とことん真面目に知波単学園   作:玉ねぎ島

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14.克服・前編(勝利への渇望)

画面には黒森峰女学院の決勝戦に至るまでのダイジェストが流れている。

1回戦の相手は言うまでもなく・・・

 

「20秒で全滅した・・・」

 

「実際の試合時間も20分もかからなかったかな・・・」

 

「突撃すら出来なかったね・・・」

 

ため息まじりに細見、寺本、名倉が言葉を漏らす。

大洗での親善試合や大学選抜との試合で知波単の隊員がどのようであったかを見れば、黒森峰との試合は決して知波単の意識を変えるきっかけになったわけではない。

ただし、黒森峰への畏怖は確実に植え付けられた。

抽選会場で黒森峰との対戦が決まった時、知波単の面々は大いに喜んだのだが、終わってみれば″あそことは戦いたくない”との恐怖が支配したのは確かだろう。

近づくことすら許されず、容赦なく相手の思うがままに捻り潰される感覚・・・

これまで知波単と黒森峰との試合がどのようであったかは分からないが、少なくとも西達が経験してきた戦車道とは全く異質のものだった。

”潔く散るを良し”とする知波単学園内においても、しばらく「黒森峰」の名は禁句だった。

それほどまでに ”何も為さぬ” 前に撃破された。近づくことも砲弾を撃つことすらもほとんど出来ぬまま・・・

 

「辻隊長はどのようなお気持ちだったのでしょうか・・・」

隊長になってからの西の苦悩を知る玉田がふと口にした。

 

「無念ではあったろうな・・・」

そう答えた西はさらに続ける。

 

「実は隊長交代式の日に、辻隊長とそのあたりの話になった。私達に何も残せなかったと仰っていた。自らの戦車道が正しかったのかも分からないとも・・・だからお前はそうなるなと言われた」

 

「もっとも私自身も、辻隊長がそこまでお考えであることをまるで理解出来ていなかった。そして私は思い知らされた。隊長として隊を背負うというのがどれほど苦しい道なのかを・・・」

 

「私自身は辻隊長を助けることが出来なかった。それは今でも大変申し訳なく思っている。だからこそこれから先私の歩む戦車道が正しいことを証明して、辻隊長に報いなければならないと思っている」

 

「そして・・・あの時辻隊長は1人だったが、今私達にはお前達がいる。これがどれほど心強いものか・・・」

 

