食堂と酒保の運営業者が休みだったということで・・・
てなわけで、12話も少しこそっと変えてます。
で、余談で終わってしまった・・・
「7人だと鍋とコンロが2つ要りますね」
「そうだな。では名倉、いつものように持ってきてくれ」
「かしこまりました」
すき焼き前提で名倉が西に聞いたのだが、当然と言わんばかりに西もなんの躊躇もなく話を進めた。
名倉は鍋とカセットコンロと鍋を自分の部屋に取りに行き、西はDVDプレーヤーの設定をすべく寺本を連れて寮の部屋に戻る。
同じ頃、玉田と細見、池田はカートを押しながら買い物を進めていた。
「肉と野菜はこれで大丈夫だな。卵もOK。うどんも少し買っておくか。必要なければ私がもらえばいいし」
「飲み物はMAXコーヒーだけでいいかな? お茶は隊長の部屋で沸かすだろ」
細見の言うMAXコーヒーだが、全国にある学園艦の中でも売っているのは知波単学園と、あっても大洗女子学園くらいだろう。
ソウルドリンクと言えば大げさだが、ちばらき民としては外せない。
「DVDを見るならお菓子も必要じゃね?」
「かといって、隊長の手前ポテチ買うわけにもいかないでしょ」
基本揚げ物は天ぷらぐらいしか食べないであろう西を慮って、玉田が答えた。
「じゃあ、羊羹にでもしようか」
「OK! でもよく考えたら黒森峰戦の前以来か、隊長のところに集まるの」
「そうだね。なんか色々あったといえばあったからね」
玉田と細見が少しばかり感慨にふけっていた頃、西も来客の準備をしながら同じことを思っていた。
「(前回は黒森峰との戦いの前だったな・・・あの時も楽しかったけど・・・今は隊長部屋で部屋もきれいになった。でも今の私も、あの時よりも少し大きくなった気はする)」
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余談だが知波単の戦車道履修者が居住する寮事情について。
戦車道を履修する者は兵営とも言うべき寮住まいである。
10年ほど前までは2段ベットの4人部屋に全生徒が住む全寮制であったらしいが、さすがにこのご時世それでは生徒の確保が難しいということで、一般生徒は1Kのマンション、戦車道履修者にも個室が与えられるようになった。
もっとも与えられた個室は、以前の4人部屋をそのまま1人用としたため部屋の広さは12畳と一人暮らしには無駄に広く、またコンクリートがむき出しのかなり殺風景な部屋ではあった。
一方、隊長部屋は改造されて6畳+4.5畳と間取りは狭くなっているものの、きちんと壁紙が貼られ、自室にトイレも設置されており、快適度はだいぶ高くなっている。
他、艦政局(学園艦の運航や整備を担う)の者も、棟は別だが戦車道履修者と同じ寮住まいであり、戦車隊の隊長と同じく艦長、一等航海士、機関長といった役職の者は別室が与えられている。
通常平日は食堂と酒保(売店)を運営する業者が朝・夕食を作るのだが、知波単においては野営訓練がしばしばあり、それほど高くない運営委託費も相まって業者としても利益がほぼ上がらない状況である。
そのため業者都合で急に食堂が休みになることは珍しくはなく、事情を知っているだけにそれに対して苦情を訴える者もなかった。
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「・・・隊長・・・いつの間に薄型テレビを??」
驚いた寺本が西に尋ねる。
なお、大学選抜との試合以降、西はあの試合を経験したものをなるべく車長に据えようとしており、通信手であった寺本も車長になっていた。
親善試合においては九七式携帯写真機(軍用リリー)を使用していたが、あれはあくまで戦車道における記録用であり、新しいAV機器にも詳しい寺本がこうして西に呼び出されて家電機器の設定をすることはこれまでにも何度かあった。
寺本の声に感慨から引き戻された西が答える。
「引退された3年生が寮から出る時にもらったのだ。そうなると以前のビデオでは物足りなくなってな。円盤見る機械も欲しくなったというわけだ」
「前みたいに一緒に変なものは買わされてないですよね?」
4.5畳の部屋に据えられた1人暮らしの部屋にふさわしくない大容量の冷蔵庫が、その”変なもの”である。
