試合前日。あじさい会との会合のため出発が遅れていた本隊も会場を視察していた。
改めて会場を見ると、L字型の草原を林が取り囲んでおり、L字に挟まれた内側の林は少し進むと崖になっており、ショートカットさせるのは難しそうである。
そしてL字の直角に曲がる手前で窄まり、曲がってからまた広がる形状。アルファベットの「L」の縦棒の上から大洗が進み、横棒の端から知波単が進む形となる。L字の角には知波単の方が近く、車体が隠れるほどの草原の起伏もあり、知波単にとってはかなり恵まれた戦場ともいえた。
策を弄するまでもなく、L字の角の前後でどのように敵を迎え撃つかがカギになる。
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「先遣隊が見た感じはどうだ?」
一通りの視察を終えた後で西が尋ねた。
「言うまでもなく、L字の角をめぐる攻防になると思います。自然と接近戦に持ち込めるこの地を活かさないのは愚策でしょう」
半田(注オリキャラ/2年)が明確に言い切った。
なお ”半ちゃん” と皆に呼ばれているこの隊員は池田車の通信手を務めているが、高校から本格的に戦車道を始めた高校デビュー組である。知波単では決して珍しいことではないのだが、同学年の中でもかなり要領が悪く、また気弱な性格でもあり、隊の中では目立たない存在であった。
その半田が明確に愚策と言い切ったことに、他の隊員は多少の驚きを感じていた。
「大洗は何輌で?」
「3年生が乗車しているヘッツァーとポルシェティーガーは出てこないそうだ。こちらは12輌で戦うと伝えている」
玉田の質問に西が答えた。なお前回の大洗との練習試合においては、大洗8輌に対して知波単は15輌で臨み、1輌も撃破できずに壊滅の憂き目にあったのだが。
「大洗も6輌なら、まとまってこちらに一団で向かってくるとは考えづらいのでは?」
「うむ。外側の林は八九式でも走行は問題ない勾配だ。八九式他何輌かが外側の林を抜けて、こちらの背後を突こうとするのは間違いないだろう」
「なら、林の中で待ち伏せしますか?」
「いや、こちらは火力に劣っているしⅣ号が林の方に回って来たら各個撃破される危険性がある。出来れば数的優位を保てるところで戦いたい。せめてフラッグ車がどれで、Ⅳ号がどちらに回るか分かればいいんだがな・・・」
連携が取れる場所での戦いを優先したのだろう。玉田が提案した待ち伏せ策を西は否定した。
「ならいっそ・・・前で仕掛けますか! 相手は6輌ですし、どの戦車がどっちにいるかは分かるでしょう。6輌に簡単に殲滅されるほど、うちもやわじゃありませんし」
「そうだな。私もそれを考えていた」
細見がいわばノリで提案したのだが、西はそれに乗っかった。
「もちろんあくまで目的は強行偵察だ。半田、福田が敵情確認に使えそうな高台はあったか?」
「いや、L字の角より敵側にはありませんね。角のところには木を4、5本倒せば見通せそうな場所はあります。電ノコ使えばいけるかと」
「分かった。L字角曲がってからの傾斜は?」
「平坦という感じですが、陣地を作っても上から狙われる危険性はありません。遮蔽やダミーに使えそうな起伏もありますし、チハドーザー使えばそれなりに精巧な陣地は作れると思います」
「林からとで十字砲火は出来そうか?」
「適した場所はあります。ただ大洗の人達も同じように偵察していたので、こちらの想定通りに嵌まってくれるかはやってみないと分かりませんが・・・撮った写真をプロジェクターに映します」
試合会場の確認が重要と先の会議で気付き、急ぎ無理を言ってノートパソコンとデジカメとプロジェクターを購入してもらったのだった。
壁にはこれまで半田が説明した地点の写真が投影されている。他に撮った写真も全て映し出され、西や他の隊員の質問を受けながら、半田は簡潔に明瞭に、かといって主観をまじえることなく説明を続けた。大洗のバレー部チームのメンバーと記念撮影をした写真も一緒に映し出されたのは想定外だったが・・・
「これだけ状況が分かれば助かる。素晴らしい仕事だな、半田! 見直したぞ」
西が半田の丁寧な仕事ぶりを称えた。
「いえ・・・お役に立てたのなら幸いです」
いつもの素の姿に戻ったように、はにかみながらも半田は嬉しさを露わにした。
「それでは今回の作戦の概要だが・・・谷口と山口、あと細見の小隊が強行偵察部隊として相手を攪乱する。池田と名倉の小隊が野戦陣地を構築し角を曲がったところで迎え撃つ。私と玉田と寺本が林に潜んで十字砲火に備える。強行偵察を行った小隊が後詰めとなる。大筋はこれでいく」