西の言葉を聞いて、皆無言ではあるが力強く頷いた。

 ”私に任せて下さい” など大それたことは言えないが、この先西が歩む道を、共にする覚悟があると。

 

~~~~~~~~

 

画面は変わって大洗女子学園のダイジェスト、1回戦のサンダース戦で大洗が序盤にシャーマンに囲まれたシーンを映していた。

 

「こうして見ると結構ギリギリの戦いをしてるんですね。大洗も」

 

「まあ我々が言える立場ではないが、乗っている戦車が戦車だからな・・・シャーマンとまともに対峙できるのはⅣ号とⅢ突ぐらいだろ。しかも全部で5輌とかだしな」

 

「凄いな・・・敵戦車2輌に正面から突っ込んだぞ!」

寺本、池田の言葉を聞いていた西が、正面の2輌を突破した大洗の策に驚きの声をあげる。

戦力差があればどうしても相手は包囲殲滅しようとする。それを突き破る手を考えないといけないなと西は思った。

 

画面ではサンダースのフラッグ車を大洗の戦車が、大洗の戦車をサンダースの戦車が追いかけている。

 

「サンダースは4輌だけで追いかけたんですね」

 

「ああ、聞いたところだとフェアプレーであえてそうしたらしい。いかにもケイ隊長らしい大きな考えだ。サンダースは3軍まであるらしいからな。その中から選ばれた者にとっては勝たねばならぬ使命は我々の想像以上に大きいはずだ。それを捨ててまで・・・フェアプレーは大事と言いつつも、普通はそこまで出来るもんじゃない・・・

しかし・・・大学選抜との試合ではそんなケイ隊長と同じ隊に配されながら、何の役にも立てなかったな・・・」

 

「サンダースにも恩返ししないといけないですね」

少し沈んだ西に玉田が元気づけるよう声を掛ける。

 

画面では大洗のⅣ号がサンダースのフラッグ車を仕留めていた。

 

「「「(やっぱり欲しいな。あの火力・・・)」」」

 

画面は2回戦のアンツィオ戦を映している。

1回戦のサンダース戦もそうだが、相手の立てた策のさらにその上をいく大洗の作戦・戦況を把握する能力に皆驚愕していた。

正直どんな策を立てたところで、それを読まれて撃破されるのでは・・・と不安にさせられる。

しかし、知波単のやるべきことは一つ。相手に策を読まれてもなお、相手にダメージを与え得る作戦内容とそれを実現する練度、たとえこちらが相応のダメージを負う、走行不能になろうとも完遂するということ。

その覚悟は既に皆出来ているようだった。

 

さらに準決勝のプラウダ戦。

 

「しかしプラウダの戦略は見事だな。火力の無いうちが同じことを出来るわけじゃないが、あの引きながらの待ち伏せは、うちと同等以下の火力の高校と対戦する場合は有効かもしれん」

 

「IS-2や隊長車をフラッグ車にしなかったのも囮にするため・・・というのもありますが、夜間で他にも多く投入されているT-34だと、フラッグ車を判別するのが難しいであります。うちのチハでも使える手やもしれません」

 

西、福田とも、各校が様々な意図を以て作戦を立案していることを改めて痛感した。

知波単の面々がこれまで勝てない理由を戦車の性能に求めたことも正直あったかもしれない。

しかし、各校とも決してただ物量任せに押し進めているわけではない。

確固たる撃破する意思を以て、作戦を立案し遂行しているのだ。

 

そして包囲網を突破するシーン。

 

「これぞ突撃ですな!」

細見が歓声にも似た声をあげる。

 

「38tが正面の敵を攪乱しつつ、主力は転回しフラッグ車狙いか」

 

「ああ・・・でもやられていく」

 

「ア、アヒル殿、頑張れ!」

 

画面にはノンナが乗るIS-2が大洗の戦車を仕留めていく様子が映されている。

知波単と同じく性能に劣る戦車で立ち向かう大洗に対して、知らぬうちに感情移入しているようだった。

 

「しかし、この暗さでIS-2は行進間射撃で撃破しているのか・・・凄いな・・・」

 

「なんの!夜戦なら我々も負けていません!」

西の言葉に玉田が力強く答えた。

 

確かに戦車道で夜戦を取り入れているのは知波単ぐらいなものであろう。

しかしレーダー射撃が行われない戦車道の試合においては、安全面並びに無駄に砲弾を消費する点から、そもそも夜戦の設定自体がごく稀である。

 

余談ながら、知波単が全国大会の準決勝に進出した際、2回戦は大洗VSプラウダ戦と同じような夜の雪原だった。

(夜戦が行われるには、安全面から下が柔らかく障害物の少ない雪原か砂漠しかない)

対戦校は装甲・火力とも知波単を上回っていたものの、寒冷地、さらには夜間の戦いにはまるで慣れておらず、夜戦に慣れた知波単の戦車隊が、闇をついて全軍突撃して撃破したのだった。

この試合の教訓が ”全軍突撃による成果” ではなく、”自身が得意な闇の中での戦いで、相手に気付かれず肉薄して戦った成果” とされておれば、その後の知波単の戦車道も変わっていたかもしれない。

 

さらに余談だが、史上初めて戦車による夜襲を実行したのが、ノモンハン事件における玉田美郎大佐率いる戦車第四連隊とされている。

 

Ⅲ突がプラウダフラッグ車を撃破して大洗が勝利するシーンを見て西が言った。

 

「プラウダ側の油断も当然あったのだが・・・ただあれだけの包囲網を敷いておれば、夜でもあるしフラッグ車を隔離して隠すのは作戦としては当然だろうな。あと1分でもプラウダのフラッグ車が逃げ通しておれば、勝敗は逆になっていただろう」

 

「KV-2とIS-2の装填の遅さに救われた部分もありますね。ここらは我々も参考にしないといけないところだと思います」

 

「(西隊長はもちろんですが・・・玉田殿も変わりました)」

玉田の言葉を聞いた福田はそう思わざるを得なかった。

確かに大学選抜との試合において我慢しきれずむやみに動き、風船を割ってしまった人物と同じとは思えない。

 

そして、福田自身も自らが変わりつつあるのを実感している。

「(大洗での親善試合において、九五式でマチルダを撃破出来たのが私の中でのきっかけだった。もしかしたら玉田殿も大学選抜との試合でパーシング2輌を撃破したことに何かきっかけがあったのかもしれない)」

 

福田が知波単に入学して以来、知波単単独チームでの勝利は経験していない。

一つ上の学年は練習試合で勝利したことはあるようだが。

それだけに福田が勝利を渇望するのは集まったメンバーの中でも随一かもしれない。

 

黒森峰との一戦後、その願いは途絶えるかとも思えた。

しかし、今は福田自身も、西・玉田をはじめ上級生も変わろうとしている。いや、明らかに変わった。これならいけるかもしれない。いや、勝てる!

 

これだけの先輩と一緒に戦えるのだ。なんとしても私は勝ちたい・・・

画面を見る福田の眼にさらに力が宿った。

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