知波単内の教練・会議において「」のセリフが続く展開となっております。
話のテンポと読みやすさ、意見が活発な様子を出したかったので、場面によってはあえてセリフの人物を出さないように(誰の発言かを重視していない)したのですが、分かりづらいなどご意見ございましたらお願い致します。
16時から講堂で始まった知波単戦車隊の全体教練。
先日の大洗女子学園との練習試合における惨敗、そしてその後の野営陣地で起きたこと。
否応なしに隊全体に広まることは避けられ得ず、今日の教練が毎週1回行われるそれとはまるで違うものになるであろうことを、隊員達は皆感じていた。
なお全体教練は毎週月曜日に行われる学校の全体朝礼のようなもので、隊長の訓示やその週の訓練内容、目標の設定、連絡事項の伝達などが主であり、通常なら20分もあれば終わる。
そのため基本的には昔小学校で習った ”休め” の形で、つまり立ったまま行われるのだが、今日に限っては人数分の椅子が事前に並べられている。
これだけでもいつもと違うものになるであろう雰囲気を醸し出していた。
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「それではこれから全体教練を始める!一同起立!」
「礼!」
「お願いします!」
「着席!」
玉田の号令で教練が始まった。
「それでは西隊長より訓示をお願い致します!」
西が前に用意された壇上に向かう。
「皆も感じている通り、今知波単の戦車道は大きな転換期を迎えている!」
これが西の第一声であった。
「今までは突撃することが唯一の教義であり、作戦であったようなものだが、我々はこれを変える必要がある!!」
皆が予想していた内容とはいえ、自然とざわつきが各所で起こる。
「静粛に!」
玉田の注意の後、西はさらに続ける。
「我々は今まで何のために突撃を行ってきたか?それは先人への思いであり、そしてそれを継承してきた知波単の伝統であったためだ。そのことは今後も変わりはしない」
「しかし、先人が行っていたものと我々が行っていたものでは大きな違いがある。それは何か!」
「一言で言えば、 ”背負っているものの違い” だ!」
「先人は国を想い、故郷を想い、家族を想い、それを守るべく最後の最後まで防波堤となるべく、戦果を最大限挙げるために突撃をしてきた。しかし、私達が行ってきたものはそうではない!」
「言葉悪く言えば、 ”伝統を守る” という建前で、ただ自らの欲求を満たすためだけに行われてきただけだ」
激しい言葉であったが、皆沈黙して聞いている。
さらに西は続ける。
「そして我々の乗っている戦車は、先人が守ろうとしていたものの象徴のようなものだ。我々がそれに乗る限り、そうした先人の思いを踏みにじることは許されない!」
「また我々自身も自らの戦車道とは何か?を追い求め、苦心し実践してきた。それを一瞬で無にしてしまうような突撃をしてはならない!」
「いずれにせよ、これから我々が歩む道は、誰かに用意されたものではなく、自ら切り開いていかなければならない。困難な道であるのは自明だ」
「しかし・・・それだけにこれから我々が歩む道は、その一歩一歩が知波単の新しい戦車道の歴史であり、伝統となるものだ!」
「私は皆の力を必要としている!そして一緒に新しい歴史を作ろうではないか!!」
「・・・」
普通なら闘志が漲った隊員達がここで鬨の声でも上げるのかもしれないが、”新しい歴史を作る”という西の言葉がいまいち腑に落ちなかったようである。それよりなにより、これまでとは全く違う、気迫に漲った西の姿に圧倒され、声が出なかったというのが実際のところだろう。
「隊長!」
細見が発言の許可を求めた。
「突撃を変える・・・というのは具体的にはどういうことでしょうか?」
皆の思いを代弁するように細見は質問した。
「考えていることはいくつかあるが・・・具体的に何をどうするというところには至っていない。それよりもこれは私一人が考えて指示を出して作っていくものではない。皆で考えて、いろいろ試しながら作り出していくものだと思っている」
「どう変わればよいか・・・という想像が今ひとつ沸かないのですが、端的に言えば、突撃を捨てて伏兵に徹するということでしょうか?」
池田が続いて質問をした。
「池田はそれで勝てると思っているのか?」
「・・・」
思いも寄らぬ答えを西が即答したため、池田も沈黙する。
「確かに伏兵し相手の不意をつく形で攻撃することは有効な作戦の1つだ。
しかし試合会場の視察は開始72時間前に限られる。全ての地形条件を把握出来るものではないし、その間相手も同じように視察を行う。当然伏兵に適した地点も調査して警戒してくるだろう。また試合が始まってからも相手と遭遇するまでの時間は限られている。その間にブルドーザーやショベルカーを使えるわけじゃないから、陣地構築も限られる」
さらに西が続ける。
「なにより伏兵というのは一撃必殺の火力があってこそ威力を最大限発揮出来るというもの。我々のチハにはその火力はない。相手がほいほいと近づいてくるわけもないし、どこかで相手に肉薄せざるを得ない」