「大丈夫だ!最近大きい買い物をする時は誰か一緒に連れて行くようにしている。福田と一緒にケーズデンキで買ってきたものだ」
「(・・・大丈夫なような、大丈夫じゃないような・・・)」
今後もずっと一緒に行く人がいるとは限らないのだが。まあ美人だし卒業したら良い彼氏でもつかまえてもらった方がいいのかもしれないと寺本は思った。
「終わりましたよ。これで見れます」
コードを繋いだ寺本が西に声を掛けた。
「早いな!さすが寺本!」
いや・・・コード繋ぐだけですので、とは寺本も答えなかった。
同じ頃、名倉が鍋とコンロを持って西の部屋にやってきた。
「よし、割り下を作るぞ!」
西が意気込んだが、”まだ野菜も肉も到着してませんので”と名倉と寺本が止めた。
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「いい感じに煮えてきたな!」
すき焼きに関しては、西は少しうるさい。割り下を最初に入れて煮込むのが西流のようだ。
せっかく牛肉を食べるのに、下手に手出しをして噛みつかれるのもなんなので、他の者は味付けも煮え加減も全て西にお任せしている。
そのくせ生卵はすすって食べてるんじゃないかというくらい、西のは減るのが早い。
知波単入学後に初めてマヨネーズを知り、以降しばらくの間マヨラーになったらしい西の味覚がどうかはともかく、何か果物を隠し味で入れているらしい割り下は評判が良く、以前は月に一度すき焼きパーティーをするのが定番だった。
「よし、頂こう!」
「「「頂きます!」」」
最初からみんな遠慮なく牛肉から食べていく。
好きなものは後に残して・・・というのは突撃精神旺盛な知波単では通用しないようだ。
「久しぶりに隊長のすき焼きを頂きますが、相変わらず美味しいです!」
「牛肉の旨味がたまらんであります!」
「まろやかな割り下がいいですな!」
皆、口々に西の作ったすき焼きを褒めつつ、久々の牛肉を堪能している。
「そうか、そうか!」
まだ始まったばかりなのに西は2つ目の卵を器に入れつつ嬉しそうに答えた。
「こうやって頂くのも久々ですしね」
玉田が感慨深げに言う。
「ああ。あの時はただ戦車に乗っていれば楽しいという時期だった。今は・・・苦しいことの方が多いけど・・・でも私は今の方が楽しいと思っている!」
先ほど抱いた感慨を締め括るように、西は力強く言った。
「私もです!」
「同じであります!」
細見と池田も続く。
「何より西隊長が変わりました! 西隊長の下で戦車道をやれることが私は・・・」
玉田がそう言いかけたところ、西は最後の数枚の牛肉を残らず箸で一気に手繰り寄せ、器に入れた。
以前と変わらぬ西の遠慮のなさを見て、玉田は言葉を継ぐのを止めた。
鍋の具が残り1/4ぐらいになった頃、西が冷や飯を入れておじやにすることを提案する。
もちろんそれに反対する者もいない。
肉と野菜の旨味がプラスされたまろやかな割り下で作るおじやは最高である。
「いやー! 満腹です!」
「やはりこれからも定期的に開催しましょう!」
「こら! だらしがないぞ!」
両手を床について足を伸ばしてくつろぐ細見と福田を見て玉田は叱るが、玉田も女子高生らしくなく板についた胡坐で座っているのであまり説得力はなかった。
「よし! それでは合掌」
「「「ごちそうさまでした!」」」
池田と名倉と福田がテキパキと洗い物を始めた。
寺本はDVDプレーヤーの使用方法について説明をしている。
玉田と細見はお湯を沸かし、食後のデザートである羊羹を袋から出して切り始めた。
言われずともこのあたりの手際の良さはさすがである。
「なんでDVDと言うんだ?」
「さあ??」
西に尋ねられた寺本だが、さすがにそこまでは知らない。
「まあいいや。よし、一段落したようだしこれから決勝戦のDVDを見よう!」
「「「「はい!」」」
なお第63回戦車道全国大会のDVD自体はまだ発売はされていない。
地上波を録画したものは寺本が持っていたが、先に福田がバレー部チームを訪問した際に秋山優花里が衛星放送を録画したものを持っているのを聞き及び、磯辺を通じてDVDに焼いてもらったのだった。
「まずは敵を知ることだ」
西の部屋で鑑賞会、いや作戦会議が改めて始まった。