とことん真面目に知波単学園   作:玉ねぎ島

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3.伝統(知波単が背負ったもの)

「再来週の日曜に大洗女子学園と練習試合を行うことになった。ついては、どういった作戦で臨むべきか、皆の意見を聞きたい」

 

知波単の戦車道受講者は少なくない・・・というより多い。

よって全体教練は講堂で行っているのだが、それでも西の声はよく通る。

 

「どんな・・・といっても・・・」

 

「突撃しかないんじゃ・・・」

 

「それしか教わってないし・・・」

 

「それ以外やると怒られるし・・・」

 

作戦そのものの立案について全体教練で話題にすることは滅多にない・・・というより学年の上下関係が確立している知波単・・・いや、突撃以外の作戦立案が必要がなかった知波単としてはその機会はなかっただろう。

それだけに、西としては意図を説明し議論をリードする必要もあったのだろうが、彼女はそれが出来るほど器用ではなく、またそうした教育も受けてはこなかった。

 

「・・・」

 

戸惑う隊員が多い中、細見が挙手した。

 

「先の大洗での親善試合、そして大学選抜との一戦では非常に大きな戦果を挙げることが出来ました。突撃だけではない我が校の新境地とは思うのですが・・・ただあれを我が校だけで行うというのは・・・全く想像が出来ません」

 

西がようやく我が意を得たとばかりに言葉を繋ぐ。

 

「そうだ。先の2戦では突撃だけでは得ることが出来なかった戦果を挙げることが出来た! 私は隊長としてあの成果を、たまらなく高揚した気持ちを皆にも味わわせたい! だからそのために何が必要かを聞きたいのだ」

 

「・・・」

 

玉田が挙手し、恐る恐る尋ねる。

 

「突撃を捨てる・・・ということですか?」

 

「いや、捨てるわけではない!ただ、これまでやってきた突撃ではダメなんじゃないかということだ」

 

「突撃に・・・同じも違うもあるのでしょうか!!」

思わず玉田の声も大きくなる。

 

「そういう話ではない。大学選抜での玉田の戦果は素晴らしかったではないか。あれと同じことをやるためにどうすればよいかということだ」

 

「しかし私達は”必勝の信念堅く、規則至厳にして攻撃精神充溢せる戦車隊は、よく物質的威力を凌駕する”と教えられました。私共のチハで他校を上回るにはそうした信念がなければ成し得られないのではないですか!」

 

「・・・」

西も返す言葉に詰まり沈黙が流れる・・・

 

「(そうだよ、結局そうなんじゃないの?)」

 

「(今まで私達がやってきたのは何だったの?ということでもあるし・・・)」

 

重い空気が講堂に流れる。

 

「恐れながら申し上げます!」

福田が挙手し発言の許可を求めた。

 

「許可する」

 

「西隊長が仰るのは、戦果を挙げるためには突撃をするにも準備が必要ということではないでしょうか?」

 

「そして同じ突撃をやるにしてもやり方があります。1つは突撃の目的を明確に定めなければなりません。2つ目はその目的を達するためにより効果的な用兵・方法を選択する必要があります。3つ目は選択した方法を実行する上で、個々が血気に逸らず、意思を統一して一気に押し進む必要があります」

 

先のバレー部との話で得たことを福田は発した。

 

・・・しかし結果的にはこれは完全に逆効果だった。

 

「うるさい!福田!貴様立場をわきまえろ!」

 

「そんなことは貴様に言われずとも分かっておるわ!」

 

「そんなに言うなら貴様の言う突撃で黒森峰に勝ってみろ!」

 

知波単の隊員たちは”物質面での圧倒的な不利を無限の精神力で克服する”と叩き込まれ、それを実現すべく訓練に励んできた。

福田の発言はそれを否定するように聞こえてしまったのだろう。

また福田のいう3つのことなど当然理解している(実践出来ていたかはともかく)との思いもあったのかもしれない。

 

「・・・申し訳ございません、申し訳ございません・・・」

一気にヒートアップしてしまった空気の中で福田は首を垂れて謝罪するほかなかった。

 

ようやく加熱したものがおさまりを見せた頃、玉田が発言の許可を求めた。

 

「隊長も我が校が突撃しないといけない理由は分かっているはずです」

 

「・・・」

玉田が言おうとすることが西にも想像が出来るため、沈黙せざるを得ない。

 

「私達は、先の戦争で他国の圧倒的な戦力に対してチハで立ち向かわざるを得なかった戦車隊の無念を忘れぬよう、少しでも無念を晴らすよう、攻撃・防御・機動いずれも圧倒的に劣るチハで戦ってきました」

 

「そして彼らは国民の一縷の望みを背負って出撃致しました。敵うはずもない敵戦車を相手にしてです。国民の希望を背負っている以上、降伏することも逃げることも許されない。またそんなことをすれば帝国軍人の名を貶めることになる」

 

「攻撃・防御とも圧倒的に上回っている敵に正面きって砲撃戦を行うわけにもいかず、かといって砲弾も他の物資も不足している以上いつまでも持久戦が出来るわけでもない。となれば、突撃するしかなかった・・・」

 

「諸先輩方はそうした先人の思いを背負って突撃をしたのです。それを否定することは伝統を築いて下さった先輩方の思いも蔑ろにしてしまいます。それでは苦心と血と汗と涙を積み重ね卒業された先輩方に申し訳が立ちません」

 

「確かに先の大学選抜との戦いで、私は過分ともいえる戦果を挙げることが出来ました。しかし、だからといってこれまで先輩方が築いて下さった伝統を否定することは出来ません」

 

「・・・」

 

そこまで言われては西にも返す言葉はなかった・・・

さらに沈黙が流れる。

 

「分かった・・・では次の大洗との一戦では、不用意な突撃は慎むが、機を見て全軍で突撃を行うことにする」

 

「「「は!!」」」

 

非常に中途半端な、具体性のない結論で会議は終了せざるを得なかった。

 

講堂に西と福田が取り残された・・・

 

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