とことん真面目に知波単学園   作:玉ねぎ島

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23.事件(道場破り)

「失礼する。西殿はいるか?」

 

「誰だ? 貴様は?」

 

「会わせてもらえればそれで済む話だ」

 

~~~~~~~~

 

突然の見知らぬ乱入者の処置に困惑した対応者は、近くにいた玉田を呼んだ。

もっとも困惑したのは、乱入者の存在だけでなく、その者が並外れた闘気を漂わせていることにもあった。一目でただ者ではない雰囲気が伝わってくる。

 

「知波単学園戦車隊・副隊長の玉田だ。西隊長に何用だ?」

 

「最近知波単が、おバカな突撃一辺倒を脱却して、あの大洗女子学園に善戦したと聞いた。是非とも手合わせを願いたいと思ってな。もっとも戦車をここには持ってこれないから、仕合いは後日になる。ただ果し状を持ってくるだけなのもつまらんので、直接西殿に渡せればと思ってな」

 

知波単をストレートに詰る言葉に、玉田は ”なんだとー!!” と頭に血が上る思いであったが、なんとか抑えて、そして興奮が表に出てこないようつとめてゆっくりと静かに乱入者に尋ねた。

 

「・・・貴様の名は?」

 

「貴様は道場破りをする人間にわざわざ名を聞くのか?」

 

「!!!」

 

相手を侮蔑する表情、口調を聞くまでもなく、言葉だけでその乱入者の意図は伝わった。

玉田でなくとも、それを聞いて平然とおれるわけはない。

 

「貴様・・・生きて帰れると思うなよ・・・」

 

「フン! 児戯にも等しい戦車道の人間がそれを言うか。その言葉を言ったことを後悔するだけの話だがな」

 

今にも相手に飛びかかりたい気持ちなんとか抑え、玉田は近くにいた者に西の所在を尋ねた。ここまで正面切って挑発してきた以上、そのまま帰すわけにもいかない。

 

「西隊長は道場にいるようです」

 

「分かった。貴様は西隊長にこの状況を伝えて指示を受けてきてくれ。私はこいつから目を離すわけにはいかぬ」

 

「承知しました」

玉田の言葉を受けて、その者は道場へ駆けていった。

 

玉田は睨み続けているが、当の乱入者は、ときたま侮蔑するような薄ら笑いを玉田に向けるものの、だいたいは品定めをするように周囲を見渡している。

 

5分後。使いに行っていた者が帰ってきた。

「道場に来いとのことです」

 

~~~~~~~~

 

使いの者が西に急変を告げにいった時、西は道場で竹刀を振っていた。

世間的には、西は突撃しか頭のない、人の話もロクに聞かない残念な人物として評価されることが多いが、実のところは戦車に乗る以外にも、合気道・剣道・書道の有段者であり、馬術どころかバイクも乗り込なすスーパー高校生である。外来語も日常的に使用することがないため知らぬ言葉が多いだけで、語学の成績そのものは優秀であった。

 

しばらくして、道着と袴に身を包んだ西のところに、闘気を滾らせた乱入者は姿を現した。

 

~~~~~~~~

 

「大まかな話は聞いたが、残念ながら私どもにはあなたと戦う理由がない。お引き取り頂くわけにはいかぬのか?」

 

「タンカスロン(強襲戦車競技)。あなたがたも耳にしたことはあるだろう。そして知波単にも九五式軽戦車がある。いわばこれは国盗り合戦だ。私の戦車で知波単も黒く塗り潰させてもらう」

 

さすがに玉田に向けたような侮蔑こそないものの、その乱入者は攻撃的野心をまるで隠すこともなく西に伝えた。

 

「私どもと戦いたいのであれば、戦車道の大会に出場すればよいではないか。それであれば戦う場面もあるだろうし、そこで優勝した方が貴様の名も高まるのではないのか?」

 

「フン! ガチの戦闘じゃない戦車道なんぞお遊戯でしかないわ! 戦車道のスポーツのようなもんじゃない、なんでもありのタンカスロンこそ本物の戦車戦だ。しかも戦車道はより強力な戦車を持ち、より保有台数が多い高校が圧倒的に有利になる仕組みだ。つまらん! 同じような戦車で、性能差が無ければ我々こそが最強なのだ!」

 

それを聞いた西が少しの間沈黙する。

 

「フフフ・・・そうか。貴様は戦車道大会でブザマに白旗を上げるのが嫌で、怖くてここに流れ着いたというわけか」

 

「なに・・・!?」

それまで余裕を見せていた乱入者が思わず表情をこわばらせたその時。

 

「ふざけるな!!!」

西の怒号が2人の成り行きを見守っていた静寂を切り裂いた。

 

「貴様の国の戦争では、攻め込んできた敵に ”性能に差がある兵器では本当の戦いではない。同じ性能の兵器で戦え” とでも言うのか? 随分と生ぬるい戦争をやってるんだな・・・笑わせるな!!」

 

「我々のやっている戦いは、相手がどれほど性能が上回る強大な敵であろうとも、守るべきもののために全てを振り絞って戦うというものだ。それがどれだけ怖くても、無謀であっても、そして結果としてどれほどブザマに散ろうともな。背負っているものがない、ただ子どもが自分の強さを示したいだけの戦いとはわけがちがうのだ!」

 

普段はめったに怒気を発することのない西だが、とても同じ人間のものとは思えないその迫力に、誰もが言葉も出ず、身動き出来ないでいる。

 

「フン・・・なんでもありの戦いか。それなら話が早い」

西はそう言って踵を返した。

 

「抜け!!」

 

西は床の間に飾ってある2本の日本刀を取り、そのうちの1本を乱入者の足下に置いたのである。

 

「一対一で日本刀を持っての決闘。これこそ貴様の言う、なんでもありで自らの強さを示す戦いじゃないか」

そう言いながら、西は刀を鞘から抜き、中段の構えをとった。

 

「どうした? お前が抜かずとも私はいくぞ!」

 

「お、お前・・・自分がやっていることを分かっているのか?」

乱入者はいつの間にか尻餅をついている。

 

それを見た西は構えを解き、づかづかと乱入者に歩み寄り、その首の近くに刀を近づけた。

さっきまでの威勢や余裕は全て吹き飛び、乱入者はガタガタと震えている。

 

「貴様がやっていることに文句をつけるつもりはないが、先ほども言ったように我々には貴様と戦う理由はないのだ。コンビニ船にでも紛れてこの学園艦に来たんだろうが、ふかの餌にされたくなければとっとと帰れ」

 

「あと今回の件、貴様の好きなように口外すればよいが・・・ただその内容によっては貴様を生かしておくわけにはいかぬ! 私は人間一人なら殺すのに一秒とかからない。

世間に我が校がどのように伝わり、貴様がどのように思っているかは知らんが、我が戦車隊の隊員はそのような教育も受けているのだ。相手を見誤って、なめた態度を取っていると命を落とすことになるぞ」

西はそう言うと刀を鞘に納めた。

 

まもなく乱入者は、腰が抜けたようになりながらも慌てふためいて道場から去っていった。

 