「煙幕は今回使われますか? おおよその感じは使ってみて把握は出来ていますが」
攪乱部隊の主を担うことになる谷口が西に尋ねた。
「いや、今回は使うつもりはない。我々が大洗に勝ったと言えるのは、ヘッツァーやポルシェティーガーも含め全車輌が揃った大洗に勝った時だ。それに練習試合といえど、その内容は他校にも知れ渡ることになる。今の段階であまりこちらの手の内を見せたくはない。それに福田が大洗から煙幕装置を借りてきている以上、向こうもこちらが煙幕を使うことは想定しているだろうからな」
西がそう言ったのは本音でもあり、建て前でもあった。
ヘッツァーやポルシェティーガーがいる大洗に勝ってこそという気持ちはもちろんあったが、それよりも負けるつもりは当然ないものの、この1戦で大洗に勝てるとも思っていなかった。ましてや、近い内に一式中戦車や四式中戦車の導入も決まっている。手の内を見せたくないのは、他校というよりもむしろ大洗に対しての気持ちが強かった。もちろんそうした本音を全て隊員に話す必要もない。
「立場をわきまえろという話だが、今回大洗には我々知波単が新たな戦車道を歩む上で試し斬りの相手になってもらうつもりだ」
「承知しました」
西の言葉に出さない本音もおそらく感じ取ったのだろう。谷口もそれ以上の追及は行わなかった。
「明日が知波単戦車道の新たな歴史が生まれる日としよう! ではおのおの方、抜かりなく」
「「「はい!(・・・今度は真田丸? いや、前から言ってたかな?)」」」
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同じ頃、大洗女子学園でも作戦会議が行われていた。
「明日は我々6輌に対して、相手が12輌となります。相手がどのような作戦を取ってくるか分かりませんので、Ⅳ号がフラッグ車となります。また今回ツチヤさんには、BⅠbisの車長となってもらいます。園さんは今回通信手としての役割をお願いします」
「分かったわ」
「了解しました」
今回の試合は、園みどり子以外の3年生は参加しない。そのためポルシティーガーは不参加となったが、今後のために2年生のツチヤを元々乗員数の足りていないBⅠbisの車長に据えて経験値を高めようというものだった。
「知波単は煙幕装置を導入したと聞いています。作戦で煙幕を使ってくる可能性があります」
本当は磯辺が独断で知波単に貸し出しをしたのだが、あえて伏せて磯辺がそれを伝えた。
「知波単の作戦としては、L字型の角を出たところで待っているのが定石ぞなもし。今回ばかりは待ち伏せしてくるやも・・・煙幕まで使ってくるとなりゃ読めないだにゃ」
「まあチハで来られる限りは問題ないと思いますけどね」
「戦車の性能だけで相手を判断してしまうのは危険だ。同じ戦車でも乗員の質が上がればパフォーマンスも大きく跳ね上がるのは我々が証明していることでもある。ましてや、知波単の連中はこの前あれだけ手ひどくやられてるのに再戦を持ちかけてきた。それだけ何かが変わったとみるべきで、これまでの知波単と思わない方がいい」
秋山優花里が戦車の性能から相手を下に見るような発言をしたところ、油断大敵とばかりに冷泉麻子がそれを窘める。
「麻子さんの言う通りです。戦車道に絶対はありません。くれぐれも油断しないようにして下さい。6輌で正面から突っ込むのは危険ですので、アヒルさんチーム、ウサギさんチーム、カバさんチームで林を迂回して相手の背後を突くようにします。おそらく相手はこちらを狭小地に誘い込んでの挟み撃ちを狙っていると思います。その前にこちらが挟み撃ちにしてしまいましょう」
作戦は奇しくも双方が挟み撃ちを狙う形となった。
戦車の数では知波単が、質では大洗が上回るが、どちらが先に主導権を握るか・・・
しかし、それ以上に気になるのは・・・
なんでも左衛門佐によれば、 ”我々はみなそれぞれ望みを持っている。だからこそ我等は強い。真田丸で幸村がそう言ってましたよね。私達も同じなのです” と西は言っていたらしい。あの前回の練習試合の夜、悲嘆にくれた西がなぜこの短期間でそこまでの自信を持ち得るようになったのか・・・カエサルは非常に不気味なものを感じていた。
そして、その不安はカエサルのものだけではなかった。磯辺も西住みほも冷泉麻子も・・・追われる者の宿命である怖さを感じつつ、当日の朝を迎えることとなった。