「もちろん市街地など伏兵に適した戦場もある。いかにそうした我々の有利な戦場に引き込めるかが作戦の肝ではあるのだが、必ずそれが成功するわけでもない」
「・・・」
同意と困惑が講堂の空気を支配する。
おそらく伏兵を主とする作戦については、西自身も何通りもシュミレーションしたのだろう。
結果導かれた答えについて、知波単の隊員も納得せざるを得ない。
「では落とし穴など罠を張りめぐらせるとか・・・」
「いや、それはないな」
出てきた質問について、西は即座に明確に否定した。
「もちろん地形的に相手が不利な条件となる地点に誘い込むというのはある。ただ落とし穴や罠を作れるほどの時間もなければ物資を投入できるわけでもない。ましてや、仮に最初の1回は成功したとしても、毎回毎回それに嵌まってくれるほど相手も馬鹿じゃない」
「それに・・・忘れるな!我々がやっているのは戦車道だ!ただ勝てばいいという戦いをするわけではない。さっきは変える必要があるとは言ったが、それは伝統を捨てるということではないし、何よりこれから我々が作る道は、後を歩む後輩も自信を持って精進できる戦車道でなければならないのだ!」
「・・・」
「ではいったいどうすれば・・・」
「結局今までと同じということ?」
西の思うところが何なのか・・・想像が及ばない隊員達は困惑を隠せない。
「フッフッフ・・・」
西が意味ありげに笑う。
「お前達、今まで私達がやってきたことは何だ?」
「敵陣深くに斬り込み、一撃必殺で相手を仕留めることだろ、違うか!?」
これまでの知波単を見る限り、必ずしもそうとは言い切れないのだが、突撃を突き詰めると同じことだろう。
そして、今の西には有無を言わせない力強さと説得力があった。
「言ってみたら今までとやることは同じだ!ただ忘れてはいけないことがある」
「我々は託されているのだ! 先人から・・・諸先輩方から・・・そしてこの知波単で共に戦う隊員達から・・・」
「 ”後は頼む” と託された人間が、それを一瞬で失うようなことが出来るか!? 出来るはずがないだろ!」
「・・・」
同意なのか、困惑なのか、隊員達が沈黙する。
「ONE FOR ALL,ALL FOR ONE・・・」
「!!?? !!?? !!??」
唐突に西の口から想像もし得ない言葉が飛び出し、一同が驚愕する。
「日本語では ”一人はみんなのために、みんなは一人のために” が一般的だが、 ”みんなは勝利のために” との捉え方をする人もいるらしい」
「なんにせよ、我々はここにいる者が誰一人欠けることなく、そして全員の思いを一つにしないといけないということだ! それでこそ勝機が生まれる!!」
「私には・・・知波単の隊長として果たさなければならない使命がある! そして・・・今はまだ見えぬが目指す場所へ・・・ここにいる全員を連れていくつもりだ!!」
「!!!」
「厳しい道なのは分かっている・・・そう簡単にいくわけもないし、外から見て嘲り笑う奴らもいるだろう・・・」
「しかし我々はやらないといけない! 先人の思い・・・諸先輩方が受け継いできたことが・・・そして我々が今までやってきたことが間違いではなかったことを証明しないといけない! そして・・・これからの知波単の新しい道を・・・新しい戦車道を! ここにいる全員で作ろう!!」
「うおおぉぉぉぉーーーーー!!!」
西の言葉が終わるとともに全員の声があがった。
感激と興奮で涙を浮かべている者も何人かいる。
「やってやる! やってやるとも!」
「今まで散々馬鹿にしてきた奴らに知波単魂を見せつけてやる!」
「真の突撃を見せてやる!」
知波単の隊員にとって自らの道が正しいと信じることに疑念はなかったが、それでも周囲の嘲りの声は耳に入る。そして嘲りをはね返すだけの戦績を残せていないことの悔しさ、不甲斐なさ、鬱屈した思いもあっただろう。
しかし、今は違う。
これだけ力強い、頼れる隊長が目の前にいる。
その隊長が今までやってきたことが正しいことを証明しようと言っている。
これから新しい戦車道を自分も含めて全員で作ろうと言ってくれている。
そうした思いが、決意が爆発したような声が、まだ続いていた。
「よし、これから各車の車長は会議室に集合。残りの者は戦車の整備にあたれ。会議は少し長くなる予定だ。整備の後は自己鍛錬をするなり、休養に充てるなり各自に任せる。それでは解散」
「「「は!」」」
西の指示に全員が力強く返事し、車長以外の隊員は駆け足で散っていった。
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その少し前。
誰も気づいていなかったが、窓から様子を覗いていた者がいた。
そして、全体教練が終わる少し前に、涙を拭ってその場を去っていた。
「西・・・貴様に私の戦車道を託す・・・頼んだぞ!」
前隊長の辻であった。
同時に辻は”そのためには私ももう一頑張りしないといけないな”と決意を固めていた。
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「みんな、集まっているな」
燃え上がった決意を作戦に落とし込むべく、作戦会議が始まった。