソ野郎って名前のブーメラン突き刺さってんぞクソ野郎」

 

なんでこんなにテンポよく言葉が出てくるのかがわからない。ただ1つだけ分かるのは、非常に残念で嫌なことに、こいつとの、この会話が楽しいとさえ思ってしまっている俺がいるということだ。

 

「ってかさ、煉、お前なら他の人に言えばいいだろうが。俺に比べたら交友関係広いだろ、なんで俺なんだよ」

「自虐しながら泣くな。こっちがどうすればいいか困るだろうが」

 

泣きながら話すこいつは友人が俺ともう1人だけ。確かに俺の交友関係は狭いが、さすがに2人だけということではない。それに、一応は菫子さんも入るようになったわけであるし。

 

「お前の取り柄ってなんだよ、A」

「なあ、そろそろそのAって呼ぶのやめろよな。俺にはれっきとした鋭って名前があるんだしよ。まあ、それはおいておいたとしても、俺は数学が出来るのと運動が並よりかは出来るって程度ぐらいだな」

「そう、その通りだろうが」

「は? 長所がこれだけの男って思ってんの?」

「その通りだが?」

「畜生めえっ! その通りすぎて返す言葉もねえわ!」

 

はいはいと、てきとうにあしらいながらも、こいつに頼み込む必要がある。

 

「お前のトレーニングに付き合ってもいいか?」

「もう一回聞くけど、なぜ俺だ?他にもいるだろうがよ。俺と違って、お前には俺にはない交友関係の広さがあるんだろう?」

「お前と違って、交友関係はまだ広いが、その中でもお前が一番運動神経がいいんだよ。だから、お前に頼んでんだ」

 

あと、気兼ねなく悪口も言い合える仲であれば、ストレス発散の手段も充分にあるだろう。

どんなにしんどくとも、パチュリーさんに見てもらうにはカッコ悪い姿を見せることができないのだ。

 

「ほう? 俺のトレーニングは生半可じゃないが、付いてこれるのか?」

「キャラをコロコロ変えるのはやめてくれ。反応に困る」

「はーあー? 俺らの会話はこんなもんだろうが」

「全くもってその通りなのが非常に残念だ。なんなら、お前と友達であるということはこの世に生を受けた中で最も忌避すべき事柄だったと後悔しているよ」

「そんなんもうどうでもいいだろ? とりあえずリア充ぶっ倒す同盟結成だおら!」

 

意気揚々と、Aは立ち上がって拳を天に突き出す。

そういえば、Aのトレーニングについていく理由は覚えているだろうか。そのことについて、Aはリア充に教えることはないとか言っていたような気はするが。

更には、リア充ぶっ倒す同盟と言うのであれば、リア充に片足突っ込んでる俺はぶっ倒される運命にあるということだ。

もしやこいつ、俺のこともぶっ倒すことを含めてそういう風な名前にしているのか?

……夜道には気をつけなければ。


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