~~~~~~~~

 

「まったく・・・ ”人1人なら殺すのに1秒とかからない” とか漫画ジパングの如月中尉じゃあるまいし・・・」

事が終わった後の道場で、玉田が呆れ気味に西に言った。

 

「まあ16や17で犯罪者になるわけにはいかないしな・・・」

やれやれといった感じで西も返すが、その堂々とした姿は隊長になったばかりの西とはまるでかけ離れている。

 

「しかし、戦車の1対1の戦いなら受けてもよかったんじゃないですか?」

 

「戦車道の試合であればな。私は誰かに勝ちたいから戦車に乗っているんじゃない。戦車道で相手と戦うのが好きだから、みんなと頑張るのが好きだから戦車に乗っている。勝つために何をしてもよいというのは好きじゃないんだ」

 

「あいつらの言う ”なんでもあり” の加減が分からないしな。本当に何でもいいなら、試合前の相手の食事に毒でも入れて、戦車でわざわざ戦わずに勝つわ。それじゃ何のための試合かも分からん。だからあいつらの言うルールだと多分私は勝てない。ただそのルールで勝とうとも思わないから負けたところで何の悔しさもない。戦う理由がないというのはそういうことでもあるんだ」

 

確かに試合前に毒を盛られて戦えなくなるのでは、何のための試合・・・というより、競技そのものの存在価値もない。

飛躍しすぎのような西の論理を聞きつつも、玉田は西が戦車道に拘る理由が分かる気がした。そして、そんな西が好きで玉田自身も戦車道をやっていることを改めて実感した。

 

「では、あやつに ”戦車道の試合ならいつでもお受けする” とでも言っておきますか。まだ艦内にいるでしょうし、あの様子ならタンカスロンで名前も売れてる人間でしょう。仮に今つかまらなくてもうちの特務機関ならすぐに身元も判明するでしょうし」

 

「でも、さっきあれだけ啖呵切ったのに敗けたら恥ずかしいしな・・・その時は谷口にでも相手にしてもらうわ」

 

「・・・」

 

先ほどの何者も寄せ付けぬような迫力のあった姿とは同じ人物とは思えぬ西を見て、玉田は提案を実行しないことに決めた。

 

「それよりも玉田。サンダース大付属に連絡を取って、いつ頃なら練習試合が出来そうか聞いてもらえないか? 大洗もそうだけど、ケイさんが卒業する前にサンダースには恩は返しておかないといけない」

 

先の大学選抜との試合で、サンダースと同じあさがお中隊に配されながら、まるで何の役にも立てずに突破された申し訳なさが西にはあった。

 

「かしこまりました。時期は新たに一式と四式が来てからの頃合いでよろしいですか?」

 

「そうだな。そのテストもしないといけないしな。なんにせよ大洗もサンダースも、3年生が抜けるまでにと考えたら、それほど残された時間もない」

 

大量のシャーマンを擁し、優勢火力ドクトリンを信条とするサンダース大付属は、知波単にとっては大洗以上に相性の悪い相手といえるが、西には明確に戦わないといけない理由があった。

それは西個人の思いだけでなく、今後のチームの運営にとっても必要なことであった。




●●オリキャラ(OG除く)●●

◇谷口車(新チハ) ~11話で登場~
・車長:谷口/2年(2年時に編入) ・操縦手:丸井/1年(2回目の1年生)
・砲手:五十嵐/1年 ・通信手or装填手:久保/1年

◇山口車(旧チハ) ~15話で登場~
・車長:山口/2年 ・操縦手:太田/2年
・砲手:中山/2年 ・通信手:山本/2年

・半田(池田車・通信手)/2年 ~19話で登場~

・倉橋(寺本車・砲手→西車・装填手)/2年 ~22話で登場~

それぞれちばあきおのキャプテン、プレーボールからです。


●●16話で決定した小隊名●●

◇小隊名
玉田車=割り下、細見車=牛肉、池田車=豆腐、名倉車=長葱、寺本車=卵
※小隊僚車は小隊名に「ご飯」がつく(ex.玉田小隊僚車=割り下ご飯)

◇別働車
谷口車=バント、山口車=牽制、福田車=みかん、西車=隊長車
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